How did you feel at your first kiss?
よし、と意を決して神尾は跡部の胸倉を両手でぐっとつかみしめた。
「跡部!」
「…ああ?」
掴みかからんばかりの神尾の勢いに、秀麗な目を不機嫌そうに細め、跡部は凄む声で返してくる。
こんなにガラが悪いのに。
全然下品にならない。
すごくおかしな男だ。
跡部景吾。
そのうえ神尾がつかんだ跡部の胸倉をいくら全力で引っ張っても跡部はびくともしない。
まるで動かない。
詐欺だ。
そんなに大柄な男じゃないのに。
「………ったく」
溜息まで大人っぽい。
悪態まで美声だ。
ずるい。
「されるだけでいるのにすっかり慣れやがって」
何か勝手な勘違いをして、跡部は神尾の首の後ろを強い力で鷲掴みにしてきた。
跡部の顔が急激にアップになったのを見て、慌てて神尾は声をつくして叫んだ。
「違う!」」
「ああ?」
「チ、チューして欲しかったら俺の言うこと聞けよ!」
「ば、か、か、てめえは」
して欲しいのはてめえの方だろうがと吐き捨て、跡部が強引に神尾の唇を塞ぎにかかってくる。
神尾は全身全霊でその身体を押し返した。
「俺の言うこと聞こえねーのかよ! 馬鹿跡部!」
「てめえにだけは言われたくねえ言葉だな」
「や、っ」
跡部の胸倉を掴みに行ったのは神尾から。
でも押しのけているのも神尾から。
それが気に食わないらしくどんどん悪人面になって跡部は神尾を束縛し口付けようとするから傍目に二人は格闘しているようにしか見えない。
「ふざけんな! 嫌がってんじゃねえよ!」
「ばかばかばかっ。人の話聞け、ばかっ」
何故だか跡部は時々気が短い。
そういう時は子供っぽい。
こんな風に。
「てめえが俺に、何の話があるってんだ。ああ?」
「ある! ばか! 俺真剣なんだからな! ちゃんと聞けよ…!」
相手を引き剥がしたい神尾と、引き寄せたい跡部との、力比べみたいになっていて。
形勢不利で息をきらして叫んだ神尾の声は弾みで上擦り、すると跡部の手の力が突然に弱くなった。
徐々にではなく、いきなり動きが止まった。
「…………ぁ…?」
いきなりだったので神尾が面食らって見つめた先、跡部は何とも言えない表情をしていた。
すごく怒って、すこし戸惑うような。
皮肉に笑って、ひどく狼狽するような。
神尾にはうまく言えない跡部の表情。
「………跡部?」
「……何の話だ」
聞いてはくれて。
でも何で、そんな慄然とした顔で。
取り繕ったような無表情を装って。
「………………」
返答如何では殺されそう、なんてことまで神尾は思ってしまった。
そんな跡部の顔。
美形は三日で見飽きるんじゃなかったのかよと、神尾はどこぞで聞いた事のある言葉を思い出しながら、じわりと頬が熱くなるのが判った。
神尾は跡部の胸元のシャツを握り締めたまま、俯いた。
整いすぎるほど整った顔から目を逸らせて、神尾は言った。
「一回くらい好きって言ってくれよぅ……」
それだけだ。
神尾が欲しいもの。
聞きたい言葉。
それを聞かせてくれたら、幾らだって、キス、を。
「…………っ…」
自分がねだっている物の恥ずかしさを今更ながら思い知らされた気分で神尾は完全に顔を上げられなくなる。
掠れたような自分の声が、冗談に紛らわせる事も出来なくしていて、言っておきながら居たたまれなくなった。
「…………、っ」
背中に。
跡部の両手がするりと回って、やんわりと抱きこまれたのが判って、もう余計にだ。
「…てめえだって言った事ねえくせして」
「…………俺、は……!」
優しい、抱き締め方。
何だかくらくらしてきて。
意地悪ばかりするから、一度くらい好きだって言って欲しいと思っていたはずなのに。
こんな風に優しくされたら、今度はどうしたらいいか判らない。
「ま、今日は言ってやる。欲しいからな」
チューとやらがな、と意地悪く言って笑っているらしい跡部に。
抱き締められたまま。
神尾が思いもしなかったような声で、好きだ、と囁かれた。
「…………、……」
「好きだ」
抱き締めてくる手に力がこもって。
顔は見えないけれど、ひどく生真面目に聞こえる口ぶりで、低くも甘い声音で。
囁かれて。
ぐったりと脱力させられた神尾は、上向くように頭の後ろを跡部の手に掴まれた。
「オラ、お前の言う事は聞いてやった。しろよ」
「………ぇ…?」
「キスだよ。しろ。早く」
神尾を見下ろす跡部は、顔を近づけてはくるけれど、いつものように彼からは唇を塞いでこない。
あくまでも神尾の方からしろと言う様に、至近距離で止まっている。
「………………」
淡い色彩が幾重にも折り重なっている怜悧な面立ちを眼下に晒されて、神尾は息を詰まらせた。
「おい」
「………無理…」
今更でも何でもとにかく無理だ。
こんな綺麗な顔してる男に自分の方からチューだとか。
「俺様の事なめまくってやがるなテメエは…!」
かなり本気で怒っている跡部は、今しがたまでの甘い抱擁が嘘みたいに手荒く神尾を抱き締めて。
かぶりつくような手加減無しの口付けを神尾から奪った。
「……ッ…、…ン…」
「………ぼろぼろに泣かす」
「ぁ…………」
凄む跡部がかわいいと、ふと思った。
今なら出来るかもと、ふと思った。
神尾は跡部の唇の表面に、ちゅ、と触れるだけのキスをおくる。
「………、…テメ…」
「…………跡部…」
完全に面食らったような跡部の表情は見慣れなくて、何だかほっとして、神尾は。
「………もっと?」
そっと尋ねた。
その後の神尾は、跡部に散々に抱き潰された。
悪いのはみんなお前だと跡部に不機嫌極まりない顔で言われた神尾は。
本当に、跡部という男。
自分勝手な王様だと思うのだった。
「跡部!」
「…ああ?」
掴みかからんばかりの神尾の勢いに、秀麗な目を不機嫌そうに細め、跡部は凄む声で返してくる。
こんなにガラが悪いのに。
全然下品にならない。
すごくおかしな男だ。
跡部景吾。
そのうえ神尾がつかんだ跡部の胸倉をいくら全力で引っ張っても跡部はびくともしない。
まるで動かない。
詐欺だ。
そんなに大柄な男じゃないのに。
「………ったく」
溜息まで大人っぽい。
悪態まで美声だ。
ずるい。
「されるだけでいるのにすっかり慣れやがって」
何か勝手な勘違いをして、跡部は神尾の首の後ろを強い力で鷲掴みにしてきた。
跡部の顔が急激にアップになったのを見て、慌てて神尾は声をつくして叫んだ。
「違う!」」
「ああ?」
「チ、チューして欲しかったら俺の言うこと聞けよ!」
「ば、か、か、てめえは」
して欲しいのはてめえの方だろうがと吐き捨て、跡部が強引に神尾の唇を塞ぎにかかってくる。
神尾は全身全霊でその身体を押し返した。
「俺の言うこと聞こえねーのかよ! 馬鹿跡部!」
「てめえにだけは言われたくねえ言葉だな」
「や、っ」
跡部の胸倉を掴みに行ったのは神尾から。
でも押しのけているのも神尾から。
それが気に食わないらしくどんどん悪人面になって跡部は神尾を束縛し口付けようとするから傍目に二人は格闘しているようにしか見えない。
「ふざけんな! 嫌がってんじゃねえよ!」
「ばかばかばかっ。人の話聞け、ばかっ」
何故だか跡部は時々気が短い。
そういう時は子供っぽい。
こんな風に。
「てめえが俺に、何の話があるってんだ。ああ?」
「ある! ばか! 俺真剣なんだからな! ちゃんと聞けよ…!」
相手を引き剥がしたい神尾と、引き寄せたい跡部との、力比べみたいになっていて。
形勢不利で息をきらして叫んだ神尾の声は弾みで上擦り、すると跡部の手の力が突然に弱くなった。
徐々にではなく、いきなり動きが止まった。
「…………ぁ…?」
いきなりだったので神尾が面食らって見つめた先、跡部は何とも言えない表情をしていた。
すごく怒って、すこし戸惑うような。
皮肉に笑って、ひどく狼狽するような。
神尾にはうまく言えない跡部の表情。
「………跡部?」
「……何の話だ」
聞いてはくれて。
でも何で、そんな慄然とした顔で。
取り繕ったような無表情を装って。
「………………」
返答如何では殺されそう、なんてことまで神尾は思ってしまった。
そんな跡部の顔。
美形は三日で見飽きるんじゃなかったのかよと、神尾はどこぞで聞いた事のある言葉を思い出しながら、じわりと頬が熱くなるのが判った。
神尾は跡部の胸元のシャツを握り締めたまま、俯いた。
整いすぎるほど整った顔から目を逸らせて、神尾は言った。
「一回くらい好きって言ってくれよぅ……」
それだけだ。
神尾が欲しいもの。
聞きたい言葉。
それを聞かせてくれたら、幾らだって、キス、を。
「…………っ…」
自分がねだっている物の恥ずかしさを今更ながら思い知らされた気分で神尾は完全に顔を上げられなくなる。
掠れたような自分の声が、冗談に紛らわせる事も出来なくしていて、言っておきながら居たたまれなくなった。
「…………、っ」
背中に。
跡部の両手がするりと回って、やんわりと抱きこまれたのが判って、もう余計にだ。
「…てめえだって言った事ねえくせして」
「…………俺、は……!」
優しい、抱き締め方。
何だかくらくらしてきて。
意地悪ばかりするから、一度くらい好きだって言って欲しいと思っていたはずなのに。
こんな風に優しくされたら、今度はどうしたらいいか判らない。
「ま、今日は言ってやる。欲しいからな」
チューとやらがな、と意地悪く言って笑っているらしい跡部に。
抱き締められたまま。
神尾が思いもしなかったような声で、好きだ、と囁かれた。
「…………、……」
「好きだ」
抱き締めてくる手に力がこもって。
顔は見えないけれど、ひどく生真面目に聞こえる口ぶりで、低くも甘い声音で。
囁かれて。
ぐったりと脱力させられた神尾は、上向くように頭の後ろを跡部の手に掴まれた。
「オラ、お前の言う事は聞いてやった。しろよ」
「………ぇ…?」
「キスだよ。しろ。早く」
神尾を見下ろす跡部は、顔を近づけてはくるけれど、いつものように彼からは唇を塞いでこない。
あくまでも神尾の方からしろと言う様に、至近距離で止まっている。
「………………」
淡い色彩が幾重にも折り重なっている怜悧な面立ちを眼下に晒されて、神尾は息を詰まらせた。
「おい」
「………無理…」
今更でも何でもとにかく無理だ。
こんな綺麗な顔してる男に自分の方からチューだとか。
「俺様の事なめまくってやがるなテメエは…!」
かなり本気で怒っている跡部は、今しがたまでの甘い抱擁が嘘みたいに手荒く神尾を抱き締めて。
かぶりつくような手加減無しの口付けを神尾から奪った。
「……ッ…、…ン…」
「………ぼろぼろに泣かす」
「ぁ…………」
凄む跡部がかわいいと、ふと思った。
今なら出来るかもと、ふと思った。
神尾は跡部の唇の表面に、ちゅ、と触れるだけのキスをおくる。
「………、…テメ…」
「…………跡部…」
完全に面食らったような跡部の表情は見慣れなくて、何だかほっとして、神尾は。
「………もっと?」
そっと尋ねた。
その後の神尾は、跡部に散々に抱き潰された。
悪いのはみんなお前だと跡部に不機嫌極まりない顔で言われた神尾は。
本当に、跡部という男。
自分勝手な王様だと思うのだった。
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