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How did you feel at your first kiss?
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 今週から父親が出張に行っている。
 だから夕食の時間がいつもより遅い。
 だから平気なのだと海堂が説明すると、そういうことかと乾は納得した。
 乾の家に来ても、海堂の帰宅時間は、いつも規則正しく夕食前だ。
 乾の両親は揃って帰宅が遅いので気にする事はないのだが、海堂家の生活リズムを正しく認識している乾としては、今日の海堂の様子にふと疑問を覚えての問いかけだった。
 午後五時近くなっても海堂がゆったりとしていたので、時間は平気?と口にした乾は状況を把握して小さく笑った。
「よかった。あやうく今日最後のキスをして、海堂を見送ってしまうところだった」
「……、…何っすか…それ」
 ぐっと息を詰めた海堂が小声で呟く。
 問いかけにもなっていないのは、忙しない瞬きに狼狽が滲むのが見てとれて、判る。
「今おじさんはニューヨークか」
 そっと話題を変えてやると、海堂は微かにほっとしたようだった。 
 日本とニューヨークの時差を考えるのが苦手だとぽつりと言った。
 乾は即座にいつも手にしている馴染みのノートを広げた。
「日本とニューヨークの時差は十四時間。現地時間に二時間足して、昼と夜を逆にしたのが日本での時間だ」
 数字と、簡単な記号。
 海堂に見えるようにノートを広げ、乾はシャープペンで書きこんでいく。
「ただし今は夏時間だから、一時間を足すんでいい。今こっちが午後五時だから、ニューヨークは午前四時って事になるな」
「……サマータイムってやつですか」
「四月の第一日曜日から、十月の最終土曜日までな。それまではプラス一時間」
 おいで、と乾は海堂の手を引いた。
「…先輩?」
 PCの置いてある机の前まで連れて行き、海堂を椅子に座らせる。
 怪訝に振り返ってくるのを制するように乾は海堂の背後から、薄い背に覆い被さるように近づいた。
 マウスに手を伸ばし、数回クリックして開いたサイトを見るように海堂の耳元で囁いて促した。
「これ……」
「ロックフェラーセンターだよ。ライブ中継だからさすがにまだ暗いね」
「……ずっと中継されてるんですか」
「そうだよ」
 近すぎる距離に僅かにうろたえる気配が甘くてかわいい。
 表情を緩めれば勿論即座に海堂は怒り出すだろうから、乾は敢えて極めて真顔でいるのだ。
 背後からそっと腕の中に抱きこむようにしている体勢を解く気はなかったので。
「ロックフェラーセンターのクリスマスイルミネーション、聞いた事ある?」
「……、……ライトアップの派手な…?」
 同じモニタを見る為の至近距離と思おうとしているらしい海堂の精一杯の返答に、乾自身いつまでこの平静が保てるかと自分の事を危ぶんだ。
「このアングルでよく見えるんだよ。気分転換に時々見てた」
「自宅で…ニューヨークのクリスマスツリーっすか…」
「そう。ささやかな贅沢ってとこ。……イルミネーションが終わっても、これはこれで面白いから、今も時々見てるよ」
 人の姿、車の動き、装飾の国旗の棚びき。
 プライバシーを侵害することはない、しかしリアルな十四時間時差のある光景。
 深夜にデータ処理をしている最中に見る昼間の光景や、目覚めたてで見る夕暮れの景色に、ふと不思議な思いにとらわれる事があった。
「アドレス、送っておく」
「……乾先輩」
 だから。
 今はこっち、と乾は海堂に座らせた椅子をこちら側に回転させた。
「え……」
 椅子に座ったままくるりと回った海堂の唇に、乾は高い所から、そっと唇をかぶせる。
 息をのんだ微かな気配。
 虚勢という平静はここまでだ。
 海堂の両の頬を両手で支えて、乾はゆっくりとキスを深くする。
「…………ん…」
 あえかな喉声。
 繊細な熱を放つ舌をむさぼっていきながら、今日お互いへと許されている時間の全てを使い切る為に、繰り返す。

 キスは時間も刻めた。
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