How did you feel at your first kiss?
しっかりと暖房のきいた跡部の家の一室で食べる、今日の昼ご飯は冷たいとうもろこしのスパゲティだった。
一口食べるなり、それがあまりに美味しかったので、これうまいなあ、またこれ食べたいなあと言った神尾に、跡部は間髪入れずに明日また来ればいいと言った。
「……今さっき顔合わせたばっかで、もう明日の話かよう」
なんかへんなのと妙な気恥ずかしさで神尾が呟けば、どっちがだと跡部は呆れた顔をした。
「今食ってる最中の物を、また食べたいとか言ってるお前に言われたかねえよ」
「だってうまいし」
「ああ、そうかよ」
「…ぅ、すっげ、むかつく」
「これっぽっちも気にならねえな」
口の悪い跡部は表情一つ動かさず、神尾に対してそんな事を言いながら、いいから食えと顎で指図してくる。
本当に高飛車な男だ。
「……なんでそう、いちいちえらそうかなあ、跡部は」
「えらそうじゃなくて実際えらいんだよ、俺様は。お前はつくづく馬鹿だな」
皮肉気に唇の端を引き上げる跡部は、手にしたフォークを、まるで魔法の道具のように優美に扱っていた。
あれは本当に普通のフォークなんだろうかと神尾が危ぶむほど。
自分が手にしているものと本当に同じなのだろうかと不思議に思えるほど。
跡部の手つきも、操られるフォークも、その動きの全てが滑らかで綺麗だった。
「………………」
跡部はフォークの先を垂直に皿に宛て、僅かな動きでスパゲティをからめとっては口に運んでいる。
殆どフォークを動かしていないように見えるのに、きれいに巻きつけられたスパゲティは跡部の口に入っていく。
つい神尾が食べるのも忘れて見入ってしまうくらい、跡部の所作は指先まで完璧に整っていた。
神尾の率直な視線に、当然気づく跡部が。
眉根を寄せて何だと睨みつけてくる。
神尾はしみじみ呟いた。
「なあ、跡部ー。昔々さ」
「ああ?」
「イタリアのお姫様がフランスの王子様の所にお嫁に行く時に、フォークを持って行ったって話知ってるか?」
「王子の前でスパゲティを少しでもきれいに食べられるようにって話だろ」
「それそれ。…でさ、跡部って、それみたい」
上品であるけれど豪胆にスパゲティを食べていた跡部がどうしようもなく不機嫌そうにフォークを操る動きを止めた。
「俺がどっちだって」
「イタリアのお姫様」
「それでお前がフランスの王子様かよ」
「まあ、そう。…何? 不満?」
俺すっごい大事にするのに、お姫様。
神尾がそう思って跡部を見返すと、跡部はフォークを更に置き、立ち上がった。
「へ…? 跡部…?」
「俺が女だったらそうするって?」
「は? 跡部が女?……それはそれで凄いけどさ」
すぐに神尾の側までやってきて、腕を組み目を細めて神尾を見下す跡部は、不機嫌極まりなかった。
あ、ばかだな、と。
神尾は即座に思った。
ばかだ、跡部。
「……今みたいにって事だぜ?」
「………………」
何だかさすがに見つめ返すのはどうにも。
だから神尾はスパゲティをくるくるとフォークに巻きつけながら言った。
「俺、今、跡部がすっごく大事なんだからな」
「………………」
視線は感じるけれど、跡部は何も言わない。
暫くして、神尾は、聞いてしまった。
見てしまった。
だから。
神尾はやけっぱちに怒鳴るしかなくなった。
「……信じてないだろっ」
「いや……お前、顔、火噴きそうだぜ」
「………っ……とべが笑うからだろ…っ」
「何で俺が笑うと赤くなんだよ」
それはだって、きれいに笑うからだ。
跡部が、ひどく幸せそうに笑うからだ。
神尾が言った言葉に、あんなにも不機嫌そうになっていたくせに。
たった一言、また神尾の言葉でそんな顔をするからだ。
「自分で言っておいて照れてんじゃねえよ。バァカ」
「照れてない!」
「純情王子だな」
「お前はとんだお姫様だぞ!」
跡部の指先が神尾に伸びてきて、爪の先まで綺麗な指が、するりと神尾の頬を撫でた。
「キスしてやるよ。王子様」
顔上げな、とうんざりするほど色っぽい声に言われて、神尾は発狂しそうになった。
「スパゲティ食べてんの! 俺はっ!」
「食いながらでも別にキスするのは構わねえだろ」
構うだろっと怒鳴ろうとした神尾の顎を跡部は指先で軽く支えて。
神尾の頬に唇を寄せてきた。
こめかみと。
額にも。
甘ったるい軽い触れるだけのキス。
「食ってていいぜ?」
「……くっ、…く…っ…食えるか…っ! こんなんでっ!」
ちゅ、と可愛らしくも小さな音をたてるのは絶対にわざとだ。
王子様はもう、全身茹で上がるような気持ちで、行儀の悪いお姫様にされるがままだった。
一口食べるなり、それがあまりに美味しかったので、これうまいなあ、またこれ食べたいなあと言った神尾に、跡部は間髪入れずに明日また来ればいいと言った。
「……今さっき顔合わせたばっかで、もう明日の話かよう」
なんかへんなのと妙な気恥ずかしさで神尾が呟けば、どっちがだと跡部は呆れた顔をした。
「今食ってる最中の物を、また食べたいとか言ってるお前に言われたかねえよ」
「だってうまいし」
「ああ、そうかよ」
「…ぅ、すっげ、むかつく」
「これっぽっちも気にならねえな」
口の悪い跡部は表情一つ動かさず、神尾に対してそんな事を言いながら、いいから食えと顎で指図してくる。
本当に高飛車な男だ。
「……なんでそう、いちいちえらそうかなあ、跡部は」
「えらそうじゃなくて実際えらいんだよ、俺様は。お前はつくづく馬鹿だな」
皮肉気に唇の端を引き上げる跡部は、手にしたフォークを、まるで魔法の道具のように優美に扱っていた。
あれは本当に普通のフォークなんだろうかと神尾が危ぶむほど。
自分が手にしているものと本当に同じなのだろうかと不思議に思えるほど。
跡部の手つきも、操られるフォークも、その動きの全てが滑らかで綺麗だった。
「………………」
跡部はフォークの先を垂直に皿に宛て、僅かな動きでスパゲティをからめとっては口に運んでいる。
殆どフォークを動かしていないように見えるのに、きれいに巻きつけられたスパゲティは跡部の口に入っていく。
つい神尾が食べるのも忘れて見入ってしまうくらい、跡部の所作は指先まで完璧に整っていた。
神尾の率直な視線に、当然気づく跡部が。
眉根を寄せて何だと睨みつけてくる。
神尾はしみじみ呟いた。
「なあ、跡部ー。昔々さ」
「ああ?」
「イタリアのお姫様がフランスの王子様の所にお嫁に行く時に、フォークを持って行ったって話知ってるか?」
「王子の前でスパゲティを少しでもきれいに食べられるようにって話だろ」
「それそれ。…でさ、跡部って、それみたい」
上品であるけれど豪胆にスパゲティを食べていた跡部がどうしようもなく不機嫌そうにフォークを操る動きを止めた。
「俺がどっちだって」
「イタリアのお姫様」
「それでお前がフランスの王子様かよ」
「まあ、そう。…何? 不満?」
俺すっごい大事にするのに、お姫様。
神尾がそう思って跡部を見返すと、跡部はフォークを更に置き、立ち上がった。
「へ…? 跡部…?」
「俺が女だったらそうするって?」
「は? 跡部が女?……それはそれで凄いけどさ」
すぐに神尾の側までやってきて、腕を組み目を細めて神尾を見下す跡部は、不機嫌極まりなかった。
あ、ばかだな、と。
神尾は即座に思った。
ばかだ、跡部。
「……今みたいにって事だぜ?」
「………………」
何だかさすがに見つめ返すのはどうにも。
だから神尾はスパゲティをくるくるとフォークに巻きつけながら言った。
「俺、今、跡部がすっごく大事なんだからな」
「………………」
視線は感じるけれど、跡部は何も言わない。
暫くして、神尾は、聞いてしまった。
見てしまった。
だから。
神尾はやけっぱちに怒鳴るしかなくなった。
「……信じてないだろっ」
「いや……お前、顔、火噴きそうだぜ」
「………っ……とべが笑うからだろ…っ」
「何で俺が笑うと赤くなんだよ」
それはだって、きれいに笑うからだ。
跡部が、ひどく幸せそうに笑うからだ。
神尾が言った言葉に、あんなにも不機嫌そうになっていたくせに。
たった一言、また神尾の言葉でそんな顔をするからだ。
「自分で言っておいて照れてんじゃねえよ。バァカ」
「照れてない!」
「純情王子だな」
「お前はとんだお姫様だぞ!」
跡部の指先が神尾に伸びてきて、爪の先まで綺麗な指が、するりと神尾の頬を撫でた。
「キスしてやるよ。王子様」
顔上げな、とうんざりするほど色っぽい声に言われて、神尾は発狂しそうになった。
「スパゲティ食べてんの! 俺はっ!」
「食いながらでも別にキスするのは構わねえだろ」
構うだろっと怒鳴ろうとした神尾の顎を跡部は指先で軽く支えて。
神尾の頬に唇を寄せてきた。
こめかみと。
額にも。
甘ったるい軽い触れるだけのキス。
「食ってていいぜ?」
「……くっ、…く…っ…食えるか…っ! こんなんでっ!」
ちゅ、と可愛らしくも小さな音をたてるのは絶対にわざとだ。
王子様はもう、全身茹で上がるような気持ちで、行儀の悪いお姫様にされるがままだった。
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