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How did you feel at your first kiss?
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 乾の言葉はいつもながら完璧だった。

「受験前の大切な時期に、外泊だなんて厚かましいお願いをしてしまって本当に申し訳ありません。海堂君ならば全く問題ないと思っているんですが、僕も昨年同じ試験を受けましたし、もしよかったら少しでも彼の参考になればと思いまして」

 昨年の問題だけでなく、ここ数年分の青春学園高等部の試験問題を纏め上げたファイルを持って迎えに現れた乾を、受験シーズンの外泊なんてと咎める人間が海堂家にいる筈も無かった。
 手放しの感謝と喜びようで母親に差し出された海堂の心中は複雑極まりなかった。



 口に出した事は実行する。
 一見口数の多い乾だが、実際は黙さず語らずという面が多々あって、だからこそ己の行動をきっぱりと口に出した時は必ずそれを実行する。
 乾の部屋で、予備校もかくやというような完璧な受験対策を教えられた海堂は、改めてこの人はとんでもないなと思った。
「さっきも言ったけど、海堂の受験に関しては俺は全く心配してないからね。余計な事したかなあともちょっと思ってる」
「や、…とんでもないです。ほんと助かりました」
 ありがとうございます、と海堂は座ったまま乾にきっちりと頭を下げた。
 一年前、初めてダブルスを組んだ時から、乾に教わる事というのはどれも海堂の頭にきちんと入って消えない。
 テニスにデータだなんて、自分には絶対出来ない事だと思っていた海堂に、筋道立てて端的に戦術や統計を教えた乾だ。
 受験対策と称したこの数時間の充実ぶりは本当に凄かった。
 今日乾の両親が仕事でいない事は判っていたので、海堂の母親が持たせた重箱のお弁当で夕食を済ませ、過去行われたテニスの大会のDVDを観たり、ここ最近の近況ともつかないような他愛ない話をしたりした。
 高等部に上がってからの乾は、夏くらいまでは本当に多忙だったようで、時々疲れた顔を見せていたけれど、また隠れて独自にメニュー組んでるなと察した海堂は何も言わないでいた。
 乾の秘密主義は今に始まった事ではない。
 夏が過ぎた頃にはすっかりペースを作ったようだった。
 ちょうど海堂もそのくらいまでは最高学年になった部活動で忙しい毎日だったので、秋くらいからまた二人で会う時間が増えてきた。
 そうこうしているうちに海堂の受験の時期になり、長いと思っていた一年は結構早く時間が過ぎていく。
「とりあえず様子見ながらでもいいからさ。ゆくゆくはダブルスでよろしくな」
「………絶対俺と組めくらい言え」
「海堂が言ってくれると思って遠慮したんだけど?」
 風呂に入り、、髪がかわいた頃を見計らってベッドに入る。
 布団敷こうか?と乾が言ったのに海堂は首を振った。
 左右にだ。
「敷く素振りも全然見せないで、よく言うっすね……」
 呆れた海堂を片腕で抱き込んで横たわった乾は笑っていた。
「まあまあ」
 唇に重なるだけのキスが触れる。
「…………しないんですか。本当に」
「万が一にでも具合悪くさせる訳にはいかないだろ」
 先週はスミマセンと笑う乾に、さすがに海堂は赤くなった。
 暫くできないからと羽目を外したのはお互い共で、あれは完璧に連帯責任だろう。
「受験終わるのを、本当に心待ちにしてるよ」
「……恥ずかしいこと真顔で言わないでくれますか」
 早く電気を消してくれと海堂は思った。
 早く寝てしまおう。
「あ、そうだ。せっかくだからバレンタインしようか、海堂」
「…は?」
 ところが電気を消してからいきなり乾がそんな事を言い出してきて、海堂は面食らう。
 確かに明日はバレンタインデーという日ではあるのだが。
「乾先輩?」
「口あけて。海堂」
 ベッドに仰向けに寝たまま、海堂はこの暗がりで乾が何をし出すのかと困惑する。
 ベッドヘッドに置いてあったらしく、何かのパッケージを破る音が頭上でする。
 まだ目が慣れないでいる海堂は、唇に何かを入れられた。
 乾の指先が唇に触れている。
 味は、チョコレート。
「歯医者さんが作ったチョコレート」
「……え?」
「噛んじゃ駄目だよ。海堂。舌の上でゆっくり溶かして」
「………………」
「キシリトール配合でね、寝ている間に作用する、夜ベッドで食べるチョコレート」
 低い声での説明と一緒に、海堂は唇を塞がれる。
 軽いキスだけれど、甘い。
 優しい触れ方だった。
「………あんたは?」
「今口に入れた」
 そうして乾は海堂と身体を並べてベッドに横になる。
「なあ、海堂」
「……なんですか」
「セックスしなくても、ベッドの上で口の中が同じ味ってのは結構卑猥だなあ……」
「………っ…、……そういう事を口に出して言うな…っ」
 喋る度に感じるチョコレート。
 同じ味。
 お互いの口腔の味。
 チョコレートを食べながら眠るなんていう初体験を海堂がした二月十四日の事だった。
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