How did you feel at your first kiss?
東京タワーはオレンジ色だった。
昼間は赤いのに、夜になってライトアップされた様子は炎の色で。
煮詰められた蜜のようにとろとろと光って見えた。
「うわ、すっげ…!」
ガラスにぺたりと両手の手のひらをつけて。
神尾は眼下の夜景を見下ろし、声を上げる。
瞬く無数の灯りで埋め尽くされた夜景は、下界と言ってしまえるくらいとても遠くの光景のように神尾の足元に在った。
「なんだよこれ……マジですっごいなー……!」
思わず呟いて、ガラスに額も押し当てた神尾の背後で。
吐息に交じった笑みの気配がする。
ひどく大人びた嘆息は、神尾をこの展望台に連れてきた男の唇から漏れたものだ。
「な、跡部」
神尾はくるりと背後を振り返り跡部を見つめて言った。
「すごい!」
「お前はさっきからそればっかじゃねえか」
皮肉な笑みを浮かべて跡部は神尾の横に並んだ。
「だってよぅ、こんなにたくさん光ってる灯りのところ全部に、人がいるんだぜ?」
「………………」
神尾の言葉に、何故か跡部は目を瞠った。
跡部の表情の変化に気づかないまま神尾は更に言い募る。
「すごいよなー。道路流れてるのは車だろ。あれだけの数の車を、人が動かしてんだもんな」
「………………」
「ビルの灯りだってだってさ、仕事してる人がまだあれだけいるってことだもんな。電気のついてる家には、その家の住人がテレビ見たり食事してたりしてて……この灯りの数だけ人間いるんだもんな。すごいよな」
なあ跡部、ともう一度呼びかけて。
漸く神尾は跡部が黙ったまま何だかびっくりしたみたいな顔をしているのに気づいた。
「……跡部?」
なんだよ?と神尾が怪訝に問うと、跡部はやけにまじまじと神尾を見下ろし続け、それから唐突に神尾もよく見慣れた不遜な笑みで唇の端を引き上げた。
「………なんだよ…ぅ…?」
跡部のリアクションの意味合いが判らず、神尾は眉根を寄せた。
内心では忙しく、自分は何かおかしな事でも言っただろうかと思い悩んでいる神尾に、跡部はとうとう低い声音で笑い出した。
「な、…なんで笑うんだよっ」
「いや、別に?」
「別にって! 笑ってんだろ!」
肩まで上下させている跡部に神尾が噛み付くように叫べば、うんざりするほどうっとりさせるようなやり方で跡部が前髪をかきあげて神尾を流し見てくる。
「女と子供は光るもんが好きで、ついでに馬鹿は高いところが好きだとも思ったから、お前をここに連れて来たんだがな」
「……っ…、…なにナチュラルに人のことばかにしてんだよ…!」
「リアクションは、まあ予想通りだったが……」
「…………あと…、…」
壮大な夜景をも配下に従える暴君さで。
跡部はガラスに片腕をついて、首を捩じるようにして神尾の唇をキスで塞いだ。
静かに、深く。
「………ン……、…」
「………………」
真横に並んだ跡部を見上げていたままキスを受けた神尾は、無理な体勢に首筋を強張らせながら口付けられる。
跡部の手が神尾の顔に触れた。
髪を撫でられ、頬を包まれ、後頭部をまさぐられながら、ガラスに背を押し付けられる。
キスは深くなり、強くなる。
背中にあるガラス板の存在が、ふと怖くなるほどに唇を貪られて、神尾は跡部の手首に指先を沈ませた。
「ゃ……、……跡…」
「………なんだ。…どうした」
「……こわい…って……」
高層ビル、神尾の背後にあるのはガラス板一枚だ。
「馬鹿か。割れる訳ねえだろ」
足元がすくわれそうな夜景。
またたくネオン、流れるライト。
「跡部…」
「そういうツラするな」
「……跡部?」
「…………なるだろうが…」
「え…?……」
何が。
何を。
したくなると、今跡部は言ったのかと神尾は迷い、しかしすでに神尾の思考をかきみだす勢いで口付けは繰り返されていた。
キスで舌先を愛撫される。
跡部がキスに本気になったのは、そういうやり方で判ってしまった。
角度をかえる度に、ちいさく濡れる音がする。
可愛らしいようなその音と、跡部のしかけてくるかぶりつくようなキスのやり方の卑猥さとが相まって、次第神尾の足元が覚束なくなってくる。
「…っ……ぅ…」
落ちる。
そんな錯覚も当然な場所。
人のいない、暗い、高層ビルの展望台。
夜景を背後にしたまま座り込んでしまえば、落ちていく先は遥か遠い下界にまでとイメージしてしまう。
「……、…ャ…」
「………………」
かくんと膝がぬける。
座り込んでしまう神尾に口付けたまま、跡部も後を追ってきた。
ちゃんと。
「………っ……、…は…」
「お前の目が気にいってるんだ。俺は」
「……ぇ……?……」
瞼に口付けられる。
跡部の唇は、神尾の睫毛の先にまでキスを落とす。
神尾は小さく肩を跳ね上げさせた。
「ガキで、バカで、生意気で、そのくせ」
「………………」
「お前にしか見つけられないものを見てる目だ」
貶されているのか褒められているのか神尾にはさっぱり判らなかった。
ただ言えることは。
「………………」
まるで渇望されるかのように。
さながら強い執着も露に。
跡部が。
「神尾」
「………………」
自分の事を。
欲しがる。
キスする。
抱き締める。
「…………跡部…」
神尾が跡部にそうしたいように、神尾が跡部を好きなのと同じ強さで、望まれている事は判るから。
星に、夜に、闇に、蕩けるように口付けを絡ませあった。
浮かんでも、落ちても、光っても、隠れても。
見えていても、見えていなくても、自分達の恋はここに在る。
昼間は赤いのに、夜になってライトアップされた様子は炎の色で。
煮詰められた蜜のようにとろとろと光って見えた。
「うわ、すっげ…!」
ガラスにぺたりと両手の手のひらをつけて。
神尾は眼下の夜景を見下ろし、声を上げる。
瞬く無数の灯りで埋め尽くされた夜景は、下界と言ってしまえるくらいとても遠くの光景のように神尾の足元に在った。
「なんだよこれ……マジですっごいなー……!」
思わず呟いて、ガラスに額も押し当てた神尾の背後で。
吐息に交じった笑みの気配がする。
ひどく大人びた嘆息は、神尾をこの展望台に連れてきた男の唇から漏れたものだ。
「な、跡部」
神尾はくるりと背後を振り返り跡部を見つめて言った。
「すごい!」
「お前はさっきからそればっかじゃねえか」
皮肉な笑みを浮かべて跡部は神尾の横に並んだ。
「だってよぅ、こんなにたくさん光ってる灯りのところ全部に、人がいるんだぜ?」
「………………」
神尾の言葉に、何故か跡部は目を瞠った。
跡部の表情の変化に気づかないまま神尾は更に言い募る。
「すごいよなー。道路流れてるのは車だろ。あれだけの数の車を、人が動かしてんだもんな」
「………………」
「ビルの灯りだってだってさ、仕事してる人がまだあれだけいるってことだもんな。電気のついてる家には、その家の住人がテレビ見たり食事してたりしてて……この灯りの数だけ人間いるんだもんな。すごいよな」
なあ跡部、ともう一度呼びかけて。
漸く神尾は跡部が黙ったまま何だかびっくりしたみたいな顔をしているのに気づいた。
「……跡部?」
なんだよ?と神尾が怪訝に問うと、跡部はやけにまじまじと神尾を見下ろし続け、それから唐突に神尾もよく見慣れた不遜な笑みで唇の端を引き上げた。
「………なんだよ…ぅ…?」
跡部のリアクションの意味合いが判らず、神尾は眉根を寄せた。
内心では忙しく、自分は何かおかしな事でも言っただろうかと思い悩んでいる神尾に、跡部はとうとう低い声音で笑い出した。
「な、…なんで笑うんだよっ」
「いや、別に?」
「別にって! 笑ってんだろ!」
肩まで上下させている跡部に神尾が噛み付くように叫べば、うんざりするほどうっとりさせるようなやり方で跡部が前髪をかきあげて神尾を流し見てくる。
「女と子供は光るもんが好きで、ついでに馬鹿は高いところが好きだとも思ったから、お前をここに連れて来たんだがな」
「……っ…、…なにナチュラルに人のことばかにしてんだよ…!」
「リアクションは、まあ予想通りだったが……」
「…………あと…、…」
壮大な夜景をも配下に従える暴君さで。
跡部はガラスに片腕をついて、首を捩じるようにして神尾の唇をキスで塞いだ。
静かに、深く。
「………ン……、…」
「………………」
真横に並んだ跡部を見上げていたままキスを受けた神尾は、無理な体勢に首筋を強張らせながら口付けられる。
跡部の手が神尾の顔に触れた。
髪を撫でられ、頬を包まれ、後頭部をまさぐられながら、ガラスに背を押し付けられる。
キスは深くなり、強くなる。
背中にあるガラス板の存在が、ふと怖くなるほどに唇を貪られて、神尾は跡部の手首に指先を沈ませた。
「ゃ……、……跡…」
「………なんだ。…どうした」
「……こわい…って……」
高層ビル、神尾の背後にあるのはガラス板一枚だ。
「馬鹿か。割れる訳ねえだろ」
足元がすくわれそうな夜景。
またたくネオン、流れるライト。
「跡部…」
「そういうツラするな」
「……跡部?」
「…………なるだろうが…」
「え…?……」
何が。
何を。
したくなると、今跡部は言ったのかと神尾は迷い、しかしすでに神尾の思考をかきみだす勢いで口付けは繰り返されていた。
キスで舌先を愛撫される。
跡部がキスに本気になったのは、そういうやり方で判ってしまった。
角度をかえる度に、ちいさく濡れる音がする。
可愛らしいようなその音と、跡部のしかけてくるかぶりつくようなキスのやり方の卑猥さとが相まって、次第神尾の足元が覚束なくなってくる。
「…っ……ぅ…」
落ちる。
そんな錯覚も当然な場所。
人のいない、暗い、高層ビルの展望台。
夜景を背後にしたまま座り込んでしまえば、落ちていく先は遥か遠い下界にまでとイメージしてしまう。
「……、…ャ…」
「………………」
かくんと膝がぬける。
座り込んでしまう神尾に口付けたまま、跡部も後を追ってきた。
ちゃんと。
「………っ……、…は…」
「お前の目が気にいってるんだ。俺は」
「……ぇ……?……」
瞼に口付けられる。
跡部の唇は、神尾の睫毛の先にまでキスを落とす。
神尾は小さく肩を跳ね上げさせた。
「ガキで、バカで、生意気で、そのくせ」
「………………」
「お前にしか見つけられないものを見てる目だ」
貶されているのか褒められているのか神尾にはさっぱり判らなかった。
ただ言えることは。
「………………」
まるで渇望されるかのように。
さながら強い執着も露に。
跡部が。
「神尾」
「………………」
自分の事を。
欲しがる。
キスする。
抱き締める。
「…………跡部…」
神尾が跡部にそうしたいように、神尾が跡部を好きなのと同じ強さで、望まれている事は判るから。
星に、夜に、闇に、蕩けるように口付けを絡ませあった。
浮かんでも、落ちても、光っても、隠れても。
見えていても、見えていなくても、自分達の恋はここに在る。
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