How did you feel at your first kiss?
二人でいて一緒にすることなんて、精々がテニスくらいだろうと観月は思っていた。
部長である赤澤と自分とでは。
テニスの他に共通するような趣味などなく、性格なんかはもうまるっきり正反対で、たぶんテニスがなかったらこうして同じ学校にいても口をきくことすらなかったかもしれない。
決して相手が嫌いなのではなく、お互い毛色が違いすぎて、接触すらないであろうというのが観月の了見だ。
「………………」
ルドルフの寮内の食堂で、観月は頬杖をついて夕焼け空を横目に眺めている。
まるで朝陽のような夕陽の濃さが、やけに赤澤の印象を彷彿させる。
そんな夕焼けを、きれいだと思う自分に溜息が出る。
夕闇に近くなっている空は、すでに薄暗くくすんだり、白く煙るような夜の色の空で、その上を夕焼けの色はとろりと溶け出しながら空を滴っている。
観月が食堂の窓ガラス越しにそんな空を見ていると、背後から肩に手が置かれる。
そのまま軽く引かれて。
背中に相手の身体が当たる。
それが誰だか観月にはきちんと判るし、唐突な接触に慣れつつはあるから、驚きこそしないものの。
「………なんですか」
「ん? 何見てんのかなぁって思ってさ」
気安い接触、近い距離、そんなものに馴染んでいく自分自身が観月には信じ難かった。
観月の視線を赤澤は追いかけてくる。
目線の行き先を辿って空を見て。
暫くの後、低い声でぽつりと、きれいだなあと呟いた。
囁かれるような言葉より、肩にあるままの手が些か気になる。
観月は視線を空から外さないまま返した。
「そうですね」
「あー…でも、もう時期に消えちまうな。夕焼け」
さばさばとした口調に観月は唇に笑みを刻む。
和んでというよりは、その刹那に対してだ。
「瞬間的だから綺麗なんですよ」
「そういうもんか?」
「現に、こうして綺麗でしょう?」
頬杖をついていた体勢から観月が背後を振り返ろうと仰ぎ見た先。
立ったままの赤澤の目は、すでに夕焼けではなく、観月を見下ろしていた。
真っ直ぐすぎる眼差しと、まともに眼と眼が合って。
観月は無意識に浮かべていた笑みを静かに消して息をのむ。
「確かに…」
「………………」
「一瞬なのも、綺麗だったけど」
赤澤の手のひらが、するりと観月の片頬を包む。
消えた観月の笑みを見る目をした後、赤澤が、じっと観月も見据えて生真面目に言う。
「別に瞬間的じゃなくても綺麗なもんは綺麗だけどな?」
「なに……」
赤澤が自分に対してその言葉を向けていることは観月にも判ったけれど。
何故だか、赤澤にそう言われるのが、観月は苦手だった。
他の誰が言ったとしても、笑って受け入れられるであろう言葉が、赤澤の口から放たれると、無性に逃げ出したいような気分になるのだ。
そんな訳がない。
綺麗なんかじゃない。
いつも、そう思うのだ。
目線を逸らした観月の頬から手を引いて、赤澤は黙って観月の左隣に座った。
引き出した椅子に浅く腰掛け、赤澤は観月の左肩に軽く背中を凭れかけてくる。
それでは窓にも背を向けてしまっている格好で、夕焼けなど全く見えない。
無論赤澤の視界に観月も入らない。
「………………」
赤澤に見られなくて観月がほっとするのは自分自身について。
赤澤が見ない事が、勿体ないと観月が思うのは、夕焼けについて。
相反するささやかな感情の対立は観月の胸の内に生まれる。
「………………」
夕暮れの、一番綺麗な一瞬に赤澤は興味がないようで。
それは、やはり自分とは好むものが違うのだなと観月に思わせたのだけれど。
「集中させてやるからさ」
「…はい?」
「夕焼け見るの」
好きだろ、お前、と赤澤は低い声でゆったりと告げた後。
「だから、その後は構えよ」
「……なにを…言っているのか判りませんよ。部長」
肩口にある、日に焼けた髪を見下ろしながら、観月は幾分歯切れの悪い口調で返す。
本当は。
本当のところは。
赤澤の言わんとしている事が、判っていたので。
構えって、なんだそれはと観月は憮然と赤くなる。
「判んない? そっか。じゃ、それは夕焼け消えた後説明する」
「………そんなに寄りかからないでくださいよ…!」
集中など出来るはずがないだろう。
こんな接触をしている体勢では。
羞恥を噛んだ素っ気ない観月の言い様に、赤澤は気にした風もなく、しょうがねえだろ?とのんびりと言う。
「前から抱き込んだら、お前夕焼け見えないし」
「…、抱……、離れればいいんですよ。離れれば!」
「やだ」
「やだじゃない!」
「やだー」
「なに甘えてんですか!」
観月が声を荒げると、両腕を胸の前で組んだ赤澤は、観月の左腕に凭れかかったまま笑う。
「そうそう。つまり甘えてんだよな。俺」
「赤澤、あなたねえ…!」
「だってなぁ……お前はさ、観月。人から要求されれば必ずそれ以上を返してくるから」
分析だけじゃなくて、どんなことでもさ、と笑う赤澤が。
いつの間にか観月のあれこれを掌握しているように。
「そういうのを見越して、全力で甘え倒してくるのを止めろと言ってるんだ…!」
「悪ぃ」
「笑うなっ」
「お前は怒るな」
心地よさそうに笑う赤澤を、観月もまた理解している。
懐柔の術はお互いが持っているのだ。
まるでタイプの違う自分達だけれど。
ほんの少しも、持て余すなんて事は、ないのだ。
腕と背中と。
触れあう箇所が少しだけあれば。
目線なんか合わなくても、別に平気。
言い争うような言葉ばかりを放っていても平気。
似ていなくても、同じじゃなくても、一緒にいて、嬉しいから。
それだけでもう、なにもかもが平気なのだ。
部長である赤澤と自分とでは。
テニスの他に共通するような趣味などなく、性格なんかはもうまるっきり正反対で、たぶんテニスがなかったらこうして同じ学校にいても口をきくことすらなかったかもしれない。
決して相手が嫌いなのではなく、お互い毛色が違いすぎて、接触すらないであろうというのが観月の了見だ。
「………………」
ルドルフの寮内の食堂で、観月は頬杖をついて夕焼け空を横目に眺めている。
まるで朝陽のような夕陽の濃さが、やけに赤澤の印象を彷彿させる。
そんな夕焼けを、きれいだと思う自分に溜息が出る。
夕闇に近くなっている空は、すでに薄暗くくすんだり、白く煙るような夜の色の空で、その上を夕焼けの色はとろりと溶け出しながら空を滴っている。
観月が食堂の窓ガラス越しにそんな空を見ていると、背後から肩に手が置かれる。
そのまま軽く引かれて。
背中に相手の身体が当たる。
それが誰だか観月にはきちんと判るし、唐突な接触に慣れつつはあるから、驚きこそしないものの。
「………なんですか」
「ん? 何見てんのかなぁって思ってさ」
気安い接触、近い距離、そんなものに馴染んでいく自分自身が観月には信じ難かった。
観月の視線を赤澤は追いかけてくる。
目線の行き先を辿って空を見て。
暫くの後、低い声でぽつりと、きれいだなあと呟いた。
囁かれるような言葉より、肩にあるままの手が些か気になる。
観月は視線を空から外さないまま返した。
「そうですね」
「あー…でも、もう時期に消えちまうな。夕焼け」
さばさばとした口調に観月は唇に笑みを刻む。
和んでというよりは、その刹那に対してだ。
「瞬間的だから綺麗なんですよ」
「そういうもんか?」
「現に、こうして綺麗でしょう?」
頬杖をついていた体勢から観月が背後を振り返ろうと仰ぎ見た先。
立ったままの赤澤の目は、すでに夕焼けではなく、観月を見下ろしていた。
真っ直ぐすぎる眼差しと、まともに眼と眼が合って。
観月は無意識に浮かべていた笑みを静かに消して息をのむ。
「確かに…」
「………………」
「一瞬なのも、綺麗だったけど」
赤澤の手のひらが、するりと観月の片頬を包む。
消えた観月の笑みを見る目をした後、赤澤が、じっと観月も見据えて生真面目に言う。
「別に瞬間的じゃなくても綺麗なもんは綺麗だけどな?」
「なに……」
赤澤が自分に対してその言葉を向けていることは観月にも判ったけれど。
何故だか、赤澤にそう言われるのが、観月は苦手だった。
他の誰が言ったとしても、笑って受け入れられるであろう言葉が、赤澤の口から放たれると、無性に逃げ出したいような気分になるのだ。
そんな訳がない。
綺麗なんかじゃない。
いつも、そう思うのだ。
目線を逸らした観月の頬から手を引いて、赤澤は黙って観月の左隣に座った。
引き出した椅子に浅く腰掛け、赤澤は観月の左肩に軽く背中を凭れかけてくる。
それでは窓にも背を向けてしまっている格好で、夕焼けなど全く見えない。
無論赤澤の視界に観月も入らない。
「………………」
赤澤に見られなくて観月がほっとするのは自分自身について。
赤澤が見ない事が、勿体ないと観月が思うのは、夕焼けについて。
相反するささやかな感情の対立は観月の胸の内に生まれる。
「………………」
夕暮れの、一番綺麗な一瞬に赤澤は興味がないようで。
それは、やはり自分とは好むものが違うのだなと観月に思わせたのだけれど。
「集中させてやるからさ」
「…はい?」
「夕焼け見るの」
好きだろ、お前、と赤澤は低い声でゆったりと告げた後。
「だから、その後は構えよ」
「……なにを…言っているのか判りませんよ。部長」
肩口にある、日に焼けた髪を見下ろしながら、観月は幾分歯切れの悪い口調で返す。
本当は。
本当のところは。
赤澤の言わんとしている事が、判っていたので。
構えって、なんだそれはと観月は憮然と赤くなる。
「判んない? そっか。じゃ、それは夕焼け消えた後説明する」
「………そんなに寄りかからないでくださいよ…!」
集中など出来るはずがないだろう。
こんな接触をしている体勢では。
羞恥を噛んだ素っ気ない観月の言い様に、赤澤は気にした風もなく、しょうがねえだろ?とのんびりと言う。
「前から抱き込んだら、お前夕焼け見えないし」
「…、抱……、離れればいいんですよ。離れれば!」
「やだ」
「やだじゃない!」
「やだー」
「なに甘えてんですか!」
観月が声を荒げると、両腕を胸の前で組んだ赤澤は、観月の左腕に凭れかかったまま笑う。
「そうそう。つまり甘えてんだよな。俺」
「赤澤、あなたねえ…!」
「だってなぁ……お前はさ、観月。人から要求されれば必ずそれ以上を返してくるから」
分析だけじゃなくて、どんなことでもさ、と笑う赤澤が。
いつの間にか観月のあれこれを掌握しているように。
「そういうのを見越して、全力で甘え倒してくるのを止めろと言ってるんだ…!」
「悪ぃ」
「笑うなっ」
「お前は怒るな」
心地よさそうに笑う赤澤を、観月もまた理解している。
懐柔の術はお互いが持っているのだ。
まるでタイプの違う自分達だけれど。
ほんの少しも、持て余すなんて事は、ないのだ。
腕と背中と。
触れあう箇所が少しだけあれば。
目線なんか合わなくても、別に平気。
言い争うような言葉ばかりを放っていても平気。
似ていなくても、同じじゃなくても、一緒にいて、嬉しいから。
それだけでもう、なにもかもが平気なのだ。
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こんにちは!きみです!!
こんにちは!深夜に失礼いたします。インフルエンザがはやっていますが大丈夫ですか?私は高校3年生なのですが学級閉鎖になるクラスもあり大変です・・・
あの、blogのほう初めて読んで(今まで読んでなくてすみません;д;`)びっくりしたんですが、テニミュみるかたなんですね!もううれしくてうれしくて!!
blogのレビューの萌え所がばっちり一緒で大興奮してしまい深夜にコメントいたしました;ご迷惑になっていたら申し訳ありません・・・。私は埼玉の人間なので今度のクリスマスイブ公演に参戦いたします!今から本当に楽しみです♯・ω・♯
では、また更新のほう心待ちにしておりますので、お体に十分おきをつけてがんばってください。本当に急なコメント申し訳ありませんでした!
きみさま、こんばんは!
12月ともなると、本当に日に日に寒くなって参りますね。
お風邪など召されていませんか…?
インフルエンザもまた更に流行っておりますし、きみさまもお大事にして下さいね。
(インフルエンザにかかったことない私は今年の冬も元気です…)
テニミュは本当に大好きで、レビューを楽しんでいただけたとのことでとても嬉しかったです!
イブ公演参戦なんですね。わあ、いっぱい楽しんできてくださいね!
私は今回東京はチケット取れなかったので、どうにか他公演と、東京凱旋で観にいけたらいいなあと思ってます。
最近なかなか更新できなくて申し訳ないのですが、その節はまた見て頂けたら嬉しいです。
コメントありがとうございました!
お風邪など召されていませんか…?
インフルエンザもまた更に流行っておりますし、きみさまもお大事にして下さいね。
(インフルエンザにかかったことない私は今年の冬も元気です…)
テニミュは本当に大好きで、レビューを楽しんでいただけたとのことでとても嬉しかったです!
イブ公演参戦なんですね。わあ、いっぱい楽しんできてくださいね!
私は今回東京はチケット取れなかったので、どうにか他公演と、東京凱旋で観にいけたらいいなあと思ってます。
最近なかなか更新できなくて申し訳ないのですが、その節はまた見て頂けたら嬉しいです。
コメントありがとうございました!
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