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How did you feel at your first kiss?
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 気に障って、気になって、気に入った。
 規則正しくも目まぐるしい、そういう流れ。
「跡部ー、なあ、この映画行かね?」
「ああ?」
「跡部と行きたい!」
 連れていってくれと、ねだられた事は散々にある。
 でも。
 こういう真っ直ぐなねだられ方は初めてだった。
「映画ねえ……」
 気のない素振りになるのは、映画に興味がないというより、それよりもっと見ていたいものが目の前にあるからだ。
「跡部こういうのあんまり観ないか?」
 跡部の顔を覗き込んでくるかのように、神尾が近づいてくる。
 小さい。
 頭も顔も何もかも小さくて。
 それでいてまるで危なっかしい感じがしないのが不思議だ。
 自室の赤いソファに身を沈めて座っている跡部の無言をどう受け取ったのか、神尾は近づいたその距離のまま言った。
「じゃあさ、お試しに観に行こうぜ。面白かったら新境地だぜ」
「最悪につまらなかったらどうするんだ」
 わざと捻くれた返答を跡部がしても、神尾はにこっと邪気なく笑った。
「跡部の中で、人生最悪につまらない映画リストの更新が出来るじゃん」
 人生最悪につまらない映画。
 そんなものは跡部の中になかった。
 人生最高に楽しい映画も。
 人生最強に哀しい映画も。
 跡部の中には何もなかった。
「な? 行こうぜ」
「………………」
 ソファに深く背中を預けたまま、跡部は腕を伸ばした。
 すぐ目の前に立って上半身を屈めていた神尾の後ろ首を掴むのは容易かった。
 映画に誘う言葉の唇を浅く塞ぐ。
 下から、喉を反らせて。
 舌触りのいい神尾の唇を軽く啄ばむようにしていると、神尾は瞬く間に赤い顔になり、やけに悲しげに呟いた。
「………そんなに映画行きたくないのかよぅ…」
「………………」
 跡部は映画に行きたくないのではなくて、この場を離れたくないのだと。
 神尾は気付かないらしい。
 跡部のする事に抗いはしないものの、触れ合う唇の隙間から零すような恨み言に跡部は微苦笑する。
「言ってねえだろ」
「……ん…、……ぇ…?…」
 神尾の下唇を跡部が軽く噛むと、幼い響きで神尾が問い返してくる。
「行ってやってもいい」
「………いってなくて、いってやってもいい…?」
 うん?と眉根を寄せて、跡部の言葉を漢字変換しているらしい神尾の表情は、跡部の思考を一際緩ませた。
「……このバカ」
 笑いながら。
 好きだと思う時に決まってバカという言葉が口から出る。
 何だこの思考回路はと跡部は自身を呆れた。
 こんな壊れ方は、これまでただの一度だってしていない筈だ。
 いつでも、きちんと、跡部は感情と思考と言葉が繋がっていた筈なのに。
 神尾が絡むとそれが乱れる。
 人生最悪につまらない映画。
 人生最高に楽しい映画。
 人生最強に哀しい映画。
 そんなものが出来てしまいそうになる。
「神尾」
 手のひらの中に包みこんでしまえるほどの小さな感触。
 手を伸ばし、頬を包み、尊大に見上げながら。
 全面降伏に似た跡部の心境に神尾は永遠に気付かないかもしれない。
「行ってやるよ」
「マジで!……っし!」
 片手でのガッツポーズと、弾けた笑顔と。
「言ってやるよ」
 人生最悪につまらない映画も、人生最高に楽しい映画も、人生最強に哀しい映画も。
 一緒に観ていたのはお前だと。
 ゆくゆくは、言ってやる。
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