How did you feel at your first kiss?
身体が動かないと思って神尾は目を開けた。
そして、実際に目を開けてみれば、そんな大袈裟なことではないと判るのだけれども。
「………………」
まだ室内は暗い。
部屋の様子もだいたいでしかつかめない。
でも、自分の一番近くにいる相手が誰なのか、それだけは正しく、判っていた。
「………………」
神尾が探すまでもなく、その男は驚くほど近くにいた。
腕枕をされているのに似ている体勢だけれど、少しだけ違っていて。
跡部の腕はまさに腕枕の体勢そのものなのだが、神尾の頭の位置がずれている。
並んで寝そべる横から、跡部の胸元に。
顔を寄せるように横向きになっている神尾の頭に跡部の手があった。
添えられるように軽く宛がわれていた手。
それが神尾を動けないと思わせたものの正体だった。
「………………」
寝ている間も、こうしてずっと跡部の手が頭にあったのかと思うと、色濃い眠気の中の気恥ずかしさが、どんどん神尾に侵食してきた。
普段から夜中に目が覚めるなんてことは殆どない神尾だったから、だんだんと目が慣れて、くっきりとらえる事が出来てきた跡部の寝顔にだって正直鼓動が早くなる。
そんな神尾に突然跡部がなだれこんできた。
「……っ…!…」
ひ、と思わず神尾は息を飲む。
いきなり寝返りをうつように。
跡部が神尾のいる方に身体を倒してきたのだ。
神尾を抱え込むようにして跡部の腕が神尾の肌の上に乗る。
一層近くなった跡部の顔は、目を閉じているのに壮絶に整っていて、神尾は何事か叫び出してしまいたくなる衝動を抑えるのに懸命だった。
寝入っている跡部の表情に、物珍しさを感じる余裕すら神尾にはない。
体温で温まった涼しくも甘い匂いがして。
近すぎるこの距離に、とても眠るどころではなくなった神尾を、跡部が更に抱き込んでくる。
その仕草に寝たまま仰け反りかけた神尾の、ガチガチになったひどい緊張を緩めたのは、唸るような言葉だった。
跡部の。
「抱き締めて何が悪い」
「は?…、…あれ?…跡部?…起きて…?」
「俺が俺のものを抱き締めて何が悪い」
低いだけでなく、ぼそぼそと喋る聞きなれない跡部の喋り方に神尾は混乱を極めた。
「わ、……わる…いとかじゃなくて…」
「嫌がるな」
「…や、…嫌がってんじゃなくて、」
「嫌がってんだろ……」
ちがうと慌てる神尾は、胸に抱き込まれるどころではない跡部からの抱擁の強さに抱かれながら、今が明け方、暗がりの部屋でよかったと心底から思う。
自分の顔が赤いのが、いやというほど判っていたからだ。
「神尾」
「……な…、…なに…?」
「逃げんな」
「逃げてねーよ!………ってゆーか跡部、ひょっとして本当は寝ぼけてんの…?」
「誰に向かって口きいてんだ」
「あ、大丈夫か……」
いやいや。
ぜんぜん。
大丈夫じゃない。
思い直した神尾の心情こそが本心だ。
だってこんな、何度されたって、跡部に抱き締められればドキドキするのだ。
ベッドの上。
毛布の中。
裸じゃくても。
しているんじゃなくても。
「…………跡部」
跡部は目を瞑ったままだ。
眠いのかもしれない。
でも、神尾を抱きこむ腕の力は緩まない。
「…大丈夫かおまえ」
「………え…?…」
「今一気に体温上がったぞ」
「………………」
だってこんな。
こんな風に抱き締められたら。
体温なんておかしくなるに決まっている。
抱き締められているから苦しいのではなく。
耳元で囁かれているから熱が上がるのではなく。
「跡部……」
「……お前本当は熱出してんじゃねえだろうな」
「ちがう」
「嫌がって、固まってんじゃねえな?」
「…うん」
好きで。
好きになりすぎて。
苦しくなる。
「……跡部…」
でも、押し潰されそうになると不安に思った事はなかった。
どんなに気持ちが募っても。
恋愛感情は、どれだけ苦しくても逃げてはいかない。
胸の内から。
どこへにも。
「神尾」
「……………」
寝乱れた髪越しに眦あたりにキスされて、本当に熱でも出そうな気分になった。
もう自分が、眠いんだか、そうでないんだか判らなくて。
跡部の事も、優しいんだかそうでないんだか判らなくて。
「……少し熱抜きして冷やしてやろうか」
笑いの交じった声で跡部にそう囁かれた言葉を耳にした途端、神尾は強く頷いていた。
小さく、一回だけ。
でも跡部は、ひどく驚いたようだった。
短い絶句の後の呼びかけは、確かめの問いかけのようで。
「神尾」
「………冗談だったんならいい。ねる」
同じベッドで逃げるも隠れるもないが、神尾はもう眠い振りをするくらいしか出来なくなって跡部に背を向けて、毛布の中に潜り込もうとした。
それを跡部の手に食い止められ、跡部に乗り上げられ、組み敷かれた時は。
跡部は絶対、少し意地悪く笑って、神尾をからかうのだと思っていたのに。
「………………」
神尾が見上げた先、跡部は強い眼差しで神尾を見据えて。
唇を塞いできた。
深すぎるような口付けで。
「……、…っ……」
「………………」
口付けられながら身体のあちこちを辿られ、何も言わない跡部の性急な所作に、生々しい欲を感じ取って身体を震わせた。
「跡部…」
すき、と食いつかれるキスの狭間に織り込めば、毛布の中で下肢のパジャマを引きずりおろされた。
「………ァ…ぅ」
跡部の手にめちゃくちゃにされる毎に声を上げて、神尾は跡部の後ろ首に手を伸ばし取り縋った。
神尾が跡部の耳元すぐ近くで呼吸を乱していると、舌打ち交じりの荒い言葉が聞こえた気がした。
跡部の声で。
「……跡部…?…」
「………、…ッ」
何の言葉か判らないのに。
悪態のようにも聞こえるのに。
神尾は、何故だか、嬉しくなった。
このまま抱くと威しのような物騒さで跡部から投げられた言葉も嬉しくて。
とけだすように笑っていると。
「………真夜中に半分眠りかけながら人を誘うんじゃねえ。バカが」
跡部の、駄目押しの悪罵が、神尾の笑みを一層深くさせる。
神尾が笑っていられたのは。
それまで。
そして、実際に目を開けてみれば、そんな大袈裟なことではないと判るのだけれども。
「………………」
まだ室内は暗い。
部屋の様子もだいたいでしかつかめない。
でも、自分の一番近くにいる相手が誰なのか、それだけは正しく、判っていた。
「………………」
神尾が探すまでもなく、その男は驚くほど近くにいた。
腕枕をされているのに似ている体勢だけれど、少しだけ違っていて。
跡部の腕はまさに腕枕の体勢そのものなのだが、神尾の頭の位置がずれている。
並んで寝そべる横から、跡部の胸元に。
顔を寄せるように横向きになっている神尾の頭に跡部の手があった。
添えられるように軽く宛がわれていた手。
それが神尾を動けないと思わせたものの正体だった。
「………………」
寝ている間も、こうしてずっと跡部の手が頭にあったのかと思うと、色濃い眠気の中の気恥ずかしさが、どんどん神尾に侵食してきた。
普段から夜中に目が覚めるなんてことは殆どない神尾だったから、だんだんと目が慣れて、くっきりとらえる事が出来てきた跡部の寝顔にだって正直鼓動が早くなる。
そんな神尾に突然跡部がなだれこんできた。
「……っ…!…」
ひ、と思わず神尾は息を飲む。
いきなり寝返りをうつように。
跡部が神尾のいる方に身体を倒してきたのだ。
神尾を抱え込むようにして跡部の腕が神尾の肌の上に乗る。
一層近くなった跡部の顔は、目を閉じているのに壮絶に整っていて、神尾は何事か叫び出してしまいたくなる衝動を抑えるのに懸命だった。
寝入っている跡部の表情に、物珍しさを感じる余裕すら神尾にはない。
体温で温まった涼しくも甘い匂いがして。
近すぎるこの距離に、とても眠るどころではなくなった神尾を、跡部が更に抱き込んでくる。
その仕草に寝たまま仰け反りかけた神尾の、ガチガチになったひどい緊張を緩めたのは、唸るような言葉だった。
跡部の。
「抱き締めて何が悪い」
「は?…、…あれ?…跡部?…起きて…?」
「俺が俺のものを抱き締めて何が悪い」
低いだけでなく、ぼそぼそと喋る聞きなれない跡部の喋り方に神尾は混乱を極めた。
「わ、……わる…いとかじゃなくて…」
「嫌がるな」
「…や、…嫌がってんじゃなくて、」
「嫌がってんだろ……」
ちがうと慌てる神尾は、胸に抱き込まれるどころではない跡部からの抱擁の強さに抱かれながら、今が明け方、暗がりの部屋でよかったと心底から思う。
自分の顔が赤いのが、いやというほど判っていたからだ。
「神尾」
「……な…、…なに…?」
「逃げんな」
「逃げてねーよ!………ってゆーか跡部、ひょっとして本当は寝ぼけてんの…?」
「誰に向かって口きいてんだ」
「あ、大丈夫か……」
いやいや。
ぜんぜん。
大丈夫じゃない。
思い直した神尾の心情こそが本心だ。
だってこんな、何度されたって、跡部に抱き締められればドキドキするのだ。
ベッドの上。
毛布の中。
裸じゃくても。
しているんじゃなくても。
「…………跡部」
跡部は目を瞑ったままだ。
眠いのかもしれない。
でも、神尾を抱きこむ腕の力は緩まない。
「…大丈夫かおまえ」
「………え…?…」
「今一気に体温上がったぞ」
「………………」
だってこんな。
こんな風に抱き締められたら。
体温なんておかしくなるに決まっている。
抱き締められているから苦しいのではなく。
耳元で囁かれているから熱が上がるのではなく。
「跡部……」
「……お前本当は熱出してんじゃねえだろうな」
「ちがう」
「嫌がって、固まってんじゃねえな?」
「…うん」
好きで。
好きになりすぎて。
苦しくなる。
「……跡部…」
でも、押し潰されそうになると不安に思った事はなかった。
どんなに気持ちが募っても。
恋愛感情は、どれだけ苦しくても逃げてはいかない。
胸の内から。
どこへにも。
「神尾」
「……………」
寝乱れた髪越しに眦あたりにキスされて、本当に熱でも出そうな気分になった。
もう自分が、眠いんだか、そうでないんだか判らなくて。
跡部の事も、優しいんだかそうでないんだか判らなくて。
「……少し熱抜きして冷やしてやろうか」
笑いの交じった声で跡部にそう囁かれた言葉を耳にした途端、神尾は強く頷いていた。
小さく、一回だけ。
でも跡部は、ひどく驚いたようだった。
短い絶句の後の呼びかけは、確かめの問いかけのようで。
「神尾」
「………冗談だったんならいい。ねる」
同じベッドで逃げるも隠れるもないが、神尾はもう眠い振りをするくらいしか出来なくなって跡部に背を向けて、毛布の中に潜り込もうとした。
それを跡部の手に食い止められ、跡部に乗り上げられ、組み敷かれた時は。
跡部は絶対、少し意地悪く笑って、神尾をからかうのだと思っていたのに。
「………………」
神尾が見上げた先、跡部は強い眼差しで神尾を見据えて。
唇を塞いできた。
深すぎるような口付けで。
「……、…っ……」
「………………」
口付けられながら身体のあちこちを辿られ、何も言わない跡部の性急な所作に、生々しい欲を感じ取って身体を震わせた。
「跡部…」
すき、と食いつかれるキスの狭間に織り込めば、毛布の中で下肢のパジャマを引きずりおろされた。
「………ァ…ぅ」
跡部の手にめちゃくちゃにされる毎に声を上げて、神尾は跡部の後ろ首に手を伸ばし取り縋った。
神尾が跡部の耳元すぐ近くで呼吸を乱していると、舌打ち交じりの荒い言葉が聞こえた気がした。
跡部の声で。
「……跡部…?…」
「………、…ッ」
何の言葉か判らないのに。
悪態のようにも聞こえるのに。
神尾は、何故だか、嬉しくなった。
このまま抱くと威しのような物騒さで跡部から投げられた言葉も嬉しくて。
とけだすように笑っていると。
「………真夜中に半分眠りかけながら人を誘うんじゃねえ。バカが」
跡部の、駄目押しの悪罵が、神尾の笑みを一層深くさせる。
神尾が笑っていられたのは。
それまで。
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