How did you feel at your first kiss?
暮れかけの温む風とよく似た甘い微かな接触を乾は感じた。
立ち止まって振り返ると、自身の着ているジャケットの裾が海堂の手の中にある。
乾の少し後ろを歩いていた海堂がとった仕草にしては、物珍しいものだった。
なんだい?と乾が眼差しで問いかけると、海堂は黙って動いた。
乾のジャケットの裾を右手にしたまま膝を曲げずに屈んで、乾の足元へ左手を伸ばす。
海堂がすくいあげるようにして手のひらに拾い上げたものは、肉厚の花弁の白い花だ。
無意識に乾は頭上を見上げた。
街路樹が白い花を暮れ初めの空に向け咲かせていた。
よく、こうも大きな。
そして純白の花が、葉もない枝先に花開いているものだといっそ感嘆する。
「………………」
踏み躙られる花を憂いだのか、それとも転ぶなり滑るなりするかもしれない我が身が案じられたのか。
乾がそんな事を考えていると、海堂は乾に寄り添うように並んだまま静かな声で言った。
「両方っすよ…」
「え? あれ…声に出してた?」
「顔見りゃ判ります」
呆れた風に海堂は小さな溜息を吐き出した。
手のひらに白い花をすくい、海堂も乾がそうしたように街路樹を見上げてきた。
本当ならば、まだああして空に近い場所で咲いていた筈の花の姿も。
万が一にでも足元のそれを踏む事で怪我をするかもしれない可能性があった乾の事も。
同じ気持ちで案じ、守ろうとする海堂の仕草は、乾の目にひどくやさしく映った。
頭上を見上げている海堂の黒髪が、さらりと風に揺らいで整った額が一瞬だけ露になる。
乾は海堂の手のひらから引き取るようにその白い花を手にする。
「……これはコブシだっけか…」
「似てるけど違う。みんな空を向いてるから、これはモクレンっすよ」
へえ、と乾が視線を花から海堂に落としても、海堂はどこか無心に花を見上げていた。
コブシとモクレンは同じ時期に咲く同じような花だけれど、モクレンの花は全て上に向いて咲き、コブシは様々な方向に咲くのだと海堂は訥々と言った。
「海堂はモクレンの方が好きだろ」
「………………」
海堂は応えなかったが、乾は薄く笑って歩き出した。
乾の横を海堂もついてくる。
「……その花持っていくんですか」
「うん。捨ておけないからな。枯れるまで大事に俺の部屋に置いておいて…枯れたら」
「………枯れたら?」
「そうだな……土に埋めてあげようかな」
海堂がひどく不思議そうな顔をしたので、乾は笑みを深めて並んで歩く海堂を流し見た。
「海堂の好きな花ならそれくらい大切にして当然だろ」
それで海堂の事は。
それこそ当然、もっともっと大切にするけどなと乾が続けると。
いつもはモクレンの花のように、真っ直ぐに前を、上を、見ている海堂が。
コブシの花の咲く向きのように、あちらを、こちらを、向いている様が乾にはたまらなく可愛く思えたのだった。
立ち止まって振り返ると、自身の着ているジャケットの裾が海堂の手の中にある。
乾の少し後ろを歩いていた海堂がとった仕草にしては、物珍しいものだった。
なんだい?と乾が眼差しで問いかけると、海堂は黙って動いた。
乾のジャケットの裾を右手にしたまま膝を曲げずに屈んで、乾の足元へ左手を伸ばす。
海堂がすくいあげるようにして手のひらに拾い上げたものは、肉厚の花弁の白い花だ。
無意識に乾は頭上を見上げた。
街路樹が白い花を暮れ初めの空に向け咲かせていた。
よく、こうも大きな。
そして純白の花が、葉もない枝先に花開いているものだといっそ感嘆する。
「………………」
踏み躙られる花を憂いだのか、それとも転ぶなり滑るなりするかもしれない我が身が案じられたのか。
乾がそんな事を考えていると、海堂は乾に寄り添うように並んだまま静かな声で言った。
「両方っすよ…」
「え? あれ…声に出してた?」
「顔見りゃ判ります」
呆れた風に海堂は小さな溜息を吐き出した。
手のひらに白い花をすくい、海堂も乾がそうしたように街路樹を見上げてきた。
本当ならば、まだああして空に近い場所で咲いていた筈の花の姿も。
万が一にでも足元のそれを踏む事で怪我をするかもしれない可能性があった乾の事も。
同じ気持ちで案じ、守ろうとする海堂の仕草は、乾の目にひどくやさしく映った。
頭上を見上げている海堂の黒髪が、さらりと風に揺らいで整った額が一瞬だけ露になる。
乾は海堂の手のひらから引き取るようにその白い花を手にする。
「……これはコブシだっけか…」
「似てるけど違う。みんな空を向いてるから、これはモクレンっすよ」
へえ、と乾が視線を花から海堂に落としても、海堂はどこか無心に花を見上げていた。
コブシとモクレンは同じ時期に咲く同じような花だけれど、モクレンの花は全て上に向いて咲き、コブシは様々な方向に咲くのだと海堂は訥々と言った。
「海堂はモクレンの方が好きだろ」
「………………」
海堂は応えなかったが、乾は薄く笑って歩き出した。
乾の横を海堂もついてくる。
「……その花持っていくんですか」
「うん。捨ておけないからな。枯れるまで大事に俺の部屋に置いておいて…枯れたら」
「………枯れたら?」
「そうだな……土に埋めてあげようかな」
海堂がひどく不思議そうな顔をしたので、乾は笑みを深めて並んで歩く海堂を流し見た。
「海堂の好きな花ならそれくらい大切にして当然だろ」
それで海堂の事は。
それこそ当然、もっともっと大切にするけどなと乾が続けると。
いつもはモクレンの花のように、真っ直ぐに前を、上を、見ている海堂が。
コブシの花の咲く向きのように、あちらを、こちらを、向いている様が乾にはたまらなく可愛く思えたのだった。
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