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How did you feel at your first kiss?
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 放課後、三年の教室内、開いた扉から廊下にいる鳳に気付いた宍戸が目を瞠った。
 その眼差しの中の、宍戸の尖った気配の名残に気付いた鳳は。
 宍戸の比ではなく、大きく双瞳を見開いた。
「………………」
 沈黙と少しの間をおいて、よう、と気安くもどこか違和感のある声をかけてきた宍戸の足元には男が一人蹲っている。
 宍戸とその男以外は誰もいない教室。
 鳳は自分の表情が険しくなるのを自覚する。
「………なんですかその人は」
「あー…気にすんな…」
「気にしますよ! 何なんですか」
「来るな」
「……はい?」
「入ってくるな」
 一歩踏み出した所で、思いのほか厳しい宍戸の声に咎められる。
 全く腑に落ちないながらも。
 鳳は宍戸に言われるままに、一先ずその場に踏みとどまった。
「何故ですか?」
 納得いかない怪訝な思いを隠さず問いかけた鳳に答えたのは、宍戸ではなく、彼の足元に蹲る鳳の知らない男だった。
「そいつがそうなのか」
「そうだ」
「…………………」
 しかし男が話しかけたのは宍戸で、宍戸の返答もまた早かった。
 素っ気無いと言っていいくらいだった。
 一人勝手が判らず、まして静止の命令がかけられたままの鳳は、さすがに苛立って宍戸の名を呼ぶ。
「宍戸さん!」
「怒鳴んなって……」
 緊迫感には程遠く、しかし宍戸は珍しくあからさまな溜息をついて後ろ首に手を当てた。
「お前がキレると止めらんねえよ」
「つまりそういう状況なわけですか」
「長太郎」
 止められないと言いながら、まるっきり鳳を窘めるような言い方で宍戸は言って。
 けれどもひどく生真面目に鳳を見据えてきた。
「俺がそっちに行くからまだ動くなよ」
「…………………」
 はっきり言ってそんな言いつけを守るのもそろそろ限界だと鳳は宍戸の目を強く見つめた。
 宍戸は、それよりもっと強い視線で、鳳に念押しするような目をしてみせてから、足元の男を見下ろした。
 脛を押さえている所を見ると、恐らく宍戸が蹴ったようだった。
「そういうわけだ。俺じゃ話にならねえよ。他当たってくれ」
 そうして宍戸は教室から出てきた。
「…………………」
「帰るぜ。長太郎」
 しかし、そう言われても。
 とてもすぐには頷けずにいる鳳を。
 宍戸はまっすぐな目で見上げてきて、低く言った。
「おい。俺はお前に嫉妬されんのは嫌いじゃないが、疑われんのは嫌だぜ?」
「………宍戸さん…」
 不意打ちの言葉で、鳳から過剰な力が思わず抜ける。
「お前に大事にされんのも好きだ。でも、お前が全部守る必要はねえよ」
 強い光の湛えられた目に淡い笑みを滲ませて。
 宍戸は歩きながら話し始めた。
 同級生に、そういう意味で迫られて、言葉で言っても納得しないで詰め寄ってくるから蹴っちまった所でお前が来た、と至極あっさりと。
 端的に、そして簡潔に、宍戸は言った。
 内容は、ほぼ鳳の予想通りのもので、しかし実際に宍戸の口から聞かされると、それがどれだけあっさりとした口調であったとしても鳳は憮然となっていく自分が止められなかった。
「…………………」
 宍戸は自分自身の事にはまるで無頓着でいるが、実際こういう告白やら呼び出しやらは少なくないらしい。
 無論宍戸が逐一言ってくる訳はなく、大抵テニス部の三年生達が、見るに見かねたような場合を選んで鳳に申告してくるのだ。
「…………………」
 ほっそりと伸びやかな手足や首筋の印象は、いっそ繊細であるのに。
 宍戸の眼差しは強い。
 深くて、きつく、真直ぐだ。
 その怜悧な目を実直に向けながら、荒い言葉を使って、仄かな優しい後味を残す大切な言葉をくれる人。
 そんな宍戸から、ふいに見せられる気持ち良いくらいの素直なリアクションや衒いのない笑顔が、いったいどれだけの強い力でもって、人を彼へと傾倒させていくのかを。
 好きになったら見境も何も全てなくなる、それだけの効力がある宍戸という存在を、誰よりもよく理解し、そして捉えられている鳳は、本気で宍戸を欲しいと思った相手の飢餓感を見縊る事は到底出来なかった。
 不機嫌に、というわけではなく黙り込んで歩く鳳を、少し先を行く宍戸が肩越しに振り返って見てくる。
「なあ」
「……はい?」
「お前、さっき本当に聞こえてなかったのか?」
「………何がですか?」
 宍戸は、鳳があまり見たことのない表情を浮かべていた。
 苦笑いに、少し甘さを煮詰めたような。
「結構でかい声で怒鳴ったんだぜ…」
「何を…?」
「俺を好きに出来るのは長太郎だけだ!って」
「…………………」
 鳳は息をのんだ。
 宍戸がひどく印象的に長い睫毛を伏せた。
「勝手に名前出して悪かったけどな」
「え?……いえ、そんなことは全然」
「死ぬほど好きだ。長太郎」
「……、宍戸さ…?」
 立て続けの言葉に驚愕させられ、鳳は思わず宍戸の肩に手を伸ばした。
 向き合った。
 宍戸は鳳を見上げて言った。
「だからお前は自惚れてろよ」
「…………………」
 不安になるなと暗に潜ませ、宍戸は笑う。
「…………物凄いこと…言いますね。宍戸さんは…」
「そっか?」
「物凄く嬉しくて……ますます心配に……」
「何でだよ」
 呆れ返ったような宍戸の反応に、鳳は笑うに笑えない気持ちで宍戸の両肩に手を置いた。
「キスしても…?」
「好きにしろ」
「好きです」
「…………ン…」
 ゆっくりと押し当てた唇。
 上向いてキスを受け止めてくる宍戸へ、唇を重ねたままキスの角度を幾度か変える。
 細くて固い肩。
 熱くて柔らかな舌。
 相反するようなものたちが、複雑に、デリケートに、折り重なって出来ている、成り立っている、そんな人を腕に抱き締め、口付ける。

 鳳は知っていた。

 宍戸は。
 いくら好きだと言われても、それで自惚れていられるような相手ではない。

 それは、自分が持っているものが。
 いくら好きだと言っても、それで伝わりきれるような感情ではないからだ。
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