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How did you feel at your first kiss?
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 鳳の家のバスタオルのサイズはどれもかなり大きい。
 それは例えば鳳の背の高さにあわせたものかと宍戸は最初思ったのだが、どうやら鳳家のバスタオルは全て同じメーカーのもので統一されているようだった。
 それもとびきり高級であろう代物だ。
 ただサイズが大きいだけでなく、毛布並みのあまりにも贅沢な手触りは、分厚く柔らかく心地良かった。
 バスタオル専用のクローゼットに整然としまわれている様子を目にしてしまえば尚更だ。
 今日も宍戸がバスルームから出るといつものバスタオルが用意してあった。
 最近すでに馴染みつつある、でもいつでもしみじみと気持ちのいいそれに宍戸は包まるようにして、バスルームとほぼ直結している鳳の部屋に向かった。
 どういう家の造りだと宍戸は思うが、鳳に言わせると二階のバスルームはゲスト用だから狭いでしょう?と至って控えめな事を言う。
 確かに広くはないが、別に狭くもない。
 殆ど鳳の専用になっているらしい。
「………………」
 宍戸はバスタオルに包まったまま鳳の部屋に行き、そこに部屋の主がいないので、多分下で飲み物を用意しているのだろうとあたりをつけた。
 甲斐甲斐しい事この上ないのだ。
 宍戸はそのままベランダに出た。
 一人掛けの大振なラタンのチェアに座り、足も座面に引き上げて丸まって寄りかかる。
 湯上りに外気がちょうどよかった。
 十一月になったというのに、日中は毎日二十度を越えてやけに暖かい。
 日も暮れればさすがに気温は下がるけれど、今の宍戸には少し涼しい風が丁度良かった。
「宍戸さん…!」
「…おう」
 しかし鳳は、血相変えてベランダに現れた。
 多分そういうリアクションをとってくるだろうと宍戸は思っていたので、図らずともその唇には苦笑いが浮かんでしまう。
 案の定鳳は宍戸を叱り付けてきた。
「なんて恰好でこんな所にいるんですか!」
「お前んちのバスタオルに包まってたら別に平気だろ」
 実際顔だけしか出ていないくらい、宍戸が身体にしっかりと巻きつけたバスタオルは、寧ろまだ余裕がある程だ。
 バスローブの上から更にガウンを羽織っているくらいの感触なのだ。
「駄目ですよ! 風邪ひいたらどうするんですか」
 鳳がラタンのチェアの脇に立って、手を伸ばしてくる。
 長い指が宍戸の髪に差し込まれてくる。
「髪まだ濡れてるじゃないですか」
「じゃあお前がかわかして」
「あのねえ、宍戸さん」
「………………」
 もう、と深い溜息をつきながら。
 宍戸が黙って動かないでいると結局鳳は折れて、部屋に行き、そうしてすぐにベランダに戻ってきた。
 手にはドライヤーを持っている。
 屋外用の電源がベランダにはちゃんととられていて、鳳はそこにコンセントを差し込むと宍戸の背後に立った。
 宍戸の髪に温風をあてながら、手ぐしで丁寧に髪をかわかしてくる。
 今は宍戸の髪は短いから、昔のようにドライヤーを使わなくてもすぐにかわくのだが、鳳の手が気持ちいいので時々こういう事をさせている。
 鳳に言わせればさせて貰っているという事らしいが。
「もうこれ片した方がいいですかねえ…」
「何でだよ」
 ドライヤーの音に飛ばないように、声を少し大きくして会話を交わす。
 目線は合わないけれど、宍戸には鳳の表情がリアルに想像出来た。
 さぞや真面目に困ったようにひとりごちているのだろう。
「宍戸さんが、ここ気に入ってくれてるのは嬉しいですけど、冬になってもこんな事されたらと思うと気が気じゃないです」
「いくら俺でも冬の寒い中やんねーよ」
 すっぽりと身体を受け止めるようなラタンのチェアに寄りかかって、シャワーの後にここで冷たい飲み物をよく飲んだ夏はもう過ぎてしまった季節だ。
 外部から見られないように作られているらしい鳳の部屋のベランダが、確かに宍戸は気に入っている。
 今みたいに鳳の手に髪をすかれながらドライヤーでかわかされている状態が、どれだけ贅沢なのかも判っている。
「はい。できました」
 ドライヤーのスイッチが切られる。
 急に場が静かになる。
「涼しくなってきた」
「入りましょう。中に」
 鳳の促しに、宍戸は今度はおとなしく従った。
 チェアから足を下ろして、バスタオルに包まったまま鳳の後ろを歩く。
「なあ、長太郎」
「はい?」
「お前この後、俺抱くか」
「抱きたいよ」
 先を歩いている鳳が、まるで見えてでもいるかのように後ろ手で宍戸の指先を手繰り寄せる。
 指と指が浅く絡む。
「……ストレートだなぁ。お前」
「宍戸さんにそれ言われても」
 鳳は笑っていた。
 部屋に入るなり、締めたガラス戸に宍戸は背を押し当てられる。
 まだあたたかい髪に鳳は唇を埋めてきて、気分じゃない?と問いかけてきた。
 宍戸は不服も露に呟いた。
「……こっちの台詞だっての」
「どうしてですか」
「お前、全然普通のツラしてただろ」
「全然普通って事は全然ないです」
 真顔の鳳が断言した物言いを、判りづれぇ、と宍戸は眉を寄せて返す。
 鳳がひどく丁寧にそれを否定してきた。
「俺は判りやすいですよ。宍戸さん。こんなに」
「………………」
 長い両腕が、バスタオルごと宍戸を身包み抱きすくめてくる。
「………………」
 厚手のタオル地越しであっても、鳳の体温は滲むように温かかった。
 無意識に宍戸の方からも身体を預けていて、鳳の腕の力が煽られたように更に強くなった。
 宍戸の項に鳳は頬を寄せて、低い声で囁いてくる。
「やっぱり冷えてる」
「………………」
「早く何か着ましょう。宍戸さん」
「いらね…」
「いらないことないでしょう。これに包まったまま眠る気ですか」
 バスタオルの上から背中を数回軽く叩かれる。
 何かあったかい飲み物持って来るからその間に着替えて、と宍戸は鳳に耳打ちされた。
 鳳の肩の向こう、机の上にミネラルウォーターのボトルが見えている。
 おそらく冷えたものを鳳は持ってきたのだろう。
 今度は温かい飲み物を持ってくるという。
 その間にパジャマを着ろという。
 そんな鳳に、宍戸は不満たっぷりに溜息を吐き出した。
「どうしてそう着せたがるかな。服」
「…はい?」
「やっぱ抱かねえんだろ」
 結局そういうことだろと宍戸が告げると、それこそ宍戸が溜息に込めた不満を遥かに上回る嘆息が鳳から返された。
「何言ってるんですかねえ…この人はもう…」
「………生意気言うな。アホ」
「宍戸さんの身体見てると自分でもどうしようもなくなるから、無闇に煽らないでって俺はお願いしてるのに」
 だいたい無闇矢鱈に飛び掛られたら嫌でしょうと鳳が重々しく呟いてくる。
「何で。やれよ」
「…………そんなに信頼…というか、安心されてるとすごい複雑なんですけど」
「信頼はしてるけど、安心なんかしてねえよ」
 鳳は時々、こんな風に自身の激情を危惧する言葉を口にする。
 確かに時折、こと宍戸絡みで、それは表面化するものでもあるのだけれど。
 宍戸は両腕を持ち上げて、広い背中を抱き返した。
「……俺は、お前の好きにされんのが好きなんだよ」
 ぐっと、背筋が反るほど抱き竦められる。
 宍戸が囁いたのと同時にだ。
「長太郎」
「…………降参」
 呻くような声音に宍戸は小さく笑った。
「粘ったなぁ…お前」
「何言ってるんですか。ちょろすぎるって、また向日先輩達でももしここにいたら絶対言われてますよ」
「手こずらせんじゃねえよ」
 宍戸は身体を包んでいたバスタオルを肩から落とした。
 笑った形のままの唇を、すぐに鳳に塞がれる。
「……、……ン……」
 湯上りに極上の大判タオルで身体を包む心地良さを更にもっと上回ってくる感触で。
 全身を、直接、抱きこまれた。
 足元に完全に落ちたバスタオルは、宍戸の身体の湯を吸い取ったけれど。
 今宍戸の肢体を包むものは、逆に宍戸の肌を温かく濡らし出す。
 舌を奪われながら素肌を熱い手にまさぐられ、そんなイメージを体感しながら。
 宍戸は鳳の腕の中でゆるく濡れていった。
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