How did you feel at your first kiss?
嵐めいた強風と雨と雷との、荒れた天候。
一月だというのに、まるで台風みたいだと、鳳と宍戸が話をしていた矢先だ。
全ての電気が一斉に落ちた。
「……停電か?」
「そうみたいですね」
突然の事にも、屋外の気候を考えれば充分納得が出来て、溜息交じりにそんな言葉をかわしたのだが。
彼らが今いる鳳の部屋は、停電の中にあっても暖かな光で満ちていた。
「すげえな、これ」
部屋が暗くなる前は暖房器具としてのみ体感していた石油ストーブは、全ての照明が落ちてしまった今、蕩けそうな色を放ち煌々としていた。
四つん這いで側まで這いずって行きながらの宍戸の感嘆にやわらかく笑った鳳の表情も甘い色で照らし出される。
「船舶の油用マリンランプがモチーフらしいんで、あたたかいのは勿論、本が読めるくらい明るいって聞いてましたけど……こうなってみると実感出来ますね」
温もりのある光にどちらからともなく自然と近づいて行って、波型のガラスや真鍮板に乱反射する揺らぎを見つめる。
「お前の部屋さ、エアコンはエアコンでちゃんとあるのに、なんでアナログの石油ストーブ使ってんのかなあって思ってたけどよ」
これすげえいいな、と宍戸は言った。
リアクションがないので視線をゴールドフレームから鳳へと向ければ、驚くほど近くに鳳の顔があった。
「………………」
浅く唇と唇が重なる。
「………長太郎…?」
「なんか……あんまり綺麗で。すみません」
「…………は…?……」
そんな事を言った鳳の方が、いったいどれだけ。
思わず出かかった言葉を宍戸は無理矢理飲み込んだ。
暖色の揺らぎある光は、鳳の色素の薄い髪や目を一層透きとおらせている。
あまりにも綺麗な、なんてものは。
どう考えたってこっちだろうと宍戸は呆れた。
「………アホ」
けれど鳳の長い指は、そっと宍戸の髪をすき上げて。
瞬く睫毛が触れそうな程近づいて。
鳳は宍戸を見据えてくる。
「宍戸さんの髪も、目も、真っ黒で」
「………………」
「光ってて、綺麗な星空みたいなんです」
見せてあげられなくて残念ですが、と鳳が笑んだ。
宍戸は宍戸で、この状態で、
鳳の髪や目に、弾けるような明るい光と、虹のような煌めきを見て取った。
「……別に。俺は、お前が見られないもの見てるからいいけどよ」
「………はい…?」
「…なんでもね……」
重なるだけ、啄ばむだけ、そんなキスを繰り返しながら囁きあう。
停電と共に同時に現れた暗闇と灯りとに、更に身体の中の何かのスイッチまで落とされたようになってしまう。
何の話をしていたんだっけかとぼんやり思いながら、宍戸は鳳に組み敷かれていた。
床にあたる背中を意識するより先、シャツの中に鳳の手が忍んでくる。
即物的で、でもそれを容易に上回る優しい手のひらだ。
宍戸は小さく息をつく。
唇を塞がれ、今度は深く潜ってきた鳳の舌の先を、そっと噛んだ。
鳳の手のひらが止まってしまったので、嫌がってるとでも思われのかと、宍戸は両腕を持ち上げた。
鳳の頭を抱きこむようにして自分から深いキスをしかける。
すぐに互いが均等にむさぼりあうキスになった。
「…………なあ……」
「何ですか…?…」
「やってて俺が暴れたら…力づくで押さえ込むなりしろよ」
「宍戸さん…」
急に何言い出すんですかと呆れた吐息と共に鳳が呟く。
「そんな無理強いみたいなこと宍戸さんにしません。………その暴れるって、嫌でって事ですか?」
そのくせ陰影のくっきりとした鳳の顔は、少しばかり困ったような力ない表情を浮かべている。
宍戸は唇の端を引き上げた。
「馬鹿、そうじゃねえよ」
そうじゃなくてよ、と呟きながら。
宍戸は自分の頬に添えられた鳳の手のひらに自ら擦り寄るようにして、手のひらのくぼみに唇を押し当てる。
「火の側で暴れんの危ねえだろ」
「宍戸さん…?」
「お前やたら綺麗で、何かこっちは変になりそうだから、言っただけだ」
どうなるか判んねえよと宍戸がひっそりと告げると、背中が床から浮く程きつく抱き竦められた。
「……ほんと、宍戸さんは、とんでもないこといきなり言うんだから」
参った、と呻く鳳はかわいかった。
宍戸は笑って自分の肩口にある鳳の髪をくしゃくしゃにする。
「お前も、そういう可愛すぎんの、どうかと思うぜ」
「勘弁して下さいって。本当に」
泣き言めいたそれに宍戸はひそめた笑い声を響かせ続けた。
それに共鳴するようにゴールドフレームの炎も揺れていて。
その後は。
室内の空気は、ひどく甘く、乱れていくばかりだ。
一月だというのに、まるで台風みたいだと、鳳と宍戸が話をしていた矢先だ。
全ての電気が一斉に落ちた。
「……停電か?」
「そうみたいですね」
突然の事にも、屋外の気候を考えれば充分納得が出来て、溜息交じりにそんな言葉をかわしたのだが。
彼らが今いる鳳の部屋は、停電の中にあっても暖かな光で満ちていた。
「すげえな、これ」
部屋が暗くなる前は暖房器具としてのみ体感していた石油ストーブは、全ての照明が落ちてしまった今、蕩けそうな色を放ち煌々としていた。
四つん這いで側まで這いずって行きながらの宍戸の感嘆にやわらかく笑った鳳の表情も甘い色で照らし出される。
「船舶の油用マリンランプがモチーフらしいんで、あたたかいのは勿論、本が読めるくらい明るいって聞いてましたけど……こうなってみると実感出来ますね」
温もりのある光にどちらからともなく自然と近づいて行って、波型のガラスや真鍮板に乱反射する揺らぎを見つめる。
「お前の部屋さ、エアコンはエアコンでちゃんとあるのに、なんでアナログの石油ストーブ使ってんのかなあって思ってたけどよ」
これすげえいいな、と宍戸は言った。
リアクションがないので視線をゴールドフレームから鳳へと向ければ、驚くほど近くに鳳の顔があった。
「………………」
浅く唇と唇が重なる。
「………長太郎…?」
「なんか……あんまり綺麗で。すみません」
「…………は…?……」
そんな事を言った鳳の方が、いったいどれだけ。
思わず出かかった言葉を宍戸は無理矢理飲み込んだ。
暖色の揺らぎある光は、鳳の色素の薄い髪や目を一層透きとおらせている。
あまりにも綺麗な、なんてものは。
どう考えたってこっちだろうと宍戸は呆れた。
「………アホ」
けれど鳳の長い指は、そっと宍戸の髪をすき上げて。
瞬く睫毛が触れそうな程近づいて。
鳳は宍戸を見据えてくる。
「宍戸さんの髪も、目も、真っ黒で」
「………………」
「光ってて、綺麗な星空みたいなんです」
見せてあげられなくて残念ですが、と鳳が笑んだ。
宍戸は宍戸で、この状態で、
鳳の髪や目に、弾けるような明るい光と、虹のような煌めきを見て取った。
「……別に。俺は、お前が見られないもの見てるからいいけどよ」
「………はい…?」
「…なんでもね……」
重なるだけ、啄ばむだけ、そんなキスを繰り返しながら囁きあう。
停電と共に同時に現れた暗闇と灯りとに、更に身体の中の何かのスイッチまで落とされたようになってしまう。
何の話をしていたんだっけかとぼんやり思いながら、宍戸は鳳に組み敷かれていた。
床にあたる背中を意識するより先、シャツの中に鳳の手が忍んでくる。
即物的で、でもそれを容易に上回る優しい手のひらだ。
宍戸は小さく息をつく。
唇を塞がれ、今度は深く潜ってきた鳳の舌の先を、そっと噛んだ。
鳳の手のひらが止まってしまったので、嫌がってるとでも思われのかと、宍戸は両腕を持ち上げた。
鳳の頭を抱きこむようにして自分から深いキスをしかける。
すぐに互いが均等にむさぼりあうキスになった。
「…………なあ……」
「何ですか…?…」
「やってて俺が暴れたら…力づくで押さえ込むなりしろよ」
「宍戸さん…」
急に何言い出すんですかと呆れた吐息と共に鳳が呟く。
「そんな無理強いみたいなこと宍戸さんにしません。………その暴れるって、嫌でって事ですか?」
そのくせ陰影のくっきりとした鳳の顔は、少しばかり困ったような力ない表情を浮かべている。
宍戸は唇の端を引き上げた。
「馬鹿、そうじゃねえよ」
そうじゃなくてよ、と呟きながら。
宍戸は自分の頬に添えられた鳳の手のひらに自ら擦り寄るようにして、手のひらのくぼみに唇を押し当てる。
「火の側で暴れんの危ねえだろ」
「宍戸さん…?」
「お前やたら綺麗で、何かこっちは変になりそうだから、言っただけだ」
どうなるか判んねえよと宍戸がひっそりと告げると、背中が床から浮く程きつく抱き竦められた。
「……ほんと、宍戸さんは、とんでもないこといきなり言うんだから」
参った、と呻く鳳はかわいかった。
宍戸は笑って自分の肩口にある鳳の髪をくしゃくしゃにする。
「お前も、そういう可愛すぎんの、どうかと思うぜ」
「勘弁して下さいって。本当に」
泣き言めいたそれに宍戸はひそめた笑い声を響かせ続けた。
それに共鳴するようにゴールドフレームの炎も揺れていて。
その後は。
室内の空気は、ひどく甘く、乱れていくばかりだ。
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