How did you feel at your first kiss?
いきなりの気配に驚いたものの、咄嗟に振り返ってみれば慌て戸惑う必要もない事を海堂は知った。
無意識に肩から力を抜いたのは、背後にいたのが乾だったからだ。
「枯れてないよ。大丈夫」
「………………」
海堂が引っ込めかけた手に、触れないながらも重なるようにして、乾の手が海堂の動きをとめる。
「花かんざしだね」
落ち着いた低い声だ。
「和紙みたいな花びらだけど、枯れてる訳じゃないから」
心配しなくても大丈夫と言った乾の声が、ぐっと近くなって海堂は今度はもう振り返るに振り返れなくなった。
気になって、花を。
手を伸ばしていたのは確かに海堂自身で。
でもだからってどうしてこう絶対に見過ごす事無く気づかれてしまうのか。
乾からの接触はいつもこんな風にひどく不思議だ。
海堂が気を取られた花は、白は白のまま透けていくような色合いの小さなもの。
緑の葉、白い花弁、黄色の花軸。
はっきりと花が咲いていく過程は、やはり季節の移ろいを感じさせて、何の気はなしに手を延べてみて。
指先に触れた花びらのあまりにかわいた感触に、作り物のような肌触りに、海堂が戸惑った一瞬を浚うように、乾はこうして海堂の背後にいる。
「この花は開花前の蕾が面白いんだ」
ほら、と乾の指がすくいあげてみせた花かんざしの蕾。
花びらが、外側から徐々に開いていくようで、中心はあくまでまるくかたい蕾のままだ。
「外側から、ゆっくり開いていく」
「………………」
蕾の軸を取り囲み、外側からゆっくりと。
それを告げる乾の声が僅かに緩んで、どこか柔らかく耳に届いた。
まるであんたじゃないかと海堂は思って。
覆い被さるようにして背後にいる乾を微かに流し見る。
本音はなかなか晒さずに。
かといって人を寄せ付けない硬質さもない。
一緒にいる事に気まずさを感じさせず、いつの間にか距離が縮まって、こうして側に居れば少しずつだけ本意を見せてもくれる。
全部ではない。
でも、外側から花開いていくこの蕾のようには、海堂は許されている。
それは判っている。
「………海堂みたいだよな…」
「………………」
乾と目が合い、そんな言葉を口に出されて。
似ている事を考えはするが、決して同じでない自分達を、海堂は苦笑いしたくなる。
お互いの距離が近くなって、恋愛感情を持つようになって、それでも。
あくまでも、実際自分達は別々の人間だ。
いつかどうにも相容れなくなって、諍いが起きたりするのかもしれない。
そんな事を考えてしまうくらいに、どこか不安めいたものがいつでもこの感情に潜んでいる。
けれど乾と海堂が同じでないのは当たり前のことだと知っているから。
その上で、こんな事もあったりするから。
「……あれ。それは逆…とか考えてるな。お前」
「………………」
乾は海堂の心情に機微を解している。
背後を視線だけで見る海堂と、そんな海堂を覗き込んでくる乾とで、窮屈な体勢の中視線は引き結ばれて。
同じ花を見て、物凄く似ていて結局真逆の事を思う自分達は、それでもこうして抱き締め合える。
乾が海堂の背後から両腕で海堂を抱き締めてくる。
海堂はおとなしくその抱擁におさまった。
「……海堂の真ん中は、まだひらいて貰えてないなと、俺は思うんだが。お前もそんな風に考えてたりするって事か?」
少しの驚きは、お互いのもの。
自分は全部見せてるだろうと思う気持ちも、お互いのもの。
「まあ…それならそれで」
「………………」
「ちゃんと咲くまで末永く一緒にいればいいか」
低い声で生真面目に、やわらかな提案を口にする乾の腕を。
海堂は自身の胸の前で抱き込んだ。
乾の手のひらが海堂の頬を包むように動いたので、その手のひらのくぼみに、海堂はそっと唇を押し当てた。
無理に剥がされていくのではなく。
徐々に剥いでいくから、花開くまで行く末永く。
無意識に肩から力を抜いたのは、背後にいたのが乾だったからだ。
「枯れてないよ。大丈夫」
「………………」
海堂が引っ込めかけた手に、触れないながらも重なるようにして、乾の手が海堂の動きをとめる。
「花かんざしだね」
落ち着いた低い声だ。
「和紙みたいな花びらだけど、枯れてる訳じゃないから」
心配しなくても大丈夫と言った乾の声が、ぐっと近くなって海堂は今度はもう振り返るに振り返れなくなった。
気になって、花を。
手を伸ばしていたのは確かに海堂自身で。
でもだからってどうしてこう絶対に見過ごす事無く気づかれてしまうのか。
乾からの接触はいつもこんな風にひどく不思議だ。
海堂が気を取られた花は、白は白のまま透けていくような色合いの小さなもの。
緑の葉、白い花弁、黄色の花軸。
はっきりと花が咲いていく過程は、やはり季節の移ろいを感じさせて、何の気はなしに手を延べてみて。
指先に触れた花びらのあまりにかわいた感触に、作り物のような肌触りに、海堂が戸惑った一瞬を浚うように、乾はこうして海堂の背後にいる。
「この花は開花前の蕾が面白いんだ」
ほら、と乾の指がすくいあげてみせた花かんざしの蕾。
花びらが、外側から徐々に開いていくようで、中心はあくまでまるくかたい蕾のままだ。
「外側から、ゆっくり開いていく」
「………………」
蕾の軸を取り囲み、外側からゆっくりと。
それを告げる乾の声が僅かに緩んで、どこか柔らかく耳に届いた。
まるであんたじゃないかと海堂は思って。
覆い被さるようにして背後にいる乾を微かに流し見る。
本音はなかなか晒さずに。
かといって人を寄せ付けない硬質さもない。
一緒にいる事に気まずさを感じさせず、いつの間にか距離が縮まって、こうして側に居れば少しずつだけ本意を見せてもくれる。
全部ではない。
でも、外側から花開いていくこの蕾のようには、海堂は許されている。
それは判っている。
「………海堂みたいだよな…」
「………………」
乾と目が合い、そんな言葉を口に出されて。
似ている事を考えはするが、決して同じでない自分達を、海堂は苦笑いしたくなる。
お互いの距離が近くなって、恋愛感情を持つようになって、それでも。
あくまでも、実際自分達は別々の人間だ。
いつかどうにも相容れなくなって、諍いが起きたりするのかもしれない。
そんな事を考えてしまうくらいに、どこか不安めいたものがいつでもこの感情に潜んでいる。
けれど乾と海堂が同じでないのは当たり前のことだと知っているから。
その上で、こんな事もあったりするから。
「……あれ。それは逆…とか考えてるな。お前」
「………………」
乾は海堂の心情に機微を解している。
背後を視線だけで見る海堂と、そんな海堂を覗き込んでくる乾とで、窮屈な体勢の中視線は引き結ばれて。
同じ花を見て、物凄く似ていて結局真逆の事を思う自分達は、それでもこうして抱き締め合える。
乾が海堂の背後から両腕で海堂を抱き締めてくる。
海堂はおとなしくその抱擁におさまった。
「……海堂の真ん中は、まだひらいて貰えてないなと、俺は思うんだが。お前もそんな風に考えてたりするって事か?」
少しの驚きは、お互いのもの。
自分は全部見せてるだろうと思う気持ちも、お互いのもの。
「まあ…それならそれで」
「………………」
「ちゃんと咲くまで末永く一緒にいればいいか」
低い声で生真面目に、やわらかな提案を口にする乾の腕を。
海堂は自身の胸の前で抱き込んだ。
乾の手のひらが海堂の頬を包むように動いたので、その手のひらのくぼみに、海堂はそっと唇を押し当てた。
無理に剥がされていくのではなく。
徐々に剥いでいくから、花開くまで行く末永く。
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