How did you feel at your first kiss?
次に会う約束を、交わす回数が増えた。
乾が部活を引退して、思っていたよりも部内で一緒にいる時間が多かったのだと気づいたのは、乾もだし、海堂もだ。
学年が違うというだけで、同じ学校にいても、顔を全く合わせない日もある。
即座に動いたのは乾だった。
海堂のクラスまでやってきて、その日の放課後の約束を取り付けてから以降は、別れ際に、約束を交わすようになった。
時々は突発で誘ったり誘われたりもする。
今日は乾が、前日に、うちに来ないかと電話をかけてきたので、海堂はこうして乾の部屋で肩を並べて座っている。
テレビがついているけれど、番組はみているような見ていないような、曖昧な感じだ。
海堂は饒舌なタイプではないので、もっぱら乾が何事か話しかけ、それに答えるような形で会話は続く。
ベッドに寄り掛かるようにしながら話しているさなか、ふと乾の様子が緩んだ気がして、海堂は横を向き乾を見上げる。
「ん?」
「…や、…」
「ああ」
判った?というように、乾が微笑んで海堂の眼差しを受け止める。
不思議だけれど、こんな風に目をみたり、極短い言葉程度で、自分達は意思の疎通が出来る。
テニス部の中でも、時折驚かれたり笑われたりした事があった。
「嬉しいなあと思ってさ」
「…何がっすか?」
乾が低くなめらかな声で言い、海堂は小さくそれを問い返す。
「距離がね」
「………………」
「近くて」
気づいてる?と乾が尚やわらかく唇に笑みを刻む。
距離。
近くて当然だ、と海堂は思った。
横並びに座っている。
乾の右手は海堂の右の脇腹に回されている。
いくら乾の腕が長いと言っても、腰のあたりを抱かれるようにして座っていれば、距離も近いに決まっている。
何を改めて言うことかと海堂が乾の目を見て思えば、乾は小さく声にして笑って、海堂の髪に軽く頬を寄せるようにして言った。
「海堂さ、最初に俺にメニュー作ってくれって言いに来た時の距離、覚えてる?」
「……距離…?」
「そう。ここから、…そこくらいまであった」
乾は左手で、自分達と、前方のテレビとを順に指差した。
海堂は何とも言えない顔になる。
そんなに離れていただろうか。
「コートの中だと、まあ、ある程度距離も縮まるんだけど。外出ちゃうと、やっぱり結構距離があって。…で、そういう距離が、今、こうだからさ」
嬉しいんだよ、という言葉と一緒に。
多分頭上にキスされたようだった。
感触がした。
海堂は乾の右手の甲を軽く叩いた。
「この手のせいだろうが…」
「こればっかじゃないって」
ぐっと一層強く抱き寄せられる。
何だかもう、べったりと、くっつきすぎているとは思うけれど。
乾の手を振りほどこうとは全く思えない海堂は、大人しく力を抜いたままだ。
「この手とか、今の距離だとかを、海堂が許してくれてるせいもあるだろ?」
「………………」
「嫌なら嫌ってちゃんと言う海堂が、ここにこうしていてくれてるから俺は嬉しい。…判る?」
優しい声はやけに甘くて、海堂は少しばかり憮然となった。
返しようがないだろうがと心中でのみ呟く。
確かに、こんな至近距離で人と居る事は、海堂にとっては稀だ。
乾とだと、平気なこの距離が。
果たして他の人間だったらどうかと考えれば、多分どうしたって無理だ。
体温が判るような、匂いも判るような、ぴったりとくっついて、話しながら時折キスまで交わして。
こんなこと。
「………、うわ」
「……うわって何っすか」
「いや、だって」
ちょっと海堂の方から擦り寄るように乾の胸元に凭れかかっただけで。
物凄く濃い感情のこもった声を出されてしまって、海堂は憮然とした。
少しばかり自分の顔が赤いであろう自覚はあったので、僅かに俯き表情は隠してしまうけれど。
乾の右手が海堂の右脇腹を支えたまま、左手でも海堂の後頭部を抱き込むようにしてきて。
もうお互いの間の距離などそれで消滅してしまった。
先程までの距離間で嬉しいと笑っていた乾だ。
これならばどうなのか。
海堂がそんな思いで引き上げて伺った目線を、乾は受け止めなかった。
睫毛を伏せた眼元が間近に見え、唇を塞がれた時には海堂も目を閉じていた。
「………………」
唇と唇が合わせられると、熱が生まれる。
指先だとか、胸の奥だとか、喉の中だとか。
唇と唇が離れると、くらくらする。
どこに落ちていくのか判らない眩暈だ。
同時に。
甘い困惑で吐き出す溜息は、二人分。
心からの感情を紡ぐのは、言葉よりもそんな溜息の方が余程明確だ。
乾が部活を引退して、思っていたよりも部内で一緒にいる時間が多かったのだと気づいたのは、乾もだし、海堂もだ。
学年が違うというだけで、同じ学校にいても、顔を全く合わせない日もある。
即座に動いたのは乾だった。
海堂のクラスまでやってきて、その日の放課後の約束を取り付けてから以降は、別れ際に、約束を交わすようになった。
時々は突発で誘ったり誘われたりもする。
今日は乾が、前日に、うちに来ないかと電話をかけてきたので、海堂はこうして乾の部屋で肩を並べて座っている。
テレビがついているけれど、番組はみているような見ていないような、曖昧な感じだ。
海堂は饒舌なタイプではないので、もっぱら乾が何事か話しかけ、それに答えるような形で会話は続く。
ベッドに寄り掛かるようにしながら話しているさなか、ふと乾の様子が緩んだ気がして、海堂は横を向き乾を見上げる。
「ん?」
「…や、…」
「ああ」
判った?というように、乾が微笑んで海堂の眼差しを受け止める。
不思議だけれど、こんな風に目をみたり、極短い言葉程度で、自分達は意思の疎通が出来る。
テニス部の中でも、時折驚かれたり笑われたりした事があった。
「嬉しいなあと思ってさ」
「…何がっすか?」
乾が低くなめらかな声で言い、海堂は小さくそれを問い返す。
「距離がね」
「………………」
「近くて」
気づいてる?と乾が尚やわらかく唇に笑みを刻む。
距離。
近くて当然だ、と海堂は思った。
横並びに座っている。
乾の右手は海堂の右の脇腹に回されている。
いくら乾の腕が長いと言っても、腰のあたりを抱かれるようにして座っていれば、距離も近いに決まっている。
何を改めて言うことかと海堂が乾の目を見て思えば、乾は小さく声にして笑って、海堂の髪に軽く頬を寄せるようにして言った。
「海堂さ、最初に俺にメニュー作ってくれって言いに来た時の距離、覚えてる?」
「……距離…?」
「そう。ここから、…そこくらいまであった」
乾は左手で、自分達と、前方のテレビとを順に指差した。
海堂は何とも言えない顔になる。
そんなに離れていただろうか。
「コートの中だと、まあ、ある程度距離も縮まるんだけど。外出ちゃうと、やっぱり結構距離があって。…で、そういう距離が、今、こうだからさ」
嬉しいんだよ、という言葉と一緒に。
多分頭上にキスされたようだった。
感触がした。
海堂は乾の右手の甲を軽く叩いた。
「この手のせいだろうが…」
「こればっかじゃないって」
ぐっと一層強く抱き寄せられる。
何だかもう、べったりと、くっつきすぎているとは思うけれど。
乾の手を振りほどこうとは全く思えない海堂は、大人しく力を抜いたままだ。
「この手とか、今の距離だとかを、海堂が許してくれてるせいもあるだろ?」
「………………」
「嫌なら嫌ってちゃんと言う海堂が、ここにこうしていてくれてるから俺は嬉しい。…判る?」
優しい声はやけに甘くて、海堂は少しばかり憮然となった。
返しようがないだろうがと心中でのみ呟く。
確かに、こんな至近距離で人と居る事は、海堂にとっては稀だ。
乾とだと、平気なこの距離が。
果たして他の人間だったらどうかと考えれば、多分どうしたって無理だ。
体温が判るような、匂いも判るような、ぴったりとくっついて、話しながら時折キスまで交わして。
こんなこと。
「………、うわ」
「……うわって何っすか」
「いや、だって」
ちょっと海堂の方から擦り寄るように乾の胸元に凭れかかっただけで。
物凄く濃い感情のこもった声を出されてしまって、海堂は憮然とした。
少しばかり自分の顔が赤いであろう自覚はあったので、僅かに俯き表情は隠してしまうけれど。
乾の右手が海堂の右脇腹を支えたまま、左手でも海堂の後頭部を抱き込むようにしてきて。
もうお互いの間の距離などそれで消滅してしまった。
先程までの距離間で嬉しいと笑っていた乾だ。
これならばどうなのか。
海堂がそんな思いで引き上げて伺った目線を、乾は受け止めなかった。
睫毛を伏せた眼元が間近に見え、唇を塞がれた時には海堂も目を閉じていた。
「………………」
唇と唇が合わせられると、熱が生まれる。
指先だとか、胸の奥だとか、喉の中だとか。
唇と唇が離れると、くらくらする。
どこに落ちていくのか判らない眩暈だ。
同時に。
甘い困惑で吐き出す溜息は、二人分。
心からの感情を紡ぐのは、言葉よりもそんな溜息の方が余程明確だ。
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