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How did you feel at your first kiss?
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 Jr選抜合宿の、三日目の夜。
 就寝時間の少し前に乾が声をかけて部屋に呼んだのは氷帝の跡部と鳳だった。
「………何の用だ。乾」
 薄手のガウンを羽織った跡部を見るなり、乾はゆるく笑った。
「やあ。判ってはいるけど不機嫌だな跡部」
「どういう意味だ」
「まあ、それは後程。入ってくれ。鳳も」
「失礼します。……お一人ですか?」
 ワッフル素材の柔らかそうなパジャマをきちんと着こんでいる鳳は、不思議そうに室内を見て言った。
 ちなみに出迎えた乾もパジャマ姿だが、上半身は裸だ。
「海堂は宍戸と神尾と一緒だ………って、おいおい、待ってくれ。二人とも」
 二人に同時に詰め寄って来られて、乾は大真面目な顔でホールドアップの姿勢を取った。
「どういう事ですか、それ! さっき宍戸さん、大事な用事があるからって言って、出て行ったんですけど?!」
「何であいつらと一緒にいやがるんだ?! そんな時間があるってんなら…!」
「まあまあ。落ち着け。可愛いじゃないか。三人で。パジャマパーティみたいなものだろう。こんな時でもなければ出来ない話もあるだろうし」
「これが落ち着いていられますか…! 宍戸さん、ちゃんとパジャマ着てるのかどうか……まさかいつもみたいに半裸に近いような恰好で……」
 鳳はそう言って青くなり、跡部は一層不機嫌に舌打ちした。
「跡部もそう怒るな。そんなだから氷帝以外の学校の生徒がお前を遠巻きにするんだろう」
「…んなこと知るかッ」
「とにかく」
 乾は飄々と、鳳と跡部の肩に手を乗せて。
 結構な剣幕の二人を宥めて。
「俺達は俺達で、今からここでパジャマパーティ」
「………………」
「………………」
「さて。乾汁でもいれようか」
「いらないです!」
「いらねえ!」
 氷帝の二人は同時に叫び、乾はひどく哀しげな顔をした。


 それでも、消灯までの時間を使って、乾と跡部と鳳はそれぞれパジャマ姿で話をした。
 集合をかけた乾の話が全て済む頃、部屋の扉がノックされる。
「海堂。お前の部屋なんだからノックはいいよ」
「………風邪ひくっスよ…先輩。何で上着、着てねえんだ」
 すぐに扉に向かった乾は海堂を招き入れて、今にも腰から抱き寄せそうな密着ぶりで戻ってきた。
 濃紺の光沢のあるパジャマを着た海堂は、まず跡部に目礼をし、鳳にも視線をやって、それから背後を流し見た。
「宍戸さん…! やっぱり上着着てない…!」
「……んな大声出す事かよ。長太郎」
 呆れた口ぶりで次に姿を現したのが宍戸で。
 咄嗟に鳳が、自分が来ていたパジャマの上着を脱いで宍戸の肩にかける。
「………、……」
 そうやって、自分でしておいて。
 絶句した鳳を、宍戸が怪訝な顔で見つめ返している。
「………なにヘンな顔してんだ。お前」
「いえ……あの……」
「お泊りして、彼氏のダボダボの上着だけを羽織っているみたいな図、…って事らしいな」
 感に入っている鳳の心情を正確に代弁した乾に、宍戸が赤くなって鳳を睨みつけて。
 怒鳴りつけようとしたタイミングを浚って、最後に神尾が現れた。
「あとべー!」
「………………」
 すこぶる上機嫌である。
 目も眩む蛍光グリーンのパジャマに、跡部が思った事は。
 さっさとそれは脱がしてしまおうという事だった。
「……っ…!…!……な、何す、……ッ…」
 ガバッと上着の合わせを開かれて、発火する勢いで赤面した神尾に気づかない振りをしてやりながら、その場にいた四人は溜息をつく。
「跡部………」
「うるせえ。消灯時間だ。散れ」
「…散れってお前。一応ここは俺と海堂の部屋なんだぞ」
 再度溜息をつく乾に、跡部は唇の端を引き上げた。
「貸すって言ったのはてめえだろ」
「ああそうだ。確かにな」
 これ以上はもう何を言っても無理と判断し、四人はその場から退く事にした。
 とりあえず、跡部の機嫌が浮上している事だけは、はっきりと認識出来たので。


 学校が同じであっても、学年が違えば擦れ違いが多くなるのも当然な話。
 ましてその上、学校が違うともなれば。
 必然と一緒にいられる時間は少なくなる。
 それなのに、こうして選抜合宿で一緒になって。
 なまじ近くにいるのに、それでもやはり一緒にいられる時間がとれないとなればフラストレーションが溜まるのも無理はない。
「部屋でも同室だったら、良かったんだがな」
 同じ学校同士である乾は海堂と、鳳は宍戸と、同室であったにも関わらず。
 跡部と神尾は部屋割りでもバラバラになってしまった。
 状況を見て、今日のサプライズを企画したのは乾だった。
 乾は鳳と跡部を呼んでこの話をし、海堂は宍戸と神尾を呼んでこの話をした。
 跡部と神尾の為に用意した一晩の同室だが、他の彼らとて出来れば一緒にいたかったので。
 乾による、厳選たる人選と、あからさまにならないように組み合わせた最低限のシャッフルとで、これから彼らも幾部屋かを回って。
 結局最後は同室のまま。
 眠りにつくのだ。
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