忍者ブログ
How did you feel at your first kiss?
[358]  [357]  [356]  [355]  [354]  [353]  [352]  [351]  [350]  [349]  [348
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 体感する熱気、日差し。
 肌を刺すような刺激、反応する汗や呼気。
 屋外の夏の直中にいた自分達は、今は二人、部屋の中にいる。
 そこで神尾は跡部に強く抱き締められる。
 神尾の背骨にそって、一気に上から下まで、力の抜けていく感触が生まれる。
 そのまま座り込んでしまいそうになるのを辛うじて押しとどめたのは、神尾の必死な意思の為か、それとも跡部の強い腕のせいだったのか。
 神尾の腰に巻きつく跡部の腕の力が強くなる。
 身体が密着して、悲鳴のように心臓が鳴る。
 抱き締められただけなのに。
 それだけなのに。
 そう幾度自分自身に言い聞かせても、神尾の気持ちはもう、乱れて、乱れて、苦しくて。
 跡部、と動いた筈の神尾の唇は。
 けれど声を発する事は出来なかった。
 跡部の部屋の扉に、神尾は背を押さえつけられたまま、黙ったままの跡部に唇を塞がれる。
 抱き締められた時よりもひどく、足場を見失うような心許無さで神尾は身体を震わせた。
「何びびってんだ」
「……って、な……ぃ…」
 僅かに離れた唇。
 囁かれた言葉。
 少しばかり不機嫌そうに、跡部は神尾を睨みつけてきて。
 首筋の側面に唇を這わされる。
 神尾は真っ赤になった。
「……あと…、……」
「………………」
「跡部……、…っ…」
 そのままきつく肌を吸われて語尾が掠れる。
 頭の中も身体の表面も、熱で、濡れそうになる。
 神尾は跡部の肩の辺りのシャツを両手で握り締め、扉と跡部の間で、何だか自分がひどく小さくなってしまったような錯覚を覚える。
 身体は消えそうなのに、意識は濃くなるばかりだ。
「家帰ったら抱くって言ったよな」
 ひそめた跡部の低い声は、神尾の首筋から直接振動してきて、神尾は必死になって頷いた。
「…………った、けど…、…」
 けど、と神尾がぎこちなく繰り返すと跡部の手のひらがあからさまに神尾の太腿を撫でまわしてきた。
「…っ…、…」
 怯えた訳でも痛かった訳でもないが、神尾は息をのんで身体を竦ませる。
「……掴めちまうじゃねえか…」
「ぇ…、?……な…に…?」
 太腿の側面を辿る跡部の手のひらに神尾の意識は攪拌されて、か細い声しか、出なくなる。
「…跡部……」
「嫌かよ」
 感情の読めない跡部の声で喉元を擽られて、神尾は、びくりと仰け反った。
「…、っ…跡部は、…いいよぅ…っ……」
「アァ?」
「でも、…でもさ、俺…っ…」
 跡部が神尾の肌に寄せていた唇を離し、代わりに手を伸ばしてきて、神尾の前髪をかきあげた。
 身体を寄せたまま正面から目と目が合って、神尾は熱に浮かされたように跡部の色薄い目を見つめた。
「俺はよくてお前の何が駄目だ」
 不機嫌ではないようだけれど。
 ひどく怪訝そうに跡部が聞いてくる。
 神尾は肩で息をした。
 呼吸が乱れているのは自分だけだと、神尾はこめかみから汗が落ちるのを感じながら思う。
「神尾」
「…跡部、は、っ…いいにおい、する」
「ア?」
 ますます不審そうになる跡部に、神尾は溜息をつくように言った。
「なんで、こんな暑いのに……」
 同じように外にいて。
 同じようにここまできて。
 これだけ身体を近づけて。
 キスをして。
 神尾は熱で濡れたようになるのに、跡部はひんやりと澄んだ香りをまとって神尾を拘束する。
「なに言ってんだか判らねえよ」
「だから…っ」
 距離がなくなるくらい近づいて。
 抱き締められて。
 汗に濡れても、さらりと甘い香りのする跡部を、神尾はここにきて漸く、両手で押しやる事が出来た。
「シャワー、貸して。浴びてくるから、待っててって…、…」
 語尾が上ずったのは、いきなりシャツの裾から入り込んできた跡部の手のひらに脇腹を撫で擦られたからだ。
 唇を荒く塞がれて、舌がとられて、濡れて。
「冗談もいい加減にしとけ」
「なん…、……」
 殺す気か、とものすごく物騒で、ものすごく神尾に理解不能な呻き声が聞こえて、神尾はぎこちなく跡部の背中に腕を回す。
「跡…部……」
 唇が何度も何度も塞がれる。
 くらくらする。
 熱い、と涙目になって神尾は跡部の唇を受け止める。
 汗で濡れた神尾の肌に、跡部はお構いなしに指や唇を宛てがって、平気で。
「…ちょ…っと、……跡…部……ゃ、…」
「……今のお前の匂いなんざ、普段より幾らか甘ったるい程度だろうが」
 言いながら首筋を舐められて、神尾は竦み上がった。
「も、…っ……ど…して、そういうこと言う…っ…」
「てめえもだろうが」
「……え…?…」
 詰るような跡部の言葉に神尾は戸惑った。
「俺…?……なに…?」
「今の俺に、待て、だ?」
「……っ……、ちょ、っ、…なに…、っ…、」
「どういう思考回路してんだ、てめえは」
 何かをかなぐり捨てたような言い方で跡部に呻かれて、神尾は訳の判らないまま荒く服を脱がされる。
 何だか余裕のないような急いた手つきだった。
 もう一度同じ事を。
 シャワーを浴びると、待っていてと、神尾が口にしたら。
 音をたてて切れてしまいそうな勢いの跡部だ。
「跡部ー……」
 困ってしまって力なく跡部の名前を呼ぶ神尾に、ちらりと跡部は上目を寄こしてきて。
 唇の端は引き上げているけれど、少しも笑ってない目で神尾を見つめて、脅す。
「言葉、考えて喋れよ?」
「………ぅ…、…?…」
 神経を焦がすような擬音を跡部はその声で神尾に囁いてきて。
「………に、されていいんならシャワー行って来いよ」
「や、……い…です、…シャワー、いい…っ……」
 思わず涙目で神尾は首を左右にうち振ってしまう。
 跡部は満足そうに喉奥で笑ってみせて。
 そんな跡部の表情にますますやられて。
 神尾はぐったりと跡部の腕の中にしな垂れかかった。
 そこではやっぱり、涼やかないい匂いがしていて。
 跡部の両腕に包み込まれて神尾も何だか、もういいかという気になった。
 夏だから、跡部だから、だからもういい。
 汗だくでも、何でも、このままで、いい。
PR
この記事にコメントする
name
title
font color
mali
url
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
アーカイブ
ブログ内検索
バーコード
カウンター
アクセス解析
忍者ブログ [PR]