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How did you feel at your first kiss?
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 珍しく神尾が気難しい顔をしているので、目線だけで何だと跡部が問いかけると、床に座り込んだまま神尾はもぞもぞと動き出した。
「何か、ひりひりする……って言うか、ピリピリ?…する」
「どこが」
「背中?」
「てめえの事を俺に聞いてどうすんだ、バァカ」
「何か、とにかくこのへんが」
 ううー、と呻きながら背中に後ろ手を伸ばす神尾に呆れた溜息をつきつつ、跡部は正面からその痩躯を抱きこんだ。
 胸元に収まった神尾が着ているTシャツの襟繰りを引き、背中あたりの肌を見下す。
「あー……」
「え、なに? 何か出来てる?」
 ちょっとだけ身構えて、、飛び上るような反応を見せる神尾の様子は何かにつけ子供っぽい。
 本当に子供っぽいのだが、この身体に。
 その傷をつけたのは。
 また、その状況は。
「……そういや、噛んだんだったな」
 神尾の肌に歯を立てたのは跡部だ。
 細い首の裏側の、肩甲骨近く。
「え! 何か虫とか?」
 見当はずれの言葉を放ってくる神尾の、小さく丸い頭を跡部は叩いて憮然とする。
 虫呼ばわりされたのだから当然の反応だと思うが、神尾は神尾で怒ってくる。
「痛い!」
「てめえの記憶の有効時間は何時間だ? それとも何分か? アア?」
「な、なに怒ってんだよう!」
「この俺様を虫呼ばわりしやがって、どれだけ馬鹿だ、てめえは」
 何の事だと一瞬きょとんとした顔をした神尾だったが、跡部の指先が神尾のうなじを軽く辿った仕草に一瞬首を竦め、そこから徐々に記憶の回路が繋がったらしかった。
「あ、………跡部、かよぅ…」
 語尾が情けなく立ち消える。
 表情は声以上に判りやすかった。
「………………」
 神尾のそういう態度は、いつでも変わらない。
 怒ったり、たてついてきたり、びっくりするくらい素直だったり、どうでもいいことを恥ずかしがったり。
 案外ふてぶてしくタフでもあったり、何の躊躇いもなく、単純に可愛かったりする。
 好きにしているつもりでも、少しも思いのままになっていない感覚は、跡部にしてみればいつでも不可思議な印象のままだ。
 正面から改めて神尾を腕に抱き込んで。
 昨夜自分がつけた噛み跡に、神尾の衣服越しに跡部が唇を落とすと、神尾の身体が殊更小さく縮まった。
「………………」
 昨日もそうだった。
 力づくで抱き締めていないと、まるで制御できない感情。
 歯でも立てて噛み殺さないと正気でいられなくなるような衝動。
 それらを跡部に与えるのは、いつだって神尾だ。
 本人は全くの無自覚のようだし、説明してみたところで伝わる筈もない。
「……跡部…」
「なに緊張してんだよ」
「す、……するよ、…緊張!」
 当たり前だろと喚く身体は、今、跡部の腕の中に確かにある。
 確かにこうして、あって、抱きしめているのに。
 まだ欲しい、まだ抱きしめたい。
 力のこもる跡部の腕の中で、神尾の身体の感触は薄くなる。
 くぐもった声に名前を呼ばれて、噛みつくようなキスで返す。
 跡部は神尾の唇を塞ぎながら、抱き締める腕に力が入りすぎて、ひどく窮屈な口付けを自覚した。
 身体はぴったりと密着して、互いの隙間がなくなって、鼓動も混ざって溶ける。
「噛みつきでもしねえと、」
「………え…?」
 耐えられない。
 そんなあの一瞬の衝撃が果たして神尾に理解できるのかどうか謎だと、跡部は言葉を途中で切った。
 お前のせいだと跡部は思っているから。
 神尾に向ける口調は責める響きで。
 逆に口付けや服越しにそこを撫でる跡部の指先は丁寧で執拗になる。
 繰り返していると、神尾が喉奥で声を詰まらせて、跡部の腕の中で、とろりとやわらかい気配になる。
 それはそれで跡部の焦燥感は増すばかりだ。
 甘く落ちてきた重みに、そっとキスを終わらせる。
「………途中で、…黙んな…、ばか…」
 深いキスから逃してやった直後、もつれたような口調で神尾が悪態をついた。
 言葉は単なる虚勢のようで、実際は不安なのか、神尾はひどく落ち着かない。
 仕方がないので跡部は神尾でも判るように教えてやった。
「よすぎて、噛みつくとか抱き締めるとかしてねえと、こっちは終われない。全部お前のせいだから、ある程度痕が痛いのくらいはお前が責任とって引き受けろ」
「は……?………なん…、なに、それ……意味わかんな、っ…」
「意味が判らなくても赤くなんのかよ。…は、随分器用じゃねえの?」
 赤い頬を手の甲で逆撫でしてやると、神尾はほとんど涙目で跡部を睨みつけてきた。
「跡部が…!」
「ああ?」
「そういう、やらしい顔、するからだろ…っ…」
「……やらしい…ねえ…?」
 どんなだよ?と笑って聞いておきながら、跡部だって薄々自覚もしているのだけれど。
 自分の顔が、とりわけ神尾に充分すぎる程に効き目があることもしっているから。
 ぐっと顔を近づけて笑ってやる。
「それくらい、俺をよくしてんのは、てめえだろ?」
「み…っ…、…耳元で喋んなよっ」
「半ベソかよ」
 笑い出した自分の胸元が握りしめられた神尾の拳で叩かれるのを跡部は見下し、尚笑う。
 すっかり子供の癇癪だろう。
 これでは。
 赤い顔をして、赤い目をして、言い返したくても何も言えなくなって睨んでくる。
 その眼差しがきつければきついほど、跡部の機嫌はよくなるばかりだ。
「笑うなっ、ばかっ」
「いいだろ別に。俺がどんな顔してようが」
「よくないいぃ…!」
 これほどまでの跡部の本音の言葉と行動を前にして、いっそ強気に出れば圧倒的に勝ち目があるのは神尾の方の筈なのに。
 全くそれに気がつかない上、本来は分が悪い跡部の、全てからかいなのだと本気で思っているらしい。
 馬鹿な奴だと心底から思って、かわいくてどうにかなりそうだともうっかり思って、跡部は神尾を両腕で抱き締めた。
 相変わらず神尾は、勝っていながら負けていると思いこみ、ただひたすらに跡部の腕の中で喚いていたが。
 あいにく跡部もそこをフォローする気はなく、勝手な神尾の思い込みを、上機嫌のまま放置したのだった。
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