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How did you feel at your first kiss?
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 なまじ身長が高いので、鳳が人を見る時の角度というのはいつも上から相手を見下ろすようになってしまう。
 相手の目などは、正面から見るというよりも、大抵は伏し目がちになって見えている事が殆どだ。
 大概の相手への、見慣れた角度。
 けれど、そんな伏せた目元の印象に、胸の中がざわつくような、ひどくおかしな気分になる事は、鳳にしてみたらその相手限定なのだ。
 落ち着かない。
 けれどそれは馴染めないという事ではなく、むしろ目が離せない。
 一時も離れていたくないと思える。
 ざわざわと鎮まらない胸の内に、ひたひたと満ちる感情はいつも揺らされて、でも胸に詰まるその感情の甘さがなくなってしまったら、何だかもう、自分ではないような気がしている。
「長太郎?」
「………………」
 睫の先までよく見える至近距離から目線を上げてきた宍戸の呼びかけに、鳳はふと息が止まるようなその一連の仕草を全て見届けてから、小さく返す。
「はい」
「何だよ。ぼーっとして」
「…宍戸さんだなあ…って…」
「はあ?」
 あからさまに呆れかえった声と眼差しとを宍戸から向けられて、すみません、と鳳は少しだけ笑った。
 でもそれと同時に、だめだ、とも思って問いかける。
「宍戸さん。抱き締めてもいい?」
「……お前なあ…人が」
「ちょっとだけ」
「真面目に話をしてる時に」
「…ほら、抱きしめても、ちゃんと聞ける」
「……じゃあ好きにしろよ…」
 許可を取り付けるより先に、鳳が宍戸の背後からその身体を抱き込んでしまうと。
 宍戸は溜息をついて、でもちゃんと同意もくれた。
 腕の中に後ろ側から収まってくれた宍戸に、部室でこんな風に話をすること自体随分と久しぶりだと鳳は思った。
 見下ろすうなじにかかる襟足が伸びた。
 宍戸達三年生が部を引退してしまってからかなりの時間が経ってしまったような気がしていたが、こうして実際に宍戸がいる所を目の当たりにすると違和感どころか普通に気持ちが馴染んでいく。
「だからこれが若からの預かり物」
「……いいなあ…日吉」
「お前さあ、この格好で言うことかよ」
「んー…」
 部活を終えた後、部室に最後まで残ることになるのは、大抵日吉か鳳のどちらかだった。
 今日は先に帰っていった日吉が、再度部室に持ってこようとしていた何枚かのプリントを宍戸が預かって持ってきたのだ。
「顔合わせるなり、これ部室に持っていって下さいだぜ? あいつ」
 悪態をつくような口振りだったが宍戸は笑っていた。
「ま、お前がいたからだろうけどよ」
「そこは感謝してます。でも日吉って、自分の事は何でも自分でするから、そういう風に誰かに物を頼むとか普段しないんですよ。そういう面で、宍戸さんには気をゆるしてるんだなあって思うと俺は複雑な気持ちなんで………って、あの、宍戸さん俺の話聞いてます?」
 鳳が、ぐいっと宍戸の腹部を抱き込むようにして真上から見下ろすと、判りやすく小さく欠伸した宍戸は、お前だってさっき俺の話聞いてなかったろ、と言いながらゆっくりと鳳の胸元に背を凭れかけさせてきた。
「気持ちいい」
「………はあ、」
 和んだやわらかい声に鳳は言葉を詰まらせる。
 無防備に懐かれてしまって逆に鳳は固まった。
 表情はちゃんと見えないのに、何だか可愛くて可愛くてどうにかなりそうな自分を自覚して、取りあえず落ち着こうと気持ちを静める鳳をよそに、宍戸は立ったまま鳳に寄りかかっている。
「……座りますか…? 宍戸さん」
「そうすっと帰るの面倒になりそうだなー…」
「じゃあ俺のうち来ませんか」
「んー……」
 あまりいい返事ではなかったので、それは嫌なのかな?と鳳が伺い見た宍戸は。
 宍戸の身体の正面を回ってその右肩を手にくるんでいた鳳の左腕に、ぎゅっと自身の右手をかけて、僅かに首を左側に傾ける。
「後もうちょいベタベタしてからにする」
 ベタベタって。
 うわあ、と。
 鳳は思わず空を仰いでから、片側に倒れてすんなりと露わになった宍戸の右の首筋に顔を埋めた。
「お前も懐いてくるし。いいよな?」
 宍戸が笑う振動に、ああもうなんでもいいですと呻くように返しながら、鳳ももう手加減なしに、遠慮もなしに、暫しはこうしてベタベタする事に没頭する事にしたのだった。
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