How did you feel at your first kiss?
鳳が自分の部屋の扉を閉めたのと訪ねてきた宍戸の腕を引き寄せたのはほぼ同時だった。
部屋の扉はきちんと閉まった。
けれども宍戸は鳳の胸元には収まらなかった。
「……宍戸さん?」
足を踏みとどまらせて距離をつくる宍戸を見下ろし、鳳が小さく呼びかける。
何か怒ってでもいるのかと訝しんだ鳳の心中を察したように。
宍戸は取り立てて怒っているような様子もない上目をくれて。
あっさりと、もう少ししてからな、とだけ言った。
「もう少しって…?」
「言ったまんま」
するりと鳳の手から腕を引き、宍戸は部屋の中に入ってコートを脱ぐ。
「あ、おい、長太郎…」
「今がいい」
「駄目だっつってんだろ!」
脱ぎかけのコートごと、宍戸の背後から両腕で彼を抱き込んだ鳳は、結構本気の体で宍戸に身を捩られて、ますます腕に力を込める。
嫌がられるのは、嫌だ。
何でだと癇癪を起こしたいような気分にもなる。
けれど、こういう時は理不尽に癇癪を起こすより、見境なく甘えまくってしまった方が、宍戸がちゃんと理由を言ってくれる事を鳳は判っていた。
「後でじゃ嫌です」
「おい、…」
「今がいい。今抱きしめたい」
「長太郎」
「何で嫌がるの。宍戸さんは」
細い身体はしなやかな手触りで鳳の腕の中にある。
やはり暫くは嫌がるみたいに身じろがれたが、それよりもっと嫌だと鳳が感情を露わに甘えたおすと、宍戸は結局折れてくれる。
力を抜いた宍戸は鳳に背中から凭れかかるようにして、後ろ手に、鳳の髪をくしゃくしゃとかきまぜた。
「……ったく。何でへこむんだよ。これくらいで」
「へこみますよ。宍戸さん嫌がるから」
「嫌がってねえよ。後でっつっただろ」
「後ではよくても、今は嫌なんでしょう」
「長太郎ー」
大真面目に鳳が意見していると、何故だかいきなり宍戸は噴き出すように笑い出し、わかったわかったと繰り返し言った。
「とにかくコートくらい普通に脱がせろよ」
「はい」
鳳は丁寧に宍戸のコートに手をかけて、半ば外れかけた右肩から先に、そっと脱がせていく。
「……脱がせてくれとは言ってねえけどな」
「俺は脱がせたいです」
コートの下に着ているセーター越しに宍戸の背後から、その肩口に唇を落とす。
「ね、宍戸さん」
「んー?」
「どうして最初に、嫌がったんですか?」
またかよと宍戸は呆れた声で返してきたけれど。
鳳は構わず、どうして?と宍戸に顔を近づけて耳元に囁く。
「やけに拘るなあ、お前。聞くの何回目だよ」
「さあ? 数えてないので判らないですけど。でも、自分の気付いてない所で、宍戸さんに嫌な思いさせてたら嫌だから」
教えてほしいです、と鳳は宍戸の頬にキスをした。
宍戸はもう、鳳が何をしても嫌がらない。
軽いキスを頬で受け止めて、宍戸は溜息をついてから口をひらいた。
「…お前が、かわいそうだって思ったからだよ」
「かわいそう? 何でですか?」
宍戸さんに拒まれる方がよっぽどかわいそうじゃないですかと矢継ぎ早に鳳が言うと、宍戸は鳳の胸元に立ったまま凭れかかって、自身の手のひらをじっと見据えていた。
「宍戸さん?」
「外、寒かったんだよ」
「え?」
「手とか、マジで冷たくなってたし。結構着こんできたけど全身冷えてたしな」
お前がかわいそうだろう、と宍戸はもう一度言った。
「家ん中にいたのに、わざわざ俺で寒い思いすることねえだろうが」
なんだろう、このひとは、と思って絶句している鳳になどまるで気付かず。
宍戸は訥々と喋っている。
「だからちょっと待てって言ってるのに、聞かねえんだからよ。お前は」
宍戸を抱き込む手に力が籠る。
不思議そうに振り返ってきた宍戸の唇を鳳は真上から封じるようにキスで奪って。
宍戸が気にしたような冷たさなど、一度も感じていない彼の手を、そっと取って握り締める。
鳳を守るみたいな真似を、普通にしてしまう宍戸の薄い身体を抱き込んで、キスの角度を変える。
唇と唇が離れた一瞬で、至近距離からお互いの視線が合う。
指を絡め合う。
唇を重ねる。
身体を寄せて、あと何が出来るだろう。
「長太郎」
宍戸の声で名前を呼ばれる。
その声を聞いて、頭の中まで沁み渡るように満足して。
「宍戸さん」
鳳が呼ぶと、宍戸もまるで鳳と同じものを感じているかのように、瞬時目を閉じて息をつく。
「宍戸さんが寒かったら、俺は温めたいです」
「何遍も言わすなよ。お前が寒い思いすんのとか、かわいそうで無理」
「……過保護すぎやしませんか」
「……どっちがだよ」
どっちもだよ、なんて結論は端から頭にない自分達だから。
暫くは、こんなどうでもいい論争を、真剣に。
キスの合間の時間を使って取り交わす。
部屋の扉はきちんと閉まった。
けれども宍戸は鳳の胸元には収まらなかった。
「……宍戸さん?」
足を踏みとどまらせて距離をつくる宍戸を見下ろし、鳳が小さく呼びかける。
何か怒ってでもいるのかと訝しんだ鳳の心中を察したように。
宍戸は取り立てて怒っているような様子もない上目をくれて。
あっさりと、もう少ししてからな、とだけ言った。
「もう少しって…?」
「言ったまんま」
するりと鳳の手から腕を引き、宍戸は部屋の中に入ってコートを脱ぐ。
「あ、おい、長太郎…」
「今がいい」
「駄目だっつってんだろ!」
脱ぎかけのコートごと、宍戸の背後から両腕で彼を抱き込んだ鳳は、結構本気の体で宍戸に身を捩られて、ますます腕に力を込める。
嫌がられるのは、嫌だ。
何でだと癇癪を起こしたいような気分にもなる。
けれど、こういう時は理不尽に癇癪を起こすより、見境なく甘えまくってしまった方が、宍戸がちゃんと理由を言ってくれる事を鳳は判っていた。
「後でじゃ嫌です」
「おい、…」
「今がいい。今抱きしめたい」
「長太郎」
「何で嫌がるの。宍戸さんは」
細い身体はしなやかな手触りで鳳の腕の中にある。
やはり暫くは嫌がるみたいに身じろがれたが、それよりもっと嫌だと鳳が感情を露わに甘えたおすと、宍戸は結局折れてくれる。
力を抜いた宍戸は鳳に背中から凭れかかるようにして、後ろ手に、鳳の髪をくしゃくしゃとかきまぜた。
「……ったく。何でへこむんだよ。これくらいで」
「へこみますよ。宍戸さん嫌がるから」
「嫌がってねえよ。後でっつっただろ」
「後ではよくても、今は嫌なんでしょう」
「長太郎ー」
大真面目に鳳が意見していると、何故だかいきなり宍戸は噴き出すように笑い出し、わかったわかったと繰り返し言った。
「とにかくコートくらい普通に脱がせろよ」
「はい」
鳳は丁寧に宍戸のコートに手をかけて、半ば外れかけた右肩から先に、そっと脱がせていく。
「……脱がせてくれとは言ってねえけどな」
「俺は脱がせたいです」
コートの下に着ているセーター越しに宍戸の背後から、その肩口に唇を落とす。
「ね、宍戸さん」
「んー?」
「どうして最初に、嫌がったんですか?」
またかよと宍戸は呆れた声で返してきたけれど。
鳳は構わず、どうして?と宍戸に顔を近づけて耳元に囁く。
「やけに拘るなあ、お前。聞くの何回目だよ」
「さあ? 数えてないので判らないですけど。でも、自分の気付いてない所で、宍戸さんに嫌な思いさせてたら嫌だから」
教えてほしいです、と鳳は宍戸の頬にキスをした。
宍戸はもう、鳳が何をしても嫌がらない。
軽いキスを頬で受け止めて、宍戸は溜息をついてから口をひらいた。
「…お前が、かわいそうだって思ったからだよ」
「かわいそう? 何でですか?」
宍戸さんに拒まれる方がよっぽどかわいそうじゃないですかと矢継ぎ早に鳳が言うと、宍戸は鳳の胸元に立ったまま凭れかかって、自身の手のひらをじっと見据えていた。
「宍戸さん?」
「外、寒かったんだよ」
「え?」
「手とか、マジで冷たくなってたし。結構着こんできたけど全身冷えてたしな」
お前がかわいそうだろう、と宍戸はもう一度言った。
「家ん中にいたのに、わざわざ俺で寒い思いすることねえだろうが」
なんだろう、このひとは、と思って絶句している鳳になどまるで気付かず。
宍戸は訥々と喋っている。
「だからちょっと待てって言ってるのに、聞かねえんだからよ。お前は」
宍戸を抱き込む手に力が籠る。
不思議そうに振り返ってきた宍戸の唇を鳳は真上から封じるようにキスで奪って。
宍戸が気にしたような冷たさなど、一度も感じていない彼の手を、そっと取って握り締める。
鳳を守るみたいな真似を、普通にしてしまう宍戸の薄い身体を抱き込んで、キスの角度を変える。
唇と唇が離れた一瞬で、至近距離からお互いの視線が合う。
指を絡め合う。
唇を重ねる。
身体を寄せて、あと何が出来るだろう。
「長太郎」
宍戸の声で名前を呼ばれる。
その声を聞いて、頭の中まで沁み渡るように満足して。
「宍戸さん」
鳳が呼ぶと、宍戸もまるで鳳と同じものを感じているかのように、瞬時目を閉じて息をつく。
「宍戸さんが寒かったら、俺は温めたいです」
「何遍も言わすなよ。お前が寒い思いすんのとか、かわいそうで無理」
「……過保護すぎやしませんか」
「……どっちがだよ」
どっちもだよ、なんて結論は端から頭にない自分達だから。
暫くは、こんなどうでもいい論争を、真剣に。
キスの合間の時間を使って取り交わす。
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