How did you feel at your first kiss?
努力して掴めるものは何なのか。
諦めない先にあるものは何なのか。
その経過も結果も、全てを見せてくれた。
そんな存在は稀有だ。
共に在る。
それがどれだけ特別な事であるか。
恋に落ちる。
それがどれだけ至当な事であるか。
判っているから、のめりこむ。
ココナッツミルクと発酵バターがベースの白いエビカレーをスプーンですくい、口に運ぶ。
舌に感じたスパイスを、フェンネル、カルダモン、と確認していた乾は、野菜汁に最適なスパイスは何だろうかとふと思った。
そういえば最近、野菜汁を改良する時間がとれていない。
何のスケジュールが押しているせいだろうかと記憶を辿っていくと、たちまち考え事が芋蔓式に増えていく。
「……乾先輩」
「………………」
「乾先輩!」
「………うん?」
どうやら名前を呼ばれている。
乾が顔を上げると、正面の席に座っている後輩が深く肩で息をついていた。
「いつまでスプーンを口にくわえたまんまでいるんスか」
「……へ?……ああ……」
そういえば、海堂の言うように。
確かにと乾はスプーンを口から引き出し、もう一口を素早く食べてから脇に置いた鞄の中身を探った。
今乾の頭の中は、幾つかの考え事が同時進行で流れている。
書き留めないと取りこぼしが出るのは確実だ。
乾はノートに文字を書き散らしながら、口腔にじんわりと残るカレーの味をしみじみ美味しいと思った。
エビのエキスを含んだ辛くも円やかなカレーだ。
もう一口食べたいが、如何せん今は手が止まらない。
「乾先輩」
「ん…?……」
低い声は呆れと窘めを隠さなかった。
ひたすらに紙面に文章を書き付けている乾の手が止まるのを見計らって、向かい側から海堂の腕が伸びてくる。
ノートを取られて、閉じられた。
「おい?」
「……メシ食ってる時くらい、止めたらどうです」
寡黙な海堂は、乾といる時は普段よりも僅かに饒舌だ。
敬語は崩さないが、寧ろ年長者のような物言いも、ぶっきらぼうな中に真摯な気遣いが滲んでいて心地いい。
乾は微苦笑と共に素直にそう思った。
「行儀悪いな。確かに」
「………それだけじゃなくて。メシん時くらい、頭休めた方がいい」
「………………」
憮然とした表情で海堂は眼を伏せた。
スープカレーを食べている海堂の、まっすぐに伸びた姿勢、綺麗な手捌きを乾は直視する。
そんな視線に気づいているのかいないのか、海堂はちらりと目線を上向けてきて言った。
「あんた四六時中考え事してんだから。メシ食う時くらい俺を見てればいいだろ」
うわ、と乾は眼を眇めた。
きた、と胸を押さえたくなる。
海堂の言葉数は、少ない分ストレートだ。
厳しい方向にも、甘い方向にも、真っ直ぐだ。
命令なのかお願いなのか提案なのか判らない所が乾を直撃する。
「………………」
海堂は言うだけ言うと、あとは黙々とスープカレーを食べ続けた。
柄の長いスプーンを節のない長い指が掴んでいる。
さらさらとしたスープを一滴も零す事無く唇へと運ぶ動き。
唇は香辛料に刺激でも受けたのか普段よりも色濃く赤い。
いつもはバンダナに抑えられている髪が、さらりと小さな丸い頭から滑る。
何の音もしない。
海堂の回りだけが無声映画のように冴え冴えと静かだ。
きれいに食べきったスープカレーの皿にスプーンが置かれる。
海堂が先程と同じように上向きの目線を乾に宛がってきて、怒鳴った。
「ただ見ててどうすんですか…!」
とにかく食えよっと乾を一喝した海堂の目元が、うっすらと赤かった。
そういう海堂のどこかにではなく、そういう海堂自身に見惚れる。
乾は海堂に見据えられたまま、エビカレーの続きにとりかかった。
ただ見られているという事もまた。
何とも言えない甘い気分で乾の胸の内が埋まった。
諦めない先にあるものは何なのか。
その経過も結果も、全てを見せてくれた。
そんな存在は稀有だ。
共に在る。
それがどれだけ特別な事であるか。
恋に落ちる。
それがどれだけ至当な事であるか。
判っているから、のめりこむ。
ココナッツミルクと発酵バターがベースの白いエビカレーをスプーンですくい、口に運ぶ。
舌に感じたスパイスを、フェンネル、カルダモン、と確認していた乾は、野菜汁に最適なスパイスは何だろうかとふと思った。
そういえば最近、野菜汁を改良する時間がとれていない。
何のスケジュールが押しているせいだろうかと記憶を辿っていくと、たちまち考え事が芋蔓式に増えていく。
「……乾先輩」
「………………」
「乾先輩!」
「………うん?」
どうやら名前を呼ばれている。
乾が顔を上げると、正面の席に座っている後輩が深く肩で息をついていた。
「いつまでスプーンを口にくわえたまんまでいるんスか」
「……へ?……ああ……」
そういえば、海堂の言うように。
確かにと乾はスプーンを口から引き出し、もう一口を素早く食べてから脇に置いた鞄の中身を探った。
今乾の頭の中は、幾つかの考え事が同時進行で流れている。
書き留めないと取りこぼしが出るのは確実だ。
乾はノートに文字を書き散らしながら、口腔にじんわりと残るカレーの味をしみじみ美味しいと思った。
エビのエキスを含んだ辛くも円やかなカレーだ。
もう一口食べたいが、如何せん今は手が止まらない。
「乾先輩」
「ん…?……」
低い声は呆れと窘めを隠さなかった。
ひたすらに紙面に文章を書き付けている乾の手が止まるのを見計らって、向かい側から海堂の腕が伸びてくる。
ノートを取られて、閉じられた。
「おい?」
「……メシ食ってる時くらい、止めたらどうです」
寡黙な海堂は、乾といる時は普段よりも僅かに饒舌だ。
敬語は崩さないが、寧ろ年長者のような物言いも、ぶっきらぼうな中に真摯な気遣いが滲んでいて心地いい。
乾は微苦笑と共に素直にそう思った。
「行儀悪いな。確かに」
「………それだけじゃなくて。メシん時くらい、頭休めた方がいい」
「………………」
憮然とした表情で海堂は眼を伏せた。
スープカレーを食べている海堂の、まっすぐに伸びた姿勢、綺麗な手捌きを乾は直視する。
そんな視線に気づいているのかいないのか、海堂はちらりと目線を上向けてきて言った。
「あんた四六時中考え事してんだから。メシ食う時くらい俺を見てればいいだろ」
うわ、と乾は眼を眇めた。
きた、と胸を押さえたくなる。
海堂の言葉数は、少ない分ストレートだ。
厳しい方向にも、甘い方向にも、真っ直ぐだ。
命令なのかお願いなのか提案なのか判らない所が乾を直撃する。
「………………」
海堂は言うだけ言うと、あとは黙々とスープカレーを食べ続けた。
柄の長いスプーンを節のない長い指が掴んでいる。
さらさらとしたスープを一滴も零す事無く唇へと運ぶ動き。
唇は香辛料に刺激でも受けたのか普段よりも色濃く赤い。
いつもはバンダナに抑えられている髪が、さらりと小さな丸い頭から滑る。
何の音もしない。
海堂の回りだけが無声映画のように冴え冴えと静かだ。
きれいに食べきったスープカレーの皿にスプーンが置かれる。
海堂が先程と同じように上向きの目線を乾に宛がってきて、怒鳴った。
「ただ見ててどうすんですか…!」
とにかく食えよっと乾を一喝した海堂の目元が、うっすらと赤かった。
そういう海堂のどこかにではなく、そういう海堂自身に見惚れる。
乾は海堂に見据えられたまま、エビカレーの続きにとりかかった。
ただ見られているという事もまた。
何とも言えない甘い気分で乾の胸の内が埋まった。
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