How did you feel at your first kiss?
部屋の外は暑い。
部屋の中は冷えている。
夏だからだ。
お互いに黙って服を脱いだり脱がされたりしている時に、ふと赤澤が、呟くように言った。
「お前、身体冷たいな」
「………………」
言うなり硬い手のひらが観月を抱き寄せてきて。
赤澤の両腕に身ぐるみ抱き締められる。
観月はされるままだったけれど、いきなりにはリアクションしがたい言葉を紡がれた事にも、中途半端な体制で抱き込まれてしまったことにも躊躇して口を噤んだままでいる。
「………………」
観月を包む腕は熱い。
硬くて、強靭だけれど、感触は優しかった。
抱く意味合いを異ならせた腕だったけれど、観月に対する熱量は冷めないままだと判るので、観月は抱き寄せられた赤澤の胸元で目を閉じる。
釦を外しただけで、まだ羽織っている状態のシャツ越しにも、赤澤の胸元からはくっきりとした体温で熱を感じる。
先に上着を剥がれてしまっている観月としては、自分の身体が冷たいという事で、改めてお互いの体温の違いを感じ取っていたのだが、赤澤が行為を中断したまま一向に動かないので。
上目にちらりと赤澤を睨み据えた。
「ん…?」
「……、…っ」
赤澤は観月に問い返しながら唇を奪う。
観月はちいさく喉声を上げて目を瞑る。
キスは短かった。
赤澤は観月の眼尻に唇を寄せながら、観月の肩に回していた腕で丁寧に抱き寄せ直してきた。
剥き出しの観月の二の腕をそっと手のひらで撫でさすって、ベッドサイドのリモコンを逆の手に取ると部屋のクーラーを消した。
そもそもそれは、後輩の練習につきあって、午後はずっと外にいたらしい赤澤がつけた冷房だったのに。
「……なんで消すんですか」
聞くまでもなく、赤澤とは逆に今日は室内にこもってデータ分析に取り組んでいた観月の、冷房に冷え切った身体のせいだということは判っていたけれど。
観月ばかりを優先するような赤澤の態度が時々観月の反発心を煽る。
「後でまたつけるさ」
「今暑いんでしょう、貴方」
「この後の方が熱いだろ?」
「……途中で止めておいてよく言いますね」
「止めねえよ。中断だ」
欲求を隠さない声で囁かれ、耳元に唇を寄せられ、微笑まれる。
観月は赤澤の腕の中でくらりと眩暈めいたものを覚える。
ベッドの縁に腰かけて、赤澤の腕に包まれ凭れていると、冷えた肌とは別の所から身体が熱を持っていく。
赤澤は観月の頭上や首筋に唇を落としながら、指同士を絡めるように手と手を重ねた。
何だか半裸の状態で、ただ手を繋いで身体を寄せている状態の方がよほど気恥かしい。
「観月」
「……なんですか」
「赤いのかわいいな」
「は…?」
なにが、と顔を上げかけた観月は耳の縁を赤澤の唇に食まれてびくりと身体を竦ませた。
「あと、ほら。手も、指の先だけ赤い」
「………っ……」
指を絡めあった手を軽く持ち上げられ、耳とは違い観月の目に入る位置で赤く色づいた先端を浅く赤澤の唇に含まれる。
すこし濡れた粘膜の感触が観月の爪の上をすべる。
「…っ……、……」
「あー…目赤くされんのはちょっと心臓に悪いけどな」
真顔でそんな事を言いながら、赤澤は観月の瞼にもキスを落とす。
ちいさな灯火を撒き散らすのは止めてほしい。
観月は心底からそう思った。
自分がこんなに発火しやすいなんて知らなかった。
「も、やだ」
「…ん?」
「あつい、」
なじるような言い方で。
ほんの少しもかわいいはずなんかないのに。
言い方までかわいくしないでくれと赤澤にのしかかられてしまう。
「………………」
広い背中を抱き返して。
放熱しているような赤澤の高い体温を吸い込むように観月は手に力を込める。
観月に浸透してくる赤澤の存在は、冷えた肌に熱を与えるように、異なるものでありながらも異物ではない。
「もう、…」
「観月」
「…いいでしょう、もう…っ」
今の自分の身体の、どこに冷たい箇所があるというのか。
観月が声を振り絞って、気持ちも振り絞って、いい加減にしてくれと訴えれば。
餓えたようなキスが、きつく、観月の唇を塞いだ。
赤澤の長い髪が首筋をくすぐる。
擽ったさよりも、ちりちりと肌を煽られる刺激が怖くて、観月は赤澤の髪を覚束ない手で頭の形に撫でつけるようにしながら、深みを欲しがる舌を迎え入れ、唇をひらいた。
「……っ…、…ぅ…」
「………………」
「ん…、っ…、…、」
キスは熱かった。
舌が蕩けそうになる。
絡めても絡めても足りない。
そう訴えるようなやり方で。
「……っふ…、…ぁ…」
「観月」
ほどかれたばかりの唇を赤澤の親指の腹が辿る。
おそらくそこが、今、どこよりも赤いのだろう。
無意識に薄くひらいた唇で、観月が赤澤の親指を浅く含み、目を閉じると。
すぐにこれまでの数倍の勢いで、唇が塞がれ、赤澤の両腕に観月の背筋は浮くほど抱き竦められた。
強い腕を、その力強さを、乱暴だと観月が思うことはなかった。
観月は寧ろほっとして、力を抜く。
互いの身体の間で熱が溶けて汗が生まれる。
濡れあう事は嫌じゃない。
頭の中が痺れるような熱さが、じんわりと思考に食い込んでくる。
考えの纏まらない脳裏、それもやはり、観月に少しも不快を感じさせない。
普段とは、まるで違う。
汗で濡れて、熱が溢れて。
「赤澤…、……」
浮かされたような呼びかけを聞きつけて、赤澤が観月の肌に唇と舌とを這わせながら低く言う。
「……クーラーつけるか?」
「…、っ…いいかげん、…に…」
「…観月?」
「よそみばっか、しないで下さい…!」
「よそみ?」
冷たいだ熱いだと、手を止められるのはもううんざりだ。
責めながらどこか泣き声混じりの観月の言葉に、赤澤は笑いもせず、怒りもしなかった。
ただひどく生真面目に、荒いだ吐息を零しながら観月の唇を塞いで。
「お前しか見てない」
そう一言だけ。
あとはもう、お互い様。
部屋の中は冷えている。
夏だからだ。
お互いに黙って服を脱いだり脱がされたりしている時に、ふと赤澤が、呟くように言った。
「お前、身体冷たいな」
「………………」
言うなり硬い手のひらが観月を抱き寄せてきて。
赤澤の両腕に身ぐるみ抱き締められる。
観月はされるままだったけれど、いきなりにはリアクションしがたい言葉を紡がれた事にも、中途半端な体制で抱き込まれてしまったことにも躊躇して口を噤んだままでいる。
「………………」
観月を包む腕は熱い。
硬くて、強靭だけれど、感触は優しかった。
抱く意味合いを異ならせた腕だったけれど、観月に対する熱量は冷めないままだと判るので、観月は抱き寄せられた赤澤の胸元で目を閉じる。
釦を外しただけで、まだ羽織っている状態のシャツ越しにも、赤澤の胸元からはくっきりとした体温で熱を感じる。
先に上着を剥がれてしまっている観月としては、自分の身体が冷たいという事で、改めてお互いの体温の違いを感じ取っていたのだが、赤澤が行為を中断したまま一向に動かないので。
上目にちらりと赤澤を睨み据えた。
「ん…?」
「……、…っ」
赤澤は観月に問い返しながら唇を奪う。
観月はちいさく喉声を上げて目を瞑る。
キスは短かった。
赤澤は観月の眼尻に唇を寄せながら、観月の肩に回していた腕で丁寧に抱き寄せ直してきた。
剥き出しの観月の二の腕をそっと手のひらで撫でさすって、ベッドサイドのリモコンを逆の手に取ると部屋のクーラーを消した。
そもそもそれは、後輩の練習につきあって、午後はずっと外にいたらしい赤澤がつけた冷房だったのに。
「……なんで消すんですか」
聞くまでもなく、赤澤とは逆に今日は室内にこもってデータ分析に取り組んでいた観月の、冷房に冷え切った身体のせいだということは判っていたけれど。
観月ばかりを優先するような赤澤の態度が時々観月の反発心を煽る。
「後でまたつけるさ」
「今暑いんでしょう、貴方」
「この後の方が熱いだろ?」
「……途中で止めておいてよく言いますね」
「止めねえよ。中断だ」
欲求を隠さない声で囁かれ、耳元に唇を寄せられ、微笑まれる。
観月は赤澤の腕の中でくらりと眩暈めいたものを覚える。
ベッドの縁に腰かけて、赤澤の腕に包まれ凭れていると、冷えた肌とは別の所から身体が熱を持っていく。
赤澤は観月の頭上や首筋に唇を落としながら、指同士を絡めるように手と手を重ねた。
何だか半裸の状態で、ただ手を繋いで身体を寄せている状態の方がよほど気恥かしい。
「観月」
「……なんですか」
「赤いのかわいいな」
「は…?」
なにが、と顔を上げかけた観月は耳の縁を赤澤の唇に食まれてびくりと身体を竦ませた。
「あと、ほら。手も、指の先だけ赤い」
「………っ……」
指を絡めあった手を軽く持ち上げられ、耳とは違い観月の目に入る位置で赤く色づいた先端を浅く赤澤の唇に含まれる。
すこし濡れた粘膜の感触が観月の爪の上をすべる。
「…っ……、……」
「あー…目赤くされんのはちょっと心臓に悪いけどな」
真顔でそんな事を言いながら、赤澤は観月の瞼にもキスを落とす。
ちいさな灯火を撒き散らすのは止めてほしい。
観月は心底からそう思った。
自分がこんなに発火しやすいなんて知らなかった。
「も、やだ」
「…ん?」
「あつい、」
なじるような言い方で。
ほんの少しもかわいいはずなんかないのに。
言い方までかわいくしないでくれと赤澤にのしかかられてしまう。
「………………」
広い背中を抱き返して。
放熱しているような赤澤の高い体温を吸い込むように観月は手に力を込める。
観月に浸透してくる赤澤の存在は、冷えた肌に熱を与えるように、異なるものでありながらも異物ではない。
「もう、…」
「観月」
「…いいでしょう、もう…っ」
今の自分の身体の、どこに冷たい箇所があるというのか。
観月が声を振り絞って、気持ちも振り絞って、いい加減にしてくれと訴えれば。
餓えたようなキスが、きつく、観月の唇を塞いだ。
赤澤の長い髪が首筋をくすぐる。
擽ったさよりも、ちりちりと肌を煽られる刺激が怖くて、観月は赤澤の髪を覚束ない手で頭の形に撫でつけるようにしながら、深みを欲しがる舌を迎え入れ、唇をひらいた。
「……っ…、…ぅ…」
「………………」
「ん…、っ…、…、」
キスは熱かった。
舌が蕩けそうになる。
絡めても絡めても足りない。
そう訴えるようなやり方で。
「……っふ…、…ぁ…」
「観月」
ほどかれたばかりの唇を赤澤の親指の腹が辿る。
おそらくそこが、今、どこよりも赤いのだろう。
無意識に薄くひらいた唇で、観月が赤澤の親指を浅く含み、目を閉じると。
すぐにこれまでの数倍の勢いで、唇が塞がれ、赤澤の両腕に観月の背筋は浮くほど抱き竦められた。
強い腕を、その力強さを、乱暴だと観月が思うことはなかった。
観月は寧ろほっとして、力を抜く。
互いの身体の間で熱が溶けて汗が生まれる。
濡れあう事は嫌じゃない。
頭の中が痺れるような熱さが、じんわりと思考に食い込んでくる。
考えの纏まらない脳裏、それもやはり、観月に少しも不快を感じさせない。
普段とは、まるで違う。
汗で濡れて、熱が溢れて。
「赤澤…、……」
浮かされたような呼びかけを聞きつけて、赤澤が観月の肌に唇と舌とを這わせながら低く言う。
「……クーラーつけるか?」
「…、っ…いいかげん、…に…」
「…観月?」
「よそみばっか、しないで下さい…!」
「よそみ?」
冷たいだ熱いだと、手を止められるのはもううんざりだ。
責めながらどこか泣き声混じりの観月の言葉に、赤澤は笑いもせず、怒りもしなかった。
ただひどく生真面目に、荒いだ吐息を零しながら観月の唇を塞いで。
「お前しか見てない」
そう一言だけ。
あとはもう、お互い様。
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