How did you feel at your first kiss?
きざはしを駆け上がって乱れきった呼吸を繰り返しながらいつもはお終いにするところで、もう一回だけ、とねだってみたら、細い腕に緩慢に抱き寄せられた。
「……宍戸さん?」
「………俺はもう、なんにも出来ねーからな…」
瞬きすら力なく、気だるい浅い呼吸をしながらの掠れ声で宍戸にそれでも許されて。
もう誕生日は昨日のことなのに、素っ気なさそうに、でもとびきり優しいようにそんな無理をのんでくれる年上のひとの頬を鳳は両手で包んだ。
覆い被さって、ゆっくりと。
まだ濡れている唇を塞ぐ。
「ん、………」
「………………」
「………ん…、…」
息を継ぐ。
さらりとした唇を舌先で舐める。
また合わせて、重ねて、探って。
濡れた感じだとか、乱れる感じだとか、唇や舌にからみついてきて、身体中が甘だるい。
「……、……ふ……ぁ…」
深いキスに胸を喘がせて呼吸する宍戸の、小さな顔に指先を這わせながら鳳は長いことキスをした。
「………もう一回って、これ、か?」
キスだけが続く状況に、宍戸が語尾のもつれた声で鳳を見上げてくる。
眉根を寄せているその不機嫌な感じがひどく綺麗だった。
「今日、何の日か知ってます…? 宍戸さん」
「お前の誕生日の次の日」
「…じゃ、明日は俺の誕生日の次の次の日?」
笑う鳳に、宍戸は目つきをきつくする。
綺麗な上に可愛いなあと鳳はうっかり見惚れてキスを拒まれた。
「……うわ、…ごめんなさい」
「……………」
「怒らないで宍戸さん」
「…………おまえな…たった一回キス避けただけで焦んなよ」
「焦りますよ。…今の分、していい?」
「ほんと欲しがりな。お前」
「いい?」
「甘ったれ」
「宍戸さん」
泣くなバカと言われて、泣いちゃいませんけどと鳳は笑った。
小さく唇で触れる。
幾度も唇を重ねる。
「今日はね、古代ローマの祭典のうちの一つで、ルパーカスに捧げる日なんです」
「……ん?」
「神官が鞭を持って街を走りまわって、途中で会った女性を鞭で叩く日」
「はあ?」
キスを繰り返している最中なのに構わず宍戸は大きな声をあげた。
それくらいで負ける鳳ではないから、それでもキスは続ける。
「変な祭りじゃないですよ?」
「充分変だろ」
「悪霊や侵略者から街を守る意味と、女性が多産を与るために」
「………わけわかんねー…」
「バレンタインの翌日にねえ?」
「でもたしか、そのバレンタインだって、誰かが死刑にされた日なんだろ」
「聖バレンタインがローマ政府に逆らって殉教した日ですね」
会話の合間のキスなのか、キスの合間の会話なのか判らなくなってくる。
恐ろしい月だなと宍戸がついた溜息も、鳳は飽きずに丁寧に奪った。
「………っ…ん」
「宍戸さん。眠そう」
「別に眠くねえよ」
「そうですか?」
髪を撫でつけながらキスを繰り返していると、とろりと瞼が下りてくる宍戸が目前に見てとれて、鳳は、眠っていいですよと囁いた。
「…………もう一回…とか、言ってなかったか……長太郎……」
「許してくれるなんて思ってなくて」
「………んだよ……言っただけかよ……」
「……ですね」
「アホ」
「………宍戸さん?」
「嘘つくの、ほんと下手な。お前」
眠そうな目で睨まれた。
全部お見通しなのだろう。
鳳は微苦笑し、宍戸の背を抱きこんだ。
片手で宍戸の指先を握りこむと、ほんのりとゆるい体温で、しっかりと指先まで温かい。
「……くそ……だめだ、ねむい」
「はい」
寝ましょうと鳳は宍戸を抱き締めながら囁く。
したいと言ったのも、眠ろうと言うのも、どちらも鳳の本音だ。
「悪い、長太郎、明日な」
「…………宍戸さ…?…」
唐突に気だるく持ち上げられた宍戸の片腕が鳳の首にかかる。
宍戸から鳳へと与えられたものは、完全に鳳が受身でいるキスだ。
「………………」
悪ぃ、と呟く宍戸の声。
明日という埋め合わせを匂わす言葉。
今適えてやれない事を侘びるようなキス。
「………………」
唇を離した宍戸は、鳳の胸元に寝床を求めるようにもぐりこんできて、目を閉じた。
たちまち深い眠りに落ちていく。
「……宍戸さん」
甘やかしながら甘えてくる不思議な人。
ありのまま、何も飾らずにいて、目が離せなくなる人。
鳳の唇に残る余韻は、大人っぽいキスというより、甲斐性のある惚れ直したくなるようなキスだ。
「………叶わないなあ…」
長い時間、繰り返し繰り返し口付けた、鳳のキス全部より。
宍戸からの一回のこのキスの方がどれだけ雄弁であるかを思って。
負けと判っても、鳳は幸せだった。
おやすみなさい、と宍戸の髪に唇を押し当てて、鳳も目を閉じる。
誕生日は終わってしまうものだけれど。
宍戸はこうして、鳳の腕の中で今日も眠っている。
宍戸を抱き締めて、鳳は眠っていられる。
「……宍戸さん?」
「………俺はもう、なんにも出来ねーからな…」
瞬きすら力なく、気だるい浅い呼吸をしながらの掠れ声で宍戸にそれでも許されて。
もう誕生日は昨日のことなのに、素っ気なさそうに、でもとびきり優しいようにそんな無理をのんでくれる年上のひとの頬を鳳は両手で包んだ。
覆い被さって、ゆっくりと。
まだ濡れている唇を塞ぐ。
「ん、………」
「………………」
「………ん…、…」
息を継ぐ。
さらりとした唇を舌先で舐める。
また合わせて、重ねて、探って。
濡れた感じだとか、乱れる感じだとか、唇や舌にからみついてきて、身体中が甘だるい。
「……、……ふ……ぁ…」
深いキスに胸を喘がせて呼吸する宍戸の、小さな顔に指先を這わせながら鳳は長いことキスをした。
「………もう一回って、これ、か?」
キスだけが続く状況に、宍戸が語尾のもつれた声で鳳を見上げてくる。
眉根を寄せているその不機嫌な感じがひどく綺麗だった。
「今日、何の日か知ってます…? 宍戸さん」
「お前の誕生日の次の日」
「…じゃ、明日は俺の誕生日の次の次の日?」
笑う鳳に、宍戸は目つきをきつくする。
綺麗な上に可愛いなあと鳳はうっかり見惚れてキスを拒まれた。
「……うわ、…ごめんなさい」
「……………」
「怒らないで宍戸さん」
「…………おまえな…たった一回キス避けただけで焦んなよ」
「焦りますよ。…今の分、していい?」
「ほんと欲しがりな。お前」
「いい?」
「甘ったれ」
「宍戸さん」
泣くなバカと言われて、泣いちゃいませんけどと鳳は笑った。
小さく唇で触れる。
幾度も唇を重ねる。
「今日はね、古代ローマの祭典のうちの一つで、ルパーカスに捧げる日なんです」
「……ん?」
「神官が鞭を持って街を走りまわって、途中で会った女性を鞭で叩く日」
「はあ?」
キスを繰り返している最中なのに構わず宍戸は大きな声をあげた。
それくらいで負ける鳳ではないから、それでもキスは続ける。
「変な祭りじゃないですよ?」
「充分変だろ」
「悪霊や侵略者から街を守る意味と、女性が多産を与るために」
「………わけわかんねー…」
「バレンタインの翌日にねえ?」
「でもたしか、そのバレンタインだって、誰かが死刑にされた日なんだろ」
「聖バレンタインがローマ政府に逆らって殉教した日ですね」
会話の合間のキスなのか、キスの合間の会話なのか判らなくなってくる。
恐ろしい月だなと宍戸がついた溜息も、鳳は飽きずに丁寧に奪った。
「………っ…ん」
「宍戸さん。眠そう」
「別に眠くねえよ」
「そうですか?」
髪を撫でつけながらキスを繰り返していると、とろりと瞼が下りてくる宍戸が目前に見てとれて、鳳は、眠っていいですよと囁いた。
「…………もう一回…とか、言ってなかったか……長太郎……」
「許してくれるなんて思ってなくて」
「………んだよ……言っただけかよ……」
「……ですね」
「アホ」
「………宍戸さん?」
「嘘つくの、ほんと下手な。お前」
眠そうな目で睨まれた。
全部お見通しなのだろう。
鳳は微苦笑し、宍戸の背を抱きこんだ。
片手で宍戸の指先を握りこむと、ほんのりとゆるい体温で、しっかりと指先まで温かい。
「……くそ……だめだ、ねむい」
「はい」
寝ましょうと鳳は宍戸を抱き締めながら囁く。
したいと言ったのも、眠ろうと言うのも、どちらも鳳の本音だ。
「悪い、長太郎、明日な」
「…………宍戸さ…?…」
唐突に気だるく持ち上げられた宍戸の片腕が鳳の首にかかる。
宍戸から鳳へと与えられたものは、完全に鳳が受身でいるキスだ。
「………………」
悪ぃ、と呟く宍戸の声。
明日という埋め合わせを匂わす言葉。
今適えてやれない事を侘びるようなキス。
「………………」
唇を離した宍戸は、鳳の胸元に寝床を求めるようにもぐりこんできて、目を閉じた。
たちまち深い眠りに落ちていく。
「……宍戸さん」
甘やかしながら甘えてくる不思議な人。
ありのまま、何も飾らずにいて、目が離せなくなる人。
鳳の唇に残る余韻は、大人っぽいキスというより、甲斐性のある惚れ直したくなるようなキスだ。
「………叶わないなあ…」
長い時間、繰り返し繰り返し口付けた、鳳のキス全部より。
宍戸からの一回のこのキスの方がどれだけ雄弁であるかを思って。
負けと判っても、鳳は幸せだった。
おやすみなさい、と宍戸の髪に唇を押し当てて、鳳も目を閉じる。
誕生日は終わってしまうものだけれど。
宍戸はこうして、鳳の腕の中で今日も眠っている。
宍戸を抱き締めて、鳳は眠っていられる。
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