How did you feel at your first kiss?
乾がぼんやりと口にした言葉が、昨日の夢の続きが見たいなあ、だったので。
結果、海堂は乾の家に泊まることになった。
乾の昨夜の夢とやらには、海堂が出てきたとのことで。
例え自分とはいえ、夢など乞われて海堂が微妙に対抗心を燃やした結果で、そうなった。
「海堂、一緒に寝ようよ」
「………………」
当然のように自分の寝そべるベッドを叩いてきた乾に、海堂は複雑そうに眉根を寄せた。
乾の両親とも不在だという週末。
お風呂を借りて乾の部屋に戻ってきた海堂を出迎えたのは、ベッドに腹這いになって雑誌を捲っていた乾だ。
乾の目線が海堂の頭を見たのは、髪がかわいているかどうかを確認したからだろうと海堂にも判った。
「ちゃんと大人しくしてるよ。おいで」
雑誌を閉じて、乾が笑いかけてくる。
別にいちいちそういう事を言わなくていいと目線で訴えながら、海堂はベッドに近づいていく。
「はい。どうぞ?」
身体をずらして乾がベッドにスペースをつくる。
「……俺は」
「床で良いとか言わない」
「………………」
「別に寝るって言うなら、俺はベッドから海堂の布団に飛び込む予定だけど、それでもいい?」
「…あんたなあ」
呆れた海堂がいくら睨んでも堪えた風もなく、乾は海堂の腕をそっと掴んで引っ張り込んできた。
乾の胸元深く。
「………………」
少しばかり強引にされて。
海堂は乾と一緒にベッドに横たわることになる。
「ちなみに今朝はここで目が覚めた」
「………………」
朝起きた時の喪失感っていったらなかったなあ、と乾は海堂の髪を撫でながら言った。
海堂はといえば、どうしたって気まり悪いような居心地が悪いような思いで、ごそごそと身じろぐばかりだ。
これだけくっついていると、あまり動くのも相手にとっては落ち着かないのではと考えた途端。
「いいよ、ここだっていうベストポジション決まるまで好きにしてて」
笑ったような声で乾が言って、何でこう考えていることがダダ漏れなんだと思いながら、海堂は言われた言葉に従って思う存分乾言うところのベストポジションを探した。
暫くしてやっと、身体の力が抜ける場所を見つける。
結局それが乾の胸元近くに顔を寄せる位置だというのだから、何なんだろうなと海堂はひっそりと赤くなった。
乾は海堂の髪を指先に絡めるようにしながら呟いてくる。
「俺なぁ…海堂」
「………はい…?」
「最近、はっきり判ったんだが」
「………………」
「とにかく海堂と一緒にいたいんだよ」
「……乾先輩?」
乾が、何だか不思議な声で話し出すので、海堂はその体制のまま目線を上げた。
乾はメガネを外してベッドヘッドに置き、そっと海堂を見下ろしてくる。
やけにしみじみとした、落ち着いた声音で乾は言う。
「海堂といると、すっきりするんだ。…頭の中とか、感情だとかが」
「すっきり…?」
「そう。…まあ、それだけって訳でもないけどな」
いろいろね、と乾が笑い、でもその笑い方がふんわりと優しい感じだったので海堂はどぎまぎした。
「例えばなんだけど。何も手を加えてないってものが、今の世の中圧倒的に少ないだろう」
「………………」
乾の話が突拍子もなかったり、突然饒舌になるのはいつもの事なので驚かない。
海堂が促しの無言でいると、乾は話を続けた。
「いろんなものがあって、……そうだなあ、たとえば飲み物とかも。茶葉とか、果物とか、ある意味自然のものもあるにはあるけど、混ぜてみたり味付けてみたり、身体に良いとか悪いとか、美味かったり不味かったり、甘かったり苦かったり。いろいろだろう?」
「……あんたが言うかって気もしますけど」
思わず本音が出た海堂の言葉に、乾は低く笑い声を響かせた。
「そこ置いておいて。…でもさ、海堂。結局のところ、人間、水があればいい」
「………………」
「水があれば、いいんだ」
乾の腕が海堂の背中に回る。
あたたかい腕に抱きしめられて、海堂はほっとする。
理由なんかない。
無条件にだ。
乾も海堂を抱き込んで、同じように身体の力を抜いて。
海堂の耳元近くで囁いた。
「俺は、結局、海堂がいてくれたら、それでいいんだ」
「……………」
「海堂がいてくれたら、それだけでいいんだ」
艶のある低い声。
でも言い方は、すなおな小さな子供のようだった。
海堂よりも遥かに長身で、どこか達観したような雰囲気の年上の男が、海堂を抱き込んで、そんな言葉を零して。
安心したかのように、すうっと眠りに落ちていく。
乾は海堂といると異様に寝つきが良いのだと言う。
寝入り端まで海堂の事を口にして、殆ど喋りながらそのまま眠っていく乾の傍で、海堂は。
なんだろう。
そう思い、海堂は目を閉じる。
「………………」
なんだろう。
少しも嫌な感じではなく、海堂の胸は引き絞られる。
この人は。
そして自分は。
「………………」
海堂は、自分の頭上に唇を埋めるようにしたまま安らいで眠ってしまった乾に抱かれて。
しばらく考えたけれど、次第に乾の眠りの中に、自分もゆっくりと引きこまれていくような錯覚を覚える。
なめらかな水のような感覚に沈んでいく。
胸は、依然、甘苦しく引き絞られる。
それはほんの少しも、辛くなどないけれど。
「………………」
もし、今日乾のみる夢が、途中で途切れてしまっても。
明日の朝には、自分が途切れたその先を続けてやろう。
もし、海堂がこれからみる夢が、同じ経路を辿るのならば。
明日の朝には、乾がそれを続けてくれるだろう。
何も問題はなかった。
こうして一緒にいれば、それだけで。
何の問題もないことだ。
結果、海堂は乾の家に泊まることになった。
乾の昨夜の夢とやらには、海堂が出てきたとのことで。
例え自分とはいえ、夢など乞われて海堂が微妙に対抗心を燃やした結果で、そうなった。
「海堂、一緒に寝ようよ」
「………………」
当然のように自分の寝そべるベッドを叩いてきた乾に、海堂は複雑そうに眉根を寄せた。
乾の両親とも不在だという週末。
お風呂を借りて乾の部屋に戻ってきた海堂を出迎えたのは、ベッドに腹這いになって雑誌を捲っていた乾だ。
乾の目線が海堂の頭を見たのは、髪がかわいているかどうかを確認したからだろうと海堂にも判った。
「ちゃんと大人しくしてるよ。おいで」
雑誌を閉じて、乾が笑いかけてくる。
別にいちいちそういう事を言わなくていいと目線で訴えながら、海堂はベッドに近づいていく。
「はい。どうぞ?」
身体をずらして乾がベッドにスペースをつくる。
「……俺は」
「床で良いとか言わない」
「………………」
「別に寝るって言うなら、俺はベッドから海堂の布団に飛び込む予定だけど、それでもいい?」
「…あんたなあ」
呆れた海堂がいくら睨んでも堪えた風もなく、乾は海堂の腕をそっと掴んで引っ張り込んできた。
乾の胸元深く。
「………………」
少しばかり強引にされて。
海堂は乾と一緒にベッドに横たわることになる。
「ちなみに今朝はここで目が覚めた」
「………………」
朝起きた時の喪失感っていったらなかったなあ、と乾は海堂の髪を撫でながら言った。
海堂はといえば、どうしたって気まり悪いような居心地が悪いような思いで、ごそごそと身じろぐばかりだ。
これだけくっついていると、あまり動くのも相手にとっては落ち着かないのではと考えた途端。
「いいよ、ここだっていうベストポジション決まるまで好きにしてて」
笑ったような声で乾が言って、何でこう考えていることがダダ漏れなんだと思いながら、海堂は言われた言葉に従って思う存分乾言うところのベストポジションを探した。
暫くしてやっと、身体の力が抜ける場所を見つける。
結局それが乾の胸元近くに顔を寄せる位置だというのだから、何なんだろうなと海堂はひっそりと赤くなった。
乾は海堂の髪を指先に絡めるようにしながら呟いてくる。
「俺なぁ…海堂」
「………はい…?」
「最近、はっきり判ったんだが」
「………………」
「とにかく海堂と一緒にいたいんだよ」
「……乾先輩?」
乾が、何だか不思議な声で話し出すので、海堂はその体制のまま目線を上げた。
乾はメガネを外してベッドヘッドに置き、そっと海堂を見下ろしてくる。
やけにしみじみとした、落ち着いた声音で乾は言う。
「海堂といると、すっきりするんだ。…頭の中とか、感情だとかが」
「すっきり…?」
「そう。…まあ、それだけって訳でもないけどな」
いろいろね、と乾が笑い、でもその笑い方がふんわりと優しい感じだったので海堂はどぎまぎした。
「例えばなんだけど。何も手を加えてないってものが、今の世の中圧倒的に少ないだろう」
「………………」
乾の話が突拍子もなかったり、突然饒舌になるのはいつもの事なので驚かない。
海堂が促しの無言でいると、乾は話を続けた。
「いろんなものがあって、……そうだなあ、たとえば飲み物とかも。茶葉とか、果物とか、ある意味自然のものもあるにはあるけど、混ぜてみたり味付けてみたり、身体に良いとか悪いとか、美味かったり不味かったり、甘かったり苦かったり。いろいろだろう?」
「……あんたが言うかって気もしますけど」
思わず本音が出た海堂の言葉に、乾は低く笑い声を響かせた。
「そこ置いておいて。…でもさ、海堂。結局のところ、人間、水があればいい」
「………………」
「水があれば、いいんだ」
乾の腕が海堂の背中に回る。
あたたかい腕に抱きしめられて、海堂はほっとする。
理由なんかない。
無条件にだ。
乾も海堂を抱き込んで、同じように身体の力を抜いて。
海堂の耳元近くで囁いた。
「俺は、結局、海堂がいてくれたら、それでいいんだ」
「……………」
「海堂がいてくれたら、それだけでいいんだ」
艶のある低い声。
でも言い方は、すなおな小さな子供のようだった。
海堂よりも遥かに長身で、どこか達観したような雰囲気の年上の男が、海堂を抱き込んで、そんな言葉を零して。
安心したかのように、すうっと眠りに落ちていく。
乾は海堂といると異様に寝つきが良いのだと言う。
寝入り端まで海堂の事を口にして、殆ど喋りながらそのまま眠っていく乾の傍で、海堂は。
なんだろう。
そう思い、海堂は目を閉じる。
「………………」
なんだろう。
少しも嫌な感じではなく、海堂の胸は引き絞られる。
この人は。
そして自分は。
「………………」
海堂は、自分の頭上に唇を埋めるようにしたまま安らいで眠ってしまった乾に抱かれて。
しばらく考えたけれど、次第に乾の眠りの中に、自分もゆっくりと引きこまれていくような錯覚を覚える。
なめらかな水のような感覚に沈んでいく。
胸は、依然、甘苦しく引き絞られる。
それはほんの少しも、辛くなどないけれど。
「………………」
もし、今日乾のみる夢が、途中で途切れてしまっても。
明日の朝には、自分が途切れたその先を続けてやろう。
もし、海堂がこれからみる夢が、同じ経路を辿るのならば。
明日の朝には、乾がそれを続けてくれるだろう。
何も問題はなかった。
こうして一緒にいれば、それだけで。
何の問題もないことだ。
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