How did you feel at your first kiss?
何か考えてるなあ、と鳳は思った。
宍戸の表情とか、気配とか、そういったものでそれを感じ取る。
そして、その何かを考えているらしい宍戸は、先程からずっと、何故か鳳を直視してきている。
「何ですか? 宍戸さん。そんなにじっと見て」
てっきり、見てねえよと荒く返されるだろうと思って、半ばわざとそんな聞き方をした鳳だったが、宍戸は否定もしないで、うーんと唸るような声を出しただけだった。
「……宍戸さん…?」
放課後立ち寄った宍戸の部屋だ。
テーブルを挟んで向き合って座っていた宍戸が、曖昧な声を出しながら四つん這いで、のそのそと鳳の所までやってくる。
ちらりと上目を放ってこられて、切れ長のきつめの瞳の綺麗な鋭さに、鳳がうっかり見惚れている隙に。
宍戸が鳳の腿に頭を乗せて、ごろりと横になってきた。
「………………」
こういう所が、本当に猫っぽい。
鳳はちょっとだけ飼い猫の事を考えつつ、それでも宍戸の方からこんな事をされた事がないので、どうしたものかと固まってしまった。
背筋も思わず伸びる。
それで身体に力が入ってしまったようで、腿の上を宍戸の手に軽く叩かれた。
「かたい」
「あ、すみません」
枕代わりにしているのだから寝心地が悪くなったのかと思って鳳は咄嗟に謝った。
「謝るとこかよ」
宍戸はと言えば何故だか笑って、そのまま仰向けになってきた。
少し伸びかけの前髪はその動きで額から零れて、笑みの気配の残る瞳が真っすぐに鳳を見上げてくる。
膝の上に宍戸がいるという、あまり物慣れない角度での彼の表情に、鳳はやはり見惚れた。
何かにつけ、鳳は宍戸を見ていると、綺麗だなと思う。
言えば宍戸は毎回本気で呆れてくるので、あまり口には出せないけれど。
それに、鳳が宍戸に見惚れるのは、綺麗だと思う事だけが理由ではなかった。
「………んー…」
「どうしたんですか、さっきから。唸ってばかりで」
こんなに一緒にいるのに。
見惚れるくらい、いつも新しい印象の表情を宍戸は浮かべる。
膝枕。
初めてだよな、と鳳はそれも改めて胸の内で思った。
宍戸の方が年上という事もあるせいか、どちらかと言えば相手に甘えるのは鳳の方で。
宍戸から、こんな風にくっついてくる事は珍しい。
髪とか触っても逃げないかな、と少しだけ危惧しながら鳳は手を伸ばした。
指先で、髪に触れると。
受け止めるその瞬間だけ宍戸は目を閉じた。
それだけの仕草がとても可愛いと、閉じられたなめらかな瞼がとても綺麗だと、鳳は思った。
自分の膝の上で寛いでいる宍戸は見ていると少し鼓動が速くなる気がした。
「どこか体調悪かったり…?」
「いーや」
もう少し明確に鳳が宍戸の髪を撫でてみても、宍戸は嫌がらなかった。
指通りのいい黒髪をそのまますき続ける。
「長太郎」
「はい」
「自分でやっといて何だけどよ」
「…はい?」
「俺じゃねえとこ見ててくんねえかな」
「……何ですかそれ」
少しだけ気難しげに提案されたから、いったい何を言われるのかと思えば。
思わず鳳は噴き出してしまった。
それこそ今になって、宍戸の首筋がうっすら赤いのも見えてしまって。
それもこれも何でだろうと思いながら鳳は宍戸の髪を撫で続ける。
「知らねえよ、俺だって」
ふてくされたように宍戸が話す先を、鳳は相槌や言葉で促していく。
「でも俺、ものっすごい今嬉しいんですけど」
「……言われなくてもそりゃ判る」
「ダダ漏れ?」
「そう」
「そっか…」
自分の機嫌が上り調子な事を自覚しつつ、鳳は宍戸の髪や頬を指先で撫でる。
自然と緩んでしまう表情で鳳が宍戸をじっと見下ろしていると、宍戸がごろりと身体の向きを変えるように寝がえりを打ってしまった。
「あれ……宍戸さん?」
「………あれって何だ、あれってのは」
「顔見えない……」
しょぼくれた声出すなと素気なく言った宍戸の首筋に、鳳は上体を倒して唇を寄せる。
「……、……っ…てめ」
鳳は笑いながら、宍戸を抱き込むようにして、自分もごろりと床に横になった。
本気の抵抗ではなかったけれど宍戸が逃れようともがくので、両腕でその抵抗ごと宍戸を抱き込んだ。
単にじゃれあっているようなものだが、宍戸は色々恥ずかしいようで。
やっぱり寝がえりを打って後ろを向いてしまう。
仕方がないので鳳は、結局宍戸の背後から、べったり甘えて貼りついた。
宍戸は怒鳴るのを止めて、何事かぶつぶつと呟き出した。
よくよく鳳が聞いてみればそれは。
「……ったく、激ダサ………どうせ気まぐれで、らしくもなく擦り寄ってくるとか思ってんだろ、お前」
「思ってないですよ。気まぐれだって俺は嬉しいし」
表情ははっきり見えないけれど、察するのは気配で充分だった。
自嘲めいた呟きを零す宍戸へ、鳳が本心からそう告げれば、無防備な首筋がまた薄紅くなった。
鳳は、宍戸のすんなりとした後ろ首に額を押し当てた。
「宍戸さんは、いつも優しくて、俺をいっぱい甘やかしてくれるので。たまには俺も、そういう風に宍戸さんに出来たらいいなって思うだけです」
「………別に優しくなんかしてねえよ」
そのつもりがなくてあんなに優しいなら、そうしようと思った時の宍戸はいったいどれだけ自分を甘やかすつもりなのだろうと鳳はしみじみ考えた。
考えたけれど、とても想像が追い付かない。
鳳の両腕には、おさまりが、良すぎるほどに良い、甘い感触が在って、それはこの状況下に一人で考え事に没頭する事がどれだけ不粋かという事を嫌という程教えてくれている。
「…………何となく、くっつきたくなったんだよ。今日は」
相変わらずどこか憮然とした言い方で宍戸が言うので、鳳はくっつくどころではない力を入れた腕で、宍戸を背後から抱き締めた。
二人でごろごろと、体温を同じに混ぜ合わせるようにしながらくっついて、言葉を交わして、寝っ転がっているだけ。
そんな日常がどれだけ贅沢か、きちんと二人で、心得ている。
「宍戸さん。一個聞いてもいいですか?」
「……何」
「その、何となく、くっつきたくなったのって、いつからですか?」
「あー……今日の昼休みくらい…」
鳳の予想なんかよりも、もっとずっと前からという宍戸の返答は。
照れるでもなく、不貞腐れるでもなく、至極あっさりとした口調で告げてこられて。
鳳は、浮かれたり喜んだりの結局そんな状態で、宍戸を抱き締める手を強くするばかり。
宍戸はそんな鳳を丸ごと受け入れて、ひたすら甘やかしてくれるばかり。
互いの間で時間は、甘くゆるく流れていくばかりだった。
宍戸の表情とか、気配とか、そういったものでそれを感じ取る。
そして、その何かを考えているらしい宍戸は、先程からずっと、何故か鳳を直視してきている。
「何ですか? 宍戸さん。そんなにじっと見て」
てっきり、見てねえよと荒く返されるだろうと思って、半ばわざとそんな聞き方をした鳳だったが、宍戸は否定もしないで、うーんと唸るような声を出しただけだった。
「……宍戸さん…?」
放課後立ち寄った宍戸の部屋だ。
テーブルを挟んで向き合って座っていた宍戸が、曖昧な声を出しながら四つん這いで、のそのそと鳳の所までやってくる。
ちらりと上目を放ってこられて、切れ長のきつめの瞳の綺麗な鋭さに、鳳がうっかり見惚れている隙に。
宍戸が鳳の腿に頭を乗せて、ごろりと横になってきた。
「………………」
こういう所が、本当に猫っぽい。
鳳はちょっとだけ飼い猫の事を考えつつ、それでも宍戸の方からこんな事をされた事がないので、どうしたものかと固まってしまった。
背筋も思わず伸びる。
それで身体に力が入ってしまったようで、腿の上を宍戸の手に軽く叩かれた。
「かたい」
「あ、すみません」
枕代わりにしているのだから寝心地が悪くなったのかと思って鳳は咄嗟に謝った。
「謝るとこかよ」
宍戸はと言えば何故だか笑って、そのまま仰向けになってきた。
少し伸びかけの前髪はその動きで額から零れて、笑みの気配の残る瞳が真っすぐに鳳を見上げてくる。
膝の上に宍戸がいるという、あまり物慣れない角度での彼の表情に、鳳はやはり見惚れた。
何かにつけ、鳳は宍戸を見ていると、綺麗だなと思う。
言えば宍戸は毎回本気で呆れてくるので、あまり口には出せないけれど。
それに、鳳が宍戸に見惚れるのは、綺麗だと思う事だけが理由ではなかった。
「………んー…」
「どうしたんですか、さっきから。唸ってばかりで」
こんなに一緒にいるのに。
見惚れるくらい、いつも新しい印象の表情を宍戸は浮かべる。
膝枕。
初めてだよな、と鳳はそれも改めて胸の内で思った。
宍戸の方が年上という事もあるせいか、どちらかと言えば相手に甘えるのは鳳の方で。
宍戸から、こんな風にくっついてくる事は珍しい。
髪とか触っても逃げないかな、と少しだけ危惧しながら鳳は手を伸ばした。
指先で、髪に触れると。
受け止めるその瞬間だけ宍戸は目を閉じた。
それだけの仕草がとても可愛いと、閉じられたなめらかな瞼がとても綺麗だと、鳳は思った。
自分の膝の上で寛いでいる宍戸は見ていると少し鼓動が速くなる気がした。
「どこか体調悪かったり…?」
「いーや」
もう少し明確に鳳が宍戸の髪を撫でてみても、宍戸は嫌がらなかった。
指通りのいい黒髪をそのまますき続ける。
「長太郎」
「はい」
「自分でやっといて何だけどよ」
「…はい?」
「俺じゃねえとこ見ててくんねえかな」
「……何ですかそれ」
少しだけ気難しげに提案されたから、いったい何を言われるのかと思えば。
思わず鳳は噴き出してしまった。
それこそ今になって、宍戸の首筋がうっすら赤いのも見えてしまって。
それもこれも何でだろうと思いながら鳳は宍戸の髪を撫で続ける。
「知らねえよ、俺だって」
ふてくされたように宍戸が話す先を、鳳は相槌や言葉で促していく。
「でも俺、ものっすごい今嬉しいんですけど」
「……言われなくてもそりゃ判る」
「ダダ漏れ?」
「そう」
「そっか…」
自分の機嫌が上り調子な事を自覚しつつ、鳳は宍戸の髪や頬を指先で撫でる。
自然と緩んでしまう表情で鳳が宍戸をじっと見下ろしていると、宍戸がごろりと身体の向きを変えるように寝がえりを打ってしまった。
「あれ……宍戸さん?」
「………あれって何だ、あれってのは」
「顔見えない……」
しょぼくれた声出すなと素気なく言った宍戸の首筋に、鳳は上体を倒して唇を寄せる。
「……、……っ…てめ」
鳳は笑いながら、宍戸を抱き込むようにして、自分もごろりと床に横になった。
本気の抵抗ではなかったけれど宍戸が逃れようともがくので、両腕でその抵抗ごと宍戸を抱き込んだ。
単にじゃれあっているようなものだが、宍戸は色々恥ずかしいようで。
やっぱり寝がえりを打って後ろを向いてしまう。
仕方がないので鳳は、結局宍戸の背後から、べったり甘えて貼りついた。
宍戸は怒鳴るのを止めて、何事かぶつぶつと呟き出した。
よくよく鳳が聞いてみればそれは。
「……ったく、激ダサ………どうせ気まぐれで、らしくもなく擦り寄ってくるとか思ってんだろ、お前」
「思ってないですよ。気まぐれだって俺は嬉しいし」
表情ははっきり見えないけれど、察するのは気配で充分だった。
自嘲めいた呟きを零す宍戸へ、鳳が本心からそう告げれば、無防備な首筋がまた薄紅くなった。
鳳は、宍戸のすんなりとした後ろ首に額を押し当てた。
「宍戸さんは、いつも優しくて、俺をいっぱい甘やかしてくれるので。たまには俺も、そういう風に宍戸さんに出来たらいいなって思うだけです」
「………別に優しくなんかしてねえよ」
そのつもりがなくてあんなに優しいなら、そうしようと思った時の宍戸はいったいどれだけ自分を甘やかすつもりなのだろうと鳳はしみじみ考えた。
考えたけれど、とても想像が追い付かない。
鳳の両腕には、おさまりが、良すぎるほどに良い、甘い感触が在って、それはこの状況下に一人で考え事に没頭する事がどれだけ不粋かという事を嫌という程教えてくれている。
「…………何となく、くっつきたくなったんだよ。今日は」
相変わらずどこか憮然とした言い方で宍戸が言うので、鳳はくっつくどころではない力を入れた腕で、宍戸を背後から抱き締めた。
二人でごろごろと、体温を同じに混ぜ合わせるようにしながらくっついて、言葉を交わして、寝っ転がっているだけ。
そんな日常がどれだけ贅沢か、きちんと二人で、心得ている。
「宍戸さん。一個聞いてもいいですか?」
「……何」
「その、何となく、くっつきたくなったのって、いつからですか?」
「あー……今日の昼休みくらい…」
鳳の予想なんかよりも、もっとずっと前からという宍戸の返答は。
照れるでもなく、不貞腐れるでもなく、至極あっさりとした口調で告げてこられて。
鳳は、浮かれたり喜んだりの結局そんな状態で、宍戸を抱き締める手を強くするばかり。
宍戸はそんな鳳を丸ごと受け入れて、ひたすら甘やかしてくれるばかり。
互いの間で時間は、甘くゆるく流れていくばかりだった。
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