How did you feel at your first kiss?
真夏のギラギラした光の中で飛ぶ、黒い揚羽蝶の羽のように見えた。
初めて、間近で見た、レンズで遮られない目。
暗がりの室内だったのに思わず目が眩んだ。
「海堂?」
「……………」
眉根を寄せるようにして瞬間目を閉じた海堂に、伺い問いかける、深い低音の呼びかけ。
乾の声に、海堂はぎこちなく伏せた眼差しを引き上げていった。
乾の手に掴まれている両肩が、少し痛い。
唇は痺れて、熱くて、少し怖い。
「……………」
お互いの身体の、初めての場所で。
一瞬だけ重なった。
触れ合わせた。
唇が言葉を邪魔する。
嫌だった訳ではないと海堂が首を左右に振ると。
判ってくれている優しい手に立ったまま後ろ髪を撫でられて、海堂は、ほっとした。
「………先輩」
「ん……」
ゆるい抱擁の中、吐息程度の返事にどれだけ海堂は宥められたか。
安堵感を覚えながら、海堂も乾の胸元に額を当てた。
「あんたの目が、蝶みたいだって思っただけだ……」
初めてのキスは、ふわりと、海堂の視界に黒揚羽蝶の羽ばたきのような光沢を落としていった。
それが乾の見慣れぬ裸眼であった事を、海堂は唇を塞がれながら気づいた。
「蝶?」
「……黒い揚羽蝶」
瞳の、どこまでも黒い色味の中に現れる閃光。
すこし角度が変わると、虹色のような光沢が微かに見てとれる、微妙な移ろいに。
海堂は目元にふわりと蝶が降り立ったかのように錯覚した。
「ラブラドール効果って知ってるか。海堂」
「……いえ…」
「黒い揚羽蝶の羽みたいにしさ、黒っぽい中で、角度によって見える光沢の事。そういう色の鉱石があるんだ」
長い腕で海堂を軽く抱き込みながら、乾の声は、ひそめられればひそめられるほどに甘かった。
抱き止せられるまま、海堂は。
だからそれが乾の目の色だったのだと告げる。
「俺も、海堂見てていつも思ってた事なんだがな」
「…………先輩…?」
「髪がさ…海堂の」
綺麗で、と乾は呟きながら、指先に海堂の髪をすくってくる。
互いの身体が少し離れて。
海堂は、自分の髪に触れている乾の節くれだった指を見つめた。
「真っ黒なんだが……角度によって光って」
「………………」
「夏の暑い中、目立って飛んでる綺麗な揚羽蝶みたいだって。走ってる時のお前の髪見て考えてた」
「…………あの、…なあ……っ…」
乾のあまりに衒いのない囁きに。
饒舌で、居たたまれないような賞賛に。
海堂が居心地悪げに声を振り絞れば、乾は盗むように海堂の唇を再び掠め取った。
「……俺だって初めてだ。目の事そんな風に言われたの」
「………………」
苦笑いの気配と、気恥ずかしいようなキスの接触。
海堂は、ひっそりと狼狽を噛み締めて。
お互い様らしい、お互いの黒を。
抱き締めあう事と、口付けを交わす事とで、受諾する事にした。
黒の中に宿る閃光は。
ラブラドール効果の行き先は。
目的に向かって確実に前進する事を表してもいる。
いっそ彼らの為にあるような、それは架空の揚羽蝶の羽ばたき。
距離を縮めて、近づいて、やっと、そっと、手に触れる事が出来るもの。
初めて、間近で見た、レンズで遮られない目。
暗がりの室内だったのに思わず目が眩んだ。
「海堂?」
「……………」
眉根を寄せるようにして瞬間目を閉じた海堂に、伺い問いかける、深い低音の呼びかけ。
乾の声に、海堂はぎこちなく伏せた眼差しを引き上げていった。
乾の手に掴まれている両肩が、少し痛い。
唇は痺れて、熱くて、少し怖い。
「……………」
お互いの身体の、初めての場所で。
一瞬だけ重なった。
触れ合わせた。
唇が言葉を邪魔する。
嫌だった訳ではないと海堂が首を左右に振ると。
判ってくれている優しい手に立ったまま後ろ髪を撫でられて、海堂は、ほっとした。
「………先輩」
「ん……」
ゆるい抱擁の中、吐息程度の返事にどれだけ海堂は宥められたか。
安堵感を覚えながら、海堂も乾の胸元に額を当てた。
「あんたの目が、蝶みたいだって思っただけだ……」
初めてのキスは、ふわりと、海堂の視界に黒揚羽蝶の羽ばたきのような光沢を落としていった。
それが乾の見慣れぬ裸眼であった事を、海堂は唇を塞がれながら気づいた。
「蝶?」
「……黒い揚羽蝶」
瞳の、どこまでも黒い色味の中に現れる閃光。
すこし角度が変わると、虹色のような光沢が微かに見てとれる、微妙な移ろいに。
海堂は目元にふわりと蝶が降り立ったかのように錯覚した。
「ラブラドール効果って知ってるか。海堂」
「……いえ…」
「黒い揚羽蝶の羽みたいにしさ、黒っぽい中で、角度によって見える光沢の事。そういう色の鉱石があるんだ」
長い腕で海堂を軽く抱き込みながら、乾の声は、ひそめられればひそめられるほどに甘かった。
抱き止せられるまま、海堂は。
だからそれが乾の目の色だったのだと告げる。
「俺も、海堂見てていつも思ってた事なんだがな」
「…………先輩…?」
「髪がさ…海堂の」
綺麗で、と乾は呟きながら、指先に海堂の髪をすくってくる。
互いの身体が少し離れて。
海堂は、自分の髪に触れている乾の節くれだった指を見つめた。
「真っ黒なんだが……角度によって光って」
「………………」
「夏の暑い中、目立って飛んでる綺麗な揚羽蝶みたいだって。走ってる時のお前の髪見て考えてた」
「…………あの、…なあ……っ…」
乾のあまりに衒いのない囁きに。
饒舌で、居たたまれないような賞賛に。
海堂が居心地悪げに声を振り絞れば、乾は盗むように海堂の唇を再び掠め取った。
「……俺だって初めてだ。目の事そんな風に言われたの」
「………………」
苦笑いの気配と、気恥ずかしいようなキスの接触。
海堂は、ひっそりと狼狽を噛み締めて。
お互い様らしい、お互いの黒を。
抱き締めあう事と、口付けを交わす事とで、受諾する事にした。
黒の中に宿る閃光は。
ラブラドール効果の行き先は。
目的に向かって確実に前進する事を表してもいる。
いっそ彼らの為にあるような、それは架空の揚羽蝶の羽ばたき。
距離を縮めて、近づいて、やっと、そっと、手に触れる事が出来るもの。
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