How did you feel at your first kiss?
鳳に気づいた宍戸は、すぐに足早にスピードを上げて駆け寄ってきた。
時々宍戸はこんな風に無防備だと鳳は思う。
「宍戸さん?」
「おう」
足の速い人なので。
宍戸はすぐに鳳の手の届く距離に来た。
思わず差し伸べていた鳳の手を拒む事無く、寧ろ鳳の手首の少し上あたりを宍戸はぎゅっと掴んで、至近距離から鳳を覗き込んでくる。
宍戸の眼差しは、きつさを増すほどに綺麗に光る。
「……どうしたんですか?」
「ん。あのな」
これなんだけどよ、と宍戸が制服のポケットに手を入れて取り出して見せたものは燻したように光る金色の鉱石だ。
宍戸が手にしていると、煌めきかたが一際不思議な印象に見えた。
「………パイライト…かな?」
鳳が慎重に告げると、宍戸は口笛を吹いた。
「すげ。見ただけで名前とか判んのかよ」
「…多分ですよ?」
「いや…確か跡部もそんな名前言ってたぜ」
「これは部長が宍戸さんに?」
「ついでにお前にやるとか言いやがってな。ありがたく受け取れとか、全く腹立つ言い草だぜ」
眉を顰めた宍戸に鳳は曖昧に微笑んだ。
確かに普段から、跡部と宍戸が親しげに話をしていたりする様子などは殆ど見た事がなかったが、黙って肩を並べているだけでも案外通じ合っている事を知ってもいる。
二人が一緒にいるのを見て、鳳が妬みに似た苦い感情を抱く事もある。
妬みは、自分が持っていない物を持つ人から、それを奪ってしまいたい思いの事だと昔どこかで聞いた。
人が持っている物を欲しいと思うだけなら羨みで済んだのにと幾度となく考えた。
「長太郎」
「……あ、…はい」
「……………」
「宍戸さん?」
ふいに小さいけれど強い声音で名前を呼ばれ、慌てて意識を宍戸へ向け直した鳳は、自分を覗き込んでくる宍戸の眼差しの鋭さに僅かに目を細めた。
怒った時に宍戸の瞳はますます力を持ってきつくなる。
「跡部の名前が出ると、どうしてお前いつもそういうツラすんだよ」
そして直球な言葉には体裁を取り繕う気も奪われて、鳳は微かに苦笑した。
「すみません」
「……………」
ごめんなさい、と続けて。
鳳は、宍戸の肩をそっと引き寄せる。
宍戸は逆らわなかった。
俯いて、ぽつりと呟いただけだった。
「……なんにも関係ねえだろ」
「判ってます。ごめんね。宍戸さん」
跡部ほどの強靭さを持っていたら。
不安定に嫉妬して、宍戸を傷つけたりはしないのだろうけれど。
鳳は跡部になりたい訳ではないのだ。
自分のままで、誰よりも深く近い所で宍戸の近くにいたい。
鳳は、宍戸の手をそっと包んだ。
パイライトを握りこんでいる手は、すこし冷たかった。
「その石ね、宍戸さん。パイライトって名前は、スペイン語で火花とか、ギリシャ語の火の意味に由来してるんです」
「………………」
「パイライト同士を打ちつけると火花が出るからとか、回転させると火花が散ったように輝くからとか、そういう謂れのある石なんですよ。よく光ってすごく綺麗で、それでいて金よりもずっと強い石だから、宍戸さんみたいだと俺は思って」
「……長太郎…?」
「部長もそういうこと考えて宍戸さんに渡したのかなあとか考えちゃったんです。すみません」
「…………バカヤロウ」
不貞腐れたように宍戸が言った。
「それ持って鳳に口説かれて来いって俺は跡部に言われたんだぞ」
「え?」
「………お前に口説かれたくて、のこのこと俺は来たってのに勘ぐられるなんて最悪だろうが」
多分鳳は知ってるだろうからと、跡部は宍戸に言ったのだという。
この石の意味も、それが宍戸と繋がると鳳が考えている事も。
からかう跡部から放られた石を受け取って、悪態をつきながらも、宍戸は走ってやってきたのだと知らされて。
鳳は両腕で宍戸を抱きこんだ。
「…嫉妬深くてすみません。ほんと」
「……今更口説き出したって遅ぇよ」
「これは口説いてるんじゃなくて謝ってるんです」
「…………………」
暫くの沈黙の後、こぼれるように宍戸が笑い出した気配がした。
振動が鳳の胸元に響く。
強い信念を育てて、強い保護力を発揮し、邪悪な念を跳ね返す力を持つ石そのものの人は、鳳の腕に、こんなにも柔らかに温かい。
好きだと呼吸をするように鳳が繰り返し告げれば、宍戸はひどく幸せそうに目を瞑るから。
瞼の薄い皮膚の上に鳳は静かに唇を寄せる。
胸の中で、火花が散った甘い音がした。
時々宍戸はこんな風に無防備だと鳳は思う。
「宍戸さん?」
「おう」
足の速い人なので。
宍戸はすぐに鳳の手の届く距離に来た。
思わず差し伸べていた鳳の手を拒む事無く、寧ろ鳳の手首の少し上あたりを宍戸はぎゅっと掴んで、至近距離から鳳を覗き込んでくる。
宍戸の眼差しは、きつさを増すほどに綺麗に光る。
「……どうしたんですか?」
「ん。あのな」
これなんだけどよ、と宍戸が制服のポケットに手を入れて取り出して見せたものは燻したように光る金色の鉱石だ。
宍戸が手にしていると、煌めきかたが一際不思議な印象に見えた。
「………パイライト…かな?」
鳳が慎重に告げると、宍戸は口笛を吹いた。
「すげ。見ただけで名前とか判んのかよ」
「…多分ですよ?」
「いや…確か跡部もそんな名前言ってたぜ」
「これは部長が宍戸さんに?」
「ついでにお前にやるとか言いやがってな。ありがたく受け取れとか、全く腹立つ言い草だぜ」
眉を顰めた宍戸に鳳は曖昧に微笑んだ。
確かに普段から、跡部と宍戸が親しげに話をしていたりする様子などは殆ど見た事がなかったが、黙って肩を並べているだけでも案外通じ合っている事を知ってもいる。
二人が一緒にいるのを見て、鳳が妬みに似た苦い感情を抱く事もある。
妬みは、自分が持っていない物を持つ人から、それを奪ってしまいたい思いの事だと昔どこかで聞いた。
人が持っている物を欲しいと思うだけなら羨みで済んだのにと幾度となく考えた。
「長太郎」
「……あ、…はい」
「……………」
「宍戸さん?」
ふいに小さいけれど強い声音で名前を呼ばれ、慌てて意識を宍戸へ向け直した鳳は、自分を覗き込んでくる宍戸の眼差しの鋭さに僅かに目を細めた。
怒った時に宍戸の瞳はますます力を持ってきつくなる。
「跡部の名前が出ると、どうしてお前いつもそういうツラすんだよ」
そして直球な言葉には体裁を取り繕う気も奪われて、鳳は微かに苦笑した。
「すみません」
「……………」
ごめんなさい、と続けて。
鳳は、宍戸の肩をそっと引き寄せる。
宍戸は逆らわなかった。
俯いて、ぽつりと呟いただけだった。
「……なんにも関係ねえだろ」
「判ってます。ごめんね。宍戸さん」
跡部ほどの強靭さを持っていたら。
不安定に嫉妬して、宍戸を傷つけたりはしないのだろうけれど。
鳳は跡部になりたい訳ではないのだ。
自分のままで、誰よりも深く近い所で宍戸の近くにいたい。
鳳は、宍戸の手をそっと包んだ。
パイライトを握りこんでいる手は、すこし冷たかった。
「その石ね、宍戸さん。パイライトって名前は、スペイン語で火花とか、ギリシャ語の火の意味に由来してるんです」
「………………」
「パイライト同士を打ちつけると火花が出るからとか、回転させると火花が散ったように輝くからとか、そういう謂れのある石なんですよ。よく光ってすごく綺麗で、それでいて金よりもずっと強い石だから、宍戸さんみたいだと俺は思って」
「……長太郎…?」
「部長もそういうこと考えて宍戸さんに渡したのかなあとか考えちゃったんです。すみません」
「…………バカヤロウ」
不貞腐れたように宍戸が言った。
「それ持って鳳に口説かれて来いって俺は跡部に言われたんだぞ」
「え?」
「………お前に口説かれたくて、のこのこと俺は来たってのに勘ぐられるなんて最悪だろうが」
多分鳳は知ってるだろうからと、跡部は宍戸に言ったのだという。
この石の意味も、それが宍戸と繋がると鳳が考えている事も。
からかう跡部から放られた石を受け取って、悪態をつきながらも、宍戸は走ってやってきたのだと知らされて。
鳳は両腕で宍戸を抱きこんだ。
「…嫉妬深くてすみません。ほんと」
「……今更口説き出したって遅ぇよ」
「これは口説いてるんじゃなくて謝ってるんです」
「…………………」
暫くの沈黙の後、こぼれるように宍戸が笑い出した気配がした。
振動が鳳の胸元に響く。
強い信念を育てて、強い保護力を発揮し、邪悪な念を跳ね返す力を持つ石そのものの人は、鳳の腕に、こんなにも柔らかに温かい。
好きだと呼吸をするように鳳が繰り返し告げれば、宍戸はひどく幸せそうに目を瞑るから。
瞼の薄い皮膚の上に鳳は静かに唇を寄せる。
胸の中で、火花が散った甘い音がした。
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