How did you feel at your first kiss?
昼間は蝉の鳴き声が幾重にも幾重にも折り重なって、聴覚が痺れるように揺らされていた。
夕刻、今の神尾の聴覚には、勢いの強いシャワーの水流音が響き続けている。
聞こえてくるのは水の音だけ。
脳裏に浮かぶのはきつくて強い夏の日差しが生み出していた屋外の色濃い影と、そのコントラストだ。
くっきりと対比の強かった、空と、雲と、光と、影と。
そんな事を思い返しながら目を開けた神尾の今の視界には、長い睫毛となめらかな瞼が見えている。
印象的な小さな泣き黒子も間近で、両頬をしっかりと跡部の手のひらに包まれ、角度をつけて塞がれるキスに、神尾はくらくらと目が眩む。
跡部は服を着たままだ。
「…………っ…、…」
思いのほか明け透けに、跡部の舌が口の中に入ってくる。
思わず強張った神尾の背筋を跡部が片手で抱き込んできた。
神尾は何も着ていないから、腰のあたりの際どい位置まで伝い落ちてくる跡部の手のひらの感触が、どうにも気になって身体に力が入ってしまう。
あからさまに跡部の機嫌が悪くなる。
そういうのもキスで判ってしまうようになった自分が恥ずかしいと神尾は赤くなった。
「……嫌がってんじゃねえよ」
「………………」
キスがほどける。
跡部の声はやっぱり不機嫌だった。
神尾の思った通りだ。
でも跡部の思った通りにはなっていない。
神尾は別段嫌がってなどいないのだ。
「………なんで、入ってくるんだよ…」
びしょびしょの跡部を神尾は見上げて言った。
勿論神尾も同じ状態だけれど、神尾はシャワーを浴びにきたのだからこれでいい。
問題は跡部だ。
確かに元々ここは跡部の部屋に併設されたバスルームだから、跡部が入ってきたっていい訳だが、何で服のまま突然乱入してくるんだと神尾は言いたかったのだが、跡部は神尾の腿の側面に手を這わせながら、自身の濡れ髪をもう片方の手で荒くかきあげた。
「家に来るのが遅ぇ。バスルームから出てくるのも遅ぇ」
「………………」
部活を終えて全力疾走でやってきたんだけどとか、汗だくで到着したからシャワー貸してって言ったら貸してくれたのはそもそも跡部で、第一まだバスルームに来て数分かそこらなんだけどとか、神尾の言い分は言葉にする前に奪われる。
また唇を塞がれてしまって、二人がかりでシャワーを浴びながら、神尾は熱のひかない顔の熱さを持て余した。
なんだろう、この、ほんの少しも待っていられないみたいな跡部は。
がっつくようなキスに、思わず神尾はべったりと湯に濡れた跡部の肌に貼りついているシャツに指先で取り縋る。
僅かに唇と唇の合間に空間が生まれる。
終わってしまうのが嫌になるキスは止めて欲しい。
今の自分の顔は、きっと物欲しそうになっているだろうと思うと、神尾は居たたまれなくなった。
「……部活…終わって、すぐ来たんだけど…、……」
ぎゅうっと目を閉じたまま、ささやかな反抗心でもって神尾が言うと。
唇で、ちゅ、と小さく軽いキスの音が弾ける。
「遅ぇよ」
「………まだ……シャワー、ちゃんと浴びてないし…」
「だから遅ぇって言ってんだろうが」
今度は言葉の後にキスの音。
跡部の手は神尾の腿の側面を逆撫でしてくる。
やらしい手つき、と思って意識がそこに向かえば。
何だか肌が、じんと痺れてくるようで、神尾は唇を噛み締めた。
今日は自分の誕生日なのに。
さっきからずっと怒られてるってどうなんだろう。
しかもそれがほんの少しも腹が立たなくて、ある意味理不尽な跡部の物言いに、全くむかつかないのもどうなんだろう。
その上、それはもう、物凄く、凄まじく、真剣な、こんな悪態までつかれて。
「何でてめえは、朝から晩まで完璧に、全部俺様のものじゃねえんだよ」
本気で腹をたてている跡部を前に、神尾はもう、これ以上はないくらいに、赤面した。
本当に、何て事を言い出すんだこの男はと、恨めしく睨もうとしたって駄目だ。
神尾にはもうそんな事は出来ない。
「………………」
本気で苛立たしい顔を露にしてくる、それでも綺麗な跡部の顔を、シャワーの繊細な飛沫の中で見上げながら。
ここから先の自分の時間は、ちゃんと全部渡すから。
それで機嫌直してくれねえかな、と切に思い、切に願う。
神尾は今日誕生日なのだ。
だからプレゼントを欲しがったっていい筈だ。
笑っている跡部を欲しがったって、いい筈だ。
「跡部」
神尾は両腕を跡部の両肩の上に乗せ、指先で、跡部の後ろ首を、そっと包むようにする。
爪先立って、跡部の頬にキスをして、小さく口にした提案は。
あっという間に、神尾が望んだプレゼントを、神尾の目の前に、置いてきた。
それは綺麗な、とても綺麗な、笑顔だった。
夕刻、今の神尾の聴覚には、勢いの強いシャワーの水流音が響き続けている。
聞こえてくるのは水の音だけ。
脳裏に浮かぶのはきつくて強い夏の日差しが生み出していた屋外の色濃い影と、そのコントラストだ。
くっきりと対比の強かった、空と、雲と、光と、影と。
そんな事を思い返しながら目を開けた神尾の今の視界には、長い睫毛となめらかな瞼が見えている。
印象的な小さな泣き黒子も間近で、両頬をしっかりと跡部の手のひらに包まれ、角度をつけて塞がれるキスに、神尾はくらくらと目が眩む。
跡部は服を着たままだ。
「…………っ…、…」
思いのほか明け透けに、跡部の舌が口の中に入ってくる。
思わず強張った神尾の背筋を跡部が片手で抱き込んできた。
神尾は何も着ていないから、腰のあたりの際どい位置まで伝い落ちてくる跡部の手のひらの感触が、どうにも気になって身体に力が入ってしまう。
あからさまに跡部の機嫌が悪くなる。
そういうのもキスで判ってしまうようになった自分が恥ずかしいと神尾は赤くなった。
「……嫌がってんじゃねえよ」
「………………」
キスがほどける。
跡部の声はやっぱり不機嫌だった。
神尾の思った通りだ。
でも跡部の思った通りにはなっていない。
神尾は別段嫌がってなどいないのだ。
「………なんで、入ってくるんだよ…」
びしょびしょの跡部を神尾は見上げて言った。
勿論神尾も同じ状態だけれど、神尾はシャワーを浴びにきたのだからこれでいい。
問題は跡部だ。
確かに元々ここは跡部の部屋に併設されたバスルームだから、跡部が入ってきたっていい訳だが、何で服のまま突然乱入してくるんだと神尾は言いたかったのだが、跡部は神尾の腿の側面に手を這わせながら、自身の濡れ髪をもう片方の手で荒くかきあげた。
「家に来るのが遅ぇ。バスルームから出てくるのも遅ぇ」
「………………」
部活を終えて全力疾走でやってきたんだけどとか、汗だくで到着したからシャワー貸してって言ったら貸してくれたのはそもそも跡部で、第一まだバスルームに来て数分かそこらなんだけどとか、神尾の言い分は言葉にする前に奪われる。
また唇を塞がれてしまって、二人がかりでシャワーを浴びながら、神尾は熱のひかない顔の熱さを持て余した。
なんだろう、この、ほんの少しも待っていられないみたいな跡部は。
がっつくようなキスに、思わず神尾はべったりと湯に濡れた跡部の肌に貼りついているシャツに指先で取り縋る。
僅かに唇と唇の合間に空間が生まれる。
終わってしまうのが嫌になるキスは止めて欲しい。
今の自分の顔は、きっと物欲しそうになっているだろうと思うと、神尾は居たたまれなくなった。
「……部活…終わって、すぐ来たんだけど…、……」
ぎゅうっと目を閉じたまま、ささやかな反抗心でもって神尾が言うと。
唇で、ちゅ、と小さく軽いキスの音が弾ける。
「遅ぇよ」
「………まだ……シャワー、ちゃんと浴びてないし…」
「だから遅ぇって言ってんだろうが」
今度は言葉の後にキスの音。
跡部の手は神尾の腿の側面を逆撫でしてくる。
やらしい手つき、と思って意識がそこに向かえば。
何だか肌が、じんと痺れてくるようで、神尾は唇を噛み締めた。
今日は自分の誕生日なのに。
さっきからずっと怒られてるってどうなんだろう。
しかもそれがほんの少しも腹が立たなくて、ある意味理不尽な跡部の物言いに、全くむかつかないのもどうなんだろう。
その上、それはもう、物凄く、凄まじく、真剣な、こんな悪態までつかれて。
「何でてめえは、朝から晩まで完璧に、全部俺様のものじゃねえんだよ」
本気で腹をたてている跡部を前に、神尾はもう、これ以上はないくらいに、赤面した。
本当に、何て事を言い出すんだこの男はと、恨めしく睨もうとしたって駄目だ。
神尾にはもうそんな事は出来ない。
「………………」
本気で苛立たしい顔を露にしてくる、それでも綺麗な跡部の顔を、シャワーの繊細な飛沫の中で見上げながら。
ここから先の自分の時間は、ちゃんと全部渡すから。
それで機嫌直してくれねえかな、と切に思い、切に願う。
神尾は今日誕生日なのだ。
だからプレゼントを欲しがったっていい筈だ。
笑っている跡部を欲しがったって、いい筈だ。
「跡部」
神尾は両腕を跡部の両肩の上に乗せ、指先で、跡部の後ろ首を、そっと包むようにする。
爪先立って、跡部の頬にキスをして、小さく口にした提案は。
あっという間に、神尾が望んだプレゼントを、神尾の目の前に、置いてきた。
それは綺麗な、とても綺麗な、笑顔だった。
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ありがとうございます!
>jenさま
こちらこそありがとうございます!
ベカミ、随分時間があいてしまって、それなのに待っていて頂けたとのお言葉に、本当にありがたく、感謝いっぱいです。
私の方こそ、頂いたお言葉大事にして、また書いていきますので、よろしくお付き合い下さいませ。
>manyaさま
いえいえそんな…っ…私がお返事遅いばかりに、すみません。
ベカミはベカミ特有の、ちょっと判りにくい、でも傍から見てたらラブラブ以外の何者でもない、そんな日常を送って行くと思います~。
>NOMAMEのかた
私も…!私もそう思います…!
ベカミは最高…!
力強いお言葉ありがとうございます~。
>あやさま
わ~、ありがとうございます!
ケンカップルは、何だかもうベカミの象徴ですよね。
二人で、ずーっと喧嘩しながら、ずーっと甘々に、幸せでいてほしいなあとしみじみ思います。
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