How did you feel at your first kiss?
跡部は物凄く真面目だ。
近頃神尾はそう思うようになった。
出会った当初はそんな事思いもしなかったけれど。
跡部という男は、見た目がとにかく派手でよく目立つ。
言ってる事もやってる事も奇抜で突出している。
彼の場合、あまりにもきらびやかな容姿とその言動だから、一見するだけでは真面目という言葉とは無縁なのだが、付き合う時間が長くなるにつけ実際の所はとても真面目な男なのだと神尾にも判ってきた。
跡部は真面目だ。
その真面目さは実に多方面に渡るのだけれど。
例えば今神尾の唇をキスで塞いだ後、そっと唇を離しての至近距離で。
見ている側の心臓に悪いような整った顔で、ひどく生真面目に跡部は神尾を見据える。
強い、眼差し。
跡部は濡れた唇をひらく。
「お前、この間熱出しただろ」
「……え…?」
神尾がぼうっとなっているのは、キスを交わしたばかりの唇が、まだうまく動かないからだ。
跡部の唇と合わさって、舌で絡んで、息を混ぜた。
唇から甘苦しい熱に埋まって、塞がれたのか塞いだのか。
せきとめたのか封じ込めたのか。
粘膜に浸るように濡れて、潤んで、それでいて渇いて。
飲んで、とけて、熟れて、ゆるむ。
ねつ?とそれこそ今熱に浮かされたような状態で神尾はぼんやり言われた言葉を反芻する。
跡部は怜悧な眼差しで神尾を見据え、ゆっくりと、もう一度軽く触れ合わせるキスで唇を掠めてくる。
重なるだけの、やわらかいふんわりとした接触は甘くて、神尾は目を閉じてそれを受け止める。
首の裏側が痛いくらいに熱くなる。
そのまますっぽりと跡部の両腕に全身を抱き込まれた。
こんな風に、ずっと。
そういえば立ったままだった。
跡部の部屋に入るなり、腕を引かれて、抱きすくめられ、口づけられて。
言葉を交わすより先、性急に跡部から与えられたキスで神尾の足下はすでにおぼつかない。
しっかりと、跡部がその腕で抱きとめていてくれているけれど。
甘い香りがふわりと動く。
神尾の耳元すぐ近く。
低いなめらかな声で囁かれる。
跡部の、声だ。
神尾の思考も脳裏も、そう認識した途端震えた。
「……俺は、お前を抱くのを止めねえからな」
「………………」
「だから、それで体調崩すとか、そのへんの事はお前が自分でどうにかしろ」
俺にはどうもしてやれねえから、と。
横柄な態度で、まるで気弱にも聞こえるような言葉を、甘い声音で断言される。
突き放されているような言葉が、何故か何より強く神尾を縛り付けてくるようだった。
神尾は跡部の胸元に顔を寄せながら、ぼうっとしたまま跡部な名前を呼ぶ。
そうすると跡部の手に後ろ髪を撫でられた。
どこか耐えかねたような手つきはやはり真面目な印象で神尾はおとなしくそれを受け入れた。
判ったな、ときつく威圧的に言い含められ、返事の有無より先にまたキスがくる。
今度のは最初から深くて、強くて、濃度の濃いキスだった。
跡部に抱きしめられるまま唇が塞がれ、背筋が反って。
がっつかれているというのが一番正しいようなやり方で、執拗に舌を貪られる。
神尾の膝が危うくぶれて、そのまますぐ脇にあったソファにキスで組みしかれる。
外れる事のない唇。
とめられた呼吸。
跡部の身体が神尾に乗り上がり両肩をソファに押さえつけられながら一時もキスはやまない。
神尾は震える手を伸ばす。
跡部の肩口のシャツを掴み閉めながら、唇を塞がれたまま目を開ける。
間近に、目を閉じた跡部の目元が見えてくる。
長い真っ直ぐな睫、なだらかな瞼。
胸が詰まる。
跡部が濃い睫をゆっくりと引き上げて、目を開ける様を見届けて尚更に。
神尾は壊れそうになる。
跡部は真面目に神尾を見つめる。
真面目に神尾を抱き締めて、真面目に神尾に執着してくる。
「……具合、悪くするんじゃねえぞ」
真面目に脅して。
「いいな」
真面目に凄んで。
「神尾」
真面目に荒い、キスをする。
少しも遊ばない真剣な手で、神尾の身体を辿り、探り、中へ奥へと忍んでくる。
だめだと神尾は思っていた。
だめだ。
跡部が言ったようには出来ない。
具合が悪いとかじゃなくて。
跡部といると、熱が上がる。
くらくらする。
好きで?と自問するまでもなく、ただ好きで。
それだけだ。
膨れ上がる気持ちは何度でも何度でも神尾を内側から埋めてくるのだ。
跡部がいて、こうしていて、神尾はふつうでいられなくなる。
跡部、と呼ぼうとして動いた神尾の唇は、結局言葉にならずに震えただけだった。
跡部が好きで、壊れてしまいそうな神尾の正気を跡部は真剣に叱るけれど。
神尾にだってそんな事どうしようもないのだ。
好きだという感情は育って、終わらなくて、止めどない。
涙ぐんで、神尾は両手で跡部に縋った。
神尾が子供のようにしがみつくと少しだけ八つ当たりみたいな熱っぽい悪態をつきながらも、跡部は神尾を抱きしめてくれる。
同じ力で、同じ戸惑いで、同じ切迫感で。
「俺は、止めないからな」
「…うん……うん」
頷くだけで、嬉しいって、ちゃんと伝わるかなと不安になる神尾を跡部は強い力できちんと拘束してくれて。
「跡部…」
「泣くな、馬鹿」
涙が出る訳なんか判ってるくせに真面目に苦い呟きをこぼす跡部が好きで、神尾は安心した。
眦に唇を寄せて神尾の涙を吸い取った跡部の頭を抱え込むようにして。
なめらかな髪の感触、甘い匂い。
神尾は五感すら吸い込まれていくような跡部という存在を両腕に抱きしめて、気持ちをひらいた。
「跡部、」
「……おかしく、させるな。これ以上」
「…跡部」
欲しい、とただひたすら、願うように神尾は思う。
壊れない自分をあげるから、おかしくなる跡部を全部くれたら嬉しい。
神尾は静かに息を吸い、深く呼吸をしながら、それだけを希う。
手を、伸ばして、懇願を放った。
近頃神尾はそう思うようになった。
出会った当初はそんな事思いもしなかったけれど。
跡部という男は、見た目がとにかく派手でよく目立つ。
言ってる事もやってる事も奇抜で突出している。
彼の場合、あまりにもきらびやかな容姿とその言動だから、一見するだけでは真面目という言葉とは無縁なのだが、付き合う時間が長くなるにつけ実際の所はとても真面目な男なのだと神尾にも判ってきた。
跡部は真面目だ。
その真面目さは実に多方面に渡るのだけれど。
例えば今神尾の唇をキスで塞いだ後、そっと唇を離しての至近距離で。
見ている側の心臓に悪いような整った顔で、ひどく生真面目に跡部は神尾を見据える。
強い、眼差し。
跡部は濡れた唇をひらく。
「お前、この間熱出しただろ」
「……え…?」
神尾がぼうっとなっているのは、キスを交わしたばかりの唇が、まだうまく動かないからだ。
跡部の唇と合わさって、舌で絡んで、息を混ぜた。
唇から甘苦しい熱に埋まって、塞がれたのか塞いだのか。
せきとめたのか封じ込めたのか。
粘膜に浸るように濡れて、潤んで、それでいて渇いて。
飲んで、とけて、熟れて、ゆるむ。
ねつ?とそれこそ今熱に浮かされたような状態で神尾はぼんやり言われた言葉を反芻する。
跡部は怜悧な眼差しで神尾を見据え、ゆっくりと、もう一度軽く触れ合わせるキスで唇を掠めてくる。
重なるだけの、やわらかいふんわりとした接触は甘くて、神尾は目を閉じてそれを受け止める。
首の裏側が痛いくらいに熱くなる。
そのまますっぽりと跡部の両腕に全身を抱き込まれた。
こんな風に、ずっと。
そういえば立ったままだった。
跡部の部屋に入るなり、腕を引かれて、抱きすくめられ、口づけられて。
言葉を交わすより先、性急に跡部から与えられたキスで神尾の足下はすでにおぼつかない。
しっかりと、跡部がその腕で抱きとめていてくれているけれど。
甘い香りがふわりと動く。
神尾の耳元すぐ近く。
低いなめらかな声で囁かれる。
跡部の、声だ。
神尾の思考も脳裏も、そう認識した途端震えた。
「……俺は、お前を抱くのを止めねえからな」
「………………」
「だから、それで体調崩すとか、そのへんの事はお前が自分でどうにかしろ」
俺にはどうもしてやれねえから、と。
横柄な態度で、まるで気弱にも聞こえるような言葉を、甘い声音で断言される。
突き放されているような言葉が、何故か何より強く神尾を縛り付けてくるようだった。
神尾は跡部の胸元に顔を寄せながら、ぼうっとしたまま跡部な名前を呼ぶ。
そうすると跡部の手に後ろ髪を撫でられた。
どこか耐えかねたような手つきはやはり真面目な印象で神尾はおとなしくそれを受け入れた。
判ったな、ときつく威圧的に言い含められ、返事の有無より先にまたキスがくる。
今度のは最初から深くて、強くて、濃度の濃いキスだった。
跡部に抱きしめられるまま唇が塞がれ、背筋が反って。
がっつかれているというのが一番正しいようなやり方で、執拗に舌を貪られる。
神尾の膝が危うくぶれて、そのまますぐ脇にあったソファにキスで組みしかれる。
外れる事のない唇。
とめられた呼吸。
跡部の身体が神尾に乗り上がり両肩をソファに押さえつけられながら一時もキスはやまない。
神尾は震える手を伸ばす。
跡部の肩口のシャツを掴み閉めながら、唇を塞がれたまま目を開ける。
間近に、目を閉じた跡部の目元が見えてくる。
長い真っ直ぐな睫、なだらかな瞼。
胸が詰まる。
跡部が濃い睫をゆっくりと引き上げて、目を開ける様を見届けて尚更に。
神尾は壊れそうになる。
跡部は真面目に神尾を見つめる。
真面目に神尾を抱き締めて、真面目に神尾に執着してくる。
「……具合、悪くするんじゃねえぞ」
真面目に脅して。
「いいな」
真面目に凄んで。
「神尾」
真面目に荒い、キスをする。
少しも遊ばない真剣な手で、神尾の身体を辿り、探り、中へ奥へと忍んでくる。
だめだと神尾は思っていた。
だめだ。
跡部が言ったようには出来ない。
具合が悪いとかじゃなくて。
跡部といると、熱が上がる。
くらくらする。
好きで?と自問するまでもなく、ただ好きで。
それだけだ。
膨れ上がる気持ちは何度でも何度でも神尾を内側から埋めてくるのだ。
跡部がいて、こうしていて、神尾はふつうでいられなくなる。
跡部、と呼ぼうとして動いた神尾の唇は、結局言葉にならずに震えただけだった。
跡部が好きで、壊れてしまいそうな神尾の正気を跡部は真剣に叱るけれど。
神尾にだってそんな事どうしようもないのだ。
好きだという感情は育って、終わらなくて、止めどない。
涙ぐんで、神尾は両手で跡部に縋った。
神尾が子供のようにしがみつくと少しだけ八つ当たりみたいな熱っぽい悪態をつきながらも、跡部は神尾を抱きしめてくれる。
同じ力で、同じ戸惑いで、同じ切迫感で。
「俺は、止めないからな」
「…うん……うん」
頷くだけで、嬉しいって、ちゃんと伝わるかなと不安になる神尾を跡部は強い力できちんと拘束してくれて。
「跡部…」
「泣くな、馬鹿」
涙が出る訳なんか判ってるくせに真面目に苦い呟きをこぼす跡部が好きで、神尾は安心した。
眦に唇を寄せて神尾の涙を吸い取った跡部の頭を抱え込むようにして。
なめらかな髪の感触、甘い匂い。
神尾は五感すら吸い込まれていくような跡部という存在を両腕に抱きしめて、気持ちをひらいた。
「跡部、」
「……おかしく、させるな。これ以上」
「…跡部」
欲しい、とただひたすら、願うように神尾は思う。
壊れない自分をあげるから、おかしくなる跡部を全部くれたら嬉しい。
神尾は静かに息を吸い、深く呼吸をしながら、それだけを希う。
手を、伸ばして、懇願を放った。
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