How did you feel at your first kiss?
普段ひどく滑舌のいい宍戸の言葉がこの時ばかりはゆるく蕩けきって、乱れた呼気に乗る声音は暫くの間覚束ない。
「宍戸さん……苦しくない?……」
細い喉を撫でてやりながら、鳳は宍戸へ問いかける。
宍戸の唇は動いたが、言葉にはならなかった。
余韻を引きずる宍戸のこめかみに鳳は唇を寄せて小さく告げた。
「ちょっと待ってて下さいね」
「…………、………」
「…はい?」
荒い息と縺れた舌とで宍戸が口にしたのは自分の名前だろうと察したものの、鳳は丁寧に顔を近づけ聞き返した。
「飲み物と……あと欲しいものありますか…?」
「………、…じゃ…なくて……」
それから何事か呻くように悪態をついた宍戸が、潤んだ目で鳳を見据えてきた。
「…、…んで……そう、…余裕……」
「……俺が余裕な訳ないじゃないですか…」
何言ってるんですかと鳳は苦笑いする。
宍戸の言葉は切れ切れだったが、言おうとしていることは判った。
どこをどう見てそんな事をと鳳は思うのだが、掠れ声で宍戸は怒っている。
「……やく、…もどって来いよな…、…」
「それは勿論」
「もどって、きたら…お前…、…俺くらいなるまで、…ぜったい、もういっかい…、…」
「……、…宍戸さん」
鳳は密やかに頭を抱えたくなった。
何て事を言い出すのかこの年上の人はと。
だいたいもう一回だなんて、自分はすぐにだって出来てしまえる状態で、かといって宍戸にはかなりの負担の筈で。
それをそんなにもあっさりと告げる人の、負けん気の強さも相当に好きではあるが、この状況では鳳には少々酷な台詞だった。
荒いままの呼吸と、怒って無理して声を紡いだせいか、宍戸が軽く咳き込み出す。
宍戸の尖った肩を手のひらに包み、背中を撫で擦ってから鳳はベッドから降りた。
「………おとなしくしててくださいね…」
お願いだからと苦笑交じりに真摯に言って、鳳は自宅のキッチンへと向かう。
ミネラルウォーターのペットボトルを二本、冷蔵庫から取り出す。
それとビンに入った蜂蜜と、木製の匙をひとつ。
鳳は危なげなくそれらを全て手にして部屋に戻った。
宍戸がまだ軽く咳き込んでいる。
「宍戸さん……起きられる?」
手を貸そうかと鳳はベッドの縁に腰掛けて腕を伸ばしたが、宍戸は気だるげにではあったが自分で上半身を起こした。
鳳の肩口にもたれかかってくる。
「水飲む前に…ちょっとこれ飲み込んでみて貰えます…?」
「……あ…?」
鳳が木匙ですくった蜂蜜を宍戸の唇まで運ぶ。
宍戸は黙って蜂蜜を飲み込んだ。
僅かに眉根が寄った様を注意深く見つめていた鳳は、やっぱりと小さく息をついた。
「滲みました?」
「…べつに…、みる…ってほどじゃ、ね…けど」
「喉が痛んでいる時に蜂蜜をそのまま飲むと滲みるんですよ」
ひょっとすると少し風邪気味なのかもしれない。
鳳が抱いた後はいつも暫くはこんな感じの宍戸だったが、それにしても今日はやけに喉が苦しそうだと鳳も思っていたのだ。
キャップを開けたペットボトルを差し出すと宍戸は喉の乾きは酷いらしく暫く無心に飲んでいた。
その間に鳳はもう一本のボトルに口をつけ、少し量を減らしてから、水の中に蜂蜜を入れた。
「………なに…やってんだ?」
「蜂蜜水。喉に良いんですよ」
夜中喉乾いたらこれ飲んで下さいねと鳳は言ってベッドヘッドに甘い水のボトルを置いた。
宍戸は無論シャワーを浴びたいだろうけれど、風邪気味だとすれば止めておいた方がいいかもしれない。
再度ベッドを離れた鳳は、電子レンジでつくった蒸しタオルとかわいたタオルを数本手にして部屋へとまた戻る。
「宍戸さん?」
宍戸はベッドに寝そべったまま、蜂蜜水を舐めるように飲んでいた。
「あまいけど……なんかうまい……」
「……ですか?」
喉が結構痛んでいるってことかもしれないと鳳は思いながら、宍戸の身体を二種類のタオルで手早く拭った。
宍戸は終始おとなしかった。
「…………これより、あまいよな。お前」
気に入ったのか宍戸は蜂蜜水から手を離さない。
やけにしみじみと呟かれて、鳳は笑った。
「甘いより苦い方がいいですか?」
「んー……お前ならどっちでも……」
ぼんやりとした口調は眠いせいかもしれない。
それにしたってぺろりとそんな事を言われてしまった鳳は。
自分の方が熱が出ると、心中でのみ零す。
甘い蜂蜜が滲みた宍戸の喉の痛みと同じくらいの、甘い泣き言だった。
「宍戸さん……苦しくない?……」
細い喉を撫でてやりながら、鳳は宍戸へ問いかける。
宍戸の唇は動いたが、言葉にはならなかった。
余韻を引きずる宍戸のこめかみに鳳は唇を寄せて小さく告げた。
「ちょっと待ってて下さいね」
「…………、………」
「…はい?」
荒い息と縺れた舌とで宍戸が口にしたのは自分の名前だろうと察したものの、鳳は丁寧に顔を近づけ聞き返した。
「飲み物と……あと欲しいものありますか…?」
「………、…じゃ…なくて……」
それから何事か呻くように悪態をついた宍戸が、潤んだ目で鳳を見据えてきた。
「…、…んで……そう、…余裕……」
「……俺が余裕な訳ないじゃないですか…」
何言ってるんですかと鳳は苦笑いする。
宍戸の言葉は切れ切れだったが、言おうとしていることは判った。
どこをどう見てそんな事をと鳳は思うのだが、掠れ声で宍戸は怒っている。
「……やく、…もどって来いよな…、…」
「それは勿論」
「もどって、きたら…お前…、…俺くらいなるまで、…ぜったい、もういっかい…、…」
「……、…宍戸さん」
鳳は密やかに頭を抱えたくなった。
何て事を言い出すのかこの年上の人はと。
だいたいもう一回だなんて、自分はすぐにだって出来てしまえる状態で、かといって宍戸にはかなりの負担の筈で。
それをそんなにもあっさりと告げる人の、負けん気の強さも相当に好きではあるが、この状況では鳳には少々酷な台詞だった。
荒いままの呼吸と、怒って無理して声を紡いだせいか、宍戸が軽く咳き込み出す。
宍戸の尖った肩を手のひらに包み、背中を撫で擦ってから鳳はベッドから降りた。
「………おとなしくしててくださいね…」
お願いだからと苦笑交じりに真摯に言って、鳳は自宅のキッチンへと向かう。
ミネラルウォーターのペットボトルを二本、冷蔵庫から取り出す。
それとビンに入った蜂蜜と、木製の匙をひとつ。
鳳は危なげなくそれらを全て手にして部屋に戻った。
宍戸がまだ軽く咳き込んでいる。
「宍戸さん……起きられる?」
手を貸そうかと鳳はベッドの縁に腰掛けて腕を伸ばしたが、宍戸は気だるげにではあったが自分で上半身を起こした。
鳳の肩口にもたれかかってくる。
「水飲む前に…ちょっとこれ飲み込んでみて貰えます…?」
「……あ…?」
鳳が木匙ですくった蜂蜜を宍戸の唇まで運ぶ。
宍戸は黙って蜂蜜を飲み込んだ。
僅かに眉根が寄った様を注意深く見つめていた鳳は、やっぱりと小さく息をついた。
「滲みました?」
「…べつに…、みる…ってほどじゃ、ね…けど」
「喉が痛んでいる時に蜂蜜をそのまま飲むと滲みるんですよ」
ひょっとすると少し風邪気味なのかもしれない。
鳳が抱いた後はいつも暫くはこんな感じの宍戸だったが、それにしても今日はやけに喉が苦しそうだと鳳も思っていたのだ。
キャップを開けたペットボトルを差し出すと宍戸は喉の乾きは酷いらしく暫く無心に飲んでいた。
その間に鳳はもう一本のボトルに口をつけ、少し量を減らしてから、水の中に蜂蜜を入れた。
「………なに…やってんだ?」
「蜂蜜水。喉に良いんですよ」
夜中喉乾いたらこれ飲んで下さいねと鳳は言ってベッドヘッドに甘い水のボトルを置いた。
宍戸は無論シャワーを浴びたいだろうけれど、風邪気味だとすれば止めておいた方がいいかもしれない。
再度ベッドを離れた鳳は、電子レンジでつくった蒸しタオルとかわいたタオルを数本手にして部屋へとまた戻る。
「宍戸さん?」
宍戸はベッドに寝そべったまま、蜂蜜水を舐めるように飲んでいた。
「あまいけど……なんかうまい……」
「……ですか?」
喉が結構痛んでいるってことかもしれないと鳳は思いながら、宍戸の身体を二種類のタオルで手早く拭った。
宍戸は終始おとなしかった。
「…………これより、あまいよな。お前」
気に入ったのか宍戸は蜂蜜水から手を離さない。
やけにしみじみと呟かれて、鳳は笑った。
「甘いより苦い方がいいですか?」
「んー……お前ならどっちでも……」
ぼんやりとした口調は眠いせいかもしれない。
それにしたってぺろりとそんな事を言われてしまった鳳は。
自分の方が熱が出ると、心中でのみ零す。
甘い蜂蜜が滲みた宍戸の喉の痛みと同じくらいの、甘い泣き言だった。
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