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How did you feel at your first kiss?
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 しちゃったんだなあと神尾はぼんやり考えた。
 最中しがみついていたのと同じ力で、終わって落ちてきた跡部を抱きとめた。
 濡れた、熱い、固い背中を抱きしめた。
 跡部がゆっくりと繋がっていた箇所を解いてきて。
 その間きつい口付けに唇を塞がれていて。
 引き出されていく感触にきつく目を閉ざす。
 しきりに跡部の手のひらに頬を拭われたので、神尾は自分が散々に泣いている事をその所作で知ることになった。
 唇が離れて、繋がっていた箇所も解けた。
 長い事ものすごい状態にさせられていたせいか、何だか股関節の辺りが少しずれたような、おかしな感じがする。
 腰の辺りも重だるい。
 少し身じろぐだけで、体内で今日初めて神尾が知った感触が生まれては消えていく。
 跡部の通った経路。
 燻る火種が小さく爆ぜているかのような余韻をずっと灯している。
 首筋、喉の辺りが微かにひりついて、神尾はその箇所に自分の指先を伸ばしたのだが、神尾が触れるより先に跡部がそこに唇を寄せてきた。
 正確には喰らいつかれた。
 神尾が覚えたひりつきの、それよりもっときつい感触。
 原因はこれかと神尾は気づいた。
 痛むほどに、強く固執されて。
 喉元に散らされていく、恐らく幾つもあるであろう痕のせいだ。
 目を閉じて、小さく息を飲んで。
 喉を吸われる生々しい感触に。
 自分を組み敷く男に。
 ヴァンパイヤかお前はと、神尾は頭の中だけで唱えた。
 息が上がる。
 くらくらする。
 本当に血でも吸われているみたいだ。
「泊まっていくだろうな」
「…んで…凄むんだよ…」
 神尾の喉元に食いつくようなキスを繰り返してきた跡部が、漸く顔を上げたかと思ったら、言ったのはそんな言葉だ。
 神尾は思わず苦笑いしてしまった。
 初めてしたっていうのに。
 何で終わった後の方が、こんな。
 余裕もないような凶暴な顔をするのか。
 跡部は濡れた唇を舌でも舐めながら、神尾を強く見据えてくる。
 卑猥な事この上ない。
「無理矢理足腰立たなくさせてもいいんだぜ?」
「……だ、から…どうして跡部はそういうこと言うんだよ」
 もう多分足腰立たないとは神尾も言わない。
 それにしたって。
「………………」
 跡部は片眉を器用に跳ね上げて尊大な目つきで神尾を見下ろした。
「水取ってくるからな。逃げんじゃねえぞ」
「……ど、…やって逃げんだよ…こんなんで…っ」
 神尾が真っ赤になって叫ぶと、漸く跡部は笑った。 
「いいな。待ってろよ」
「……だから…ー…」
 何言っても駄目か。
 それともまさか本気で逃げるとか何とか、心配していたりするのだろうか。
「………………」
 ベッドから降りた跡部が、床に落としてあったシャツを羽織っている。
 振り返ってきて、神尾を流し見た上で見下ろして。
「俺の飲み残りならやるよ」
 いらねえよ、ばーか、と。
 神尾は小さく呟いた。
 聞こえていたのかいないのか、跡部は応えずに部屋を出て行った。
 神尾はベッドの上で丸くなる。
「………………」
 見送った跡部の背中。
 いろんな意味でドキドキした。
 ベッドの上で小さく小さくなって。
 血液が煮えているような何ともいえない熱さにまみれながら、神尾はひとしきり跡部の事を考えた。
 そして、ふと気づいた事があった。
「………ひょっとして…」
 もしかして。
「跡部…機嫌いいのかな…」
 実際口に出して呟いてみると、妙に気恥ずかしくなった。
 初めてした。
 だから?と神尾は指先を手のひらに握りこむ。 
 指の先まで、じんわり甘く幸せな感じが詰まっている。
 神尾は仰向けになって、だるい腕を持ち上げた。
 高い天井を飾る照明に左手を翳す。
「………………」
 指の縁と爪先がほんのり赤みを帯びている。
「何やってんだ」
「ん……?」
 戻ってきた跡部が神尾のその手を取った。
「………………」
 びっくりするほど優しい仕草だった。
「んーと……なんてゆーか……予期せぬ幸運だなーって思ってた」
 最中は、神尾には何が何だか判らない事の方が多かったのだけれど。
 正直、結構しんどい思いもしたのだけれど。
 でも今、こんなにもふわふわと神尾は甘く幸せだ。
「転がってきたのはお前だろ」
 ひとりごちた跡部の言葉に目を瞠る。
「俺?……じゃあ、俺って跡部の幸運?」
「さあな」
「はあ? さあなって何だよ、さあなって!」
 嘯くように肩を竦めた跡部がベッドに片膝で乗り上げてくる。
 神尾の手はとったままだ。
 じっと跡部を見上げた神尾は、跡部が持って来たミネラルウォーターのキャップを口で開ける様を見て、凶暴のようで粗野に見えない不思議な男だと思っていた。
「………………」
 食いちぎるように噛んだキャップ。
 手にした親指で回転させてキャップを外し、ミネラルウォーターを喉を反らして飲んだ跡部が、ボトルをベッドヘッドに置き、神尾の顔の両脇に手をついて屈んでくる。
 水を含んだ唇が下りてくる。
 重なる。
「………………」
 重なったキスはひんやりしていた。
 神尾の口腔に入ってきた水は、互いの唇をくぐってぬるまっていた。
 それがやわらかく喉に流れてくる。
「………飲み残りって、…こういうの言うんだっけ…?」
 これは単に口移しなんじゃと神尾は赤くなっているのを眺めるようにしながら、跡部は数回それを繰り返した。
 あんな泣くから水分欠乏するんだとか言いながら。
 何度も何度も水を含んでキスをしてきた。
「……ん………」
「………気持ち良さそうなツラしてんじゃねえよ」
 今のがいいみたいな顔すんなと跡部に凄まれたけれど。
 そんな比べるみたいなこと言われても神尾には判らない。
 全部全部跡部は跡部だ。
「……跡部…」
 もう水はなく。
 ただキスだけを交わすさなかに神尾が呼べば、色素の薄い綺麗で怖い男が目線で問い返してくる。
「あのよぅ……」
「…何だ」
「今日…泊めてくんない…?」
 冗談じゃなく本当に立てない。
 普通こんなになるものなのかどうか、神尾は知らないけれど。
 だからこそおずおずと言ったというのに、何故か跡部は目つき悪く凄んだうえに、神尾の耳を引っ張ってきた。
「…っ…た…!……痛い…! なにすんだよっ」
「何を聞いてやがんだこの耳は。お飾りか!」
 この期に及んでまだ帰る気でいやがったのかと跡部が怒鳴るので。
 だから泊めてって言ってんじゃんと神尾は必死に応酬した。
「完璧に足腰立たなくしてやる」
「…っ…もうなってんだけどっ!……うわ…、…っ…跡部…っ」
 本気で眼の据わった跡部に神尾は本気で慌てた。
 ベッドの上でじたばたと暴れては押さえつけられ、キスされて、また喉元に食いつかれ、吸われて。
「……ぁ…とべ…ー……」
「………泣くんじゃねえよ。このくらいで」
「…じゃなくて……じゃなくてさ、…跡部」
「……何だ」
 髪を撫でられる。
 そういえば跡部が入ってくる間もずっと。
 こうされていた事を神尾は思い出した。
 何が言いたいのか判らなくなって、言いかけていた言葉も忘れて、でも今神尾の思考いっぱいを埋めた感情は。
「………………」
 神尾は両手を伸ばした。
 跡部の両頬を支え、少し跡部を引き寄せて、少し自分から仰のいて。
 きれいな色をした唇にキスをした。
 神尾の手のひらが温かくなった。
「好きだよ。跡部」
 じっと見つめて、神尾は告げた。
 跡部は何も喋らなくなった。
 ただ神尾を見つめて、その両腕で。
 神尾の背がベッドから浮き上がる程に強く、抱き竦めてくる。
 強く。
 きつく。
「跡部……」
 苦しくて嬉しくて愛しくておかしい。
「跡部」
 何も喋らなくなった男の、しかし何より雄弁な抱擁に。
 神尾は雁字搦めにさせられて、その拘束の甘さにほっと息をついた。
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