How did you feel at your first kiss?
テニスをしている時は一言も口にしない言葉が、テニスを終えた途端その唇から繰り返し放たれるのが奇妙にかわいらしく思えた。
「暑ぃ…………あー……つー…いー」
「………………」
「………お前は何さっきから人の顔見て笑ってやがんだ…」
「え…?」
問い返しておきながら、やはり鳳は笑ってしまった。
宍戸はくったりと座り込んでいる。
自主トレ中のストイックさを熟知しているだけに、終わった途端、弱々しくくたばる様が何とも日常の彼とはミスマッチで目が離せなくなる。
確かに今日の暑さは尋常でない。
「宍戸さん」
「………なんだよ…」
「アイス、食べません? 俺買ってきます」
「コンビニ行くのか?」
パッと即座に上がってきた眼差しが年上のひととは思えないほどで、鳳は唇に浮かべた笑みを深めた。
「勿論宍戸さんが食べたいんだったらハーゲンダッツでもサーティワンでも行きますが」 「どこまで行く気だよ。コンビニでいい。スイカのやつ食いたい」
「スイカバー? 宍戸さんあれ好きですよね」
待っていてと告げれば、おう、と手のひらが振られる。
そっけないようでいて、素直に頷く仕草は無条件に可愛かった。
宍戸は鳳にとっていつも不思議な存在だった。
ぶっきらぼうでいて面倒見の良い、口調は雑なのにその言葉はいつでも優しく真摯。
こんなにも闇雲に、側にいたいという欲求が突き上げてくる相手を鳳は他に知らない。 側にいたい、近くに寄りたい、離れたくない。
第一印象はきつくて近寄りがたいながらも、その実気さくな性格だというのはすぐに判った。
同性に慕われ、頼られやすい性質も。
それでいて案外単独行動が多い事も。
鳳とダブルスを組んでからの宍戸に「随分そいつを気に入ったもんだな」と皮肉気に言ったのは跡部で、そいつと指された鳳は、即座に目の前で繰り広げられた上級生同士の言い争いを、何とも複雑な気持ちで見つめたものだった。
気に入ったというのが本当ならいい。
鳳はそう思った。
テニス以外のもの、人や物に、何ら固執しない宍戸が。
自分に拘ってくれるならどんなにかいいだろうと、まるで請い願うように鳳は思ったのだ。
コンビニで買ったアイスが二つ入ったビニールの手提げ袋を片手に、鳳は走った。
待ってくれている人が宍戸なら、いくらだって走れる。
鳳が戻ってくると、宍戸は地面に仰向けになっていた。
無防備な体勢だ。
額とこめかみに汗をかいている。
暑いと言いながら、夏の日差しを全身に受け止めるように浴びていた。
「お待たせしました」
「おー……サンキュー……」
仰向けの体勢のまま、片腕が鳳に伸ばされてきた。
見慣れない子供みたいな仕草に鳳は膝を折ってその場に屈んだ。
宍戸の頭上にしゃがみこみ、アイスの袋を破いて手渡す。
受け取った宍戸は上半身を起こしてきた。
暑ぃ、とまた呟きながら、スイカの形の棒アイスを齧る。
「………………」
鳳もその隣に腰を下ろし、同じアイスを食べ始める。
別々にものを食べているけれど、舌先に感じる味は今同じもの。
どことなく倒錯的な感じがする。
鳳は意識しないまま宍戸の口元を見つめてしまう。
アイスを舐め齧る宍戸の口元は、冷えて色濃くなっていた。
「宍戸さん」
「んー?」
「キスしても……?」
アイスが食べ終えられた所を見計らって、鳳はそっと問いかける。
宍戸は眉を寄せた。
「ダメっつった事ねえだろ」
「今の優先順位はアイスの方が上かなあと思いまして……」
「アホ」
ふざけんな、こっちのがいいに決まってんだろ、と。
重ねて罵られた。
宍戸の片手が鳳のうなじにかかる。
鳳は地面に手をついて、宍戸に近づいた。
赤い唇を塞ぐと、薄い皮膚はひどくひんやりとしていた。
「………………」
冷たくなった口腔で舌を探ると、すこしぎこちない応え方をしてくる。
「……宍戸さん…?」
「…………なんか……ヘン」
「ヘン?」
なに?と鳳はキスをほどいたがまだ唇は触れそうな距離で問いかける。
瞬く睫毛も触れ合いそうだ。
「アイス食ったからかな……口の感覚が麻痺してる感じすんだよ…」
「ああ……」
なるほど、と鳳は納得する。
ぎこちない宍戸の舌の動きはそういう訳だったかと。
「俺だって事は判る?」
「………たり前だろ」
憮然と宍戸は返してきた。
怒らせるつもりはないのだと鳳は笑んで首を振り、囁いた。
「じゃあ……溶かしましょう」
「…………、……ん」
冷えたかたまった感覚を。
溶かす。
「……、…ぁ」
唇を深く噛み合わせる。
食い違わせた柔らかな器官は、ぴったりと密着した。
吐息も、想いも、零れない程に。
宍戸の舌を鳳は深く貪って、とろとろと甘い感触を味わった。
アイスの比ではない。
角度を変える度に宍戸の喉が小さく鳴って、混ざり合ったものを嚥下している気配が直に伝わってくる。
小さく強い熱が胸に灯る。
「…………熱ぃ…」
「………………」
ほどいたキスの隙間から、先程と同じ言葉で違う意味をもつ言葉が放たれる。
くったりと、再び宍戸は脱力する。
今度はしかし鳳の腕の中にだ。
「宍戸さん……」
「…熱い……」
「ん………大丈夫ですか…?」
熱いと繰り返しながらも、宍戸が決して逃げないから。
鳳も決して、その腕を解かなかった。
季節が暑くて。
身体が熱くて。
恋の病も篤かった。
「暑ぃ…………あー……つー…いー」
「………………」
「………お前は何さっきから人の顔見て笑ってやがんだ…」
「え…?」
問い返しておきながら、やはり鳳は笑ってしまった。
宍戸はくったりと座り込んでいる。
自主トレ中のストイックさを熟知しているだけに、終わった途端、弱々しくくたばる様が何とも日常の彼とはミスマッチで目が離せなくなる。
確かに今日の暑さは尋常でない。
「宍戸さん」
「………なんだよ…」
「アイス、食べません? 俺買ってきます」
「コンビニ行くのか?」
パッと即座に上がってきた眼差しが年上のひととは思えないほどで、鳳は唇に浮かべた笑みを深めた。
「勿論宍戸さんが食べたいんだったらハーゲンダッツでもサーティワンでも行きますが」 「どこまで行く気だよ。コンビニでいい。スイカのやつ食いたい」
「スイカバー? 宍戸さんあれ好きですよね」
待っていてと告げれば、おう、と手のひらが振られる。
そっけないようでいて、素直に頷く仕草は無条件に可愛かった。
宍戸は鳳にとっていつも不思議な存在だった。
ぶっきらぼうでいて面倒見の良い、口調は雑なのにその言葉はいつでも優しく真摯。
こんなにも闇雲に、側にいたいという欲求が突き上げてくる相手を鳳は他に知らない。 側にいたい、近くに寄りたい、離れたくない。
第一印象はきつくて近寄りがたいながらも、その実気さくな性格だというのはすぐに判った。
同性に慕われ、頼られやすい性質も。
それでいて案外単独行動が多い事も。
鳳とダブルスを組んでからの宍戸に「随分そいつを気に入ったもんだな」と皮肉気に言ったのは跡部で、そいつと指された鳳は、即座に目の前で繰り広げられた上級生同士の言い争いを、何とも複雑な気持ちで見つめたものだった。
気に入ったというのが本当ならいい。
鳳はそう思った。
テニス以外のもの、人や物に、何ら固執しない宍戸が。
自分に拘ってくれるならどんなにかいいだろうと、まるで請い願うように鳳は思ったのだ。
コンビニで買ったアイスが二つ入ったビニールの手提げ袋を片手に、鳳は走った。
待ってくれている人が宍戸なら、いくらだって走れる。
鳳が戻ってくると、宍戸は地面に仰向けになっていた。
無防備な体勢だ。
額とこめかみに汗をかいている。
暑いと言いながら、夏の日差しを全身に受け止めるように浴びていた。
「お待たせしました」
「おー……サンキュー……」
仰向けの体勢のまま、片腕が鳳に伸ばされてきた。
見慣れない子供みたいな仕草に鳳は膝を折ってその場に屈んだ。
宍戸の頭上にしゃがみこみ、アイスの袋を破いて手渡す。
受け取った宍戸は上半身を起こしてきた。
暑ぃ、とまた呟きながら、スイカの形の棒アイスを齧る。
「………………」
鳳もその隣に腰を下ろし、同じアイスを食べ始める。
別々にものを食べているけれど、舌先に感じる味は今同じもの。
どことなく倒錯的な感じがする。
鳳は意識しないまま宍戸の口元を見つめてしまう。
アイスを舐め齧る宍戸の口元は、冷えて色濃くなっていた。
「宍戸さん」
「んー?」
「キスしても……?」
アイスが食べ終えられた所を見計らって、鳳はそっと問いかける。
宍戸は眉を寄せた。
「ダメっつった事ねえだろ」
「今の優先順位はアイスの方が上かなあと思いまして……」
「アホ」
ふざけんな、こっちのがいいに決まってんだろ、と。
重ねて罵られた。
宍戸の片手が鳳のうなじにかかる。
鳳は地面に手をついて、宍戸に近づいた。
赤い唇を塞ぐと、薄い皮膚はひどくひんやりとしていた。
「………………」
冷たくなった口腔で舌を探ると、すこしぎこちない応え方をしてくる。
「……宍戸さん…?」
「…………なんか……ヘン」
「ヘン?」
なに?と鳳はキスをほどいたがまだ唇は触れそうな距離で問いかける。
瞬く睫毛も触れ合いそうだ。
「アイス食ったからかな……口の感覚が麻痺してる感じすんだよ…」
「ああ……」
なるほど、と鳳は納得する。
ぎこちない宍戸の舌の動きはそういう訳だったかと。
「俺だって事は判る?」
「………たり前だろ」
憮然と宍戸は返してきた。
怒らせるつもりはないのだと鳳は笑んで首を振り、囁いた。
「じゃあ……溶かしましょう」
「…………、……ん」
冷えたかたまった感覚を。
溶かす。
「……、…ぁ」
唇を深く噛み合わせる。
食い違わせた柔らかな器官は、ぴったりと密着した。
吐息も、想いも、零れない程に。
宍戸の舌を鳳は深く貪って、とろとろと甘い感触を味わった。
アイスの比ではない。
角度を変える度に宍戸の喉が小さく鳴って、混ざり合ったものを嚥下している気配が直に伝わってくる。
小さく強い熱が胸に灯る。
「…………熱ぃ…」
「………………」
ほどいたキスの隙間から、先程と同じ言葉で違う意味をもつ言葉が放たれる。
くったりと、再び宍戸は脱力する。
今度はしかし鳳の腕の中にだ。
「宍戸さん……」
「…熱い……」
「ん………大丈夫ですか…?」
熱いと繰り返しながらも、宍戸が決して逃げないから。
鳳も決して、その腕を解かなかった。
季節が暑くて。
身体が熱くて。
恋の病も篤かった。
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