How did you feel at your first kiss?
声は出さなかったと思うのだけれど、跡部が振り返った。
「どうした」
「え? 別に…」
「…手か?」
「え?」
何で判るんだと神尾が驚いているうち、跡部は椅子から立ち上がり、ソファにいた神尾の前に立つ。
膝をついて。
神尾の手を取った。
「………………」
「……爪引っ掛けるような場所がこの部屋にあるか?」
「いや、ここでじゃなくて、部室でちょっと端んとこ割れて、……、いっ、てー…!」
ぱしん、と頭を叩かれ神尾は叫んだ。
「なにすんだよ跡部!」
「なにすんだじゃねえ。気づいてたならその時切れ」
「爪切りなかったんだから、しょうがねーじゃんか!」
部活が終わった後は、本当にちょっと切れていただけだった。
跡部の家にきて、すぐ済むから待ってろと跡部が机に向かっている間、神尾はいつものようにMDを聴いたり、雑誌を見たりしていた。
ふと手持ち無沙汰になった時に、爪の亀裂が大分進んでいた事に気づいたのだ。
このまま取ってしまおうと、殆ど取れかかっている爪先を指で摘まんでみたところ、変な方向に亀裂が進んで深爪のようになった。
痛いというのは思っただけの筈で、どうして跡部が振り返ったのかは未だに謎だ。
「………………」
立ち上がって何かを取りに行く跡部の背中を複雑に見据えた神尾の元に、跡部はすぐに戻ってきた。
「手、寄こせ」
「………………」
再び神尾の正面に膝をついた跡部の手には、無造作に幾つかのものが握られていた。
神尾には見慣れない道具だった。
「…それ何?」
爪を切ったもの。
「ニッパー」
「爪切り使えばいいのに」
ペンチみたいで怖いなあとこっそり思った神尾の心情は、またもや跡部には筒抜けだったらしく、何びびってんだと笑われた。
跡部のさらさらとした手は少し冷たくて。
神尾の甲や指の付け根をそっと取っている。
「爪が傷むだろ」
「爪切り使うと? 何で?……ってゆーか、今度のそれ何?」
「ヤスリだろ」
何となく気恥ずかしくて神尾が矢継ぎ早に尋ねれば、跡部は返事は素っ気無く、でも仕草はひどく優しく、神尾の爪を整えた。
細くて長い金属の棒で爪の断面を研ぐ跡部の手が綺麗で神尾はじっと見てしまう。
そんなに物珍しいかよと跡部がまた笑った。
「………………」
別に爪を切ったり研いだりする道具が珍しいわけではない。
でもそう言う訳にもいかず、神尾は黙っていた。
「……ちいせえ爪」
「………生まれつきなんだよ」
触感なんて無いと思うのに。
爪の真上を跡部の親指の腹にそっと撫でられて、神尾は緊張した。
「伸びんのも、遅いし」
「苦髪楽爪って諺知って……る訳ねーな。お前じゃ」
「……、……っ…どういう意味だよ…っ」
「苦労していると髪がよくのびる、楽をしていると爪がよくのびるって意味だ」
「そういう意味を聞いてんじゃねえ…!」
お前じゃ、の方意味だと叫んだ神尾に、含み笑いを零す跡部は絶対に判ってて言っている。
神尾が顎を引いて睨みつけるように跡部を見下ろすと、少し下の目線にある跡部は平然と見返してきた。
「見た目ほど、楽してる訳じゃねえんだなって言ってやってるんだぜ」
「はあ?」
すこぶるえらそうに言われた言葉の意味がまたもや判らない。
しかも何気に貶されている気もする。
「見た目が楽してそうって事かよ。あのな、俺だっていろいろ、」
「苦労してんだろ。だからそう言ってやってんじゃねえか」
「……、…聞こえないんだよ! そんなえらそうに言うから!」
「バァカ。えらそうじゃなくて、えらいんだよ。俺は」
「………っ……」
頭にくる。
本当に、頭にくるのに。
どうしてこんなに、ドキドキするんだろうと神尾は思って。
そういえば、ずっと跡部に手を握られているんだと。
今更のように気づいた。
指先を握りこまれていて。
映画に出てくる、女の人をエスコートする男の人みたいな。
「なに赤くなってんだ? 神尾」
判っていて言う跡部。
悔しいと思うけれど、恥ずかしさの方が募って、神尾は跡部から手を引こうとした。
でも思いのほか指先はがっちり握りこまれていて手が引けない。
「……、……離せよ…」
「何で」
「……も…切り終わっただろ…!」
「お前の爪を切ってやった俺様に礼ぐらい言ったらどうだ?」
神尾が座っているソファの上に片膝を乗り上げてきた跡部に神尾はいよいようろたえる。
「……跡部って…いつもああしてんの?」
「ああ?」
「爪とか……切ってあげんの?」
間近にあった跡部の目が不意にきつくなって。
怒ったな、という事は神尾にも判った。
「……誰にだよ」
「え……あの、今まで付き合った子、とか…、…っ……」
さっき頭を叩かれたより痛いかもしれない。
唇。
「……っ…ぅ……、」
強いキス。
割り込んできた跡部の舌に、口腔中撫でられた。
「………、…は…、…ぁ、……なに…?…」
「……何じゃねえ。この馬鹿が」
「…ぇ……?……っん」
キスが止んだのはそんな一瞬で。
再び深く口付けらてこれて、神尾はぐったりと跡部の腕に落ちた。
背中を抱きこまれる。
押し当てられた跡部の胸元。
近くなって知る香りにくらくらした。
「…………………」
「人にさせるならともかく、俺が人の爪なんざ切ってやる訳ないだろうが」
「………跡部…?」
「馬鹿かお前は」
呆れ返った口調なのに、聞いた神尾はくすぐったいような気持ちになった。
気持ちが、すごくいい。
「神尾?」
抱き締められたまま。
眠いって呟いたら、跡部は何て言うかな、と神尾はぼんやり考えた。
ふざけんなってまた怒鳴るか。
案外、このまま寝かせてくれたりもするかもしれない。
爪を切ってくれた跡部はすごく優しかったから。
「どうした」
「え? 別に…」
「…手か?」
「え?」
何で判るんだと神尾が驚いているうち、跡部は椅子から立ち上がり、ソファにいた神尾の前に立つ。
膝をついて。
神尾の手を取った。
「………………」
「……爪引っ掛けるような場所がこの部屋にあるか?」
「いや、ここでじゃなくて、部室でちょっと端んとこ割れて、……、いっ、てー…!」
ぱしん、と頭を叩かれ神尾は叫んだ。
「なにすんだよ跡部!」
「なにすんだじゃねえ。気づいてたならその時切れ」
「爪切りなかったんだから、しょうがねーじゃんか!」
部活が終わった後は、本当にちょっと切れていただけだった。
跡部の家にきて、すぐ済むから待ってろと跡部が机に向かっている間、神尾はいつものようにMDを聴いたり、雑誌を見たりしていた。
ふと手持ち無沙汰になった時に、爪の亀裂が大分進んでいた事に気づいたのだ。
このまま取ってしまおうと、殆ど取れかかっている爪先を指で摘まんでみたところ、変な方向に亀裂が進んで深爪のようになった。
痛いというのは思っただけの筈で、どうして跡部が振り返ったのかは未だに謎だ。
「………………」
立ち上がって何かを取りに行く跡部の背中を複雑に見据えた神尾の元に、跡部はすぐに戻ってきた。
「手、寄こせ」
「………………」
再び神尾の正面に膝をついた跡部の手には、無造作に幾つかのものが握られていた。
神尾には見慣れない道具だった。
「…それ何?」
爪を切ったもの。
「ニッパー」
「爪切り使えばいいのに」
ペンチみたいで怖いなあとこっそり思った神尾の心情は、またもや跡部には筒抜けだったらしく、何びびってんだと笑われた。
跡部のさらさらとした手は少し冷たくて。
神尾の甲や指の付け根をそっと取っている。
「爪が傷むだろ」
「爪切り使うと? 何で?……ってゆーか、今度のそれ何?」
「ヤスリだろ」
何となく気恥ずかしくて神尾が矢継ぎ早に尋ねれば、跡部は返事は素っ気無く、でも仕草はひどく優しく、神尾の爪を整えた。
細くて長い金属の棒で爪の断面を研ぐ跡部の手が綺麗で神尾はじっと見てしまう。
そんなに物珍しいかよと跡部がまた笑った。
「………………」
別に爪を切ったり研いだりする道具が珍しいわけではない。
でもそう言う訳にもいかず、神尾は黙っていた。
「……ちいせえ爪」
「………生まれつきなんだよ」
触感なんて無いと思うのに。
爪の真上を跡部の親指の腹にそっと撫でられて、神尾は緊張した。
「伸びんのも、遅いし」
「苦髪楽爪って諺知って……る訳ねーな。お前じゃ」
「……、……っ…どういう意味だよ…っ」
「苦労していると髪がよくのびる、楽をしていると爪がよくのびるって意味だ」
「そういう意味を聞いてんじゃねえ…!」
お前じゃ、の方意味だと叫んだ神尾に、含み笑いを零す跡部は絶対に判ってて言っている。
神尾が顎を引いて睨みつけるように跡部を見下ろすと、少し下の目線にある跡部は平然と見返してきた。
「見た目ほど、楽してる訳じゃねえんだなって言ってやってるんだぜ」
「はあ?」
すこぶるえらそうに言われた言葉の意味がまたもや判らない。
しかも何気に貶されている気もする。
「見た目が楽してそうって事かよ。あのな、俺だっていろいろ、」
「苦労してんだろ。だからそう言ってやってんじゃねえか」
「……、…聞こえないんだよ! そんなえらそうに言うから!」
「バァカ。えらそうじゃなくて、えらいんだよ。俺は」
「………っ……」
頭にくる。
本当に、頭にくるのに。
どうしてこんなに、ドキドキするんだろうと神尾は思って。
そういえば、ずっと跡部に手を握られているんだと。
今更のように気づいた。
指先を握りこまれていて。
映画に出てくる、女の人をエスコートする男の人みたいな。
「なに赤くなってんだ? 神尾」
判っていて言う跡部。
悔しいと思うけれど、恥ずかしさの方が募って、神尾は跡部から手を引こうとした。
でも思いのほか指先はがっちり握りこまれていて手が引けない。
「……、……離せよ…」
「何で」
「……も…切り終わっただろ…!」
「お前の爪を切ってやった俺様に礼ぐらい言ったらどうだ?」
神尾が座っているソファの上に片膝を乗り上げてきた跡部に神尾はいよいようろたえる。
「……跡部って…いつもああしてんの?」
「ああ?」
「爪とか……切ってあげんの?」
間近にあった跡部の目が不意にきつくなって。
怒ったな、という事は神尾にも判った。
「……誰にだよ」
「え……あの、今まで付き合った子、とか…、…っ……」
さっき頭を叩かれたより痛いかもしれない。
唇。
「……っ…ぅ……、」
強いキス。
割り込んできた跡部の舌に、口腔中撫でられた。
「………、…は…、…ぁ、……なに…?…」
「……何じゃねえ。この馬鹿が」
「…ぇ……?……っん」
キスが止んだのはそんな一瞬で。
再び深く口付けらてこれて、神尾はぐったりと跡部の腕に落ちた。
背中を抱きこまれる。
押し当てられた跡部の胸元。
近くなって知る香りにくらくらした。
「…………………」
「人にさせるならともかく、俺が人の爪なんざ切ってやる訳ないだろうが」
「………跡部…?」
「馬鹿かお前は」
呆れ返った口調なのに、聞いた神尾はくすぐったいような気持ちになった。
気持ちが、すごくいい。
「神尾?」
抱き締められたまま。
眠いって呟いたら、跡部は何て言うかな、と神尾はぼんやり考えた。
ふざけんなってまた怒鳴るか。
案外、このまま寝かせてくれたりもするかもしれない。
爪を切ってくれた跡部はすごく優しかったから。
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