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How did you feel at your first kiss?
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 とても頭が良いのに、普通に考えれば判りそうな事を、まるで考えていないというような行動をとる事がある。
 ひとつ年上の男、乾貞治だ。
 今も海堂の視線の先で、乾は不可解な状態に格闘している。
 鞄を持って、データ帳を持って、その紙面を読みながら、尚且つ。
「………………」
 三年の昇降口で一人謎な動きをしている乾に気づいた海堂は、しばらく足を止めてその場で乾を観察してから、そっと近づいて行った。
 見慣れた背中に向かう。
 間近に行っても相変わらず乾はおかしな動きを続けている。
「………先輩」
「うん?」
 乾のほとんど背後まで近寄ってから、ぼそっと低く海堂が呼びかけると、乾は、肩越しに海堂を振り返ってきた。
 海堂を見止めて、すぐに乾は小さく笑みを浮かべる。
 代わりに海堂は溜息混じりに言った。
「乾先輩……その荷物持ったままコート着るのはどう考えても無理っすよ…」
「そうか?」
 そうかも何もない。
 両手を完璧に塞いだまま袖を通すこと自体無理だろう。
 しかも、乾は横着というか無頓着というか、更にノートに書き付けた文字を見ながらそれをしようとしている。
 海堂はもう一度溜息をついてから、腕を伸ばして乾の鞄を手に取った。
 データ帳はどうしても今読みたいようなのでそのままにして、代わりに手が空いた方の乾の腕にコートの袖が楽に通るよう、背後から手助けする。
 乾にコートを着せるように手を貸してから、海堂は鞄を乾に返す。
 代わりにデータ帳を手にして、乾が見えるよう広げてやりながらもう一方の腕も袖に通してやる。
「すごいな、なかなか着れなかったのに」
「……別にすごくなんかねえよ…あんたが横着しすぎなんです」
「ありがとな、海堂」
「………いえ」
 率直に礼を言われて幾分海堂は決まりが悪い。
 それじゃ、と目礼して立ち去ろうとすると、おいおいおいという乾の声が被さってきた。
「それはないだろう」
「はい?」
「一緒に帰ろう」
 なぜか手を取られている。
 骨ばった乾の手に、しっかりと包み込まれるようにしている自分の手を海堂はまじまじ見降ろし、眉根を寄せた。
「あの、」
「一緒に帰ろう?」
「………、はあ…」
 軽く首を傾け、笑いかけてこられる。
 するりと手は解かれて、でも互いの距離は近いまま。
 ほんの少し甘えの滲むような乾の誘いに、海堂は結局頷いた。
 ぎこちない海堂の同意に、しかし乾は充分満足したようだった。
 乾はあれほど視線を外す事すらしなかったデータ帳をあっさりと閉じて鞄にしまった。
「……別にいいっすよ。見てたって」
「いや、もったいない」
「………先輩…?」
 いったい何がもったいないのかが、海堂にはさっぱり判らない。
 訝しむ海堂をじっと見つめて、乾はくしゃくしゃと海堂の髪をかきまぜた。
 乾は時折こうして海堂の頭を撫でる事がある。
 それは海堂にしてみれば、びっくりするくらい優しい手つきで。
 いつもされるがままになる。
 落ち着く。
 安心する。
 軽く目を閉じてそれを受け止めていると、前髪をかきあげられた。
 額に乾の手のひらが宛がわれる。
 さらりとした手のひらは温かかった。
「冷たい」
「……あんたの手が熱いんです」
 乾が呟いて、海堂の額から手のひらをずらし、頬を包んでくる。
 長い指先に耳の縁を構われる。
「先輩、そういうところ動物っぽいっすね……」
 さわって確かめるような手つき。
「そうか? どちらかというと海堂の方がそれっぽいけど」
 海堂の頬に手を合わせたまま、乾が笑みを含んだ目で海堂を見下ろしてくる。
「人慣れしていない時は、うっかり手なんか伸ばしたら即座に噛みつかれそうだったのにな」
「別に噛みついたりしてねえ」
「雰囲気だよ、雰囲気」
「あんた、全然平気だったじゃないですか」
「噛みつかれても、別に良かったからね」
 少しだけ過去を反芻するような声を出されて、海堂は、じっと乾を見据えた。
「そうなんですか?」
「ああ。別に手懐けたいとかいう訳じゃなかったしね」
 俺がもっと近くに寄りたくなっただけ、と乾は低くなめらかな声で囁いた。
 そういうのは判る、と海堂はひっそりと思う。
 今よりもっと、近くに在りたくて、近づいていく感じ。
「………やっぱり、乾先輩の方が、動物っぽい…」
「結局はお互い様って事かな?」
 乾がまた、海堂の髪をくしゃくしゃとかきまぜるように撫でる。
 穏やかに笑いながら。
 海堂はそれに抗わない。
 けれど乾を上目で睨みつける。
 それは、たいして凄みのある眼差しではないということは、充分承知の上。



 直観と本能で悟るか、相手に触れて理解をするか。
 確かめ方は、いつもその二つ。
 お互いがお互いで確かめて、そして手にした感情は。
 二人で分け合う、恋愛感情という代物だった。
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 乾の部屋の壁には落書きが幾つもある。
 幼時のいたずら書きならばまだしも、それは身長184cmの男が書いた謎の記号や文章だ。
「あんた、何で壁にメモするんですか」
 その壁を前にして海堂が問えば、乾は機嫌のよさそうな笑みを浮かべて、全く違う問いかけを放ってくる。
「海堂はノートをボールペンでとるよな。どうして?」
 どうしてそんな事を聞くのかも、どうしてそんな事を知っているのかも不思議で。
 だいたい会話になってないだろうこれじゃと呆れながらも、海堂は溜息混じりに低く答えた。
「……書き直しが出来ないから」
 きちんと板書をしようとすると、そればかりに集中してしまう。
 ちょっとしたバランスが気になって書き直しをするという無駄が多い気がして、いっそ一々書き直しのきかない方法でノートをとるようになったのだ。
 そういう経緯の説明など一切省いた短い返答だったのに。
 乾は全部酌んで、また笑みを浮かべた。
「多少見た目が悪くなっても、中身がきちんとしている方がいい。それと一緒ってこと」
「………いや、全然違うと思いますけど」
「同じだよ。形式より内容って事だろう?」
 それは、まあ、そうなのだが。
 海堂は曖昧に頷き、どのみち乾相手に言葉で勝てる筈もないから、それ以上続けようがない。
 そんな状態でいる所に、いきなり乾に頭を撫でられて、海堂はどきりとする。
「……あ、驚かせた…?」
「………別に」
 乾の手のひらは、まだ海堂の頭上に載せられたままだ。
 驚いてなどいないと否定した事は、ほとんど強がりに近いという事を、海堂も自覚している。
 乾の部屋に来たのは初めてではないのだけれど。
 こんな風に、頭に手のひらを乗せられることも。
 和んだ笑みを浮かべる眼で覗きこまれることも。
 どれもこれも、初めてじゃない。
 でも。
 固まった海堂を、乾は両腕で抱き込んできた。
 丁寧に抱きとられる。
 海堂は立ち尽くし、ますます硬直するのだが、何だか乾が安心したみたいな息を吐き出したので、そっと首を傾ける。
「先輩…?」
「良かった。逃げられなかった」
「………逃げたこと、ねえ…」
 怯むような声になってしまうけれど。
 海堂は乾から逃げた事はないし、逃げようと思った事もない。
「ああ、そうだな」
「………………」
 抱き締め合ったまま。
 立ったまま。
 お互いの顔も見えないで、それでもお互いにだけ向ける言葉を口にして。
 抱き締め合うという、この距離感はあまりにも近い。
 近すぎる、でも、ほんの少しもそれは苦痛に思えない。
「海堂」
「何っすか……」
「メモを書くのは壁じゃなくて紙にっていうのは、一般常識かな?」
「そりゃそうで…」
「じゃあ、これは?」
 ここまできっぱりと言葉を遮られても腹が立たないのが不思議だ。
 海堂は溜息のように思う。
 急いているかのような乾の心情が、何故か海堂には自分のことのように理解ができる。
 こうやって、抱き締め合っているからだろうか。
「俺は今海堂をすごく抱き締めたかったからこうしてるけど、本当は常識的に考えると他に」
「多少順序が違うくらいいいっす」
 今度は海堂が乾の言葉を遮った。
 乾も苛立ちはしなかったようだ。
 海堂の断言に、乾も乾で不機嫌になる気配など微塵もないように海堂を窺ってくる。
「あんたが、時々普通じゃないことするってのは、判ってるんで」
「俺にとっては、別に全部普通のことだと思ってるんだが?」
 海堂は乾の胸元で抱き込まれたまま目を閉じる。
「俺も、そう思って、こうしてますけど…」
 乾に抱き締められる。
 これまでにも何度か。
 そうされながら、ゆっくりと、少しずつ、乾の説明を聞いている。
「しっかりつかまえておいて言わないといけない気がして、先に手が出たんだよ」
「………何か言う気配があまりないように感じますが」
「心の準備がいるだろう」
 どっちのだよと思って、海堂は思わず笑った。
 声にはしなかったけれど、振動で乾にも伝わったようだ。
「笑うな」
 不貞腐れたような子供っぽい口調が珍しかった。
「お前な、拒絶された時の俺のダメージを少しは想像してみろ」
 だから何でそれを自分に言うんだと思って、海堂はますます笑いが止まらなくなる。
「あの、乾先輩」
「何?」
「俺が、言いますけど。それなら」
 言っても言わなくても同じだと、思わなくもない。
 抱き締めて、抱き締められて、それで安心したり、ドキドキしたり。
 笑って、話をして、こんな風でいる自分達だから、言葉が少しくらい足りなくても今更な気がする。
「無し。それは無し」
 けれど乾は勢い込んで否定してくる。
「何でですか」
「言うより聞く方がグダグダになる」
 あまりに大真面目に意見されたので。
 海堂は、判りましたと呟いて、乾の背中に片腕を回した。
 まだどこか笑いが滲んでいる呼吸を整えて、乾の胸元に顔を埋める。
「先輩の、好きなようにで、いいっス」
「………肝心なこと言う前から、こんなに良い思いして大丈夫か、俺」
 相変わらず真面目な声で、相変わらずどこかひとごとのような摩訶不思議な言葉を使う乾を、海堂は近頃ではあまり不思議に思わなくなった。
 それが乾で、そんな彼の傍にいる事がとても心地いいと思うのが、自分だからだ。


 順番が狂っていたって、それはたいした問題ではない。
 言葉以上の力で、すでに理解しているから。
 一番最初にあるべきでいて、一番最後になってしまった言葉。
 もし形になれば、それは単に。
 その時、言えて、聞けて、とても嬉しいと、そう思うだけの出来事だ。
 一月も十日が過ぎて、まだ初詣に行ってないと乾が言ったので、海堂は乾と一緒に、たまたま通りがかったその神社に立ち寄ることにした。
 赤い小さな鳥居を潜くぐって、ひっそりと静まる敷地の玉砂利を踏みしめて歩いてく。
 すぐ近くのテニスショップで海堂が買い物をしていたところに、偶然乾がやってきて、二人で一緒に店を出た。
 何となくそのまま他愛のない話をしながら自宅に向かって歩いていく途中で、ここの神社の前を通ったのだ。
「海堂は、初詣、一日に行ったのか?」
「……ッス」
「そうか。毎年決まった所?」
 海堂は頷いた。
 乾はまるでデータでも取っているかのように、そうか、と自己確認のような言葉を繰り返す。
 日常会話の中でも、常にあらゆる情報を集めているかのような乾に海堂ももう慣れてしまっている。
 乾は寒そうにコートの襟口を手で掴んで、少し先を歩いていく。
 その背中をまっすぐ見つめて、海堂が返す言葉はどれも端的で、むしろ愛想のない部類なのに。
 乾は和んだ優しい言葉で会話を繋げてくれた。
 言葉のうまくない、ひどく口の重い海堂から、乾は何かにつけ上手に言葉を引き出してくれる。
 必要な事しか話をしない傾向の海堂にしてみれば、当たり障りのない会話を繰り返す乾という相手は稀有な存在だった。
 不思議な人だと思う。
 人とコミュニケーションをとることが不得意な海堂にとっての、乾の存在は。
「あれがそうかな」
「………………」
 小さいけれど清潔な印象のする祠を乾が指さした。
 長身の乾は、目を伏せるようにして身長差のある海堂をそっと見つめて、促してくる。
 黙って後をついていった海堂は、祠の前で財布を広げた。
 ちょうどあるな、と思って。
 小銭を九枚集めていると、乾が不思議そうに海堂の手元を覗き込んできた。
「ん? いくら入れるんだ?」
 距離が近い。
 でも不思議と気にならない。
 海堂は間近にある乾の顔を見据えながら、手のひらに乗せた小銭を差し出してみせる。
「うちはいつもこれっすよ」 
「四十五円?」
「五円玉が九枚で四十五円。始終ご縁がありますように、って」
 物心つく頃には、母親からそう教わっていた。
 行くことが判っていれば予め用意をしていくし、突然の時は出来るだけ。
「海堂」
「はい?」
「新年早々大人げないことするけど」
「…は?」
 何だと問い返す間もなく。
 海堂の手のひらにあった五円玉九枚は乾の手に鷲掴みにされた。
 乾はすぐに代わりにというように自分の財布から百円玉を取り出し、海堂の手のひらに乗せる。
「先輩?」
「悪いけどこっちにして」
「………………」
 訳が判らない。
 怪訝に乾を見やる海堂のまなざしに何を思ったのか、乾は真面目な顔をして言った。
「縁があったら嫌だから」
「あの…?…」
「海堂に、始終ご縁があると俺は困る」
「………………」
 海堂は呆気にとられてしまって、ただただ乾を見上げるだけだ。
 乾は乾で、あくまでも、どこまでも真剣なので、海堂にはどうする事も出来ない。
 手のひらの百円硬貨と、ひとつ年上の男を交互に数回見やって。
 判りましたと、頷くが精いっぱいだ。
 よかったと囁くような声で微笑む乾の、隙のあるくだけた表情に、不意打ちで、どきりとして。
 海堂は百円硬貨を握り締めた。
 縁なんて、何も恋愛沙汰だけの話ではない筈だ。
 乾にしては随分と勝手な事を言ってきた。
 でも、海堂はそれを聞き入れてしまうのだ。
 胸の中が、ざわざわと落ち着かない。
「今年も早速、我儘言ってごめんな」
 頭上に乾の大きな手のひらが乗せられて、軽く覗き込むようにされると、どちらが我儘を言っているのかなんて判らなくなりそうだった。
 しかも頭を撫でられるなんて他人にされた事がない。
 海堂は無言になるばかりで、けれども乾はそれを気にしない。
 それは決して傍若無人にふるまっているからではなく、合わせた目線で、正確に海堂の心中を酌んでくるからだ。
 軽く数回ぽんぽんと頭をたたかれて、あくまで優しい手のひらの感触にうっかり目を閉じたほんの一瞬の隙に、唇をキスで掠られた。
 びっくりして目を開けた時にはもう、キスは終わっていた。
 咄嗟に絶句してしまったので完全に怒るタイミングを逃し、海堂が恨めしく睨んだ先で乾は機嫌よく笑った。
「さて。それじゃ、お賽銭入れて、神様に、見せつけてしまいましてすみませんとでもお詫びしようか」
「……初詣になってねえだろ!」
「今年もよろしくな。海堂」
 人の話を聞けよと言いかけて、結局海堂はそれを口にしなかった。
 実際、誰よりも海堂の話をよく聞くのは乾なのだと判っているから。
 何となく口にしそびれた。
「先輩」
「ん」
「………………」 
 呼びかけておいて言いよどむ海堂を、乾は不審がる事もない。
 再度、軽く海堂の頭を撫でてから、笑いかけてくるので。
 何となく海堂もつられてしまった。
「………………」
 溜息混じりの、本当に微かな海堂の笑みを。
 乾は丁寧に拾い上げ、彼の記憶の中にしまったのだと。
 目にした表情で、海堂は理解した。
 息抜きの仕方が判らないなどと以前は真面目な顔をして言っていた男は今、すっかり気を許した体で、海堂の傍ら、惰眠を貪っている。
 長身をどうにかして丸めたような体勢で床に寝ている乾の腕は、腰を抱き込みたそうに海堂の腿の上にある。
 額は海堂の脇腹辺りに押し当てて、べったりとまではいかないが、要するに海堂にくっつけるだけくっついて乾は眠っていた。
「………………」
 かけたままでいる眼鏡が僅かにずれている。
 それをどうしようかと海堂は先程からずっと悩んでいた。
 外してやった方がいいのだろうけれど。
 そうしたら乾が目を覚ましそうな気がしたから出来ずに悩む。
 部屋の主が眠ってしまっている室内はとても静かだった。
 時折パソコンのハードから微かなモーター音だけが聞こえてくる。
 相も変わらず事細かなデータを纏めることに乾が没頭するのはいつものことで。
 乾の部屋で、個々に過ごす事も今や日常に近い。
 そうやって二人で過ごす時間が増えてきた当初には幾度か、海堂の方から見るに見かねて乾に休憩を提案した事もあった。
 その時の乾の返答が、息抜きの仕方が判らないという件の言葉だった。
 データを追っているようで、時々データに追われているようにも見える乾は大真面目にそんな事を海堂に言うので、海堂は正直返答に困ってしまった。
 息抜きの仕方など、普通は説明するような事ではない筈だ。
 そもそも乾相手に、理詰めで何かを説明するという気にも到底なれず、海堂はただ困った。
 しかしそんな海堂の困惑に、むしろ乾は、おや、と思ったようだった。
 難しく黙り込む海堂をまじまじと見つめて、ふと、気を許した柔らかい笑みを唇に浮かべた。
『海堂が、手伝ってくれる?』
 それは心底から海堂に頼りきったような、ふんわりとした声での提案だった。
 低い声に丁寧に乞われる。
 海堂はますます返事に困ったのだが、乾は乾で勝手に方法を見出したようだった。
 いわく、海堂に構って貰おうと思ったら、データ収集の中断も出来るようになった、と言うのだ。
 中断がこれまでなかなか出来なかったらしい男は、それ以降徐々に、彼の方から海堂の傍らに寄ってくるようになった。
 何となくくっついて、他愛もないことを喋ったりする。
 そのうち、海堂の傍らで乾は眠るようになった。
「………………」
 こんなことが、一人でいると出来ないのだと言う乾の言葉を、そのまま信じていいのかは海堂には判らなかったけれど。
 今こうして安心しきって寝入る様を見ていると、本当でも本当でなくても、どちらだっていいと思えた。
 甘えられているのともまた違う。
 強いて言うのなら、安心、だろう。
 乾は海堂の傍で、息抜きが出来る。
 安心が、出来る。
 それを言葉ではない方法で海堂に告げてくる。 
 海堂が乾に向ける信頼と同じやり方でだ。
 海堂は、傍らに眠る乾をじっと見下ろしながら、互いと互いの間の距離がなくなる、こんな瞬間を、また感じ取る。
 時折覚える感情は錯覚かもしれない。
 けれど実際に、距離はなくなるのだ。
 まるで同じになる、そんな感覚。
 海堂は乾の睡魔をそのまま移されたように、唐突に眠くなり、欠伸を噛んだ。
 睡魔を海堂に流し込んだかのように、乾が目を開ける。
 海堂はすでに目を閉ざしていた。
 流れて、移って、ほんの少し揺れて。
 そして静かに凪いでいく。
 どちらから伸ばしたのかと判らないお互いの手と手が合わせられて、指が浅く絡む。
 重ねた手のひらが、互いを繋げる。
 意識を手放す睡魔も、透き通るような沈黙も、純度の高い混じりけのない安寧感が育んだ。
 ほかの誰かからとは決して生まれない、そんな空気が、いっぱいに恋情を含有している事は、どちらもとうに判っている事。
 それを、どちらも未だに言葉にしていないのは、寧ろ言葉よりももっと明確に、惜しみなく、日々、手にしているからだ。
 言葉にしない、ただそれだけで。
 それはつまり秘密になるのだろうか。
 公然とそこにありつつも、眩しいように透明に煌く純度の高さで。
 彼らの秘密は誰も知られないまま、明確に、そこにある。
 乾は海堂がショーケースの前で立ち止まっているのを見た時、どうしようかなと一瞬迷った。
 何に対して迷ったのかというと、海堂に声をかけるかどうか。
 迷った理由は海堂が何を見ているか遠目からでも判ったからだ。
 そのショップのガラスケースの中に納められているのは、最近インテリアとしての需要も高まっているらしい透明標本だ。
 身体の全てが透明な魚類の標本。
 乾も何度かそこで足を止めて見たことがある。
「自主トレ?」
 結局乾は少しの間迷ってから、静かに近づいていって海堂に声をかけた。
 呼びかけに乾の方を見た海堂の黒髪は毛先が汗で湿っていた。
 額にもうっすらと汗が浮かんでいる。
 普段通りにかなりの距離を走ったのだろうと踏んで、乾は海堂の隣に肩を並べた。
 海堂は依然目を見開いたまま乾を見上げてくる。
 その後に、言葉より先に黙礼が返ってくるあたりが海堂らしいなと乾は思った。
 三月に入って、だいぶ春めいた気配も出てきた。
 すでに海堂はノースリーブでランニングをしている。
 今日などはかなり暖かいけれども、それでも剥き出しの肩は、まだ少し目には寒々しい。
 乾もまた黙ってじっと海堂を見ていると。
「乾先輩」
 しばらくして呼びかけられる。
 やっと乾が聞いた海堂の声音。
 やわらかな唇からの硬質な呟き。
 冷やしたら駄目だろ、と乾が眼差しだけで告げると、きちんと通じたようで、海堂は黙って腰に巻いていたジャージを羽織った。
 着た、とでも言うように再度海堂が顔を上げて乾を見上げてくる様が可愛いと乾は思って。
 海堂の背中を手のひらで軽く、ぽんと叩き、改めてショーケースに目線をやった。
「出来上がるまでに一年近くかかるのもあるらしいな」
 これ、と乾が低く呟くと。
 透明なんですね、と海堂も商品を見据えたまま言う。
「……そうだな。筋肉を透明化してあるんだ。その上で、硬骨は赤に、軟骨は青に染色する」
 透き通って、色が付き、内部の何もかもをさらした標本だ。
 ガラス瓶の中の、かつては命の在った魚は、今では生き物だった事が信じられないような存在になっている。
 乾はそっと海堂を流し見た。
 気づいた海堂が乾の眼差しを受け止めて、目と目が合った。
「これを見るとさ」
「………………」
「いつも俺は、海堂はどう思うかなって考えた」
「……俺…っすか…?」
「ああ。別にこの透明標本に限った話じゃないけど」
 乾の日常に、海堂は、いるのだ。
 実際に目の前にはいなくても。
 それでも必ずいるみたいに、海堂がどう思うかを乾は日常の中で幾度となく考える。
 海堂が好きそうだとか、嫌いだろうなとかも考える。
 乾の思考に当たり前のように存在する、実体化していない海堂と、そんな海堂を住まわせる乾と、どちらがこの透明な標本に近いのだろう。
 何もかも見えすぎて目に入らないくらいだ。
「俺も、今あんたのこと考えてたっすよ」
「ん?」
「あんただったら、これ見てどう言うかとか、何を思うかとか」
 それを考えていたから。
 あんたが現れてびっくりしたと海堂は薄く笑った。
 たぶん乾にしか判らないくらいの、微かな、微かな、笑みだった。
 消えてしまうのがもったいない。
 乾はそう思ったけれど。
 そういう海堂の表情は彼の顔からは消えても乾の記憶には全部残るし、これからもまた何かの拍子に見せて貰える可能性もある。
 だからこの一瞬が、ほんの少しも惜しくはないのだ。
「俺ならどう思うって、海堂は思ったんだ?」
 乾は思った。
 海堂ならば。
 これを見て、きっと、生きていたものが標本になっているという事実に対してだけではないところまで、乾では到達できない地点での、痛んだ思いを抱くのではないだろうか。
 歪んだ倫理感の中で、どこまでも明るく、美しく透明なものになった魚に。
 自分のように好奇心や興味ではなく、どこか痛ましさをいだくのではないだろうかと乾は思っていたので。
「……先輩は、自分に置き換えるんだろうなって思った」
「…ん?」
「自分も、こういう風にさらけ出したらどうなるんだろうとか。……うまく言えねえけど…」
 充分きちんと伝わる言葉で。
 しかし海堂はぎこちなく言い淀む。
「あんたは……ぜんぶ、自分に置き換えて考えるから時々心配になる」
「海堂?」
「…寂しいのとか、辛いのとか、痛いのとか。わざわざあんたが自分から、そっちに飛び込んでいく所が怖いんですよ」
 海堂は真面目だった。
 表情も、声も、話し方も。
 乾が時々自分自身を置く、孤独ではなく孤立の領域を、海堂は知っているようだった。
 何故気づかれたのかと乾は苦笑いを浮かべるけれど。
「何もあんたが、こういう存在になる事ないです」
「うん…」
「……何考えてるか時々本当に、判らないですけど。だからって無理に暴こうとは思わないから」
 そんな顔しなくていいですと海堂は言った。
 顔。
 ショーケースに映る自分の顔に、海堂は何を見とったのかなと考えながら、乾は少しだけ海堂の指先を手に取った。
 その一瞬でよかったのに。
 手を繋いできたのは海堂からだった。
 手を離してきたのも海堂からだった。
 手に、そっと残る感触に。
 乾はその場で目を閉じる。
 乾は、その透き通った標本へ好奇心や興味を抱き、それに同化する。
 海堂は、同じ物へ、どこか仄かな痛ましさを抱き、それに共存する。
「海堂」
「はい…?」
「明け透けになるのが怖くなってきたから」
「………………」
「すごく閉じこもりたいんだけど」
 うち来ない?と乾が前方を見据えたまま問いかけると、同じく前を見たままの海堂が、最後の一言しか意味が判らねえと文句を言いながら。
 少し赤い顔をほんの一瞬見せてから、背を向けて。
 乾の家の方角へ、歩きだした。
 言葉が通じる。
 それが、乾が海堂に抱いた印象だ。
 もっと正確に言うと、言葉が通じて驚いたのは、通じないだろうと思う原因が、乾自身にあったからだ。
 乾の話は、何故か人に通じにくい。
 間違ってはいないけれど、判り辛いと言われるのが常だ。
 話の途中で、話しきる前にも関わらず、もう判ったと遮られてしまうこともよくあった。
 たくさん言葉を使わないと乾の言いたい事は表現できない。
 でもそういう言葉がいつも膨大すぎて、それをまともに全部受け止める相手というのは、あまりいない。
 もっと短く、もっと纏めて、つまり一言でいえば、などと要求されてそれに答えると、今度はどこからその結論が出たんだと首を傾げられてしまうのだ。
 考えの発起から結論に至るまで、乾の思考はいつもフル回転していて。
 だから経緯を全て省いて結論だけを口にすると、ひどく突飛な結論だと傍目には映るらしい。
 要するに、コミュニケーションがうまくないのだ。
 そういう自分自身を乾は理解していた。
 饒舌で、データ重視、人への興味もあるし、探究心もある。
 そんな乾をコミュニケーションが下手だと思う相手はそういない。
 しかし、誰よりも乾自身がそれを自覚していた。
 そして、そんな風に、見目では伝わり辛い乾と違って。
 人とのコミュニケーションを、判りやすく、不得手としていたのが海堂だ。
 海堂はあまり言葉を使わない。
 その実、感情はとても豊かだけれど。
 それをまるで表に出さないので人には全く伝わらないのだ。
 ところが、そんな海堂の心情が乾にはとてもよく判った。
 理由は判らない。
 ただ、海堂のちょっとした仕草や表情で、乾はそれを正確に汲む事が出来た。
 海堂は驚いていた。
 だが驚く海堂にこそ、乾は驚かされてもいた。
 海堂は一見短気なように見えて、実際はとても辛抱強かった。
 乾の回りくどいようなとりとめもない話も、全て黙って聞いていて。
 気難しい顔で、結局判らないなどと言いながら、乾が一番言いたかった事はきちんと受け止めていたりする。
 言葉が通じる。
 乾は初めて味わう感じを海堂で知る。
 海堂にしてみれば不本意であるような事、例えば注意や嗜めなどを乾が口にする時でも。
 海堂は乾の言葉に正しく耳を傾けた。
 いつだったか、どうしても乾が指示した以上の、多少ならばまだしも一種過酷すぎるような自主トレを繰り返す海堂に
対して、それまで敢えて黙認していたオーバーワークに対し、乾が戒めた事があった。
 何時間練習するかじゃない、何を、どのくらいしたのかが重要なんだと乾が告げると、海堂は目を瞠った後で、いっそあどけないくらいの表情で乾を見上げて。
 こくりと頷いた後からはもう、無茶な酷使をすることはなくなった。
 そういえば、乾が海堂に好きだと告げた時のリアクションも同じだったなと乾は思い出す。
「……なに、笑ってんですか」
「ん?」
 両腕で乾が自分の胸元に抱き込んでいた海堂が、何か不穏なものを感じたとでも言いたげに低く呟きながら目線を上げてくる。
 きつい眼差しと、それでいておとなしくされるがままでいる様子とのギャップが乾の手のひらを疼かせる。
 乾は海堂の背をその手のひらで軽く撫でながら声にしない笑いを喉で響かせた。
「頷いたのが、可愛かったなあと思ってさ」
「………いい加減そういうの思い出して笑うの止めてくれませんか。乾先輩」
「やだ」
 いつの、なんの、話かなんて。
 一言も口にしていないのに。
 お互いの考えが言葉でない形で流れ込んでいるかのように会話になってしまう。
 乾が子供じみた口調で返した短い返事に、海堂は呆れたような溜息を零すだけで。
 ちゃんと乾の腕の中におさまったままだ。
 乾が海堂の背中を撫でていた手で、今度は海堂の後ろ髪を撫でると、海堂の肌の感触がちょっとやわらかく甘くなって、乾の胸元に顔を伏せてくる。
 冬休みの間ほとんど会えなかったから、こんな風にお互いの距離が近いのが随分と久し振りで。
 始業式の後、乾がそのまま自分の家に連れ帰ってきた海堂を、部屋に入ってからずっと抱き込んで話をしている。
 会えないでいた間の出来事。
 話したい事もたくさんあるけれど、話さなくてもいいような気もして、とりとめもなく短く言葉を交わしながら乾は海堂を抱きしめている。
 海堂は乾に抱きしめられている。
「……ん? 海堂はなに笑ってんの」
「………笑ってませんよ。別に」
「笑ってるだろう明らかに」
 海堂は乾の胸元に顔を伏せているので、表情などはまるで窺い知れない。
 でも乾にはその気配が判ったし、海堂も否定はしないのだ。
「海堂ー…」
「…………、…や、…だって、あんた」
「何」
「やだ……って。なんだ、それ」
 海堂の肩が震えている。
 珍しく本気で笑っているらしい。
「なんだと言われても」
 嫌だから嫌だと言ったまでだと乾が告げると、あんたも可愛いんじゃないですか、と海堂は笑いの滲む声で返してくる。
「俺に聞くなよ。そもそも俺が可愛いってのはないだろう。それから海堂もそうやって思い出し笑いしてるじゃないか」
「はいはい」
「はいはいって何だ。はいはいって」
 顔は見えない。
 でも伝わる。
 抱きしめあって、近い距離で。
 どうでもいいような事ばかり口にしながら、不思議と胸の中に溜まっていくのは会えなかった時間分の恋情だ。
 足りなかったものが判る。
 欲しかったものが判る。
 キスがしたいなと思ったタイミングで海堂が顔を上げてきたので。
 乾は笑って、ありがたく、その唇を貰った。
 乾がぼんやりと口にした言葉が、昨日の夢の続きが見たいなあ、だったので。
 結果、海堂は乾の家に泊まることになった。
 乾の昨夜の夢とやらには、海堂が出てきたとのことで。
 例え自分とはいえ、夢など乞われて海堂が微妙に対抗心を燃やした結果で、そうなった。
「海堂、一緒に寝ようよ」
「………………」
 当然のように自分の寝そべるベッドを叩いてきた乾に、海堂は複雑そうに眉根を寄せた。
 乾の両親とも不在だという週末。
 お風呂を借りて乾の部屋に戻ってきた海堂を出迎えたのは、ベッドに腹這いになって雑誌を捲っていた乾だ。
 乾の目線が海堂の頭を見たのは、髪がかわいているかどうかを確認したからだろうと海堂にも判った。
「ちゃんと大人しくしてるよ。おいで」
 雑誌を閉じて、乾が笑いかけてくる。
 別にいちいちそういう事を言わなくていいと目線で訴えながら、海堂はベッドに近づいていく。
「はい。どうぞ?」
 身体をずらして乾がベッドにスペースをつくる。
「……俺は」
「床で良いとか言わない」
「………………」
「別に寝るって言うなら、俺はベッドから海堂の布団に飛び込む予定だけど、それでもいい?」
「…あんたなあ」
 呆れた海堂がいくら睨んでも堪えた風もなく、乾は海堂の腕をそっと掴んで引っ張り込んできた。
 乾の胸元深く。
「………………」
 少しばかり強引にされて。
 海堂は乾と一緒にベッドに横たわることになる。
「ちなみに今朝はここで目が覚めた」
「………………」
 朝起きた時の喪失感っていったらなかったなあ、と乾は海堂の髪を撫でながら言った。
 海堂はといえば、どうしたって気まり悪いような居心地が悪いような思いで、ごそごそと身じろぐばかりだ。
 これだけくっついていると、あまり動くのも相手にとっては落ち着かないのではと考えた途端。
「いいよ、ここだっていうベストポジション決まるまで好きにしてて」
 笑ったような声で乾が言って、何でこう考えていることがダダ漏れなんだと思いながら、海堂は言われた言葉に従って思う存分乾言うところのベストポジションを探した。
 暫くしてやっと、身体の力が抜ける場所を見つける。
 結局それが乾の胸元近くに顔を寄せる位置だというのだから、何なんだろうなと海堂はひっそりと赤くなった。
 乾は海堂の髪を指先に絡めるようにしながら呟いてくる。
「俺なぁ…海堂」
「………はい…?」
「最近、はっきり判ったんだが」
「………………」
「とにかく海堂と一緒にいたいんだよ」
「……乾先輩?」
 乾が、何だか不思議な声で話し出すので、海堂はその体制のまま目線を上げた。
 乾はメガネを外してベッドヘッドに置き、そっと海堂を見下ろしてくる。
 やけにしみじみとした、落ち着いた声音で乾は言う。
「海堂といると、すっきりするんだ。…頭の中とか、感情だとかが」
「すっきり…?」
「そう。…まあ、それだけって訳でもないけどな」
 いろいろね、と乾が笑い、でもその笑い方がふんわりと優しい感じだったので海堂はどぎまぎした。
「例えばなんだけど。何も手を加えてないってものが、今の世の中圧倒的に少ないだろう」
「………………」
 乾の話が突拍子もなかったり、突然饒舌になるのはいつもの事なので驚かない。
 海堂が促しの無言でいると、乾は話を続けた。
「いろんなものがあって、……そうだなあ、たとえば飲み物とかも。茶葉とか、果物とか、ある意味自然のものもあるにはあるけど、混ぜてみたり味付けてみたり、身体に良いとか悪いとか、美味かったり不味かったり、甘かったり苦かったり。いろいろだろう?」
「……あんたが言うかって気もしますけど」
 思わず本音が出た海堂の言葉に、乾は低く笑い声を響かせた。
「そこ置いておいて。…でもさ、海堂。結局のところ、人間、水があればいい」
「………………」
「水があれば、いいんだ」
 乾の腕が海堂の背中に回る。
 あたたかい腕に抱きしめられて、海堂はほっとする。
 理由なんかない。
 無条件にだ。
 乾も海堂を抱き込んで、同じように身体の力を抜いて。
 海堂の耳元近くで囁いた。
「俺は、結局、海堂がいてくれたら、それでいいんだ」
「……………」
「海堂がいてくれたら、それだけでいいんだ」
 艶のある低い声。
 でも言い方は、すなおな小さな子供のようだった。
 海堂よりも遥かに長身で、どこか達観したような雰囲気の年上の男が、海堂を抱き込んで、そんな言葉を零して。
 安心したかのように、すうっと眠りに落ちていく。
 乾は海堂といると異様に寝つきが良いのだと言う。
 寝入り端まで海堂の事を口にして、殆ど喋りながらそのまま眠っていく乾の傍で、海堂は。
 なんだろう。
 そう思い、海堂は目を閉じる。
「………………」
 なんだろう。
 少しも嫌な感じではなく、海堂の胸は引き絞られる。
 この人は。
 そして自分は。
「………………」
 海堂は、自分の頭上に唇を埋めるようにしたまま安らいで眠ってしまった乾に抱かれて。
 しばらく考えたけれど、次第に乾の眠りの中に、自分もゆっくりと引きこまれていくような錯覚を覚える。
 なめらかな水のような感覚に沈んでいく。
 胸は、依然、甘苦しく引き絞られる。
 それはほんの少しも、辛くなどないけれど。
「………………」
 もし、今日乾のみる夢が、途中で途切れてしまっても。
 明日の朝には、自分が途切れたその先を続けてやろう。
 もし、海堂がこれからみる夢が、同じ経路を辿るのならば。
 明日の朝には、乾がそれを続けてくれるだろう。


 何も問題はなかった。
 こうして一緒にいれば、それだけで。
 何の問題もないことだ。
 次に会う約束を、交わす回数が増えた。
 乾が部活を引退して、思っていたよりも部内で一緒にいる時間が多かったのだと気づいたのは、乾もだし、海堂もだ。
 学年が違うというだけで、同じ学校にいても、顔を全く合わせない日もある。
 即座に動いたのは乾だった。
 海堂のクラスまでやってきて、その日の放課後の約束を取り付けてから以降は、別れ際に、約束を交わすようになった。
 時々は突発で誘ったり誘われたりもする。
 今日は乾が、前日に、うちに来ないかと電話をかけてきたので、海堂はこうして乾の部屋で肩を並べて座っている。
 テレビがついているけれど、番組はみているような見ていないような、曖昧な感じだ。
 海堂は饒舌なタイプではないので、もっぱら乾が何事か話しかけ、それに答えるような形で会話は続く。
 ベッドに寄り掛かるようにしながら話しているさなか、ふと乾の様子が緩んだ気がして、海堂は横を向き乾を見上げる。
「ん?」
「…や、…」
「ああ」
 判った?というように、乾が微笑んで海堂の眼差しを受け止める。
 不思議だけれど、こんな風に目をみたり、極短い言葉程度で、自分達は意思の疎通が出来る。
 テニス部の中でも、時折驚かれたり笑われたりした事があった。
「嬉しいなあと思ってさ」
「…何がっすか?」
 乾が低くなめらかな声で言い、海堂は小さくそれを問い返す。
「距離がね」
「………………」
「近くて」
 気づいてる?と乾が尚やわらかく唇に笑みを刻む。
 距離。
 近くて当然だ、と海堂は思った。
 横並びに座っている。
 乾の右手は海堂の右の脇腹に回されている。
 いくら乾の腕が長いと言っても、腰のあたりを抱かれるようにして座っていれば、距離も近いに決まっている。
 何を改めて言うことかと海堂が乾の目を見て思えば、乾は小さく声にして笑って、海堂の髪に軽く頬を寄せるようにして言った。
「海堂さ、最初に俺にメニュー作ってくれって言いに来た時の距離、覚えてる?」
「……距離…?」
「そう。ここから、…そこくらいまであった」
 乾は左手で、自分達と、前方のテレビとを順に指差した。
 海堂は何とも言えない顔になる。
 そんなに離れていただろうか。
「コートの中だと、まあ、ある程度距離も縮まるんだけど。外出ちゃうと、やっぱり結構距離があって。…で、そういう距離が、今、こうだからさ」
 嬉しいんだよ、という言葉と一緒に。
 多分頭上にキスされたようだった。
 感触がした。
 海堂は乾の右手の甲を軽く叩いた。
「この手のせいだろうが…」
「こればっかじゃないって」
 ぐっと一層強く抱き寄せられる。
 何だかもう、べったりと、くっつきすぎているとは思うけれど。
 乾の手を振りほどこうとは全く思えない海堂は、大人しく力を抜いたままだ。
「この手とか、今の距離だとかを、海堂が許してくれてるせいもあるだろ?」
「………………」
「嫌なら嫌ってちゃんと言う海堂が、ここにこうしていてくれてるから俺は嬉しい。…判る?」
 優しい声はやけに甘くて、海堂は少しばかり憮然となった。
 返しようがないだろうがと心中でのみ呟く。
 確かに、こんな至近距離で人と居る事は、海堂にとっては稀だ。
 乾とだと、平気なこの距離が。
 果たして他の人間だったらどうかと考えれば、多分どうしたって無理だ。
 体温が判るような、匂いも判るような、ぴったりとくっついて、話しながら時折キスまで交わして。
 こんなこと。
「………、うわ」
「……うわって何っすか」
「いや、だって」
 ちょっと海堂の方から擦り寄るように乾の胸元に凭れかかっただけで。
 物凄く濃い感情のこもった声を出されてしまって、海堂は憮然とした。
 少しばかり自分の顔が赤いであろう自覚はあったので、僅かに俯き表情は隠してしまうけれど。
 乾の右手が海堂の右脇腹を支えたまま、左手でも海堂の後頭部を抱き込むようにしてきて。
 もうお互いの間の距離などそれで消滅してしまった。
 先程までの距離間で嬉しいと笑っていた乾だ。
 これならばどうなのか。
 海堂がそんな思いで引き上げて伺った目線を、乾は受け止めなかった。
 睫毛を伏せた眼元が間近に見え、唇を塞がれた時には海堂も目を閉じていた。
「………………」
 唇と唇が合わせられると、熱が生まれる。
 指先だとか、胸の奥だとか、喉の中だとか。
 唇と唇が離れると、くらくらする。
 どこに落ちていくのか判らない眩暈だ。

 同時に。
 甘い困惑で吐き出す溜息は、二人分。
 心からの感情を紡ぐのは、言葉よりもそんな溜息の方が余程明確だ。
 乾の両手が背後から海堂の腹部に回される。
「………………」
 乾の手のひらの下にあると、何だか自分の身体がひどく薄っぺらなものになったように錯覚する。
 海堂がそんな事を思って視線を乾の手に落としていると、乾がほっと安心したような吐息を零したのが気配で判った。
 この時の安心というのは、リラックスしたという意味ではなくて、安堵のそれだ。
「乾先輩?」
「……ん」
 嫌がられないでよかった、と耳元で低く告げられた言葉。
 海堂は呆れて溜息をつく。
 どういうレベルで安堵しているのだと思うのが半分。
 もう半分は、嫌がってはいないけれど、その後の提言に続いた。
「部室っすよ」
「だな。…ああ、もう誰もいないよ」
「見りゃ判るっす」
「鍵はかけたよ?」
「……かけりゃいいってもんじゃねえよ。……だいたい、いつかけたんですか」
 さっき、と幼い子供のような応えを口にして、乾は海堂の肩口に額を当ててくる。
 長身の、年上の男に。
 これは、甘えられているらしいと海堂は察して、今度は小さな溜息をつく。
 自分の腹部に回っている、大きな手の、甲の部分を極軽くはたく。
「どうして後ろからなんですか。先輩?」
「んー……悪あがき」
「何の」
「格好悪いのは、承知でやってます」
 でもちょっとだけでも悪あがきね、と乾は囁いた。
 低く響く大人びた声で子供っぽい事を言うアンバランスさ。
 相変わらず顔が見えない。
 海堂が不服に思っているのは伝わっていないようだ。
「………………」
 乾は時々、こんな風に、ひとり、へこたれる。
 落ち込んだり暗くなるのではなくて、そういう時は、やたらと海堂に懐いてくるのだ。
 構われたがるというか。
 内心、弟の行動と似てるなあと海堂は思いながら。
 その相手が乾であるので、ただお兄ちゃんでもいられない。
 これだけで察する事も出来ないので。
 口のうまくない海堂は、そのままでいるしかない。
 夏のさなかに酔狂な態勢だ。
「海堂」
「…はい?」
 乾が口をひらかないと、自分たちの会話は進展しない。
 こんな時でもそうかと思うと、海堂は少しおかしかった。
「例えば、目標を作るとするだろう?」
「…はあ」
「その目標とした所に、なかなか……というか、一向に辿り着けない場合だ。そういう時の忍耐の仕方というか、続け方というか。どうして俺のやり方はいつも100%で完成しないのかとか」
 乾の低い呟きは、尚も淡々と続く。
 海堂は生真面目に耳を傾けている反面、今更ながらに乾の胸元に閉じ込められているかのように背後から抱き締められている体勢の甘ったるさに面映ゆくなる。
 なめらかな低音は、泣き言すらも甘く響かせてきて、ふしぎなひとだと海堂は背後の男を思った。
 こんな風に、誰かにぐずぐず言われたら一喝して終わりにするのが海堂の常なのに、乾にこうされるとそれが出来なくなる。
 海堂はふと立ったまま背後の乾の胸元にもたれかかるようにした。
 乾の淀みなく続いていた言葉が、ふっつりと途切れる。
「……海堂?」
「あんた、目標高いからな…」
「ん…? まあ、高望しがちなところはある、かな?」
 海堂とかね、と。
 囁きと一緒に後頭部に唇を押し当てられた。
 言われた言葉にも仕草にも少し狼狽えて、海堂は、違うと首を振った。
「俺は関係ねえよ」
「あるよ」
 俺は一番真剣だ、とからかうでもない声音で言われてますます海堂は気恥かしくなる。
 振り切るように幾分荒っぽく海堂は言った。
「あんたのデータの話してんでしょうが…!」
「まあ、そうなんだけどな」
「完成するかしないかは結果の話じゃないんですか」
「…うん?」
「だから…100%で完成するかしないかより、目標が100%で作ってあるなら、俺はそれでいいと…」
 んん?と乾に伸しかかられるように背後から顔を覗きこまれる。
 海堂が、説明がうまくないことくらい誰よりも知っているのは乾なのだから。
 そういう促しは止めて欲しいと海堂は心底から思った。
「あー…なるほど…」
「……先輩?」
 そうかと思えば。
 目と目を合わせた途端これだ。
 乾は不器用で口下手の海堂の真意など容易く汲み取って。
「そうだよな…」
「………………」
「目標が最初から50%なら、どう頑張ったって80%の完成になる事はないけど」
「………………」
「目標が100%なら、その完成にはならないけど、80%で出来上がる事はあるよな」
 本当に容易く。
 汲み取って。
 言葉にしてくる。
 海堂は頭上の乾を流し見ながら呟いた。
「……最終的には、あんたはちゃんと、100%にしてくるっすよ」
「海堂にそんなこと言われたら何がなんでもそうしないとな」
 乾が薄く笑った。
 腕に少し力を入れてきて。
 海堂の背中は乾の胸元と密着する。
「先輩、」
 今度の接触は、どうもこれまでとは幾分意味合いが違う。
 海堂が戸惑って身体を捩ろうとしたものの、それは中途半端に叶わず。
「…っ……、……」
 僅かに捩れた反動を使って、乾が海堂の唇を盗んでくる。
 掠る程度の、キスだ。
「な、…っ……」
「復活しました」
「は?…ちょ、…どこ触…っ……」
 機嫌のいい艶っぽい笑みを耳元に零され、両腕での拘束が甘く狭まって、海堂がうろたえればうろたえるほど。
 乾は笑いを深めて、海堂と密着して。
「あっれー。なにいちゃいちゃしてんの? 二人して」
 突如飛び込んできた明るい声に、海堂は飛び上がり、乾は溜息をつく。
 バーン、と音をたてて部室の扉を開けて。
 夏の夕暮れの気配と共に、素早く侵入してきた菊丸は、ひょいと乾と海堂の前に現れる。
「あんた、鍵かけたって言ってなかったかっ?」
「……まさか今頃戻ってくる奴がいるとは…」
「忘れものだよん」
 指を二本立てて笑った菊丸は、乾の腕に囚われたままの海堂の頭を、軽くぽんぽんと叩いて。
「海堂」
「……っ……」
「乾に鍵かけたって言われても、信用しちゃダメだぞ!」
「な、……菊丸先輩…、……」
 菊丸の手つきは、何故かいつの間にか、いいこいいこと海堂の頭を撫でて。
「逃がしてあげるね。海堂」
「おい、英二……」
「知らなーい」
 乾の咎める声などお構いなしに、菊丸はあっさりと海堂を引っ張って。
 硬直している海堂を見つめて、なんかもう、いたいけすぎで俺心配、と言った。
 菊丸の言った言葉の意味が海堂にはよく判らなかったけれど。
「……どうしてお前はそうやって俺を虐げるんだ…」
「判ってて聞くからなー。乾は」
「大事にしてるよ。ちゃんと。見てればそれくらい判るだろう」
「えー。無体してるようにしか見えなかったけどー?」
「少しくらい甘えたっていいだろう!」
「気持ち悪いよ乾!」
 鬱々と溜息を吐き出す乾も、海堂には判らない。
 上級生二人のやり取りに、怪訝に立ち尽くすのが精一杯だ。
 痺れるような、熱の余韻。
 流れ込んできた外気に触発されたのか、今更ながらに。
 今の今まで乾に抱きこまれていた自身の身体に籠る熱を感じとって、海堂は極めて彼らしくないことに。
 じりじりと後ずさると荷物を掴んで、一言叫んで部室を飛び出た。
「お先失礼します…、っ」
 海堂の背後で聞こえてきた声は。
「やーい、逃げられたー」
 大笑いする菊丸の声と。
「お前のせいだろう! お前の!」
 全くもって普段の彼らしくもない、乾の声だった。
 日曜日の昼時、海堂は自宅の庭でホースを手にしている。
 先端から吹き出る水で、隅々まで濡らしていく。
 庭の水捲きは嫌いではなかった。
 植物や土は、かわいているより充分な水分で潤っている方がいい。
 そして、梅雨明けして一層厳しくなった暑い日差しの中、存分に水を撒き散らす作業は海堂の気持ち的にも幾許かの清涼を感じる。
「………………」
 緑という緑へ、土という土へ。
 水を与える。
 植物は濡れると色が濃くなる。
 土壌もひっそりと潤んで、水を含んだ外気は匂いも変える。 
 頭上の晴れ渡った空は、青い空と白い雲とのコントラストがくっきりとしていて、眩しいくらいの太陽の光に差し向けるよう、空へと散水を差し向けても、水は弧をえがいて庭へと舞い降りてくる。
 水の音。
 水の匂い。
 それよりも尚強い夏の気配。
 もういっそ自分もこの水を浴びてしまいたいくらいに日差しは強くて、気温も高くなっていく。
 水捲きが済んだら走りに行こうと海堂は思っていたのだが、何とはなしに切り上げるのが勿体ないような気分になって、庭へ水分を与え続けていた。
 隅々へ、かわいた場所を残さぬように、海堂は無心で水を捲いていたので、ふいに呼ばれた自分の名前にすぐに反応できなかった。
「海堂」
「………………」
 水の沁み込みのように、その声は海堂に入ってきて、それを認識して、海堂は潤む。
 ホースを手にしたまま家の外へと目を向けると、垣根を越す長身の乾が立っていた。
 着ている白いシャツが太陽の光を反射させる。
「おはよう」
「……もう昼っすよ」
 そんな言葉を返しながらも、おはようございますと、海堂も言った。
 乾が歩いてきたらしい方角と時間帯から推測して。
「…図書館帰りっすか」
「ん。暑いなぁ、今日」
 暑いと言いながら、乾はあまりだれた様子を見せないのが常だ。
 吹いた風にはためくシャツが日差しを反射して一層白さを増して、いっそ乾の周辺だけが涼しげにさえ見える。
 海堂は少し目を細めるようにして乾を見詰めた。
 背が高いのに威圧感のない乾は、水分を得た緑越しに、そこに溶け込むように穏やかだ。
 一緒にいて、気づまりを感じたことのない相手は、寧ろ海堂の呼吸を楽にしてくれる。
 海堂の中にある過剰なものを、乾はそっと指摘して見せたり、解き放ってくれたり、海堂に息の抜き方を教えてくれて、それでいて無条件に海堂を信頼する態度も惜しまない不思議な相手だ。
 特別な誰かというものを海堂は乾で知った。
 海堂がそんな事を考えて見つめ続けていた乾が、海堂と同じ分だけの視線を、海堂へ寄こしてきた事に。
 言われるまで海堂は気付かなかった。
「見惚れてた」
「………はい…?」
「実はだいぶ前から。水撒きしてるところ」
「……水…撒きたいんっすか」
「そっちじゃなくてさ」
 乾は笑って、首を振る。
「海堂をだよ」
 好きだなあと思って、と。
 そっと囁くような声で乾に付け足される。
 夏の日差しの下、緑に縁どられて笑う乾の言葉に海堂は息を詰まらせる。
 手元から散水ホースがするりと落ちて、海堂の足元を濡らすのも気にならなかった。
 乾は大人びた表情にはにかんだような笑みを浮かべて、そっと海堂の足元を指で指し示してくる。
「……とめた方がいいんじゃないか?」
「あ…、…」
「驚かせたか?…ごめんな」
「…、…別に…」
 海堂は慌てて蛇口を捻って水を止める。
 ハーフパンツにサンダル履きの足元の濡れ具合は然して気にならなかった。
 むしろ本音は頭から水をかけたいくらいに濡れてしまいたいくらいだった。
 顔が熱い。
「海堂」
「……なん…っすか」
「熱い」
「…ったりまえでしょうが。夏なんだから」
「そっちじゃなくて」
「……は?」
「熱い」
 熱出そう、なんて乾が言うので海堂はぎょっとして顔を上げる。
 具合でも悪いのかと思って見据えれば、乾が小さく海堂を手招きしてくるので。
 思わず促されるまま海堂は乾へ近づいていって。
「あんた、熱って…」
「ん」
 伸ばされてきた長い腕。
 緑の葉の隙間。
 夏の日差しと、僅かな木陰。
 唇を掠られる。
「な、……」
「………………」
 離れ際にもう一度唇の端にもキスを寄せられて。
 本来ならば、場所と行動を咎めるべきなのに、海堂はそう出来ずに何だか熱に浮かされたようになってしまう。
「先輩……」
「……我慢がさ…出来ないというか」
 そんな他人事のような言葉を口にしながら、乾は海堂の後ろ髪を大きな手で静かに撫でた。
「髪、…すこし熱いな」
「………………」
 家の中に入った方がいいかもな、などと冷静な言葉を言っているのに。
 そんな乾が海堂を離さない。
「……先輩」
 海堂は唸るような声で乾を呼んだ。
「うん?」
「いいから、早く…玄関から入ってきて下さい」
 これではいつまでも炎天下の下、ここでふたり立ち尽くす事になる。
 もう、くらくらと、甘ったるいめまいもして。
 海堂の幾分荒っぽい声に、乾は少し目を瞠り、含み笑いを響かせてきた。
「これはこれで密会っぽくていいかと思うんだが」
「…そのうち、ぶっ倒れるっつってんだよ!」
「優しいなぁ…海堂は」
「あんたじゃねえ…!」
「おじゃまします」
 小さく音をたてて海堂の頬に口づけて。
 乾は背中を向けた。
 海堂は頬に手の甲を押し当てて固まった。
 玄関のチャイムの音がなるまで、そこに立ち尽くした。
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