How did you feel at your first kiss?
たかだかチーズサンドだぞと宍戸は思う。
いろんな意味で。
「こんなん料理じゃねえよ」
「でも俺には作れませんよ」
「威張んな」
手元に並べられた薄切りの食パン。
白っぽいバターを均一に塗った。
ブロック状のチーズ。
極力薄く切ったキュウリは塩を振っておいてある。
こうして材料さえ用意してしまえば後はもう。
「挟むだけだろうが」
「でも宍戸さんが作るとすごく美味しいです」
この甘えたがり、と宍戸は密やかに溜息をつく。
自分も好物なのだが鳳のリクエストもあって。
こうしてチーズサンドを作っている宍戸の背後にいる鳳は、いつの間にか随分とくっついてきている。
身体が触れ合うこんな距離にもすっかり慣れた。
「宍戸さん、いつからチーズサンド好きだったんですか?」
「覚えてねーよ。でも相当チビん時からチーズは齧ってたらしいけど」
「そうですか……」
「……何だよ?」
「でも、チーズより俺のが多いですよね…?」
「何が」
「宍戸さんの唇とか舌とか知って……」
言い切らせず。
宍戸が背後に肘を打ち込むと、鳳はそれを笑って痛がった。
「痛い。宍戸さん」
「あー、そうかい」
「ヤキモチやいただけなのに」
「チーズなんぞに妬くな! 恥ずかしい!」
「これ切るんですか?」
宍戸が怒鳴りつけてもまるで堪えず、鳳は笑顔を浮かべてチーズの塊を手に取った。
未開封のそれは、ビニールできっちりと覆われている。
大きなままのチーズを片手に持つ鳳に、宍戸は言った。
「長太郎」
「はい?」
「さすがにそれ全部食うのは無理そうだろ?」
「ですね……半分くらいで足りそうかな」
「チーズ切った表面な。放っといたらかわいて固くなるよな」
「ラップでもかけますか?」
「ラップも何もかけないで、切った断面をかわかさない、固まらせないようにしろって言われたら、お前どうやる?」
「………はい?」
初めて怪訝そうな問いかけが向けられて。
宍戸は表情を微かに緩めた。
「それが上手に出来たら、俺がチーズ食うより多く、お前に食われてやってもいいぜ」
「宍戸さ、…」
「今日限定の話、だ」
ついでに、ちゃんとそれが出来てからの話だ、と宍戸が強く言えば。
制された鳳は、すっかり待てをくらった大型犬さながらに、ぴたりと動きを止めた。
「………………」
ええーと口に出さないのが不思議なくらいの顔を鳳が露骨にしてみせるのが実は密かにおかしくて。
宍戸は俯いて表情を隠した。
そうしてこっそりと伺い見れば。
「………………」
宍戸の背後にいる鳳は、チーズのかたまりを手にしてああでもないこうでもないと一心不乱に考え込んでいた。
すこぶる見目の良い男がこんなにも可愛いというのはどういうことだろうかと宍戸は吹きだしそうになった。
「寄こせ。長太郎」
「え。時間切れですか」
「………何て顔すんだよお前」
駄目押しされてしまって堂々と笑いながら、宍戸はチーズをまな板の上において、半ばにナイフを差し入れた。
「……真ん中から切っちゃうんですか?」
「別に端でもいいけどよ」
傷心を隠さない鳳の呟きに宍戸は唇に笑みに浮かべたまま、必要な分のチーズをスライスした。
「あ。判った」
嬉しそうというより、悔しそうな声で鳳は言って、宍戸の背に身体を預けるようにして近づいてきた。
「断面と断面。くっつけておくんですね?」
「ああ。切り口同士をぴったりくっつけて保管しておけば乾燥もしないし固まりもしないだろ」
改めて宍戸がそう説明すると。
鳳は、宍戸の肩口にがっくりと顔を埋めて、唸るような声で呻いていた。
そんなに悔しいかと呆れ半分、おかしさ半分で。
宍戸は自分の肩口にある柔らかそうな髪を横目に見て、無造作に手を当てた。
顔を上げてきた鳳の目を覗きこむようにして。
ひどく窮屈な角度から、宍戸は鳳の唇を、自分の唇で掠めとった。
「宍戸さん?…、…」
「お前には食わさねえけど、俺が食う分にはいいだろ」
鳳の後ろ首に指先を伸ばして。
背後から持ってくるように鳳を引き寄せ再びキスをする。
体勢が窮屈な分、合わさった唇と唇は、ひどく複雑に密着した。
「……、…ン…」
唇や口腔が濡れてくる感じに宍戸はゆっくりと目を閉じながら。
絶え間なく重ねていれば、かわきもせず固まりもしないのは、キスだってそうかと思い当たった。
もう、どちらからしかけるキスだって構わない。
誘い込むように宍戸が舌を動かせば、鳳の大きな手に頭を抱え込まれた。
むさぼられるキスを受けながら。
チーズサンドは諦めた。
パンもチーズもパサパサになって、おいしくなくなるのは必須。
でも、今交わしあっているこのキスを取るのだから。
悔やむ気持ちは全くない。
いろんな意味で。
「こんなん料理じゃねえよ」
「でも俺には作れませんよ」
「威張んな」
手元に並べられた薄切りの食パン。
白っぽいバターを均一に塗った。
ブロック状のチーズ。
極力薄く切ったキュウリは塩を振っておいてある。
こうして材料さえ用意してしまえば後はもう。
「挟むだけだろうが」
「でも宍戸さんが作るとすごく美味しいです」
この甘えたがり、と宍戸は密やかに溜息をつく。
自分も好物なのだが鳳のリクエストもあって。
こうしてチーズサンドを作っている宍戸の背後にいる鳳は、いつの間にか随分とくっついてきている。
身体が触れ合うこんな距離にもすっかり慣れた。
「宍戸さん、いつからチーズサンド好きだったんですか?」
「覚えてねーよ。でも相当チビん時からチーズは齧ってたらしいけど」
「そうですか……」
「……何だよ?」
「でも、チーズより俺のが多いですよね…?」
「何が」
「宍戸さんの唇とか舌とか知って……」
言い切らせず。
宍戸が背後に肘を打ち込むと、鳳はそれを笑って痛がった。
「痛い。宍戸さん」
「あー、そうかい」
「ヤキモチやいただけなのに」
「チーズなんぞに妬くな! 恥ずかしい!」
「これ切るんですか?」
宍戸が怒鳴りつけてもまるで堪えず、鳳は笑顔を浮かべてチーズの塊を手に取った。
未開封のそれは、ビニールできっちりと覆われている。
大きなままのチーズを片手に持つ鳳に、宍戸は言った。
「長太郎」
「はい?」
「さすがにそれ全部食うのは無理そうだろ?」
「ですね……半分くらいで足りそうかな」
「チーズ切った表面な。放っといたらかわいて固くなるよな」
「ラップでもかけますか?」
「ラップも何もかけないで、切った断面をかわかさない、固まらせないようにしろって言われたら、お前どうやる?」
「………はい?」
初めて怪訝そうな問いかけが向けられて。
宍戸は表情を微かに緩めた。
「それが上手に出来たら、俺がチーズ食うより多く、お前に食われてやってもいいぜ」
「宍戸さ、…」
「今日限定の話、だ」
ついでに、ちゃんとそれが出来てからの話だ、と宍戸が強く言えば。
制された鳳は、すっかり待てをくらった大型犬さながらに、ぴたりと動きを止めた。
「………………」
ええーと口に出さないのが不思議なくらいの顔を鳳が露骨にしてみせるのが実は密かにおかしくて。
宍戸は俯いて表情を隠した。
そうしてこっそりと伺い見れば。
「………………」
宍戸の背後にいる鳳は、チーズのかたまりを手にしてああでもないこうでもないと一心不乱に考え込んでいた。
すこぶる見目の良い男がこんなにも可愛いというのはどういうことだろうかと宍戸は吹きだしそうになった。
「寄こせ。長太郎」
「え。時間切れですか」
「………何て顔すんだよお前」
駄目押しされてしまって堂々と笑いながら、宍戸はチーズをまな板の上において、半ばにナイフを差し入れた。
「……真ん中から切っちゃうんですか?」
「別に端でもいいけどよ」
傷心を隠さない鳳の呟きに宍戸は唇に笑みに浮かべたまま、必要な分のチーズをスライスした。
「あ。判った」
嬉しそうというより、悔しそうな声で鳳は言って、宍戸の背に身体を預けるようにして近づいてきた。
「断面と断面。くっつけておくんですね?」
「ああ。切り口同士をぴったりくっつけて保管しておけば乾燥もしないし固まりもしないだろ」
改めて宍戸がそう説明すると。
鳳は、宍戸の肩口にがっくりと顔を埋めて、唸るような声で呻いていた。
そんなに悔しいかと呆れ半分、おかしさ半分で。
宍戸は自分の肩口にある柔らかそうな髪を横目に見て、無造作に手を当てた。
顔を上げてきた鳳の目を覗きこむようにして。
ひどく窮屈な角度から、宍戸は鳳の唇を、自分の唇で掠めとった。
「宍戸さん?…、…」
「お前には食わさねえけど、俺が食う分にはいいだろ」
鳳の後ろ首に指先を伸ばして。
背後から持ってくるように鳳を引き寄せ再びキスをする。
体勢が窮屈な分、合わさった唇と唇は、ひどく複雑に密着した。
「……、…ン…」
唇や口腔が濡れてくる感じに宍戸はゆっくりと目を閉じながら。
絶え間なく重ねていれば、かわきもせず固まりもしないのは、キスだってそうかと思い当たった。
もう、どちらからしかけるキスだって構わない。
誘い込むように宍戸が舌を動かせば、鳳の大きな手に頭を抱え込まれた。
むさぼられるキスを受けながら。
チーズサンドは諦めた。
パンもチーズもパサパサになって、おいしくなくなるのは必須。
でも、今交わしあっているこのキスを取るのだから。
悔やむ気持ちは全くない。
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