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How did you feel at your first kiss?
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 人目があるところでは何も言わなかった宍戸が、二人きりになるなり鳳に言った。
「お前さ、俺にそんなに好きとか言わないでいいから」
「宍戸さん?」
 その言い方が鳳にはどうにも気がかりだった。
 やけに慎重で、遠慮がちなそれが、仮に鳳への窘めだとしたら。
 人目がある場で言う方が効果的ではないのかと思いながらも、人目がなくなってから言われたというのはやはり宍戸の気遣いなのかと思い直したりもする。
 鳳は宍戸の目をじっと見つめた。
 氷帝のレギュラー用の部室で、今はこうして二人きりだけれど。
 先程まではレギュラー陣が顔を揃えていて、からかいの笑みや呆れた顔の上級生達に鳳は囲まれていた。
 鳳自身あまり思えていないが、いつものように宍戸の隣であれこれ話しながら着替えをしていた際に、上級生達に絡まれたのだ。
 お前どんだけ宍戸を好きなんや?だの、爽やかに好きです好きです連発すんな!だの、言われた事はいろいろだ。
 そう言われましてもと微苦笑を浮かべた鳳の横で、宍戸はうるせえ放っておけと軽く喧騒をあしらっていただけだった。
 それが二人きりになった途端、そんなに好きとか言わないでいい、ときた。
 注意なのか牽制なのか鳳にはまだ判らなくて、ただ宍戸を見つめているだけだ。
「宍戸さん」
 鳳の呼びかけに、宍戸は僅かに気まずそうに目線を上げてきた。
 すぐに眼差しは伏せられ、溜息がその唇から零れる。
「…お前のその勢いじゃ、どこまでもつかわかんねぇんだよ」
 ますます意味が判らなかった。
 鳳は頭の中で宍戸の言葉を幾度か反復して、それでも判らなくて、そっと尋ねる。
「どこまで…とは?」
 すると宍戸は今度はいきなり鳳をきつく睨みつけてきた。
「っだから…、…」
 この上なく鋭い眼差しは、主に下級生達には、怖いと評判のものなのだが、鳳にしてみたら怖いどころかただただ綺麗で見惚れるだけだ。
「だから?」
「………だから、」
「…はい?」
 鳳が真面目に問い返し続けていると、宍戸の肩が、ふと落ちた。
 溜息をついたのだ。
「お前さあ……」
「はい」
「そんなに俺のこと好きだ好きだって顔してよ…」
「顔だけではなく言葉にもしてますが」
「言われてんの俺だ。判ってるっつーの」
 今度は言葉ほど宍戸の口調は荒くなかった。
 思わず口を挟んだ鳳を叱るでもなく、また溜息を零した。
「何か問題が…?」
「……もうすこし」
「もう少し?」
「先見て小出しにして欲しいんだけどって話!」
 鳳は目を瞠った。
「先見て小出し…ですか」
 どういう意味だろうと首を傾げる。
 勢いで言った感のある宍戸は、だせぇ、と呟いていた。
 それは鳳に言ったわけではないのは、どこか自嘲めいた口調で判った。
 宍戸は自分自身にそう言ったらしい。
 着替えを済ませた宍戸が、ロッカーの扉を両手で閉じながら言った。
「もう言いきったとか、思いきったとか、早いうちにお前に言われたくねーの!」
「………………」
 もっとずっと長く。
 そう願って、願って、願っているのだからと、きつくも清廉な横顔が告げてくる。
 正直な所、鳳は呆気にとられた。
「……ばかですね…宍戸さん」
 結局そうとしか言いようがなく、鳳は真顔で呟いた。
 宍戸が一気に目元をきつくするのもまじまじ見つめた上で。
「どうしてそんなに…」
「馬鹿馬鹿何度も言うな!」
「いえ、そうでなく。大好きです」
「…は?」
 毒気が抜かれた声で宍戸は鳳を見上げてきた。
 鳳は繰り返す。
「大好きです」
「……長太郎?」
 お前人の話聞いてんのかよと不平を言う宍戸の唇に、鳳は屈んで、自身の唇で一瞬触れた。
「俺は、もっとずっと言いたいの、毎日セーブしてます」
 もう言いきったとか、思いきったとか。
 そんなことは鳳には想像もつかなかった。
 宍戸の勘違いを判らせるために鳳は自分の状況を淡々と宍戸に告げていく。
「でも…そうですね。今の俺のペースじゃ、一生の方が追いつかないだろうと思うので」
「…お前なにさらっととんでもないこと言ってんだよ」
「嘘はつきません。絶対に」
「……そりゃわかってるけどよ」
 ちいさくひとりごちる唇に、鳳はまた軽く唇を合わせた。
「好きっていう言葉を使わないでも、もっと伝えられたらいいんですけど…」
「………………」
「言葉うまくなくてごめんね。宍戸さん」
「別にそんなのいらねぇし」
 お前がいりゃ俺はいいよと、それこそさらっと宍戸は言ってのけた。
「俺、実際口に出してるよりも、もっと好きなんです。宍戸さんが」
「………………」
「何度も何度も、繰り返し宍戸さんのこと、好きになるから。言いきるとか、思いきるとか、それは無理です」
 言葉を切ってはキスをする。
 宍戸は仰のいて全部を受け止めている。
「なあ…」
「はい?」
「なくなりそうになったら」
「…ん?」
「早めに」
「だから…」
「言えよな」
「なくならないですって」
「詰め込んでやるし」
「聞いてよ宍戸さん」
「俺がお前に」
「もう」
「いくらでも」
「俺の話聞いて」
 交わす言葉がどんどん短くなる。
 それは言葉の合間のキスではなく、キスの合間の言葉になっているからだ。
 お互いが等しい力で抱き締めあうまでは、キスも会話も止まないでこのままだ。
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