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How did you feel at your first kiss?
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 上背があって、声は低く響いて、年齢不相応の落ち着き払った態度だとか、ひとたび口をひらけば何人たりとも太刀打ちできない滑らかな饒舌さだとか。
 乾は、ともすれば目立って当然の風貌を、不思議と無機質に潜ませるのがひどくうまい。
「やあ。海堂。お疲れ様」
「………………」
「座ったら?」
 朝練前の自主練を終えて一度部室に戻った海堂を、部室で迎えた乾は、木製の長椅子に腰掛け、壁に寄りかかっていた。
 長い脚を持て余しがちに折り曲げて、手元のノートに何かを書きつけている。
 思いもしなかった乾の存在を目の当たりにして、しかし海堂は別段驚きはしなかった。
 今部室に乾がいるとは思っていなかった。
 でもこうして直面すれば、それは極めて自然な事でしかなく、海堂はこめかみを伝う汗を腕で拭いながら静かに乾に近づいていく。
 座ったら?と制服姿の乾が指し示したところ。
 それは今乾が座っている長椅子だ。
 海堂は黙ってそこに腰を下ろした。
「………微妙な距離だなあ」
「………………」
 近すぎたかと海堂が距離を空けようとすると、逆逆逆と乾がかなりの早口で言った。
 ぱたんとノートも閉じて、海堂が空けかけた距離分、にじり寄ってくる。
「逆だって海堂」
「……はあ…」
 ぐっと近づいてきた乾の顔に、海堂はぎこちなく頷いた。
「ん? すごいな汗。どれだけ走ったんだ?」
「別にいつも通りっスけど……」
 乾の指先が海堂の前髪を一束すくいあげてくる。
 距離の近さ。
 眼差しの絡み方。
 髪先と指先とでひとつなぎになる自分達。
 じっと見つめてくる乾の視線に、海堂は小さく、息を飲んだ。
 普段。
 無機質な、どこか植物めいた気配のする乾が。
 時々見せるこういう空気が、正直海堂を躊躇させる。
 海堂は思うのだ。
 乾は、本当はもっと、何か激しく迸るようなものを持っている男なのかもしれない。
 冷静な態度で、日常そんな事など欠片も感じさせないでいるけれど、本当はもっと。
「………………」
 そう考えると、乾という男はとても警戒心が強いタイプなのかもしれないと海堂は思った。
 本音をそう簡単には人に察知させない。
 見せない、晒さない。
 穏やかなようでいて、重要な事は決して表立たせない乾の、言うなればその警戒心。
 今はそれがふと緩んでいるようで、どうにも海堂は気がそぞろになる。
 最近乾は、海堂の知らない顔ばかり見せる。
「海堂、最近そういう顔見せてくれるようになったよな」
「………は?…」
「だから、そういう」
 近すぎるような距離感で、メガネのレンズ越しに、乾の黒目がちな目が瞬きもせずに海堂を直視したまま告げてくる言葉。
「警戒心緩めて貰えてるのかなあと密かに嬉しかったりするんだが」
「よく意味が判んねえんですけど……」
「うん」
「うんって。だから何が」
「この距離になってもさ…飛びのかれないのが嬉しいというか」
「……誰がいつ飛びのいたよ!」
「意識的にだよ」
 思わず噛み付くように怒鳴った海堂に、乾は不意打ちのように、にこりと笑った。
 ひどく楽しそうな笑みだ。
「海堂、ちゃんと俺を見てる」
「………………」
 微笑と一緒に囁かれた吐息の甘さに海堂は狼狽する。
 そして同時に言われた言葉を反芻して、でも、そうだ、意識は決して乾から飛びのかない、それに気づく。
 その事を噛み締めるように体感しながら、海堂は低く呟いた。
「………あんただってそうだろうが」
「俺が何?」
「あんたみたいに警戒心の強い奴いねえよ…」
「それに気づく奴こそ稀だ」
 人当たり良いって評判なんだぞ俺はと言って、乾は尚も笑った。
 データ収集が趣味だなんて究極の人好きだと思う反面、乾の他人へ何かを望む事のない意識の希薄さにも、海堂はもう気づいている。
 恐らくは、お互いに、警戒心が強いのだ。
 自分達は、似ているところなどないようでいて、こんなにも同じものも持っているということ。
「もう少し近くても?」
「………もう充分近い」
「だから、ここからもう少し」
 そんな方法、海堂には判らないから、じっとしていた。
 乾が海堂の前髪を指先に摘まんだまま、近づいてくる。
 もっと、今よりももっと、だから、こうなる。
「………………」
 掠るように触れた唇と唇。
 離れて、また触れて、離れて、また触れる。
 海堂は乾の唇が触れてくる度、瞬いた。
 睫毛の動きが気になったのか、最後に乾の唇は海堂の睫毛の先に触れてきた。
 唇が離れた後の方が、じわりと熱を帯びた気がした。
 唇の表面。
「………………」
 お互い黙っていた。
 でももう一回だけというように。
 同時に互いの頭が傾き、唇が触れる。
 海堂の汗が、ぽつんと乾の頬に落ちる。
 もどかしいような満ち足りたような不思議な気分だった。
 間違ってない。
 望み、望まれている事は、これだ。
 警戒心の強い自分達は、いつも少しずつ確かめながら、確信している。
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