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How did you feel at your first kiss?
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 跡部は絶対に時間を無駄にしない。
 ちょっと神尾の想像には難しいくらいの多忙な毎日を送っているらしいので、持て余す暇などまるでなく、退屈を覚えるなんて事もないようだ。
 かといって余裕のない慌ただしい姿なんて絶対人に見せないが、神尾が窺える様子だけ取っても、すでに常人とは違うレベルに忙しそうだ。
 これだけ色々何でも完璧にこなせたら制限ないだろうなと神尾は思う。
 そんな跡部が、何をするでもなく、先程からずっと、神尾を見ている。
 徐に手を伸ばしてきて、神尾の髪に触れながら、はっきり言ってどうでもいいことを、だらだらと喋っている。
「お前、この髪型に意味あんの?」
「…意味って何」
「いつどの状況でもこれだからよ」
 跡部の部屋のソファに並んで座って、神尾は何か距離が近いと思う度に、少し身体を引いて。
 跡部はすぐにその距離を埋めてきて。
 その繰り返しで神尾はいつの間にかソファの端の方に座っている。
 勿論跡部はそんな神尾のすぐ横にいる。
「髪は、これで、しょうがねえの!」
「ふうん?」
「分け目はここで勝手に分かれるし」
 言えばその分け目に跡部が指を伸ばしてくる。
「髪はすぐ、ぺたんってなるし」
 元からそうだから放っておけと素気なく言ってやったのに、跡部はまるで気にした風もなく、親指と人差し指に神尾の髪を一束挟んで、毛先まで滑らせてくる。
 するん、と髪の先が跡部の指から落ちる。
「………ていうか、跡部、何なんだよさっきから」
「アア?」
「なんか……くっついてくるし…! 人の事、ガン見だし!」
 敢えて気にしないようにって、突っ込まないでやってるのに!と神尾は自分でも訳が判らぬまま癇癪を起こした。
 要するに、正直な話、だんだん恥ずかしくなってきて神尾は落ち着かないのだ。
「別にいいだろ。俺がお前をどう見ようが」
「落ち着かないんだよっ」
「慣れねえなあ、お前」
 慣れる訳がないだろう!という言葉を、叫ぶ前に神尾はぐっと飲み込んだ。
 含み笑う跡部のゆるんだ気配に、物慣れないのはお前のせいだと視線に込めて睨んでやるのが精一杯。
 神尾だって知っている。
 落ち着かないのは、ドキドキするからだ。
 一緒にいる毎に、跡部が、今まで見た事のない顔をしてみせるからだ。
 楽しそうだったり、嬉しそうだったり、するから。
 時間を無駄にしない跡部が自分の横で寛いでいる。
 どうでもいい事を話して、だらだらと過ごしている。
 それが跡部にとって大事な事なんだと、言葉を使わないで思い知らせてくるから、神尾は猛烈に恥ずかしくなる。
「珍しいよな。ここまで俺に慣れねえってのも」
「………………」
 綺麗な顔で呆れてみせる。
 世の中はこの男にそんなに簡単に慣れるのかと神尾はものすごい驚いた。
 言わないけど。
「ま、お前にも一向に飽きねえけどな」
「………跡部さあ…」
「何だよ」
 神尾がちょっと声のトーンを落とすと、跡部は聞き返しておきながら、手のひらで神尾の頬をやけに丁寧に包んで軽いキスをしかけてきた。
 ふわりと落ち着いた香りがする。
「何だよ、神尾」
「………………」
「そんな顔させるようなキスしてねえだろ」
 少し不機嫌に跡部が言って、キスのせいじゃないと神尾は不貞腐れた。
 飽きるとか。
 跡部に言われると、ひやりとする。
 その時どうなるんだろう、もうこういう風にはいられないのかなと思うと、神尾は自分でも驚くくらい、しょんぼりしてくる。
「おい、」
「だから……跡部さあ…」
 ああもう自分から言いたくない。
 だからといって自分から聞きたくもない。
 だけど、言って、聞いて、心の準備というやつをしておかないと、と神尾は溜息で踏ん切りをつける。
「神尾」
 重く名前を呼ばれて、そう言えば何で跡部はこんなにおっかない顔してるんだろうと、神尾は思った。
 よくよく見ると、おっかないというより、何だか。
「てめえはもう飽きてるとか思ってんじゃねえだろうな」
「………………」
 その話は跡部じゃなかったかと神尾は首を傾げた。
 いつの間に、自分が飽きている事になっているのか。
「……それ、跡部じゃん」
「バァカ。俺は一生飽きねえよ」
「………え?」
「俺の話はいいんだよ。てめえだ、てめえ」
 ムッとしてるような。
 でもそれだけじゃない。
 あまりこれまで見たことのない表情の跡部に、突然に半ばのしかかられてしまい、神尾の身体はソファの背もたれをずるずると滑った。
「跡…部…?」
 キスに近づいてくる跡部の肩に伸ばした神尾の手は、跡部を押しやる為にではなく、取り縋るように動いた。
 肩口あたりのシャツを、両手にきゅっと握り締めると、今までしたことのないやり方で口づけられた。
「………ん…、…ん、っ、…」
 わずかに唇が離れると、とろりと唾液が零れてきて神尾は目を回した。
「え、………なん…、…ん…、んっ」
 離れて、すぐに塞ぎ直された唇で、尚、とろとろと甘ったるいキスをされて。
 うわ、と声にならない声で神尾は動揺した。
「こっちは段階踏んでやってるんだ」
「………え…?…、…」
 キスが解かれても頭がくらくらして喋れない。
 ただ跡部が繰り返し与えてくるキスに、神尾は唇をひらくだけになる。
「…っ……ぅ、ン」
「そう簡単に飽きさせてなんざ、やらねえよ」
「跡……、…」
 なんかもう、わけのわからないことになっている。
 自分のどこをどう見たら、跡部に飽きてる事になるんだと、神尾は理解不能な振る舞いばかりの王様を涙目で見上げた。
 ソファに並んで座るだけでドキドキしているのに。
 飽きるとか飽きないとか、それ以前に。
「…………心臓…止まる…かも」
「アア?」
「跡部といると早死にしそー…」
 ふざけんなとかなり本気に跡部に凄まれて。
 睨まれて。
 噛みつかれて。
「……っ…、ン」
 長いキスは、甘いキスで。
 神尾は濡れた唇から、色々なことを甘く憂う溜息を零した。
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