How did you feel at your first kiss?
宍戸の家にやってきた鳳は、家人が誰もいないにも関わらず礼儀正しく挨拶をして入ってきた。
それはいつもの事で、相変わらず律儀な奴だと宍戸は思いながら、鳳を先に自分の部屋に向かわせた。
こう暑くては何か冷たいものを持って行きたかったし、鳳には先に空調のスイッチも押しておいて欲しかったのだ。
宍戸が冷蔵庫からレモンサイダーと烏龍茶のペットボトルを取り出して、大振りのグラスを二個持って部屋に行くと、空調のききはじめた室内で、鳳が背筋を伸ばして座っている。
「長太郎、お前どっち飲む?」
「烏龍茶いただきます」
「了解」
宍戸は鳳のグラスに烏龍茶を、自分のグラスにはレモンサイダーを注いだ。
暦の上では立秋をとっくに過ぎているけれど、そんなもの何の関係ないのだと思わせるほどに毎日暑い。
お互い殆ど一気にグラスの中身を飲み干してしまう。
二杯目を注いで、漸く一息ついた頃だ。
それまで、背筋をまっすぐ伸ばしていた後輩が、じっと自分を見つめてくるのに宍戸は気づいた。
座っていたって宍戸よりも遙かに上背がある鳳からの視線が、そんな殆ど上目に近い状態になるなんて、通常ならば有り得ない。
あーあー、と宍戸は内心で思った。
これではまるで、思いっきりお預け中の犬ではないか。
聞きわけは良いけれど、甘え方も半端のない、そんな感じの。
「………………」
しょうがねえな、と宍戸は手のひらを上向きにした右手の指で、鳳を呼んでみた。
そんな仕草だけの呼びかけに、鳳はすぐさま寄ってきて。
ぎゅっと宍戸を抱き締める。
そのまま鳳の身体がずるずると下降していくので、これは相当だと宍戸は悟った。
何せあの礼儀正しい鳳が、今ではベッドに寄りかかって座る宍戸の腹部に顔を埋めて、その両手でがっちりと宍戸を拘束したまま、寝そべってしまっているのだ。
べったりと自分に張り付いてきている鳳の、少しだけ癖のある髪を宍戸が軽く叩くように撫でてやると、尚甘えるように擦り寄ってくる。
特に落ち込んでいたり苛々している感じはしなかったが、何となく鳳の様子で、多分こんな事だろうと踏んでいた宍戸は、つい笑ってしまった。
「甘ったれ」
くしゃくしゃと鳳の髪を両手でかきまぜる。
宍戸の腿の上に頭を乗せている鳳は、全く嫌がる様子がない。
どうしたよ、と宍戸が軽く言えば、鳳もまた同じくらいの気安い口調で返事をした。
「昨日から、うちの猫が冷たいんですよ」
「へえ? それで代わりに俺を構いにきたのか?………っつーか、これじゃお前が構われにきたみてえだけどな。長太郎」
宍戸にしてみればどっちだっていいので、飽きずに鳳の髪を手遊びに弄りながら、膝の上で鳳を甘やかす。
「……逆はあっても、それはないです」
鳳が溜息混じりに言って、それまで伏せていた顔を仰向けに返してきた。
「俺が冷たくしたり、お前に構わねえ時は、猫に構われにいくって事か? 逆ってのは」
「逃げられますけど」
「代わりにするからだろ。アホ」
可哀想な事すんな、と宍戸が前髪の流れた鳳の額を、ぺちりと手で叩く。
「訂正もう一つ」
「ん?」
鳳は自分の額を軽く叩いた宍戸の手を、丁寧に自分の手に取って。
指先に唇を寄せて言った。
「俺、宍戸さんに冷たくされたこと、ないですよ」
「………俺もそんな覚えはねえけどさ」
嬉しそうに鳳が笑う。
やわらかな笑みで、宍戸の膝枕で、すっかり寛ぎきって。
こんな鳳の姿を知っているのは宍戸しかいない。
指先だけでは飽き足らずに、宍戸の手のひらに唇を埋める鳳を見下ろして、こうまでべったりされてもまるっきり嫌にならないのだから不思議だと宍戸は思った。
こいつだけ特別なんだろうなあ、と一つ年下の男の顔を見下ろす。
「ま、……お前が満足するまで今日は居れば?」
「嬉しいな」
宍戸さん優しいし、気持ちいいし、と鳳は目を閉じる。
どこか幼い感じと、並はずれた大人っぽさとが共存する鳳の表情は、とても不思議で。
「………………」
ばかだなと宍戸は内心で、ひっそりと思う。
ここまで態度に出して甘える事が出来るんだったら、言葉にだって出せばいいのだ。
うまくいかない事、悩んでいる事、戸惑っている事、吐き出してしまえばいいのに。
「………………」
三年生が引退して、氷帝テニス部の新体制がスタートした。
部長は日吉になったけれど、副部長の存在しない氷帝学園のテニス部において、鳳は恐らく存在しないその役目を担っているのだろう。
数百人の部員を纏めていく事は生半可なことでは出来ない。
ましてや先代部長があの跡部とあっては、その後を継ぐ者達のプレッシャーは強いだろう。
「……目開けたら止めるからな」
鳳はもう寝ているかもしれないと思ったが、一応宍戸はそう言い置いた。
そして上体を屈めていって、鳳の眦に唇を寄せる。
キスを一つ落とす。
「…駄目ですか? 今、目開けたら」
「開けたら止める。二度言わせんな」
拗ねたような鳳の口調がおかしかったが、宍戸はわざとぶっきらぼうに即答してやった。
ちぇ、と鳳にしては相当珍しい子供じみた声が聞こえてくるから尚更だ。
「レモンサイダーと烏龍茶混ぜたら、たぶんうまくねえよな…ぁ?」
「それはまずはやってみないと」
言いつけをしっかりと守って、目を閉じたまま仰向けになって宍戸の膝に寝ている鳳の唇に。
わかったよ、と宍戸は苦笑いの形の唇を、そっと押し当てた。
それはいつもの事で、相変わらず律儀な奴だと宍戸は思いながら、鳳を先に自分の部屋に向かわせた。
こう暑くては何か冷たいものを持って行きたかったし、鳳には先に空調のスイッチも押しておいて欲しかったのだ。
宍戸が冷蔵庫からレモンサイダーと烏龍茶のペットボトルを取り出して、大振りのグラスを二個持って部屋に行くと、空調のききはじめた室内で、鳳が背筋を伸ばして座っている。
「長太郎、お前どっち飲む?」
「烏龍茶いただきます」
「了解」
宍戸は鳳のグラスに烏龍茶を、自分のグラスにはレモンサイダーを注いだ。
暦の上では立秋をとっくに過ぎているけれど、そんなもの何の関係ないのだと思わせるほどに毎日暑い。
お互い殆ど一気にグラスの中身を飲み干してしまう。
二杯目を注いで、漸く一息ついた頃だ。
それまで、背筋をまっすぐ伸ばしていた後輩が、じっと自分を見つめてくるのに宍戸は気づいた。
座っていたって宍戸よりも遙かに上背がある鳳からの視線が、そんな殆ど上目に近い状態になるなんて、通常ならば有り得ない。
あーあー、と宍戸は内心で思った。
これではまるで、思いっきりお預け中の犬ではないか。
聞きわけは良いけれど、甘え方も半端のない、そんな感じの。
「………………」
しょうがねえな、と宍戸は手のひらを上向きにした右手の指で、鳳を呼んでみた。
そんな仕草だけの呼びかけに、鳳はすぐさま寄ってきて。
ぎゅっと宍戸を抱き締める。
そのまま鳳の身体がずるずると下降していくので、これは相当だと宍戸は悟った。
何せあの礼儀正しい鳳が、今ではベッドに寄りかかって座る宍戸の腹部に顔を埋めて、その両手でがっちりと宍戸を拘束したまま、寝そべってしまっているのだ。
べったりと自分に張り付いてきている鳳の、少しだけ癖のある髪を宍戸が軽く叩くように撫でてやると、尚甘えるように擦り寄ってくる。
特に落ち込んでいたり苛々している感じはしなかったが、何となく鳳の様子で、多分こんな事だろうと踏んでいた宍戸は、つい笑ってしまった。
「甘ったれ」
くしゃくしゃと鳳の髪を両手でかきまぜる。
宍戸の腿の上に頭を乗せている鳳は、全く嫌がる様子がない。
どうしたよ、と宍戸が軽く言えば、鳳もまた同じくらいの気安い口調で返事をした。
「昨日から、うちの猫が冷たいんですよ」
「へえ? それで代わりに俺を構いにきたのか?………っつーか、これじゃお前が構われにきたみてえだけどな。長太郎」
宍戸にしてみればどっちだっていいので、飽きずに鳳の髪を手遊びに弄りながら、膝の上で鳳を甘やかす。
「……逆はあっても、それはないです」
鳳が溜息混じりに言って、それまで伏せていた顔を仰向けに返してきた。
「俺が冷たくしたり、お前に構わねえ時は、猫に構われにいくって事か? 逆ってのは」
「逃げられますけど」
「代わりにするからだろ。アホ」
可哀想な事すんな、と宍戸が前髪の流れた鳳の額を、ぺちりと手で叩く。
「訂正もう一つ」
「ん?」
鳳は自分の額を軽く叩いた宍戸の手を、丁寧に自分の手に取って。
指先に唇を寄せて言った。
「俺、宍戸さんに冷たくされたこと、ないですよ」
「………俺もそんな覚えはねえけどさ」
嬉しそうに鳳が笑う。
やわらかな笑みで、宍戸の膝枕で、すっかり寛ぎきって。
こんな鳳の姿を知っているのは宍戸しかいない。
指先だけでは飽き足らずに、宍戸の手のひらに唇を埋める鳳を見下ろして、こうまでべったりされてもまるっきり嫌にならないのだから不思議だと宍戸は思った。
こいつだけ特別なんだろうなあ、と一つ年下の男の顔を見下ろす。
「ま、……お前が満足するまで今日は居れば?」
「嬉しいな」
宍戸さん優しいし、気持ちいいし、と鳳は目を閉じる。
どこか幼い感じと、並はずれた大人っぽさとが共存する鳳の表情は、とても不思議で。
「………………」
ばかだなと宍戸は内心で、ひっそりと思う。
ここまで態度に出して甘える事が出来るんだったら、言葉にだって出せばいいのだ。
うまくいかない事、悩んでいる事、戸惑っている事、吐き出してしまえばいいのに。
「………………」
三年生が引退して、氷帝テニス部の新体制がスタートした。
部長は日吉になったけれど、副部長の存在しない氷帝学園のテニス部において、鳳は恐らく存在しないその役目を担っているのだろう。
数百人の部員を纏めていく事は生半可なことでは出来ない。
ましてや先代部長があの跡部とあっては、その後を継ぐ者達のプレッシャーは強いだろう。
「……目開けたら止めるからな」
鳳はもう寝ているかもしれないと思ったが、一応宍戸はそう言い置いた。
そして上体を屈めていって、鳳の眦に唇を寄せる。
キスを一つ落とす。
「…駄目ですか? 今、目開けたら」
「開けたら止める。二度言わせんな」
拗ねたような鳳の口調がおかしかったが、宍戸はわざとぶっきらぼうに即答してやった。
ちぇ、と鳳にしては相当珍しい子供じみた声が聞こえてくるから尚更だ。
「レモンサイダーと烏龍茶混ぜたら、たぶんうまくねえよな…ぁ?」
「それはまずはやってみないと」
言いつけをしっかりと守って、目を閉じたまま仰向けになって宍戸の膝に寝ている鳳の唇に。
わかったよ、と宍戸は苦笑いの形の唇を、そっと押し当てた。
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