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How did you feel at your first kiss?
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 目が染みて、額からの汗のせいかとふと気づく。
 それを拭おうとして、今打ったサーブが何本目なのかを忘れてしまった。
「…………………」
 鳳は二の腕で雑に額を拭い、そういえばサーブを何球打つつもりだったのかと自問してみる。
 明確な数字を思い出せないまま、また新たに打ち込んだサーブの行方が見てとれない。
 汗は拭った筈なのにと怪訝に思って初めて、辺りが相当に薄暗くなっている事に鳳は気づいた。
 息が苦しい。
 感覚が後からついてくる。
 いったいこれは何なのだと、急にしづらくなった呼吸を肩で逃した鳳の背中が、何かでふわりと覆われた。
 力が抜けそうになる。
 鳳は背後を振り返った。
「…………え…?」
 鳳の背中に額と手のひらを押し当てている。
 宍戸が。
「………宍戸さ…、?」
 見慣れた細い肩を。
 身体を捩る窮屈な姿勢で見下ろして、鳳は小さくその名を口にした。
 宍戸の腕が伸びてきた。
 鳳の身体の前側から。
 宍戸の手のひらが、鳳の肩を掴む。
 縋る、といった方がいいのかもしれない。
 すんなりとした宍戸の指先が、鳳の肩を甘く羽交い絞めるように。
 その仕草は懸命に取り縋っているようにも見えた。
 ぼんやりと宍戸の手を見下ろした鳳の背に、宍戸が身体を寄せる。
 何がとも言い切れない心地良さに引きずられて、それと同時に鳳の思考が少しずつクリアになっていく。
「宍戸さん?」
 どうして?と呟けば、どうしてじゃねえよと、にべもなく返されてしまった。
「…どうした。長太郎」
 挙句、逆に問い返される始末だ。
「……どう…って?」
「何してんだ。お前」
 別段怒った口調ではなかったが、宍戸の手のひらが、まるで何か労るような仕草で鳳の肩をさすってきた。
 宍戸は尚も鳳の背に重なるように密着してきて。
 身体の距離が近くなる事で、鳳は闇雲な安心感を覚えた。
 まるで衝動のように、今ここにいる宍戸が鳳の全てになるような気がした。
 しばらくそのままでいた。
 何も言わず、答えず。
 身じろぎもしない鳳に、宍戸は背後から静かに寄り添うだけだ。
「…………………」
 どれくらいそうしていたのか、鳳の手が意識するより先に動き、自身の肩口にある宍戸の手の上にそっと重なると、宍戸はまた同じ事を口にしてきた。
「どうした…? 長太郎」
 今度は鳳にもその意味が判った。
「……すみません」
「謝んなくたっていい。俺が気にかかるだけだ…」
 素っ気無いような言い方だったが、少しも距離も置かずに、ぴったりと鳳の背に寄り添っている宍戸の仕草は優しかった。
 鳳は、ゆっくりと息を吐き出した。
 宍戸がいるだけで、和いでいく。
 訳の判らない戸惑いがやわらいでいく。
「………春から…宍戸さんとテニスが出来なくなるのが怖い…」
 何の取り繕いもなく、本音だけが零れた。
 何を甘ったれた事を言っているのかと鳳自身口にした途端苦笑いしてしまったが、宍戸は笑わなかった。
 否定の言葉も言わなかった。
「…………………」
 鳳の背中に重ねられた宍戸の額や頬の感触が繊細に甘い。
「………あんまり無茶するな」
 だからってと咎めの言葉が振動と一緒に鳳に響いた。
 それで漸く鳳も、がむしゃらというより、ただ衝動的に、延々サーブ練習をしていた自分を省みる事が出来た。
 そして、恐らくずっと見ていたに違いない宍戸が今の今までそれを止めなかったのは、鳳の胸を巣食う感情に気づいていたからに違いない。
 その不安を杞憂だと笑い飛ばさないのは、宍戸もまたその感情を持っているからに違いない。
「すみません…」
「長太郎」
「はい…?」
「…俺の一番大事なものなんだから」
「宍戸さん?」
「もう少しお前も大事に扱えよ」
 そう言って、宍戸は両腕で鳳の身体を、背後から強く抱き締めてきた。
 縋られているような抱擁は、その実どこまでも鳳を受諾する、強くて優しい腕が織り成す感情表現だ。
「好きです。宍戸さん」
「………知ってる」
「知ってても言います」
「…………じゃ…言え」
 本当は正面から、鳳も自身の両腕で宍戸を力ずくで抱き締めたい。
 しかし背後からだからこそ、宍戸がこんな風にいつもとは少し違った態度を見せてくれている事も判るので。
 鳳は、強靭でありながら華奢な宍戸の両腕に背後から抱き寄せられながら、何度も、何度でも、乞われた言葉を口にした。
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