How did you feel at your first kiss?
正直よくぞここまでと思うくらいに、鳳の性質は真直ぐで、健やかだ。
人当たりもすこぶる良く、更にそれが上辺だけという感じがまるでしない。
物腰が丁寧で、目上への礼儀もきちんとしている。
だからといって生真面目一辺倒という事もないし、主体性がないという訳でもない。
言う事は言って、やる事はやって、協調性はあるけれど自分のペースもきちんと確立している。
雰囲気の柔らかさに紛れているが、鳳と言う男の豪胆さは相当なものだと宍戸は思っている。
今日も、それをまざまざと思い知った。
学校からの帰り道、鳳の家に寄る約束をしていた宍戸は、途中で鳳にコンビニに誘われた。
何か買うものがあるんだろうくらいにしか思っていなかった宍戸は、鳳の手に肩を抱かれて促された時、初めての違和感を覚えた。
周囲の人間に、お前達はスキンシップ過多だとよく言われるくらいなので。
肩を抱かれる事くらいは、至って普通の出来事だった。
だが、鳳の手が、少しばかり強引で。
それに宍戸は少し不審気になる。
「長太郎?」
「宍戸さん、チョコ買って下さい。俺に」
「はあ?」
そう言って、鳳が宍戸を連れてきたのは、普段よりも大分きらびやかな、お菓子売り場のラックの前だった。
そこにあるのはラッピングされたチョコレートの数々で、そして今日はバレンタインデーだ。
すでにそのラックの前にいた数人の女性達が、ちょっと怯んだように身体を引くのを目に、宍戸は溜息をつく。
それはそうだろう。
突然に、男子中学生が二人で、よりにもよっての日に、よりにもよっての場所に、陣取ってきたのだから。
「長太郎……お前な……」
「俺、今日誕生日なんです」
そんなこと知ってるよと宍戸は言葉にする気力もなく、ただ内心で呟く。
相変わらず宍戸の肩を抱いたまま、にこっと笑う鳳の笑顔は甘い。
身体も気持ちも引き気味であったであろう女性達が、即座に、ちょっとうっとりした目になるのも明らかに判るくらいだ。
「だから俺、チョコレートが欲しいです」
「………………」
この甘え上手め、と宍戸は二度目の溜め息と共に呆れた。
誕生日プレゼントにしろ、バレンタインのチョコレートにしろ、絶対に、これっぽっちも困ってなさそうな男が。
敢えてねだる言葉を紡ぐ。
この場にいる名も知らぬ女性達が、今すぐにでもそれらを買って鳳に差し出してきそうだなと宍戸は思い、自分達に集まる視線の気配に少々の居た堪れなさを感じる。
いっそ罰ゲームか何かとでも思っていてくれればいい。
だがそれも無理な提案かもしれない。
何だろう、鳳の、本気の眼差しは。
ある意味真面目な頼み事である事を隠さない。
そして、思いつきや形ばかりの望みであるとも思わせない。
「宍戸さん」
「………………」
駄目押しに。
無理かな、というニュアンスの、少し気落ちした眼で覗きこまれてしまって宍戸は落ちた。
傍目には、不貞腐れているようにしか見えないだろうけれど。
無言でラックからチョコレートを一つ取る。
華やかにラッピングされたものではなく、日常、普通に置いてある板チョコを一枚。
それだけの事なのに。
年下の男が、それはもう幸せそうに笑みを浮かべて見せるので。
宍戸はレジに足を向けながら、並んで歩く鳳の右肩の上に、自身の右手を乗せる。
少し身体を捻るようにして伸び上がり、耳元近くで声をひそめた。
「ついでに食べさせてやるよ」
「………………」
間近で見た、瞠られた目と、驚いた顔が、可愛かったから。
宍戸は満足して、今日の主役の頭を無造作に撫でてやった。
人当たりもすこぶる良く、更にそれが上辺だけという感じがまるでしない。
物腰が丁寧で、目上への礼儀もきちんとしている。
だからといって生真面目一辺倒という事もないし、主体性がないという訳でもない。
言う事は言って、やる事はやって、協調性はあるけれど自分のペースもきちんと確立している。
雰囲気の柔らかさに紛れているが、鳳と言う男の豪胆さは相当なものだと宍戸は思っている。
今日も、それをまざまざと思い知った。
学校からの帰り道、鳳の家に寄る約束をしていた宍戸は、途中で鳳にコンビニに誘われた。
何か買うものがあるんだろうくらいにしか思っていなかった宍戸は、鳳の手に肩を抱かれて促された時、初めての違和感を覚えた。
周囲の人間に、お前達はスキンシップ過多だとよく言われるくらいなので。
肩を抱かれる事くらいは、至って普通の出来事だった。
だが、鳳の手が、少しばかり強引で。
それに宍戸は少し不審気になる。
「長太郎?」
「宍戸さん、チョコ買って下さい。俺に」
「はあ?」
そう言って、鳳が宍戸を連れてきたのは、普段よりも大分きらびやかな、お菓子売り場のラックの前だった。
そこにあるのはラッピングされたチョコレートの数々で、そして今日はバレンタインデーだ。
すでにそのラックの前にいた数人の女性達が、ちょっと怯んだように身体を引くのを目に、宍戸は溜息をつく。
それはそうだろう。
突然に、男子中学生が二人で、よりにもよっての日に、よりにもよっての場所に、陣取ってきたのだから。
「長太郎……お前な……」
「俺、今日誕生日なんです」
そんなこと知ってるよと宍戸は言葉にする気力もなく、ただ内心で呟く。
相変わらず宍戸の肩を抱いたまま、にこっと笑う鳳の笑顔は甘い。
身体も気持ちも引き気味であったであろう女性達が、即座に、ちょっとうっとりした目になるのも明らかに判るくらいだ。
「だから俺、チョコレートが欲しいです」
「………………」
この甘え上手め、と宍戸は二度目の溜め息と共に呆れた。
誕生日プレゼントにしろ、バレンタインのチョコレートにしろ、絶対に、これっぽっちも困ってなさそうな男が。
敢えてねだる言葉を紡ぐ。
この場にいる名も知らぬ女性達が、今すぐにでもそれらを買って鳳に差し出してきそうだなと宍戸は思い、自分達に集まる視線の気配に少々の居た堪れなさを感じる。
いっそ罰ゲームか何かとでも思っていてくれればいい。
だがそれも無理な提案かもしれない。
何だろう、鳳の、本気の眼差しは。
ある意味真面目な頼み事である事を隠さない。
そして、思いつきや形ばかりの望みであるとも思わせない。
「宍戸さん」
「………………」
駄目押しに。
無理かな、というニュアンスの、少し気落ちした眼で覗きこまれてしまって宍戸は落ちた。
傍目には、不貞腐れているようにしか見えないだろうけれど。
無言でラックからチョコレートを一つ取る。
華やかにラッピングされたものではなく、日常、普通に置いてある板チョコを一枚。
それだけの事なのに。
年下の男が、それはもう幸せそうに笑みを浮かべて見せるので。
宍戸はレジに足を向けながら、並んで歩く鳳の右肩の上に、自身の右手を乗せる。
少し身体を捻るようにして伸び上がり、耳元近くで声をひそめた。
「ついでに食べさせてやるよ」
「………………」
間近で見た、瞠られた目と、驚いた顔が、可愛かったから。
宍戸は満足して、今日の主役の頭を無造作に撫でてやった。
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