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How did you feel at your first kiss?
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 指先を揃えた鳳の手が、丁寧な動きで宍戸の目の前に翳された。
 宍戸が我に返って目を瞠り、見つめたその手が、そっと、伸びかけの宍戸の前髪を横に撫で付けていく。
 優しい手。
 誰にでも。
「…………………」
「ね、宍戸さん……」
「………んだよ」
「どうしたんですか」
 優しすぎる程に優しい男の口調は柔らかく、でも問いかけてくる瞳は翳りを帯びている。
 休日に、鳳の部屋にいて。
 考え事に沈んでいた宍戸を、責めるのではなく、気遣う目だ。
 近頃格段に鳳は大人びてきた。
 以前だったら、こと宍戸が絡むと疑問や不安を露にするところがあったけれど。
 今はそれをこらえて自然に促そうとする。
 聞き出そうとする。
 そうやって、違うやり方を覚えて。
 一層優しくなって、一層強くなって、一層大人になって。
 一人で。
「…………………」
 そんな鳳が宍戸は不安だった。
 後ろについてきているのが当たり前のような人懐っこさで、ずっと、鳳は宍戸の側にいたけれど。
 今は、次第に遠のいていっている気がしてならなかった。
 そして、そういう不安を、今の鳳には気づかれてしまう。
 隠せない。
「宍戸さん。何か…心配事ですか?」
「いや? 別に何もねーけど」
 こんな事だけは。
 絶対に言いたくないと思って。
 宍戸は鳳の目を見て首を振った。
「…………宍戸さん」
 それは、勘弁して、と鳳が呻くような声を出す。
 いきなり大きな身体を縮めるようにして、鳳が、宍戸を身包み抱きこんできた。
「…………………」
 宍戸の喉下に鳳は顔を伏せ、力を込めたいのを我慢するような感じで抱き締めてくる鳳に、宍戸は小さく息をのむ。
 泣き言のような言葉。
 縋りつくような抱擁。
「………長太郎?」
 小声で宍戸が問いかければ、今でも従順に、鳳の視線は引きあがってくる。
「……何かあるのに、何もないって返されるの、しんどいです」
「…………………」
「俺を見る時に。俺といる時に。ああいう顔をするのに」
「…………………」
 低い声を聞いて、宍戸は無意識に鳳の頭部に手を伸ばす。
 指先を浅く沈ませた鳳の髪は柔らかい。
 静かに撫でつけると、仕草は本当に甘えるように、鳳は宍戸を抱き締めてきた。
「長太郎」
 抱き締められて、ほっとする。
 その側からまた、不安になる。
「宍戸さん。俺にどうして欲しいですか」
「…………………」
「宍戸さんが言うなら俺は何だってする。どんな事だってする。だから」
 俺といる時に寂しそうな顔しないで、と懇願した声は。
 甘えて言うそれではなく、邪気のない後輩のそれでもない。
 声を聞いて、言葉が響いて、息も胸も詰まって口を噤む宍戸を、鳳は両腕で尚も抱き締めた。
 傷つけたのかもしれないと知り、宍戸に出来るのは、そうではないのだという思いだけで鳳の髪をすくくらいしかない。
「俺に……何か望んで欲しいです。宍戸さんはそういうの、何にもいらないって思うかもしれないけど」
「…………………」
「俺に、して欲しい事があったらいいのに」
 ひとつでもいいからと鳳は呟いた。
「…………んなもん聞いてどうするんだよ」
「あるんですか」
 突然鳳が物凄い勢いで顔を上げてきて宍戸は狼狽した。
 鳳は鳳で、まるで全く予想していなかった言葉を聞かされたような顔で宍戸を見つめてくる。
「俺に望んでること。あるんですか」
「…………………」
「だったら……あるんだったら、それを下さい」
 それが欲しいですと言った鳳は、怖いくらい厳しい表情をしていて。
 宍戸は、ここ最近の疲労困憊しきった神経が何だかぷっつりと切れたような気になった。
 鳳の胸元に、顔を伏せる。
「俺をおいていくな」
「俺は追いかけるのに必死です」
「…………………」
 即答した鳳に後ろ髪を撫でられる。
 熱のこもった所作だった。
「俺が先に行くんじゃない。宍戸さんが」
 離れてく、ときつく抱き締められた。
 鳳の胸に、腕に、包み込まれて、抱き潰されるように強く。
「………どこから離れるって言うんだよ」
 こんな。
「こんなに」
 きつく。
「抱き締めといて……」
 声も出ない。
 抱擁の強さ。
 でも、宍戸はそうされていたかった。
「宍戸さん」
 離れていかないでと請う男に、おいていかないでと願う自分。
「自分でも嫌になるくらい独占欲にまみれてんだ……」
「俺はそんな宍戸さん知らないです」
 真摯な鳳の言葉にかぶりを振って、宍戸は最後に痞えているものを吐き出した。
「もっと俺を欲しがれよ!」
 叫んだ瞬間、身体がバラバラになりそうなくらいきつく抱き締められた。
 そんな剥き出しの鳳の感情が、苦しくて、幸せだと宍戸は泣き笑いする表情になる。
 誰にでも優しい男。
 自分には取り分け優しい男。
 そんな鳳が、激情をぶつけるのは自分にだけだったらいい。
「……そんなこと、俺なんかに許して、どうするんですか」
「………………」
 歪められた目が、飢えた声が、かぶりついてくるようなキスが。
 どれだけ嬉しいか。
「……長…太郎……」
「………、………」
 離れていく唇がまだ欲しくて。
 唇から僅かに伸ばした舌先で、宍戸は鳳の唇の表面を小さく舐めた。
「……、宍戸さん」
「……ン……っ」
 嵐に巻き込まれるように、床に組み敷かれ、唇をむさぼられながら、宍戸は。
 全ての暗澹たる思いが、全て払拭された訳ではないにしろ。
 今の、この鳳が愛しくて。
 何をされてもいいと思って。

 身体を拓いた。
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