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How did you feel at your first kiss?
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 お前さあ、と。
 宍戸はいよいよ、そう、口火を切った。
 先程から宍戸がその話を切り出そうとする度に。
 はぐらかしたりごまかしたり別の話題を持ってきたり、あまつさえ呼びかけに聞こえない振りまでしてのけた鳳の聞きわけの悪さには、腹が立つどころか笑いが込み上げてきてしまっている宍戸なのだけれど。
 宍戸の少し改まった口調に、鳳は小さな溜息をついた後、もう抵抗の手管は出しつくし、観念でもしたのか、無言のまま、じっと宍戸の目を見返してきた。
 自分より背の高い男に、上目に見られると言うのも、どうなんだろうか。
 それも、なんだかもう、長身で大層な男前なのに、その表情は、いたいけというか、必死というか。
「あー……、と…」
 らしくもなく、言い淀む自分も決まり悪いような気分で、宍戸はうなじに手をかけて視線を彷徨わせる。
 そんな宍戸を、見るからに王子様然とした風情の鳳が、物言いたげな目をして見つめてくる。
 ああもう、かわいいんだかかわいそうなんだか判んねえ、と宍戸は溜息を吐き出した。
「長太郎。明日の約束な、…また、今度にするか」
 表面上は問いかけという形をとったが、宍戸の心情的には、決定事項の言い切りに近かった。
 それでも宍戸なりに気を使って、なるべく素気なくならないよう、出来るだけ丁寧に言ったのだが。
 案の定、鳳の拒絶は凄まじい。
 嫌ですと真っ向から突っぱねられた。
「嫌…っつってもよ、お前…」
「嫌です」
 低い、重い声。
 凄んでいるかのようにも聞こえる鳳の声に、宍戸は眉根を寄せた。
 それは鳳の物言いに気分を害したからではなくて。
 可哀想になあと痛々しさを噛み締めたからだ。
「……取り敢えず、送ってく」
 そう言って宍戸が鳳の持っていた鞄を奪うと、そうさせまいとしたけれど叶わない、鳳の緩慢な所作が何より雄弁に今の状態を物語っている。
「宍戸さん、鞄」
「いいよ。つーか、お前、家まで歩けんのか? 長太郎」
「歩けますよ。……だから鞄、」
 鞄の一つや二つ大した事でもないのにと、宍戸は少し呆れた。
 宍戸に荷物を持たせるのか余程不満なのか、手を伸ばしてくる鳳を同じ回数だけあしらい、勿論鞄は手放さないまま、宍戸はお互いの距離をわざと近くして歩き出した。
 変なところ頑固だよな、と年下の男をちらりと横目に見上げて宍戸は思った。
 人のこと言えないけどなという自覚も持ちつつだ。
「………………」
 約束なんて、たった一回反古にしたって、また何度だって出来るものだし。
 こうやって歩くのに、肩くらい幾らだって貸してやれるのに。
 多分そういう事を言っても鳳は聞かないだろう。
 腕が時折触れ合うこの距離で、鳳から伝わってくる気配が何となく熱っぽい。
 これはもう本格的に、どうしたって風邪だろうと、宍戸は小さく吐息を零す。
 見た目の柔和さに相反して、鳳はタフで頑丈だ。
 判りやすく体調を崩した所など、これまでに見た事がない。
 それがどうやら、今日は珍しい事に、熱まで出しているようだ。
 鳳は自身の体調不良を宍戸には知られたくなかったようだけれど、生憎いくら学年が違ったって、宍戸の元に鳳の情報はいくらでも入ってくるのだ。
 どうも鳳の具合が悪いらしい。
 今日一日で、宍戸は何人からその話を聞いただろうか。
 こっそりと放課後正門で待ち伏せてみれば、宍戸には気づかれたくなかったらしい鳳が、かなり参った様子で歩いてきたので、宍戸はそこで鳳を捕獲した。
 往生際悪く鳳は何でもないふりをしようとしていたが、どう考えても明日の約束は取り止めた方がいいのは宍戸の目にも明らかだった。
「長太郎」
「………………」
 またも聞こえない振りをしているらしい鳳の腕を掴んで、宍戸は足を止めた。
「おーい……聞けって」
「………やです。宍戸さん、信じられないこと言うし」
 はあ、と熱を帯びた溜息を零して、鳳は真剣に憂いだ顔をして宍戸を見下ろしてきた。
 顔色もよくない。
 宍戸がそう思って見つめ返してると、鳳は、がっくりと両肩を落とした。
「俺も、信じられないですけどね…」
 ほんとばかだ、と落ち込んだ呟きを口にした鳳に、馬鹿じゃねえよと即座に言って、宍戸は笑った。
「これでこじらせたら馬鹿だけどな」
「……どっちなんですか…」
 明日、宍戸さんの誕生日なのに、と。
 それこそ地を這うような、それはもう落ち込みきった声音で言われてしまって、仕方がないので宍戸は鳳の腕を掴んでいた手を外し、そのまま鳳の頭をそっと手のひらで撫でた。
 それにしたってそこまで落ち込むような事だろうか。
「何で、このタイミングで……風邪とかひくんだか…俺も…訳わかんないですよ…」
「別に風邪くらい、ひく時はひくだろ。長太郎、お前さ、いくらなんでも落ち込み過ぎだろ」
「落ち込みもしますよ…!」
 がばっと鳳が勢いよく顔を上げる。
 宍戸は鳳の頭を撫でていた手を浮かせる。
 鳳は勢いあまって頭痛がしたか、眩暈がしたか。
 眉根を寄せて目を閉じる。
 宍戸は慌てて片手で鳳の腕を掴んで支え、もう一方の手で今度は鳳の頬を数回撫でた。
「大丈夫か?」
 宍戸の問いかけに頷き返しはするけれど、鳳は目を閉じたままだった。
 暫く宍戸の手のひらに片頬を預けるようにしてから、ゆっくりと目を開けていく。
 互いの目と目が合うと鳳が安心したような顔をするので、宍戸も唇に小さく笑みを刻んだ。
「取り敢えず、お前、ちゃんと治せ」
 な?と宍戸が言い聞かせると。
「………明日」
「まだ言うか。中止だ中止」
 それだけの言葉に、この世の終わりみたいな顔でショックを受ける鳳の、それでもほんの少しも崩れない整った顔。
 でもその顔色は、はっきり言ってどんどん悪くなっている。
「明日は家で休んでろ。うちにも来るな。いいな?」
「…………あんまりだ…宍戸さん…」
 宍戸さんの誕生日なのに、と宍戸に体重をかけてくる大きな身体を、宍戸はしまいに本気で笑ってしまいながら受け止めた。
 やっぱりこれは、相当に具合が悪いのだろう。
 ここまで甘ったれ全開で、愚図る、絡む鳳というのは本当に珍しい。
 ここは往来で、両腕で抱え込まれるようにがっしりと抱き込まれた体制もどうかと思うが、宍戸は鳳の腕に抗わなかった。
「お前の調子が良くなったら、明日する筈だった予定は、その時に、ちゃんと全部するからよ」
「宍戸さん誕生日なのに………俺に情けなく寝込んでろって言うんですか」
 理不尽というか、何とも滅茶苦茶な事を真剣に鳳に訴えかけられて、ああもうこいつどうしようもねえなと宍戸は固い背中を宥めて撫でてやる。
「安心しろ。寝込んでてもかっこいいよ、お前は」
「そんな筈あるわけないじゃないですか……! 呆れられて、愛想つかされますよ、普通は…」
「誰の話だよ」
 低く笑いながら、宍戸は繰り返し鳳の背を撫でた。
「愛想なんか、つかさねえよ」
「でも明日は、俺じゃない誰かと一緒にいるんだ、宍戸さんは……」
 本当に、従来の鳳からすると信じられない程の絡みっぷりだ。
 そして、ここまでぐだぐだに絡まれても、ほんの少しも腹がたたないのだから、そんな自分が宍戸は我ながら不思議になる。
 いったいどれだけ、この男の事が好きなんだろうと思って。
「アホ。明日は俺も一人で部屋に閉じこもるに決まってんだろ」
「………誕生日なのに」
「どうでもいいっての」
 宍戸にとって自分の誕生日なんて、鳳が思っている程には然して重大な事ではなかった。
 もうだいぶ前から約束していた宍戸の誕生日に二人で出掛ける話は、宍戸にしてみれば、重きがあるのは鳳と一緒にいるという事だけだ。
 自分の誕生日そのものに拘りはない。
「誕生日にそれって、あんまりじゃないですか……」
「とか言ってお前、じゃあ俺が明日誰か他の奴と一緒にいるとか言ったら嫌だろうが」
 それはすごく嫌ですけど、とあまりにも素直に鳳に即答されて、宍戸はそれで満足した。
「だから俺も一人でいてやるよ」
「宍戸さんかっこよすぎてくらくらする……」
「ばか、そりゃ熱上がってるだけだろ」
 早く帰るぞ、と促し代わりに鳳の背を叩き、二人分の鞄を肩に担いだ宍戸は鳳の手を引いた。
「………宍戸さん」
「危なっかしいんだよ!」
 だからだよ、と荒っぽく言って、宍戸は鳳と手を繋いだまま歩く。
 鳳に驚かれている自覚はあるから、宍戸の口調はぶっきらぼうだったのに。
 鳳が軽やかに笑った気配がして、宍戸はそっと背後を振り返った。
 思った通りの笑顔がそこにあって。
「……何だよ」
「俺、具合よくなるかも」
「は?」
「なんか、明日にはもう大丈夫になってる気がする」
 怒ろうとして、失敗して。
 ひどく甘い鳳の表情に、結局宍戸もつられて笑ってしまう。
「んなわけあるか」
「宍戸さん」
「ごめん、とか言ったら放り出すぞ」
「………………」
 ちょっと本気で宍戸が睨んで言えば、目を瞠った鳳が、苦笑いと一緒に。
 今日初めて、大変に聞きわけの良い返事を、はい、と言って零してきた。
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無題
もしかしたら、と思ってのぞいたら新作アップで嬉しかったです。ありがとうございます!男らしい宍戸さんにくらくらします(笑)

happybirthday!!宍戸さん

氷帝お誕生日ラッシュですね(って、書いたらやっぱりプレッシャーですか(笑)
jen 2012/09/30(Sun)14:40:12 編集
無題
相変わらずオトコマエな宍戸さんと
久々に甘ったれ全開な長太郎が微笑ましいです(^^)

遅ればせながら宍戸さんハピバ!
manya 2012/10/03(Wed)20:16:53 編集
お返事遅れて申し訳ございません…!
jenさま
プレッシャーとか、とんでもないです~。いつもありがとうございます!
秋は本当に氷帝お誕生日ラッシュでしたよね。
忍岳も書きたかったのですが………本当に色々スロウな不甲斐無いサイトですが、また時々遊びに来て頂けたら嬉しいです。
宍戸さんの男らしさは永遠の憧れ!なので、これからも甘い鳳宍書いていきたいと思います~。


manyaさま
わ~、ありがとうございます!
正直、年下全開甘えモードな長太郎をものすごく久々に書いたので、大丈夫かな…?ってちょっとびくびくだったのですが、楽しんで頂けていましたら幸せです!
宍戸さんは本当に男前な先輩なので、相思相愛、お互いがお互いにめろめろな鳳宍をこれからも書いていきたいなって思ってます。
直美 URL 2012/10/25(Thu)00:50:12 編集
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