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How did you feel at your first kiss?
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 プライドを捨てて、それで跡部が手に入れたものが、この世の中に、二つある。
 一つは跡部が目指すテニスのレベル。
 そしてもう一つが、今跡部の腕の中に収まっている。
「跡部ってさあ、俺の知らない事、ほんっとたくさん知ってるよな…」
「………………」
 台風の後だからか昨日の夜中の星が綺麗だったなんて話から、天の川銀河の中にダイヤモンド並みの密度を持つ惑星が発見されている話になって。
 跡部の声に大人しく耳を傾けていた神尾が、ひとしきり話を聞き終えて、しみじみと呟く。
 跡部の胸元に靠れて寄りかかるような体勢の神尾の身体は、跡部の腕の中に、すっぽりとはまっている。
 テニスをしている時などには然程感じないのだが、神尾の骨格は随分と華奢だ。
 跡部が背後から腕を回すと、その身体は片腕だけであまりにも簡単に抱え込めてしまえる。
 毛並みの重厚なラグに座り込み、神尾を背後から抱え込みながら跡部が見下ろせば、そこだけやけに中性的に見える細いうなじがあって、襟足を短く切っているから、ひどくなめらかな肌の質感が剝き出しで、跡部はついそれに気をとられる。
 こんな風に、思わぬところに隙がある神尾は、背後にいる跡部が、どういう目で自分の肌を見ているか気づきもしない。
「……っ…、ちょ…え? なに、…擽った…、っ」
 結局欲求に負けて、跡部が神尾の首筋に唇を寄せ顔を埋めると、神尾がからりと笑って身じろいだ。
「くすぐったいってば! なんだよう、跡部ー」
「………お前の思考回路が俺には予想つかねえんだから条件は一緒だろ」
「え? 何…?」
 何の話?と笑いながら神尾が身体を捩って跡部の方に顔を向けてくる。
 腕の中からは逃がしはしなかったけれど、跡部は神尾の頬を片手で支えて軽く唇に口づけてから言った。
「俺がお前の知らない事を知ってるっつったろうが、今」
「………あー…」
 その話かというように神尾は頷いて、それよりも今は赤くなった顔を隠したいのか、また元のように跡部に背中を向けようとする。
 神尾がじたばたともがいている様は、跡部の機嫌を良くした。
 がっしりと、腕でも足でもホールドしてやって見下ろしていると、神尾の肌はどんどん赤く染まっていった。
「もー、なんなんだよっ、跡部」
 さっきから!と神尾が怒鳴り、跡部はそれを黙って流す。
 神尾は怒っているけれど、恥ずかしがっている表情は甘ったるい。
 跡部は神尾を無視しているが、しかけているのは一方的に跡部の方だ。
 どちらにしろ、どこからどう見ても、自分達はじゃれあっているようにしか見えないだろうと跡部は考えた。
 べったりくっついた自分達。
 この俺様がねえ?と跡部は神尾から見えない場所で、唇の端に苦笑を刻んだ。
 自分達が、こんな風に一緒に時間を過ごすようになるなんて、出会った当初は思いもしなかった。
 それはおそらく神尾もだろう。
 ただ跡部には、少なくとも神尾よりは、先見の明がある。
 跡部のインサイトは、テニスだけに使われるものではなかった。
 どうでもいいような言い争いや言葉の応酬しかしていなかった頃から、何となく、跡部には判っていた。
 だからこそ、相当意地の悪いような真似もしたし、神尾に対しての態度は決して良いものではなかった。
 跡部は判っていたから、牽制したのだ。
 神尾の存在が、自分の中で表面化しない部分を刺激する事も、完璧さを崩す事も。
 ゆくゆく、分が悪くなるのがどちらで、飢えたように渇望するのがどちらか。
 跡部は最初から、その殆どが、判っていた。
 自分から弱みを作る人間はいない。
 そんな風に思っていた、つまりは跡部のプライドだ。
 しかし、自分のプライドに固執する事で、進化が停滞する事を。
 跡部はテニスと、そして神尾で、知ったのだ。
「……なあ、跡部ー」
「何だよ」
 抵抗を諦めたのか、神尾が跡部の胸元に改めて深く寄りかかるように体重をかけてきて、そのまま仰のき、跡部の顔を見上げるようにしてくる。
 跡部は両腕を神尾の胸の前で交差させ、尖った肩を手に包んで目線を合わせる。
「跡部って、俺の考えてる事、判んないのか?」
「何嬉しそうなツラしてんだよ」
「だってよう」
 跡部でも判らないことあるのかと思って、と神尾は機嫌よく言った。
 皮肉気な笑みで、跡部はそれを一掃した。
「バァカ。単純なお前の考えてる事くらい判るに決まってんだろ」
「跡部、言ってることさっきと違くね?!」
「俺が言ってるのはお前が考えてる事じゃなくてお前の思考回路の方だ」
 それって違うのか?と怪訝に首を傾げている神尾の反応は、いつでもこんな風に素直極まりない。
 いわゆる単純というやつだ。
 それなのに、それがどうしてそうなったというような、ひどく不思議な地点に着地する。
「な、じゃあ、今は?」
「…アア?」
「今。俺の考えてる事」 
 さっきはキス一つで真っ赤になっていたのに、今は跡部の腕の中で跡部に全力で拘束されながらも、神尾はすっかり寛ぎきった様子で笑っている。
 跡部の腕に自分からも手をかけて、当ててみろという風に神尾はまた跡部を振り仰いできた。
 その額に跡部が唇を落とし、口づけると、擽ったそうに肩を竦めてから、ぺしりと跡部の腕を叩いてくる。
「何だ」
「何だじゃない!」
 しすぎ!とむくれる神尾の口も、逆向きの角度のキスで塞いだ。
「足りねえよ、バァカ」
 からかいに本音を混ぜ込んで囁いてから。
「良いのか、言って」
「……え…?」
 サプライズなんじゃねえの?と小さく問いかけた声は、我ながら甘くて嬉しげで、跡部は自嘲しつつも、大きく目を見開いた神尾の判りやすい表情に喉で笑いを響かせる。
 日付が変われば、誕生日だ。
 神尾が何をしたいのかは、判るような判らないような。
 取り敢えず、自分の誕生日に日付が変わるその瞬間、自分の腕の中には神尾がいるようなので。
 跡部にはそれだけあれば充分だったから、神尾の思惑には気づかない振りをしてやってもいいと思った。
 わざと、ちらりと、ほのめかしてやると、サプライズをしたいらしい神尾は慌てふためいて凄い事になった。
「言うなっ。言わないでっ。俺の頭の中も読むなっ」
「さて?」
「わーっ、ばかっ、最低っ」
 叫んだところでどうしようもないだろうと跡部は呆れながらも、暴れる神尾を身包み抱え込むようにして、結局のところ流されてやる。
 神尾の全て良いように。
 それくらい、跡部には。
 どうって事のない事なのだから。



 誕生日くらい、忘れた事にしてやろう。



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Happy Birthday!
なんでこんなにかわいいんでしょう・・・このふたり。
1日中、いやもう1年中じゃれあっててください(*´∀`)


きっと無言のプレッシャーを感じてらっしゃったと思いますが,新作UPありがとうございます!
manya 2012/10/05(Fri)00:49:45 編集
無題
新作ありがとうございます!
神尾君を、思いっきり甘やかしてかわいがる跡部君。二人の幸せが、思いっきり感じられました。こちらも、幸せにしていただきました。
happybirthday!跡部様
jen 2012/10/05(Fri)19:39:34 編集
無題
跡部誕生日おめでとう!
そしてきっとベカミで
いちゃいちゃしていたんでしょうね(笑)
書いてくださって
ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
いつまでたっても2人で誕生日を
祝っていてほしいです☆彡
miyu 2012/10/05(Fri)23:40:28 編集
毎回毎回遅レスでごめんなさい
manyaさま
コメントありがとうございます~。
ベカミは、ずーっとずーっと、二人でじゃれあっていたらいいと思います。ほんと可愛くて大好きな二人です!
無言のプレッシャーとか、いえいえ、そんな…!
こちらこそありがとうございます!
更新の遅いサイトなのに、読んで頂けていることが、本当に励みになっています。メッセージもいつも嬉しく拝見させて頂いてます~。これからもよろしくお願いいたします。

jenさま
ありがとうございますはこちらこそです!
読んで下さってありがとうございます~。すごく嬉しいです!
跡部の本気はすごいと思います。そしてそれは神尾だから引き出されちゃったんじゃないかな?と思っているので、この二人には永遠に幸せでいて欲しいといつも思っているのです。

miyuさま
こちらこそ読んで頂けて本当に嬉しいです。
ありがとうございます!
二人きりの時のベカミは、きっと見ていられないくらいに甘々なんじゃないのかなあって勝手に想像してます。
ベカミは毎年普通にグレードアップしていきそうなカップルなので(笑)妄想尽きないなってつくづく思います。
直美 URL 2012/10/25(Thu)00:51:27 編集
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