How did you feel at your first kiss?
クリスマスの静かな夜だ。
「………なに見てるんですか」
「観月」
寮のベッドで。
うとうととまどろむような浅い眠りから、ふと睫毛を引き上げた観月は、同じように横たわっている赤澤の視線に晒されていた自分を知り、小さく呻いた。
観月が自分でも判るほど眠気にとろけた声だった。
赤澤が笑っていた。
「…………悪趣味ですよ」
「寝顔も好きなんだよ」
人の寝顔なんか見てと詰ろうとしていた観月の言葉を赤澤はあっさりと遮った。
「あなた何でもいいんじゃないですか」
泣いている顔も、と言われた事がある。
怒っている顔も、笑っている顔も、真面目な顔も、困っている顔も。
ともかく四六時中、観月は赤澤にそんな事を言われている気がする。
その都度うろたえてなどいられないと思うのに。
「観月はどんなでもいいよ」
「………………」
低い赤澤の声が、夜の静寂に滲むように響いた。
長めの髪が横たわっている事で寝乱れて、真っ直ぐに観月を見据えてくる視線を露にしている。
さらりとした口調はいつも率直で、そのくせ言葉の意味は後から観月を雁字搦めにしてくるのだ。
こういう男なのだろう。
きっと誰にでも。
「一緒にいる時に寂しそうなのは、ちょっと痛いかな」
「………………」
「何か寂しくさせたか」
そんなのあなたのせいに決まってるでしょうと、言ってやろうかと一瞬思ったものの、観月は口を噤んだ。
我ながら馬鹿な事でと判っているからだ。
代わりに観月は溜息交じりに呟いた。
「そんなに僕の顔が好きですか」
「うん?」
観月の視界に、ふいに影が落ちる。
赤澤がベッドに腕をついて、上体を伸び上げるようにして観月の唇を浅いキスで掠った。
どれだけ丁寧にされているのかは、やはり一瞬後に気づく。
キスされた瞬間は、あまりに自然すぎて判らないのだ。
「顔なあ……確かに俺はお前の顔、好きだけどよ。好みなのは丸ごと全部だから、顔見えない時でも結構ヤバイ」
今度は赤澤の手が伸びてきた。
骨ばった指に髪を触られる。
赤澤の声音は独り言のようだった。
「声だけ聞こえてくるとか、影だけ見えてるとか」
「………声はともかく影って何ですか」
「とにかく頭…てゆーか、顔。ずばぬけて小さいのとか、影だと一発だぜ」
コートにうつってる影とかな、かわいい、と臆面もなく告げられて観月は絶句する。
そんなこと言われた事がない。
影なんか好きだとか言われて赤くなりそうな自分も信じられない。
「声もな、すごいいい」
ゆったりと微笑む赤澤は、昨日のクリスマス礼拝の賛美歌もよかったしなと囁いた。
ひょっとすると、赤澤の方こそ大分眠いのかもしれない。
本当に質が悪いと観月が赤い顔で唸りたくなるほど、声も気配も甘く気だるかった。
観月の髪を手遊びしながら、無防備すぎて観月が怖くなるほど心情を全て観月に晒してくる。
赤澤は、好きだという言葉を繰り返し繰り返し口にする。
でもほんの少しもその言葉に込めた感情や、その言葉が観月に与える影響力が薄まる事はなかった。
「………………」
観月は自分の前髪に触れている赤澤の手首を目前に見つめながら、その内側に静かに唇を寄せた。
唇の薄い皮膚に、とくんと脈が重なった。
大きくかわいた熱い手のひらに。
髪ではなく片頬を包まれたと観月が思った時にはもう、唇が深く塞がれていた。
「……、…ん…」
自分に乗り上がってきた赤澤の背を観月は伸ばした腕で抱き込んだ。
こんなにも近い距離。
触れられた瞬間は平気だったのに、やはり後からだんだんと怖くなってくるけれど。
唇を開いて、舌で繋がって、濡れて、生々しく、こんな事をして怖くもなってくるけれど。
「観月」
「………っ……は…」
零れた吐息にまで丁寧に口付けてくる赤澤だからこそ怖くて、でもそれは失くせないものを見つけてしまった慣れぬ飢餓感のせいだと観月は知っている。
「……観月?」
「随分…眠そうだったくせに…」
全然平気そうだったくせにと、まるで恨み言めいた言葉が勝手に観月の口から零れてくる。
それはここ最近の話でもあって。
キスのさなかに織り交ぜた観月の呟きに赤澤は微かに苦笑いした。
舌先を赤澤に甘ったるく噛まれる。
「賛美歌独唱のお前の、喉痛めさせる訳にいかないだろう」
「………もうクリスマスは終わりました」
「歌えなくなっても…?」
もう賛美歌は歌わない。
もう時期にクリスマスは終わる。
「……好きにして下さい」
「お前の声、獲っちまっても?」
微量の獰猛な提案に、観月は身体の力を抜いて艶然と笑った。
「どうぞ。僕の声が聞けないでいても、あなたが我慢出来る範囲でね」
どうなるのだろうかと寧ろ後の状況を楽しみに思い、観月は今年のクリスマスを終わらせた。
「………なに見てるんですか」
「観月」
寮のベッドで。
うとうととまどろむような浅い眠りから、ふと睫毛を引き上げた観月は、同じように横たわっている赤澤の視線に晒されていた自分を知り、小さく呻いた。
観月が自分でも判るほど眠気にとろけた声だった。
赤澤が笑っていた。
「…………悪趣味ですよ」
「寝顔も好きなんだよ」
人の寝顔なんか見てと詰ろうとしていた観月の言葉を赤澤はあっさりと遮った。
「あなた何でもいいんじゃないですか」
泣いている顔も、と言われた事がある。
怒っている顔も、笑っている顔も、真面目な顔も、困っている顔も。
ともかく四六時中、観月は赤澤にそんな事を言われている気がする。
その都度うろたえてなどいられないと思うのに。
「観月はどんなでもいいよ」
「………………」
低い赤澤の声が、夜の静寂に滲むように響いた。
長めの髪が横たわっている事で寝乱れて、真っ直ぐに観月を見据えてくる視線を露にしている。
さらりとした口調はいつも率直で、そのくせ言葉の意味は後から観月を雁字搦めにしてくるのだ。
こういう男なのだろう。
きっと誰にでも。
「一緒にいる時に寂しそうなのは、ちょっと痛いかな」
「………………」
「何か寂しくさせたか」
そんなのあなたのせいに決まってるでしょうと、言ってやろうかと一瞬思ったものの、観月は口を噤んだ。
我ながら馬鹿な事でと判っているからだ。
代わりに観月は溜息交じりに呟いた。
「そんなに僕の顔が好きですか」
「うん?」
観月の視界に、ふいに影が落ちる。
赤澤がベッドに腕をついて、上体を伸び上げるようにして観月の唇を浅いキスで掠った。
どれだけ丁寧にされているのかは、やはり一瞬後に気づく。
キスされた瞬間は、あまりに自然すぎて判らないのだ。
「顔なあ……確かに俺はお前の顔、好きだけどよ。好みなのは丸ごと全部だから、顔見えない時でも結構ヤバイ」
今度は赤澤の手が伸びてきた。
骨ばった指に髪を触られる。
赤澤の声音は独り言のようだった。
「声だけ聞こえてくるとか、影だけ見えてるとか」
「………声はともかく影って何ですか」
「とにかく頭…てゆーか、顔。ずばぬけて小さいのとか、影だと一発だぜ」
コートにうつってる影とかな、かわいい、と臆面もなく告げられて観月は絶句する。
そんなこと言われた事がない。
影なんか好きだとか言われて赤くなりそうな自分も信じられない。
「声もな、すごいいい」
ゆったりと微笑む赤澤は、昨日のクリスマス礼拝の賛美歌もよかったしなと囁いた。
ひょっとすると、赤澤の方こそ大分眠いのかもしれない。
本当に質が悪いと観月が赤い顔で唸りたくなるほど、声も気配も甘く気だるかった。
観月の髪を手遊びしながら、無防備すぎて観月が怖くなるほど心情を全て観月に晒してくる。
赤澤は、好きだという言葉を繰り返し繰り返し口にする。
でもほんの少しもその言葉に込めた感情や、その言葉が観月に与える影響力が薄まる事はなかった。
「………………」
観月は自分の前髪に触れている赤澤の手首を目前に見つめながら、その内側に静かに唇を寄せた。
唇の薄い皮膚に、とくんと脈が重なった。
大きくかわいた熱い手のひらに。
髪ではなく片頬を包まれたと観月が思った時にはもう、唇が深く塞がれていた。
「……、…ん…」
自分に乗り上がってきた赤澤の背を観月は伸ばした腕で抱き込んだ。
こんなにも近い距離。
触れられた瞬間は平気だったのに、やはり後からだんだんと怖くなってくるけれど。
唇を開いて、舌で繋がって、濡れて、生々しく、こんな事をして怖くもなってくるけれど。
「観月」
「………っ……は…」
零れた吐息にまで丁寧に口付けてくる赤澤だからこそ怖くて、でもそれは失くせないものを見つけてしまった慣れぬ飢餓感のせいだと観月は知っている。
「……観月?」
「随分…眠そうだったくせに…」
全然平気そうだったくせにと、まるで恨み言めいた言葉が勝手に観月の口から零れてくる。
それはここ最近の話でもあって。
キスのさなかに織り交ぜた観月の呟きに赤澤は微かに苦笑いした。
舌先を赤澤に甘ったるく噛まれる。
「賛美歌独唱のお前の、喉痛めさせる訳にいかないだろう」
「………もうクリスマスは終わりました」
「歌えなくなっても…?」
もう賛美歌は歌わない。
もう時期にクリスマスは終わる。
「……好きにして下さい」
「お前の声、獲っちまっても?」
微量の獰猛な提案に、観月は身体の力を抜いて艶然と笑った。
「どうぞ。僕の声が聞けないでいても、あなたが我慢出来る範囲でね」
どうなるのだろうかと寧ろ後の状況を楽しみに思い、観月は今年のクリスマスを終わらせた。
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