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How did you feel at your first kiss?
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 もしも、ほんの少しでも。
 本当に、本当にほんの少しであっても、普段と違う態度を見せられたら、相手を蹴り飛ばしてでもここから逃げ出してやろうと観月は思っていた。
 自分の上にいる男。
 自分を組み敷いているこの男が、怖い訳じゃない。
 これから始まろうとしている行為が、不安な訳でもない。
「観月」
 少し荒れた声は、しかし急かさずに、穏やかに観月の名前を呼んでくる。
 赤澤の声。
 それがもし、今のこの場だからだと作られたような甘さだったら、絶対蹴り飛ばしているのにと観月は歯噛みした。
 確かに甘く、この上なく優しい赤澤の声。
 それは腹が立つくらい、本当に、普段通りの声だった。
 いつだって、赤澤は観月の名前を口にする時、こういう声を出す。
「………………」
 赤澤が近づいてくる。
 彼の手のひらが観月の頬を撫でてくる。
 観月は目を閉じた。
 距離が近くとも、恐怖や緊張は、まるでない。
 この空気は通常の自分達のものだ。
 髪に、唇が寄せられる。
 仰向けに寝ている観月の肩を、赤澤がもう片方の手のひらに包んで、そっと撫で下ろしていく、そんな仕草も。
 全部。
 全部、全部。
 特別なものではなく、いつもの赤澤の手つきだった。
 当たり前の普段と何ら変わりない自分達。
「………………」
 ここにきて漸く、観月は赤澤に過剰に気を使われたり、勝手に心配されていない事が判って、ほっと息をついた。
 細く息を吐く。
 そういう意味では、もしかすると、観月も緊張していたのかもしれない。
 意識していたのは自分の方だったかと、あまり認めたくないような事を素直に認めて、観月はそれまでずっと閉じていた目をひらいた。
 それと殆ど同時に、ここ最近で習い覚えたキスが、唇に落ちてくる。
 目を開けたまま受け止めた観月は、間近に見えた赤澤の睫毛の長さにどきりとした。
 そんな事、これまで気にした事なんかなかったのに。
「………………」
 唇はふんわりと重なって、離れないまま角度が変わる。
 ゆっくりと隙間を埋められていくように、キスで唇が塞がれ、互いが密着していく。
 テニスをしている時の赤澤からすると信じられないくらい繊細で丁寧な行動だけれど。
 今この時だからと特別にやり方を変えている訳ではない事を観月はもう知っているので、腕を持ち上げて、指先を赤澤の髪の中へと埋めた。
 片手では心もとなくて、もう一方の手も。
 両手で、赤澤の頭部をかき抱くようにして自分から唇をひらくと、赤澤の舌を含まされた。
 熱さと生々しさとを同時に感じて、身体が震える。
 赤澤には普段と違う何か特別なような態度を決してとられたくなかったのに、そんな観月自身がいつもとは違う事ばかりをしてしまっている。
 赤澤を抱き寄せる事も、自ら唇をひらく事も、キスに震える事も。
 今頃になって観月は目の奥が熱くなってくるのを感じた。
 それが羞恥なのか、興奮なのか、不安なのか、動揺なのか。
 何故か観月には判らなかった。
 判らないキスの続きが、そこから先の出来事が、ひどく特別な事になっていくのかもしれないと、急に気づいて観月は狼狽する。
「観月」
 解かれたキスの後。
 はっきりとした声に呼びかけられ、意識するより先に、ぎくりと観月は身体を竦ませた。
 ここまできて怖気づいた訳ではないが、今、自分が明らかな躊躇を覚えたのは事実だったからだ。
 そんな自分に赤澤が何を言い出すのか正直見当もつかず、観月はこの上なく頼りない気持ちで赤澤を見上げた。
「………………」
 見上げた赤澤の表情は、やはり普段と何も変わらない。
 目が合うと、いつものように、彼は笑って。
 それから赤澤は、甘えるように観月の肩口に顔を埋めてきた。
 唇に笑みを刻んだまま、本当に、甘えるみたいに擦り寄ってくる。
 観月はちょっと驚いた。
 こういう赤澤は、初めてかもしれない。
「……赤澤…、?」
 まだ彼の髪へと埋めていた指先で、無意識に、観月は赤澤の頭を抱き寄せるようにした。
 赤澤からの接触は、全く躊躇われず、何だか全部を、自分に預けてきたかのように観月には思えた。
 観月は少し赤くなった。
 今の、この赤澤を抱きとめている自分の腕。
 まるで恋人に対する包容力だと思うと、自分はいったいいつの間に、こんなにも赤澤を好きになったのかと息をのむ。
「観月ー……」
「………なんですか」
「好きだ」
「………………」
 知ってます、と内心で応えて、観月は赤澤の頭を両手で大切に抱き締めた。
 好きになればいいのだ。
 もっと好きになって、ずっとこうやって甘えて、自分に溺れればいい。
 まるで願うみたいにそう思う。
 こんな欲求が自分の中にあった事を、観月は今日、初めて知った。
「………だったら」
 好きと応える代わりに。
 観月は赤澤を抱き締めながら、命じる。
「早く貴方のものにしなさい」
 この恋のために、とにかく早く。
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新作、嬉しいです!
こんにちは、初めてコメント送らせていただいます。
新作UP、ありがとうございました。密かに新作を待っていたのでとても嬉しいです!

昨年末に何を今更ですがテニプリにはまり、あちこちのサイトを巡った末にこちらにたどり着きました。
直美さんのSSは品があると思います。読み飛ばさずゆっくりじっくり何度も繰り返し読みたくなる文章で、大好きです。

もともとは鳳宍が好きだったのですが、こちらに通うようになってからはどのCPもいいなぁと思うようになりました。中でもベカミが(二人とも)可愛いですね!

直美さんが書く赤澤っていつも自然体ですよね。優しいし、包容力ありそうで、すごくいい男って感じがします。こんな赤澤に惚れられている観月は幸せ者だ…

manya 2012/08/04(Sat)01:23:10 編集
ありがとうございます!
manyaさま
初めまして。コメント書き込んで下さってありがとうございます!
もう、舞い上がってしまいそうなお言葉をたくさん頂いてしまって…!
本当にありがとうございます。
テニプリに新しくはまられたとのことで、そのこともとても嬉しく思います~。私もやっぱりテニプリが大好きなので!
たくさんのサイトさんがある中で、こうして出会うことが出来ました事にも、ただただ感謝です。
私はテニプリで一番最初に書いたCPが鳳宍で、テニプリ界で一番王子様だと思っているのが長太郎なのですが、好きなキャラがいっぱいいて、そうして書いたベカミや赤観も読んで頂けて本当に嬉しいです。
昔は赤澤には夢見がちかな…なんて思ってましたが、今は本気で、彼の包容力を信じています。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
直美 URL 2012/09/13(Thu)22:18:59 編集
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