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How did you feel at your first kiss?
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 眠そうだな、と海堂は思った。
 海堂の視線の先で目を閉ざしかけているのは乾で、しかしその乾が突然ぱちりと目を開けたので海堂はちょっと息を詰めた。
 てっきり乾がそのまま眠りに落ちるのだとばかり思っていたので。
「………………」
 眼鏡を外している裸眼の乾は、それでも数回、睡魔と戦うような瞬きをした後、徐に起き上がってベッドから降りた。
 緩慢な動作は、普段は無機質な印象の乾と違い、どこか生々しい。
 均等に筋肉の乗った背中の感触が海堂の手の中にまだ鮮明だったせいかもしれない。
「…はい、海堂」
「………………」
 何やら乾は彼の部屋にある机の引出しの中身をあさり、すぐに戻ってきた。
 そして海堂の隣に滑り込むようにまたベッドに横になる。
 今し方までと、全く同じ体勢だ。
 顔だけ向きあわせるようにして寝そべるお互いの間、シーツの上には乾が持ってきた紙包が置かれている。
 手のひらに乗るくらいのサイズだ。
 何ですかと海堂が声に出すより先に、乾が微かな笑みを吐息に混ぜるようにして囁いてきた。
「誕生日プレゼント」
「………………」
「あー…勿論今日じゃない事は判って言ってる」
「…はあ」
 事実、海堂の誕生日は二週間も前だ。
 それが何故今、誕生日プレゼントなのか。
「二週間後ならね、大丈夫じゃないかなあと思って」
「………………」
 眠気が強いせいか、乾の口調はのんびりとして、やわらかい。
 四六時中寝不足なのだから眠りたい時は眠ればいいと海堂は思うのに、乾は敢えてそれに逆らうようにして言葉を紡ぐ。
 大丈夫って何がだと海堂は紙包とそんな乾とを交互に見やった。
 動かしたのは眼差しだけ。
 でも乾が先ほどよりも明確に笑って、海堂の前髪に指を忍ばせ、撫で上げてくる。
「当日にさ。誕生日おめでとうってプレゼント渡して、海堂が、警戒心とか遠慮とか抜きに普通に受け取ってくれる確率は…」
 何パーセントか、乾は言ったようなのだが、睡魔にぼやけた低い声はよく聞き取れなかった。
「二週間後くらいなら、何で今になって急にとか思いながらも、普通に受け取ってくれそうだな、と思った訳なんだが………どう?」
「………………」
 単なる思い付きではなく、結構真剣に考えたらしい。
 自身の中での成功確率とを天秤にかけ返事を聞きたがる乾の眼差しに、さらさらと優しく甘い指先の感触に、海堂は、どこまでも把握され、懐柔されている自分を知って少しばかり複雑な気持ちになった。
 けれどそれは不快なものではなく、ひどく純度の高い気恥ずかしさだ。
「……乾先輩…」
「うん」
 ありがとうございます、と海堂が呟くと、乾が乱れた前髪の隙間で目を細めた。
 普段額にかからない乾の前髪のそんな感じの方こそ撫でつけてやりたくなるが、海堂にはまだその行動はハードルが高すぎる。
 それでも、眠いのに逆らってまで話をしたがる乾だとか、海堂の性格を判った上であれやこれやと思案する乾だとかに、海堂は体感した事のない感情を揺さぶられた。
「………普通じゃなかったな」 
「……は…?」
「ありがとう」
「…はい?」
 ありがとうって何がだと海堂は困惑した。
 言うのは自分で、乾ではない筈だ。
 けれども乾は嬉しげで、楽しげで、いったい今の自分に何を見ているのかと海堂は途方にくれる。
「今年が十四日後で、こういう海堂を見られる訳だから……来年は一日早めてもいいかな…」
「先輩……?」
「再来年は二日早めて……一年に一日ペースで詰めていけば、十四年後からは当日にちゃんと、当たり前みたいに祝っていい計算………」
 あまりに気の長すぎる計画に海堂は呆気にとられた。
 そして。
 身体から全ての力を抜くように笑ってしまった。
「…海堂?」
「………………」
 ああまた。
 いよいよ眠りに落ちようとしていた乾を引き戻してしまった。
 不思議そうに問いかけてくる乾に、海堂はそっと腕を伸ばした。
 髪をかきあげたり、頭を撫でたりは、ハードルが高くても。
 これなら、と手のひらでそっと乾の目元を覆う。
 瞬いたのか、手のひらのくぼみが擽ったい。
 乾の睫毛は長いのだと、海堂はその感触で知ったような気になった。
「………………」
 当たり前みたいに祝って良いのだろうと、乾は先に続く未来を見ていて。
 そんな言葉に、そんな未来までそれこそ当たり前のように一緒にいること前提の意味合いが、海堂にはひどく甘く、それでいてとても現実的な響きで、落ちてくる。
 思考の中、心の中、現実の中に。
「………………」
 海堂の手のひらの体温は、疲れがちの乾の目元を余程心地よく温めたようで、魔法じみた容易さで乾は眠ってしまった。
 海堂がそっと手のひらを外しても、乾は深く眠ったままだった。
「………絶対、十四年もかからないっすよ…」
 自分の手をじっと見つめ、小さく呟いた後、海堂は微かに笑った。
 でもそれを乾に直接言うのは止めておく。
 気の短い自分が、気の長い約束を、悪くないなと思ったからだった。
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