How did you feel at your first kiss?
ずっと後ろにいる。
ずっと後ろに立っていて、ずっと後ろを歩いている。
今日はずっとそうだ。
「…先輩」
「ん?」
海堂が足を止めて振り返ると、背後にいた乾も足を止めた。
ぴったり真後ろにつかれている訳ではないのだが、いつもとは違う位置に海堂はどうにも落ち着かなくなってしまった。
「何さっきから後ろにいるんすか」
「ああ…ちょっと…」
「ちょっとじゃないだろうが…」
思わず呻くような声が出てしまうのも仕方ない事だと海堂は思った。
とにかく、今日乾はずっと海堂の後ろ側にいる。
自主トレ中も、終わって帰途についている今もだ。
いつもは大抵海堂の視界に入ってきている乾が、今日はそうでないから。
どうにも違和感を覚えて仕方なかった。
海堂が、睨む程ではないが、じっと見据えた先で乾はテニスバッグを肩にかけなおして薄く笑みを浮かべた。
「きれいな歩き方だなあと思ってさ」
「…は?」
僅かにだけ首を傾けて、乾は微笑したままそう言った。
「惚れ惚れしてる所なんだが」
「……っ…」
海堂を絶句させた乾の衒いない言葉は尚も続く。
「いくら見てても飽きないなあ、と。確かに今日一日中考えてたよ。海堂は後姿も綺麗だよなぁ…」
「馬鹿だろあんた…っ」
そう怒鳴るしか海堂には出来なかった。
他にいったいどんなリアクションがとれるというのか。
しかし海堂が、そう怒鳴ったところで乾はけろりとしたもので、あっさり首を左右に振ったかと思うと、言ったのはこんな言葉だ。
「馬鹿というか、海堂マニアと言われたよ」
「………………」
何だその言葉はと絶句した後、海堂はどこか恐々乾に尋ねた。
「……誰にっすか」
「不二」
やはりと思った気持ちも無くはない。
しかしそれにしたっていったいどんなシチュエーションでその台詞が放たれたのかと思うと、海堂も訳もなく取り乱しそうになってしまった。
「……あんた」
「いや、悪いな。俺判りやすいらしくて」
「さっぱり判んねえよっ」
淡々と告げてくる乾に海堂は背を向けて歩き出した。
本気で怒っている訳ではなく、込み上げてくるような羞恥心にどうにも居たたまれなくなった為だ。
海堂は乾の先をどんどん歩いた。
意地になった。
もう後ろは見ない、ひたすら前を見て歩く。
乾がきちんと背後にいることは気配で判っていた。
立秋を過ぎても世界はこんなにも夏のままだ。
焼けつくような日差しは肌に体感できる程なのに、それよりもっと乾の気配の方が。
海堂の感覚にはリアルだった。
「海堂」
「………………」
「鬱陶しいか?」
「……そういうこと言ってんじゃない」
背後に居るなと海堂が思うのは、鬱陶しいからではなくて。
「好きだよ。海堂」
「……、…目合わせないで言うな」
「正面から言うと顔伏せるだろう?」
「近すぎなんだよ距離が! 極端すぎる!」
「わがままだなあ」
先を行く海堂、背後にいる乾。
視線は絡まないのに、あまりにも幸せそうに乾に言われてしまったのが判り、海堂は息を詰める。
我儘なんて、そんなものどっちがだ。
海堂にだっていろいろ思う所はある。
「………………」
足を止めないまま、海堂は頭上を仰ぎ見た。
わめきたてるような蝉の鳴声はどこから聞こえてくるのか。
違う種類の鳴声が反響しあって、青く高く抜けた空へと立ち消えていく。
「……先輩?」
突然に、乾が海堂の横に並んで来た。
やっと、いつもの定位置。
しかし何で突然にこうもあっさり戻ってきたのかと海堂が訝しげに伺い見ると、乾も高い位置から丁寧に海堂を見下ろしていた。
「肩がいつもより下がったから」
「………………」
「ごめんな」
謝るんじゃねえと言うのは簡単だったが、海堂はその言葉を飲んだ。
乾がどうして謝ったのか、その理由は多分正しい筈だからだ。
「……怒らせてって思って言ってんなら聞かねぇ」
低く告げれば、乾も小さく返してきた。
「寂しがらせてごめんな」
「……、…口に出すなっ」
「だから我儘だよ海堂」
至極幸せそうに、楽しそうに、乾はそう繰り返した。
間違ってない。
だからってな。
そんな思いを込めて乾を睨みつける海堂だったが、その肩は、それで漸く普段のラインを保つのだった。
ずっと後ろに立っていて、ずっと後ろを歩いている。
今日はずっとそうだ。
「…先輩」
「ん?」
海堂が足を止めて振り返ると、背後にいた乾も足を止めた。
ぴったり真後ろにつかれている訳ではないのだが、いつもとは違う位置に海堂はどうにも落ち着かなくなってしまった。
「何さっきから後ろにいるんすか」
「ああ…ちょっと…」
「ちょっとじゃないだろうが…」
思わず呻くような声が出てしまうのも仕方ない事だと海堂は思った。
とにかく、今日乾はずっと海堂の後ろ側にいる。
自主トレ中も、終わって帰途についている今もだ。
いつもは大抵海堂の視界に入ってきている乾が、今日はそうでないから。
どうにも違和感を覚えて仕方なかった。
海堂が、睨む程ではないが、じっと見据えた先で乾はテニスバッグを肩にかけなおして薄く笑みを浮かべた。
「きれいな歩き方だなあと思ってさ」
「…は?」
僅かにだけ首を傾けて、乾は微笑したままそう言った。
「惚れ惚れしてる所なんだが」
「……っ…」
海堂を絶句させた乾の衒いない言葉は尚も続く。
「いくら見てても飽きないなあ、と。確かに今日一日中考えてたよ。海堂は後姿も綺麗だよなぁ…」
「馬鹿だろあんた…っ」
そう怒鳴るしか海堂には出来なかった。
他にいったいどんなリアクションがとれるというのか。
しかし海堂が、そう怒鳴ったところで乾はけろりとしたもので、あっさり首を左右に振ったかと思うと、言ったのはこんな言葉だ。
「馬鹿というか、海堂マニアと言われたよ」
「………………」
何だその言葉はと絶句した後、海堂はどこか恐々乾に尋ねた。
「……誰にっすか」
「不二」
やはりと思った気持ちも無くはない。
しかしそれにしたっていったいどんなシチュエーションでその台詞が放たれたのかと思うと、海堂も訳もなく取り乱しそうになってしまった。
「……あんた」
「いや、悪いな。俺判りやすいらしくて」
「さっぱり判んねえよっ」
淡々と告げてくる乾に海堂は背を向けて歩き出した。
本気で怒っている訳ではなく、込み上げてくるような羞恥心にどうにも居たたまれなくなった為だ。
海堂は乾の先をどんどん歩いた。
意地になった。
もう後ろは見ない、ひたすら前を見て歩く。
乾がきちんと背後にいることは気配で判っていた。
立秋を過ぎても世界はこんなにも夏のままだ。
焼けつくような日差しは肌に体感できる程なのに、それよりもっと乾の気配の方が。
海堂の感覚にはリアルだった。
「海堂」
「………………」
「鬱陶しいか?」
「……そういうこと言ってんじゃない」
背後に居るなと海堂が思うのは、鬱陶しいからではなくて。
「好きだよ。海堂」
「……、…目合わせないで言うな」
「正面から言うと顔伏せるだろう?」
「近すぎなんだよ距離が! 極端すぎる!」
「わがままだなあ」
先を行く海堂、背後にいる乾。
視線は絡まないのに、あまりにも幸せそうに乾に言われてしまったのが判り、海堂は息を詰める。
我儘なんて、そんなものどっちがだ。
海堂にだっていろいろ思う所はある。
「………………」
足を止めないまま、海堂は頭上を仰ぎ見た。
わめきたてるような蝉の鳴声はどこから聞こえてくるのか。
違う種類の鳴声が反響しあって、青く高く抜けた空へと立ち消えていく。
「……先輩?」
突然に、乾が海堂の横に並んで来た。
やっと、いつもの定位置。
しかし何で突然にこうもあっさり戻ってきたのかと海堂が訝しげに伺い見ると、乾も高い位置から丁寧に海堂を見下ろしていた。
「肩がいつもより下がったから」
「………………」
「ごめんな」
謝るんじゃねえと言うのは簡単だったが、海堂はその言葉を飲んだ。
乾がどうして謝ったのか、その理由は多分正しい筈だからだ。
「……怒らせてって思って言ってんなら聞かねぇ」
低く告げれば、乾も小さく返してきた。
「寂しがらせてごめんな」
「……、…口に出すなっ」
「だから我儘だよ海堂」
至極幸せそうに、楽しそうに、乾はそう繰り返した。
間違ってない。
だからってな。
そんな思いを込めて乾を睨みつける海堂だったが、その肩は、それで漸く普段のラインを保つのだった。
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