How did you feel at your first kiss?
寝返りをうちかけて目が覚めた。
腰の軸が痛みに似て重く、ベッドの上で丸くなっただけで終わってしまう。
喉で息を詰めただけで言葉にはならなかった筈なのに、海堂と一緒に寝ていた乾がベッドから降りた気配がしたので。
海堂は片頬をシーツに埋めてまま瞼を引き上げる。
「……先輩…」
「ん……」
乾の部屋は、まだ薄暗い。
海堂が嗄れた声で呼ぶと、なめらかな低音の交じった呼気でのみ返された。
頭を極軽く、ぽんぽんと大きな手のひらに覆われて、うっかり身体の力を抜いた海堂の隙を浚って乾は部屋を出ていった。
すぐ戻ると耳元に囁かれていたので、海堂はそれ以上何も言わないでいた。
「………………」
薄れかけている眠気と、増してきた倦怠感。
指の先まで埋まっている充足感と、肢体の節々にある痛みにまでは到達していない微量の疼き。
重い熱、深い息、濃い残響。
乾の声と、乾の温度と、乾の身体の形とが、海堂に交ざって、入り組んで、絡み合って、未だもつれたままだった。
夜中に目覚めたらこんななのかと、海堂は思い知らされた気で茫然とした。
「………、…ふ……」
寝着にしていたシャツの裾が不意にたくしあげられ、海堂は小さく首を竦めた。
戻ってきた乾が、そのまま海堂をうつ伏せにして、ベッドの縁に腰掛けて言う。
「寝てていいよ。海堂」
「先輩…?……」
乾の眠りは短く浅い。
起こしてしまったのかと、海堂がひやりとすれば、察しも頭も良い男はやんわりと否定をくれた。
「正直な所、気がかりでうまく眠れなかったからね」
「………え…?……、…っ………」
うつ伏せになっている海堂は、シャツを捲くられた腰に、広い範囲で熱いものを乗せられて、一瞬息を詰め、一気にといた。
じわっと浸透してきた熱の心地良さに身体が弛緩する。
レンジで加熱してきたらしい蒸しタオルを海堂の腰に乗せ、乾が上から大きな手のひらでゆっくり押し付けてくる。
「引きずり上げたまま、長かったからなあ……痛む?」
「え?……いえ、寧ろ気持ちいい…ですけど……」
引きずり上げたまま長かったって何がと考え込んだ海堂は、熱の心地良さに相当ぼんやりしていたらしい自分に少ししてから漸く気づいた。
乾に組み敷かれていた時間の事を思い出したのだ。
今更ながらに。
「無理な体勢で散々したから、後になってまずかったかと思ってな。……本当に大丈夫か、海堂」
「………ぅ…」
真剣に、本当に真剣に、そんな心配しないで欲しいと海堂は居たたまれなさにおかしくなりそうだった。
うつぶせたまま手元のシーツをかたく握り締めてしまったのは、眠りに落ちる前までの、二人分の欲情を思い返してしまったからだ。
欲しい欲しいとそればかりになって、放熱して訴えた二人分の欲望が、我が事ながら生々しくて、言葉も出ない。
「………………」
乾は温んできたタオルを海堂の肌の上から外し、二枚目のタオルを広げているようだった。
パンッと小気味良い音がして、また海堂の腰の真上に染み入るような熱が乗る。
乾の手のひらの形に、ぎゅっと圧し込まれて、海堂の唇からは無意識にゆるい吐息が零れる。
タオル三枚分繰り返されてから、乾は海堂のシャツを下ろし、海堂が仰向けになれるよう極自然に手を貸してから言った。
「大丈夫か? もう一回用意してくるか?」
「………や、……もう…いいっす…」
ありがとうございましたと礼を言いながらも、記憶の羞恥心だけでなく、現実でもここまで甘やかされてしまって、海堂は切れ切れにしか言葉を紡げない。
部屋が暗がりで、今が夜で、本当によかったと海堂は思った。
「どこか他にきつい所は…?」
「いえ、…どこも、全然」
乾によって丁寧に温められた腰は、もう充分寝返りもうてる状態だった。
全身に甘ったるい倦怠感は詰まったままだが、ほんの少しも不調を訴える箇所はない。
海堂が小さく返した言葉に、乾はタオルを机に放って、眼鏡を外した。
ベッドヘッドに眼鏡を置いた音がした。
そのまま乾が、海堂を抱き込むようにしてベッドにもぐりこんでくる。
同じ毛布の中。
小さく欠伸をした気配に、ふと海堂は気をとられた。
「……乾先輩…?」
「…安心したら眠くなってきた」
「………………」
乾は、寝る間も惜しんで何かをいつもしている。
眠りが浅くて、何かあればすぐに目を覚ましてしまう。
そんな乾がもらした欠伸にも、告げてきた言葉にも、海堂は驚いた。
密やかに、どぎまぎと、視線だけを引き上げた海堂は、大分慣れてきた暗がりの視界で、自分をゆるく抱き込んだまま乾が眠たげに睫毛を落としていくのをじっと見つめていた。
「………………」
安心。
本当に、その一語に尽きる乾の寝顔を無防備に晒されて。
海堂はぐらぐらする思考を宥めるべく無理矢理目を閉じた。
何なのだ、この男は、本当に。
うっかり、いとも簡単に、また同じ相手、同じ恋に、落ちていく。
何度も何度も、好きになる。
何なのだ、この男は、本当に。
海堂は詰りようもない思いで、胸のうちが溶けていく気分を味わうしかない。
もうどうせなら、それならいっそ巻き込んで。
同じにしてやると決意したりもする。
溶け出した二種類のクリームが、完全にふたつ、交ざってしまって。
そうなればもう元の味のふたつに分離する事は、不可能になっているような状態にしてやると、睡魔に絡めとられながら海堂は決めた。
本当は、すでに、とうに、共に液体状になっているという事に、彼ら二人気づいていれば。
互いを抱き締め合って眠るこの睡眠が、こうも深く甘い事の意味も、容易く知れるというものなのだが、それもまたそのうちに知ればいいだけの事でもある。
腰の軸が痛みに似て重く、ベッドの上で丸くなっただけで終わってしまう。
喉で息を詰めただけで言葉にはならなかった筈なのに、海堂と一緒に寝ていた乾がベッドから降りた気配がしたので。
海堂は片頬をシーツに埋めてまま瞼を引き上げる。
「……先輩…」
「ん……」
乾の部屋は、まだ薄暗い。
海堂が嗄れた声で呼ぶと、なめらかな低音の交じった呼気でのみ返された。
頭を極軽く、ぽんぽんと大きな手のひらに覆われて、うっかり身体の力を抜いた海堂の隙を浚って乾は部屋を出ていった。
すぐ戻ると耳元に囁かれていたので、海堂はそれ以上何も言わないでいた。
「………………」
薄れかけている眠気と、増してきた倦怠感。
指の先まで埋まっている充足感と、肢体の節々にある痛みにまでは到達していない微量の疼き。
重い熱、深い息、濃い残響。
乾の声と、乾の温度と、乾の身体の形とが、海堂に交ざって、入り組んで、絡み合って、未だもつれたままだった。
夜中に目覚めたらこんななのかと、海堂は思い知らされた気で茫然とした。
「………、…ふ……」
寝着にしていたシャツの裾が不意にたくしあげられ、海堂は小さく首を竦めた。
戻ってきた乾が、そのまま海堂をうつ伏せにして、ベッドの縁に腰掛けて言う。
「寝てていいよ。海堂」
「先輩…?……」
乾の眠りは短く浅い。
起こしてしまったのかと、海堂がひやりとすれば、察しも頭も良い男はやんわりと否定をくれた。
「正直な所、気がかりでうまく眠れなかったからね」
「………え…?……、…っ………」
うつ伏せになっている海堂は、シャツを捲くられた腰に、広い範囲で熱いものを乗せられて、一瞬息を詰め、一気にといた。
じわっと浸透してきた熱の心地良さに身体が弛緩する。
レンジで加熱してきたらしい蒸しタオルを海堂の腰に乗せ、乾が上から大きな手のひらでゆっくり押し付けてくる。
「引きずり上げたまま、長かったからなあ……痛む?」
「え?……いえ、寧ろ気持ちいい…ですけど……」
引きずり上げたまま長かったって何がと考え込んだ海堂は、熱の心地良さに相当ぼんやりしていたらしい自分に少ししてから漸く気づいた。
乾に組み敷かれていた時間の事を思い出したのだ。
今更ながらに。
「無理な体勢で散々したから、後になってまずかったかと思ってな。……本当に大丈夫か、海堂」
「………ぅ…」
真剣に、本当に真剣に、そんな心配しないで欲しいと海堂は居たたまれなさにおかしくなりそうだった。
うつぶせたまま手元のシーツをかたく握り締めてしまったのは、眠りに落ちる前までの、二人分の欲情を思い返してしまったからだ。
欲しい欲しいとそればかりになって、放熱して訴えた二人分の欲望が、我が事ながら生々しくて、言葉も出ない。
「………………」
乾は温んできたタオルを海堂の肌の上から外し、二枚目のタオルを広げているようだった。
パンッと小気味良い音がして、また海堂の腰の真上に染み入るような熱が乗る。
乾の手のひらの形に、ぎゅっと圧し込まれて、海堂の唇からは無意識にゆるい吐息が零れる。
タオル三枚分繰り返されてから、乾は海堂のシャツを下ろし、海堂が仰向けになれるよう極自然に手を貸してから言った。
「大丈夫か? もう一回用意してくるか?」
「………や、……もう…いいっす…」
ありがとうございましたと礼を言いながらも、記憶の羞恥心だけでなく、現実でもここまで甘やかされてしまって、海堂は切れ切れにしか言葉を紡げない。
部屋が暗がりで、今が夜で、本当によかったと海堂は思った。
「どこか他にきつい所は…?」
「いえ、…どこも、全然」
乾によって丁寧に温められた腰は、もう充分寝返りもうてる状態だった。
全身に甘ったるい倦怠感は詰まったままだが、ほんの少しも不調を訴える箇所はない。
海堂が小さく返した言葉に、乾はタオルを机に放って、眼鏡を外した。
ベッドヘッドに眼鏡を置いた音がした。
そのまま乾が、海堂を抱き込むようにしてベッドにもぐりこんでくる。
同じ毛布の中。
小さく欠伸をした気配に、ふと海堂は気をとられた。
「……乾先輩…?」
「…安心したら眠くなってきた」
「………………」
乾は、寝る間も惜しんで何かをいつもしている。
眠りが浅くて、何かあればすぐに目を覚ましてしまう。
そんな乾がもらした欠伸にも、告げてきた言葉にも、海堂は驚いた。
密やかに、どぎまぎと、視線だけを引き上げた海堂は、大分慣れてきた暗がりの視界で、自分をゆるく抱き込んだまま乾が眠たげに睫毛を落としていくのをじっと見つめていた。
「………………」
安心。
本当に、その一語に尽きる乾の寝顔を無防備に晒されて。
海堂はぐらぐらする思考を宥めるべく無理矢理目を閉じた。
何なのだ、この男は、本当に。
うっかり、いとも簡単に、また同じ相手、同じ恋に、落ちていく。
何度も何度も、好きになる。
何なのだ、この男は、本当に。
海堂は詰りようもない思いで、胸のうちが溶けていく気分を味わうしかない。
もうどうせなら、それならいっそ巻き込んで。
同じにしてやると決意したりもする。
溶け出した二種類のクリームが、完全にふたつ、交ざってしまって。
そうなればもう元の味のふたつに分離する事は、不可能になっているような状態にしてやると、睡魔に絡めとられながら海堂は決めた。
本当は、すでに、とうに、共に液体状になっているという事に、彼ら二人気づいていれば。
互いを抱き締め合って眠るこの睡眠が、こうも深く甘い事の意味も、容易く知れるというものなのだが、それもまたそのうちに知ればいいだけの事でもある。
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