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How did you feel at your first kiss?
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 さらさらとした肌触りの中に埋もれながら、神尾はふと目を覚ました。
 気持ちの良い感触は、普段神尾が慣れ親しんでいるもの。
 しかしここは跡部の家だ。
 ガーゼの寝具。
 一昨日ここに来た時、同じこのベッドで使われていた上掛けは、これとは違うものだった。
 まだその時は夜になれば幾らか涼しい気候であったし、何より跡部の部屋の空調は完璧に保たれていたから。
 これから本格的にやってくる夏を思って、神尾は跡部に、夏の寝具はガーゼケットだよなという話をしたからなのか、そうでないのか。
「………………」
 神尾は心地良いガーゼの中で目を開けて、そこに跡部がいないので、微かに唸った。
 逆の事をしたら怒るくせにとぶつぶつ呻いて、重い身体を投げ出すようにしてベッドから降りる。
「………、……」
 跡部のTシャツを一枚、何時の間にやら着せられている。
 捲れたシャツの裾から見えた自分の足の付け根に、男の執着も露な露骨な吸い痕が見下えて神尾は再び唸り声をもらす。
 打撲かと思うほど色濃く残されている。
 立ち上がると、腰がひどく重かった。
 そのくせ腰から足先までの感触は、歩いてみても殆どない。
 歩きづらい事この上なかった。
 神尾は覚束ない足取りで部屋から続くテラスへと出た。
 ガラス扉を押すと、そこには息苦しい熱をはらんだ夜の重い空気がある。
 跡部はテラスの柵に寄りかかってぼんやり頭上を見やっていたが、神尾に気づくと目線を下げて少し皮肉気に唇の端を上げた。
「…なにやってんだよ」
 声がうまく出ない。
 寝起きのせいかもしれないし、先程までしていた行為のせいかもしれない。
 掠れた神尾の声を、しかし跡部は正確に拾い上げた。
「熱さましてるだけだ」
「……って…中のがよっぽど涼しいじゃん」
「気温の話じゃねえよ」
「………………」
 跡部は僅かに目を細め、渇いているらしい上唇をほんの少し覗いている舌先で舐めた。
 その顔は、さっき見た。
 見上げていた。
 ずっと。
「………………」
「お前を抱いた後は、おさまりがつかねえんだよ」
 背にある柵に両肘を乗せ、適当に羽織ったらしい白いシャツはろくに釦もとめられていない。
 神尾が息苦しくなる程に、跡部の表情には卑猥な影がある。
「………ずっと残ってるみたいで、鬱陶しい?」
「誰がそんなこと言った」
「……俺、そこ行ってもいいのか」
 何とはなしに躊躇してしまって、足がとどまり、声も小さく神尾が尋ね入れば、跡部は薄く微笑した。
「キスされるのが嫌でなけりゃな」
「…………やなわけないだろ」
 近づいていく。
 跡部の腕が伸びてくる。
 神尾は跡部に肩を抱かれて、強く、引き寄せられた。
 ふわりと、接触の柔らかなキスで唇が塞がれる。
 そのキスは浅く、長かった。
「…、……跡…部…」
「お前は、ほんと俺ん中から出ていかねえな」
「え?…」
「俺の側にいてもいなくても、俺から近くでも離れていても、俺が起きていようが眠ってよういようが、出ていかねえで俺ん中にいるままだ」
 それはつまりやっぱ鬱陶しいって事か?と思った事が顔にそのまま出たようで。
 神尾は首筋に、噛むような口付けを跡部にされて身を竦めた。
「だいたいお前だろうが」
「…俺…が…なに?」
「鬱陶しいって思うなら」
 お前だと繰り返され、跡部の強い腕が神尾の腰に回ってくる。
 身体と身体が密着して、視線が近くて。
 くたくたと跡部の胸元に落ちていってしまう神尾にしてみれば、それこそ鬱陶しいなんて誰が思うのだと心底呆れる気分だった。
「のこのこ俺の前に顔を出したお前が悪い」
「……跡部…」
 神尾の耳元や首筋に跡部の唇がひっきりなしに触れてきて。
 次第執拗になっていく感触がダイレクトに神尾に沁みこんでくる。
 それは痛みのような明確な刺激で、跡部が言うところの『熱』だ。
 神尾は跡部の背のシャツを握り締め、唇からこらえるような息が零れてしまうのを受諾する。
「神尾」
 気づいている跡部は、けれども何も言わなかった。
 ただ、神尾の名前を呼んだ時の跡部の呼気は、神尾の首筋にひどく熱かった。
 指先にまで、じんわりと熱が走る。
「…………あつい…」
「今から言うな」
「…そんなこと言ったってよぅ」
「お前が言うな」
 俺の方が熱い。
 呻くような声音で、跡部はそう言った。
 実際神尾の唇を塞いだ口付けの合間から、跡部が神尾に含ませてきた舌は、熱の塊のようだった。


 暗くて、苦しい、真夏夜。
 さらりと甘いガーゼに包まれ、もっと熱い、真夏夜。
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