How did you feel at your first kiss?
この週末、跡部の家に泊まりに来た神尾は、もっか跡部の目の前でおにぎりを握っている。
日曜の朝の事だ。
俺それしかつくれねえもんと、数日前の電話口で何故か威張って言っていた神尾は、しかし現在跡部が思っていたよりも危なげない手つきで白米を握っていく。
跡部はその様子をじっと見ていた。
電話で話したのは金曜日の事。
お前何でもいいから日曜のメシ作れと言った跡部に。
神尾は、じゃあおにぎり作るぜ、と返してきたのだ。
天気悪いから非常食っぽくてぴったりじゃんなどと言いながら、ひどい雨の日曜日、こうしてせっせと神尾は跡部の家の広いキッチンでおにぎりを作っていく。
「……ちいせえ手」
「別に小さくねえよ」
「ちいせえよ。こいつだって小さいだろうが」
立っている神尾の隣に、スツールを引っ張って座っている跡部は。
神尾の手と、次々並べられていくおにぎりとを、交互に見やった。
きちんと三角形をしているけれど、とがった角のないおにぎりは小さめで、丁寧だ。
「おい。違うのも握れよ」
「えー。塩むすびが一番うまいんだぜ」
「そりゃ病人食だろ」
「はあ? 病人食はお粥だよ。なんで塩むすびが病人食だよ」
ヘンな奴、と眉根を寄せる神尾は、跡部の指摘通り、塩むすびしか作らない。
どんどん数が増えていくのに、全部塩だ。
「おい。食ってやるからこれも握れ」
「へえ……跡部、明太子好きなんだ」
「別に好きじゃねえ」
たまたま家にあったんだと跡部は憮然と言って。
桐箱に入っている明太子を神尾に突き出した。
「明太子好きならさー」
「人の話聞け、てめえは。別に好きじゃねえって言ってんだろうが」
「今度さ、持ってきてやるよ。うまいのあんだよ。橘さんがくれたんだ。九州から取り寄せてるんだって」
「……ぜってー食わねえからな」
「なんでー! うまいって言ってるだろ」
跡部は最初、神尾のことを短気で子供っぽい奴だと思った。
その見極めはあながち間違ってはいなかったけれど、それだけではなかった。
短気なようで、おおらかだ。
子供っぽいようで、面倒見がいい。
「この明太子もすっごいうまそうなー」
この作業の何がそんなに楽しいのか、にこにこ笑いながら、跡部の要望通りに明太子のおにぎりも作って並べていく。
神尾の手が握る小さめのサイズの食べ物。
神尾は、性格が大雑把なようでいて、案外それだけとも限らないらしい。
おにぎりの大きさがどれも殆ど同じなのだ。
「おい。神尾」
「ん?」
「腹減った」
「…………へ…?」
跡部が憮然と言った言葉に、神尾が話しながらも一度も止めなかった手をぴたりと止めた。
「何だ、そのツラ」
「だって…跡部が…そういうこと言うの初めて聞いた」
「…………………」
もしかしてうまそう?と神尾の表情いっぱいに笑顔が浮かぶ。
だから。
いったい何がそんなに。
楽しいんだ、嬉しいんだと、跡部は嘆息する。
神尾のことは、跡部には、いつも判らないことだらけだ。
だがそれが、不快と思った事は一度もなかった。
それもまた跡部には不思議で。
「出来たぜー、跡部」
大きな竹笊に、ぎっしりと。
並べられたおにぎり。
神尾は手を洗いながら、スツールに座る事で視線の角度が逆転した跡部を見下ろしてまた笑う。
「おにぎりが、こうやっていっぱいあるとわくわくするよな!」
「しねえよ」
「しろよ!」
「うまそうだとは思うがな」
跡部のそんな言葉で。
それだけの返事で。
神尾がまた笑みを深め、笑顔を全開にするから。
楽しくて、嬉しくて、どうしようもないという顔をするから。
「神尾。部屋行くぞ」
「部屋で食べんのか?」
外は雨。
大雨だ。
そしてそれこそ山のように竹笊にはおにぎり。
そう、まさに非常食。
「腹減ったらこれ食ってろ」
跡部はスツールから立ち上がる。
竹笊を片手に持って先に立つと、神尾がすぐに後をついてきた。
「食ってろって、作ったの俺だぜ」
「俺も食う」
そうすぐ付け加え、ちらりと背後を流し見れば、跡部の視線の先で。
神尾が面映そうな、はにかむ顔をしているから。
跡部も微かに笑った。
部屋につき、跡部は言った。
「外、雨だろ」
「うん……すごい雨だな」
窓ガラスをしぶかせている水滴。
「メシはここだ」
「……うん?」
竹笊をテーブルの上に置く。
「だからこれで今日は一日中」
そして神尾の腕を引き、もろとも。
「……、…っ……あ…とべ、?」
もろとも、ベッドへ。
なだれこむ。
そうして跡部は、神尾の両手首をシーツに押さえつけ、組み敷いて。
「一日中」
「………っ…」
それこそ楽しくてどうしようもない事を隠さぬ笑みで神尾を見下ろし、神尾の顔を真っ赤にさせた。
「…、……跡…部…?」
小さな小さな声を吸い取った。
浅く重ねた唇の合間で囁いた。
「悪かねえだろ」
「………跡部…、」
繰り返せば、神尾は赤い顔で、頷いた。
悪くないだろうこんな休日。
日曜の朝の事だ。
俺それしかつくれねえもんと、数日前の電話口で何故か威張って言っていた神尾は、しかし現在跡部が思っていたよりも危なげない手つきで白米を握っていく。
跡部はその様子をじっと見ていた。
電話で話したのは金曜日の事。
お前何でもいいから日曜のメシ作れと言った跡部に。
神尾は、じゃあおにぎり作るぜ、と返してきたのだ。
天気悪いから非常食っぽくてぴったりじゃんなどと言いながら、ひどい雨の日曜日、こうしてせっせと神尾は跡部の家の広いキッチンでおにぎりを作っていく。
「……ちいせえ手」
「別に小さくねえよ」
「ちいせえよ。こいつだって小さいだろうが」
立っている神尾の隣に、スツールを引っ張って座っている跡部は。
神尾の手と、次々並べられていくおにぎりとを、交互に見やった。
きちんと三角形をしているけれど、とがった角のないおにぎりは小さめで、丁寧だ。
「おい。違うのも握れよ」
「えー。塩むすびが一番うまいんだぜ」
「そりゃ病人食だろ」
「はあ? 病人食はお粥だよ。なんで塩むすびが病人食だよ」
ヘンな奴、と眉根を寄せる神尾は、跡部の指摘通り、塩むすびしか作らない。
どんどん数が増えていくのに、全部塩だ。
「おい。食ってやるからこれも握れ」
「へえ……跡部、明太子好きなんだ」
「別に好きじゃねえ」
たまたま家にあったんだと跡部は憮然と言って。
桐箱に入っている明太子を神尾に突き出した。
「明太子好きならさー」
「人の話聞け、てめえは。別に好きじゃねえって言ってんだろうが」
「今度さ、持ってきてやるよ。うまいのあんだよ。橘さんがくれたんだ。九州から取り寄せてるんだって」
「……ぜってー食わねえからな」
「なんでー! うまいって言ってるだろ」
跡部は最初、神尾のことを短気で子供っぽい奴だと思った。
その見極めはあながち間違ってはいなかったけれど、それだけではなかった。
短気なようで、おおらかだ。
子供っぽいようで、面倒見がいい。
「この明太子もすっごいうまそうなー」
この作業の何がそんなに楽しいのか、にこにこ笑いながら、跡部の要望通りに明太子のおにぎりも作って並べていく。
神尾の手が握る小さめのサイズの食べ物。
神尾は、性格が大雑把なようでいて、案外それだけとも限らないらしい。
おにぎりの大きさがどれも殆ど同じなのだ。
「おい。神尾」
「ん?」
「腹減った」
「…………へ…?」
跡部が憮然と言った言葉に、神尾が話しながらも一度も止めなかった手をぴたりと止めた。
「何だ、そのツラ」
「だって…跡部が…そういうこと言うの初めて聞いた」
「…………………」
もしかしてうまそう?と神尾の表情いっぱいに笑顔が浮かぶ。
だから。
いったい何がそんなに。
楽しいんだ、嬉しいんだと、跡部は嘆息する。
神尾のことは、跡部には、いつも判らないことだらけだ。
だがそれが、不快と思った事は一度もなかった。
それもまた跡部には不思議で。
「出来たぜー、跡部」
大きな竹笊に、ぎっしりと。
並べられたおにぎり。
神尾は手を洗いながら、スツールに座る事で視線の角度が逆転した跡部を見下ろしてまた笑う。
「おにぎりが、こうやっていっぱいあるとわくわくするよな!」
「しねえよ」
「しろよ!」
「うまそうだとは思うがな」
跡部のそんな言葉で。
それだけの返事で。
神尾がまた笑みを深め、笑顔を全開にするから。
楽しくて、嬉しくて、どうしようもないという顔をするから。
「神尾。部屋行くぞ」
「部屋で食べんのか?」
外は雨。
大雨だ。
そしてそれこそ山のように竹笊にはおにぎり。
そう、まさに非常食。
「腹減ったらこれ食ってろ」
跡部はスツールから立ち上がる。
竹笊を片手に持って先に立つと、神尾がすぐに後をついてきた。
「食ってろって、作ったの俺だぜ」
「俺も食う」
そうすぐ付け加え、ちらりと背後を流し見れば、跡部の視線の先で。
神尾が面映そうな、はにかむ顔をしているから。
跡部も微かに笑った。
部屋につき、跡部は言った。
「外、雨だろ」
「うん……すごい雨だな」
窓ガラスをしぶかせている水滴。
「メシはここだ」
「……うん?」
竹笊をテーブルの上に置く。
「だからこれで今日は一日中」
そして神尾の腕を引き、もろとも。
「……、…っ……あ…とべ、?」
もろとも、ベッドへ。
なだれこむ。
そうして跡部は、神尾の両手首をシーツに押さえつけ、組み敷いて。
「一日中」
「………っ…」
それこそ楽しくてどうしようもない事を隠さぬ笑みで神尾を見下ろし、神尾の顔を真っ赤にさせた。
「…、……跡…部…?」
小さな小さな声を吸い取った。
浅く重ねた唇の合間で囁いた。
「悪かねえだろ」
「………跡部…、」
繰り返せば、神尾は赤い顔で、頷いた。
悪くないだろうこんな休日。
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